グレイス王国の街の、テザン砂漠へと繋がる入り口
夜中にここから出るなんて、普通であれば自殺行為と言われてもおかしくない
「嫌です嫌です!砂の王って魔王も逃げ出す大魔獣なんですよ!?そんな奴の縄張りに入るなんて自殺行為ですよ!」
俺達はそこで、嫌がるロゼを押さえつけていた
俺達の目の前にあるのは、トリスへ行くときも使ったバギー
俺達はトリス王国との交渉任務から休む暇もなく次の任務を与えられた
普段なら少しの休息を要求するところだが、任務の理由が理由なので何も言えない
6号がバカをしたせいで、グレイス王国はトリス王国と戦争状態に突入することになった
ただでさえ魔王軍との戦争中であるのに、だ
俺達がいればグレイス王国が負ける事は無いだろうが、いかんともしがたいのが水問題だ
ティリスが儀式を嫌がらなければ万事解決だと、その場にいた誰もが思ったのだが、俺達に強く出る権利など無かったのでこの任務を与えられたというわけだ
その任務というのが、テザン砂漠へ行って、水の実なる物を回収してこいというものだった
そしてその砂漠というのが、どうやら魔王軍も手を焼く大魔獣【砂の王】の縄張りだという
「大丈夫だロゼ!ちょっと行ってすぐ帰ってくるだけだから!な?帰ったら肉を奢ってやるから!」
「俺だって巻き込まれたんだから諦めろ!ほら、飴ちゃんやるぞ飴ちゃん!」
「この間の失敗は連帯責任みたいなもんだからな?ほら、俺もアイツからもらったチョコレートやるから」
ロゼを押さえつけるスノウと6号に合わせて、俺もロゼをバギーへと引っ張り込む
「美味しい物さえ与えとけば言うこと聞くと思わないでください!それに連帯責任って言われても、あたし何もしてないじゃないですか!」
あれに関しては何もしなかったのも問題なんだぞ
グレイス王国とトリス王国にまたがるテザン砂漠を、似つかわしくないキサラギ製バギーが疾走する
今日はアリスが運転席、6号が助手席、後ろに俺とスノウとロゼとグリム
そしてミカとシノは変身して、バギーの脇でスラスターを吹かして並んでいた
見渡す限り一面の砂漠を見せられて呟く
「しっかし、見えるとこ全部砂漠か……。本当にこんな星侵略して旨みがあんのか?」
『なんか火星みたいで味気ねぇなー』
『うん。でも、ちょっと懐かしい感じがする』
俺達がこの星を侵略する理由は地球の代わりに人が住める場所を確保する事だったはずだ
確か砂漠に植物を植えたり、建物を建てるのは大変な苦労を伴うと聞いたが
『ここらが砂漠なのは砂の王の仕業らしいからな。砂の王さえ倒せば、キサラギの技術で肥沃な土地に再生できるさ。それに、金属や石油なんかでも需要はあるからな』
そんなキサラギでも手遅れな地球って一体どんだけひどい状態なんだ
俺たちからしたら地球なんて、海と森があるだけで楽園みたいなもんだが、それもかなりの問題を抱えているらしい
『何なら、ここでそいつを狩っちまうのも一つの手だな。んで、それを手土産に土地の一つでもぶん取っちまえばいい』
6号がそんな事を言いながら振り向く
『ちゃんと命令も忘れてなかったか。今月中にキサラギの領地を増やさないと、アスタロト様が怒りだしかねないからな』
しばらく進んでいると、肉と殻のようなものが入り交じった塊がいくつも転がっている地帯に出た
「なんだありゃ?」
「これはヒュージアントリオン……だと思うわ。こんなにぐちゃぐちゃになった死骸は初めて見るけど……」
よく目を凝らして見ると、確かに頭や手足のような部分があるのが分かる
しかし、一目で見分けるのはもはや困難だった
グリムの話では、砂漠一帯に生息する蟻地獄?との事だが
「にしたってこの数はなんだよ……」
俺達がバギーを走らせる横に、大量の死骸が転がっていた
中にはオークやオーガのような魔族のものもある
「これも砂の王の仕業なのか?」
「いや、ヒュージアントリオンは普段は砂の中に潜んでいるし、食用にも向いていない。だからこんな事は今まで無かったぞ?」
スノウに話に、気味悪がってシノがフラウロスの肩をすくめる
「意味もなく砂の中から引きずり出されたって事?」
「だろーな…。にしても、ずいぶんと入念に潰してあんな…」
やがて、死骸は全く無い代わりに、金属片のようなものが散乱する場所に出た
その真っ只中に、サボテンのような植物が数本生えているのが見える
バギーから降りて、スノウと6号が採集を始めた
「なんでこんなところに金属片なんか落ちてるの?裸足に優しく無いわね……」
痛そうに足をぴょんぴょんさせるグリム
確か靴を履けなくなる呪いが跳ね返ったんだったか
グリムの力を疑う訳ではないが、これを見せられるとアリスの言う通り、ただの自己暗示なのではと思ってしまう
「何か履けば良いじゃねぇか」
「そんなことしたらボン!ってなるからダメよ」
ボンってなんだ、爆発するのか?
