ともに   作:のーし

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だめな自分

 次にライスシャワーを見つけたのはーーその日の夜のことだ。

 

 校舎沿いの夜道をとぼとぼと歩く男が一人。……というか僕だ。

 初めに断っておくが、僕は夜道を散歩して風情を感じる、なんて崇高な趣味は持ち合わせていない。まるで子供のようだと自分でも思うけれど、僕は暗いのが得意ではないのだ。何が悲しくて、ただ暗くて不気味なだけの夜道を歩かねばならんのか、僕にはまるで理解ができない。散歩がしたいなら、お日様が出ている時間帯に歩けばいいじゃないか。

 ではなぜ、そんな僕が夜道を出歩いているのかといえば、悲しいことがあったからということになる。いや、この場合、途方に暮れているという表現の方が正しいか。

 契約更新の期間が迫ってきているのだ。

 

 これまで、トレーナーとしての功績がほとんどない僕。そんな人間を長く雇っているほど、このトレセン学園には余裕はない。

 というか、そんな余裕があるならば、よりウマ娘へのサポートを手厚くするのがこの学園だ。なにせ、競走バを目指すウマ娘が多いのと同様に、トレーナーを目指す人間もまた途方もない人数存在している。それはつまり、トレーナーの代わりはいくらでもいるということだ。

 それゆえ、学園側からすれば、期間内に成果を上げることのできない役立たずをいつまでも雇っている理由などどこにもないのだ。

 

 そんなわけで、僕は今現在、かなり切羽詰まった状態にある。

 そのような状況の中、僕は今日、選抜レースという最大のチャンスを、集中しきれないまま見過ごし、スカウトすらせずに終わらせてしまった。

 数時間前の僕に声を大にして言いたい。

 「バカなんじゃないか」と。

 「がんばるって決めたんじゃなかったのか」と。

 「そんなんだから、お前はダメなんだ」と。

 そんなふうに自分を詰ったところで、現状が変わるわけでもなく、ただただ普通に落ち込んだ僕は、ふらふらと現実逃避をするようにして、暗い夜道を歩いていたというわけだ。

 

 僕の心情を写すかのように暗い夜道を歩いていると、ぽっかりと穴が空いた切り株近くにやってきた。

 勝負に負けたウマ娘が、悔しさを吐露するというあの切り株だ。随分と不景気な代物だが、こんな気分の時は、誰にも迷惑をかけない場所で思いっきり叫びたいという気持ちは分からんでもない。

 どれ、ここはひとつ僕も叫んでみるとしよう。と、切り株の方へと進路を変えると、女の子の泣き喚く声が聞こえてきた。

 

「ぐすっ、ふえぇ……うぇぇぇーん!!」

 

 しまった。暗くてよく見えなかったが、先客がいたか。流石に年頃の女の子の前で叫び散らすやばいおじさんにはなりたくない。しかも先客は結構な泣き方をしているようだ。

 ここは誰にも咎められることなく、存分に泣くことができる場。見られていないことが前提となっているいわば聖域だ。その叫びを盗み聞くのは無粋というもの。

 今日のところは、大人しく帰って、この苦しさは枕にでも受け止めてもらうとしようか。

 

「ばかっ、ばかばか、ライスのばか! がんばるって、がんばろうって、決めたのに……。」

 

 しかし、切り株に背を向け歩き出した直後に背中越しに届いたその叫びは、僕の足を止めるには十分な威力を持っていた。

 ライスシャワー、今、僕が、最も関心のあるウマ娘だ。また、それ抜きにしても、今日の選抜レースを悔やんでいる様子であることは明白で、なぜ休んでしまったのか、興味を抑えることができなかった。

 結果、僕は、褒められたことではないと分かっていながらも、彼女の叫びを聞かずにはいられなかった。

 

「ぐすっ……! なんで……なんでライスは、こんなにだめな子なの……?」

 

 涙の滲むその声に、反射的に「ダメなんかじゃない!」と叫びそうになったが、その言葉は、喉に張り付いて出てこなかった。

 ダメな自分もまた、自分なのだ。そのことを他人に否定される辛さを、その無責任さを僕は知っている。そんな言葉が、なんの救いにもならないことを、よく知っている。

 そのことが分かっていながらも、気づけば僕は彼女の方へと歩み寄っていた。

 分かっている。僕が彼女にしてやれることなどありはしない。

 それでも、そのまま聞かなかったふりをしてこの場を去るには、彼女の様子はあまりに痛ましかった。

 

 「……大丈夫か?」

 

 こんな言葉しか出てこない自分に腹が立つ。だが、賽は投げられた。少しでいい。ほんの少しだけ、彼女に寄り添ってやることが、僕のできる精一杯だ。

 

 不意に声をかけられた彼女は、ピクリと、耳と背中を震わすと、こちらを振り返った。その涙の溜まった目は、こちらを確認すると少し見開かれる。

 

「あ、あなたは……この前の……?」

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