ともに   作:のーし

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トレーニング開始!

 ライスシャワーをスカウトした次の日。

 今日は、ライスシャワーとの初トレーニングだ。

 コースで彼女のことを待っていると……

 

「うんしょ、うんしょ……」

 

 やけに大きなリュックサックを引きずったライスシャワーが現れた。彼女はパンパンに膨らんだそれを『ドサッ!』とコースの脇におくと、こちらに駆け寄ってくる。

 

「はぁ、はぁ……ま、待たせてごめんなさい! トレーニング、よろしくお願いします……!」

 

 すぐに息を整えると、彼女は、ペコリと頭を下げた。

 うん。礼儀正しいのはいいことなんだけどね……? それより気になることがある。

 

「あの大荷物はいったい……?」

「あっ、えっと……いろいろ、よくないことが起きたときのために準備してきたの。転んだ時の絆創膏とか、テーピングとか……」

 

 こちらの問いかけに、彼女は、気まずげに目をそらしながらバックについての解説を始めた。

 

「急な雨の時に使う傘とか、着替えとか……。帰り道で遭難しちゃった時のためのマヨネーズとか……!」

「す、すごい備えっぷりだな。」

 

 備えあれば憂いなし、とはいうものの、ここまでくると、もはやまじないとかそういった類のもののように感じる。思わず少し呆れたような声が出た。

 

 ライスシャワーは、そんなこちらの様子に気付いたのか、不安げな表情になってしまった。

 

「あぅ……は、初めてのトレーニングだから、迷惑かけないようにしようって、思ったんだけど……変だった……?」

 

 俯き、耳は力なさげに垂れ下がる。目には、少しの涙がたまる。

 

 ええい、そんな不安そうな目でこっちを見てこないでほしい。ここまで気の弱い子を担当するのは初めてで、こちらが、困惑してしまう。

 

 出会った時といい、一体、彼女は何をそこまで気にしているのだろうか。

 

「迷惑っていうのは?」

「うん。ライスね……小さい頃からずっと、不幸なことばかり起こしちゃうの。

 一緒にいる子が転んだり、靴紐切っちゃったり……ひどい時には鳥のフンを頭におっことされちゃって……。

 ライスは、いつもいつもみんなに迷惑をかけちゃうダメな子なの……」

 

 胸の前で手を組み、懺悔するかのように彼女は語る。

 聞いている限りでは、ただの不幸な偶然にも思えるが……それでも気を使わずにはいられないのが、ライスシャワーという子なのだろう。

 本当に、心の優しい子なんだ。

 

 そうして話している間に、トレーニングを始める予定の時間をやや過ぎてしまったようで、彼女は、時計を見ると、ビクッと体を震わせる。

 

「はわ……! お、おしゃべりしすぎちゃった……! ごめんなさいごめんなさいっ!! トレーニング、お願いしますっ!!」

「そんなに怯えなくても……大丈夫、怒ってない。でもまぁ、時間だしね。切り替えていこうか。」

「はいっ! よろしくおねがいしますっ!」

 

 

 こうして始まった初トレーニング。

 まずは、彼女の今の能力を測るためにテストをいくつか行った。

 一応、教官の元で一斉に測定した記録も存在するが、いささか時間が空いてしまっている。

 ライスシャワーは、その間、欠かさず自主トレを続けていたという。伸び盛りのこの時期に、更新の遅いデータを使うのでは、トレーニングの効果が半減してしまう。

 そんな考えの下に、テストを行ったわけだ。

 真面目な気質もあり、ライスシャワーは指示した内容のテストを懸命にこなしてくれたのだが……

 

「はぁっ、はぁっ……! えっと……タイム、どうだった?」

「すごいよ! 想定してたよりもまだ速い!」

「ほんと……!? よ、よかった……!!」

 

 結果は、同年代の選手と比較して、想像以上に高水準でまとまっていた。

 元の記録と比べて見ても、十分な伸び率が見える。足りない点を補うという基本を忠実に守って、丁寧にトレーニングを積んできた証拠だ。

 その仕上がりは見事の一言で、やはり元から専属のトレーナーがいたと言われても、驚かない自信がある。

 これは、いい意味で驚かされてしまった。

 

「これ、自分でメニューを組んでたの?」

「う、うん。教官さんに、アドバイスをもらいながら、頑張って作ったんだ。な、なにかおかしかったかな……?」

「いや、能力の伸びも申し分ないし、すごくよくできてると思うよ。ちょっと嫉妬しちゃいそうなぐらいだ。」

「そ、そんなことないよ……! ライスなんて、まだまだで……」

 

 おどけた様子でほめてみると、恥ずかしそうに否定した。でも尻尾がゆらゆらと揺れて嬉しそうだ。自己肯定感が、能力に対して低い気がするし、今後も、こうして褒めていくのがいいだろう。

 

 さておき、かなり高水準でまとまっている彼女だが、欠点がないわけではない。

 全ての値がまとまっているということは、ひるがえせば、彼女自身の強みが、十分に発揮されていないということだ。

 

 ライスシャワーの現状を、ゲームで例えるのなら、全てのパラメータが、平均より上のラインでまとまっているような状態だ。それ自体は素晴らしいことなのだが、いざ相手と対峙した時、絶対の武器となる能力がなければ、この業界で生き残っていくには厳しい。

 

 早いうちに、彼女の武器となる力を見つけなければならないが、丁寧なトレーニングによるまとまった能力は、彼女の武器を覆い隠してしまっている。

 このぐらいの時期で、トレーナーなしで戦っている娘は、自分の武器をより強く認識していることが多い。むしろ、その能力で戦うことが心地よくて、その能力ばかり伸ばしてしまう娘もいるくらいだ。

 そんな中、彼女は逆に、自分の弱みを無くすように努力を続けてきた。そうして作り上げてきた体は、もはや、彼女がもともと持っていた強みを生かせる体とは別物だ。故に、もう一度、自分の強みを体に思い出してもらう必要がある。

 現状の高水準を保ちつつ、彼女の武器を引き出す。彼女の武器は、一緒にトレーニングをしていく中で、見つけていくことになるだろう。

 今までの特化した武器が使いこなせるようにベースの能力を引き上げるトレーニングとは、全くの別の作業だ。もう一度、文献を漁り直す必要がある。

 気を引き締めていこう。

 

「お疲れ様。今日のところは、ジョギングとストレッチをしたら、上がって大丈夫だよ。メニューは明日から渡せると思うから、頑張ろう。」

 

 初のトレーニングということもあって、気疲れしていることだろう。

 その上、テストといっても、種目数も少なくないし、全て全力でやり切れば、デビュー前のこの時期ではヘロヘロになってもおかしくない。

 ということで、早めに切り上げようとしたのだが、ライスシャワーが僕のジャージの裾をつまむように引っ張ってきた。

 

「どうしたの?」

「あの……トレーナーさん、もう一度走ってきてもいい? ら、ライスはまだ全然元気だよ、走れるよ! 昨日、泣いてばっかりで、トレーニングができなかったから、取り戻したくて! だ、だめかな……?」

 

 たずねてみると、そんな申し出をしてきた。上目遣いでありながらも、強い意志を感じる目だ。

 驚いた。まだ、彼女のことを見誤っていたらしい。

 

「いや、是非やろう!」

 

 熱意には応えたくなるのが人の性というものだ。

 その後のトレーニングも、素直で、利発でもあったライスシャワーのおかげで、終始調子良く進めることができた。

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