「これが水の実か。本当にこんなんで水不足が解消されるのか?」
6号が手に摘み取った小さな実を見ながら言う
「魔法で水を圧縮してあるのだ。魔法を解除して搾れば大量の水が手に入る」
スノウの説明に、アリスは露骨に不機嫌そうな顔を見せた
「また魔法か。そういう話を聞くたびに、自分の存在が否定されてるみたいでイラッとすんだよ」
「もう魔法は魔法で良いじゃねぇか……」
「良いわけあるか。いつかキサラギの化学力を使って魔法撲滅教を作ってこの世界からオカルトな存在を消し去ってやる」
「お前ってそういう事が絡むとバカになるよなぁ」
進みすぎた化学は魔法だと言うが、その逆にはならないのか?
ミカとシノが見張る中、袋一杯に水の実を集めた頃
「………なんだ!?」
突然、地面が大きく揺れ出した
その揺れはどんどん大きくなっている気がする
「お前ら、バギーに乗れ。静かにだぞ……」
「うぉぉぉぉぉ!?なんだなんだ!?攻撃か!?」
「シノ!静かにしろって!」
アリスに言われたにも関わらず大声で慌てるシノ
その口を6号が押さえるが、もう手遅れだとばかりに振動は大きくなっていく
「……よしお前ら、静かにはもういいから急いで乗れ。引き揚げるぞ」
アリスが呆れ顔で指示を出し、ミカとシノは変身してバギーの脇について、他はバギーへと駆け込んだ
アリスは俺達の乗車を確認すると、無言のままエンジンを吹かす
実の生っていた木が小さくなってきた時、一帯の砂が盛り上がり始めた
やがて砂が流れ落ち、その中から巨大な生物が現れた
月明かりに照らされ、神々しくもある巨大魔獣
その姿を、俺達は吸い付くように見た
「あれが砂の王……!?」
「あたしも初めて見ました……。こんなにでっかいんですねぇ……」
小さなビルほどはある巨大な魔獣
砂の王と呼ばれているのも納得だ
しかし、何か気にかかったのかスノウが言った
「だが妙だな……。全身傷だらけだぞ?」
見ると、砂の王の体には小さな傷が無数につけられていた
これが示す事は一つ
「おい、あれと殺り合えるヤツがこの辺りに居るってことか!?」
「わ、わからん!だが最近は砂の王と縄張り争いをする、蟻の王と呼ばれる魔獣の噂を聞く。そいつの仕業かもしれん!」
蟻の王……
さっきの死骸の山を作った奴か
「おいお前ら!砂の王が追って来てんぞ!」
砂の王はその巨体からは想像もつかないほどのスピードで、砂を掻き分けながらこちらへ迫っていた
それを見たスノウが、顔を青ざめる
「も、もしかしてこの実は……」
「砂の王の体の一部って事か…?」
おそらく、砂漠で生きるために水を溜め込んでおく器官なのだろう
それをプチプチと摘み取っていた訳だ
「アリス!もっと飛ばせねーのか!?」
「この砂地でこれ以上は無理に決まってんだろ!くそっ、こうなったらバギーを囮に使って……!」
俺がそう考えた時、何かに気付いたアリスが後ろを向いて叫んだ
「………!お前ら、飛び降りろ!!」
アリスがバギーをドリフトさせる
俺達は指示の通り、グリムとスノウを掴んでバギーから飛び降りた
その瞬間、辺りに強烈な閃光が走り、砂ぼこりが大量に巻き上げられる
「ぺっぺっ!……なんだ今の!?」
「高エネルギー粒子と屈折反応……。今のはビーム兵器か……?」
今、目の前で起きた光景を、俺は知っている
ミカも
シノも
「おいオルガ……こいつは!!」
「ああ、まさかとは思ったが……!」
シノの言葉に返し、目の前の光景に息を飲む
小山ほどの巨体に長い尻尾
大きく発光して開いた頭
鋭い爪と二枚の羽根
間違いない
「モビル……アーマー!!」
人類最悪の兵器が、砂ぼこりの中から姿を現した
変わらない巨体のモビルアーマーから一キロ程の場所に放り出された俺は、近くで腰を抜かすスノウ達に言った
「お前ら!急いでここを離れるぞ!」
「あれが何なのか知っているのかオルガ!」
「あれは人を殺すためのマシーンだ!ここにいたら殺されるぞ!」
人だけじゃない
ここら一帯の生物が死滅しているのはアイツの仕業だ
「オルガ!俺達はどうすりゃいい!?」
「あいつの前でモビルスーツの姿を見せるのは不味い……!お前らはグリムを担げ!すぐに離脱するぞ!」
モビルアーマーが現れた砂ぼこりの中から、無数の黒い影が砂の王へ殺到していく
砂の王はしばらくそれらを潰していたが、やがて不利と見たのか砂の中に潜っていった
それをモビルアーマーがビーム砲で砂を焼きながらかき出していき、姿を見せた砂の王に再び攻撃を開始した
俺達は少し離れた場所からその様子を眺めていた
「砂の王を襲ってんのか……?」
「どうやら砂の王を傷つけたのはアイツらのようだな。じゃあアイツが蟻の王か」
「あの二体が暴れてるから、魔族はこの辺りで生活できないという訳か……」
確かにあんなものが近くにいたら、対抗手段が無い魔族は夜も眠れないだろうな
「オルガ達はアイツの事を知っているみたいだったが、何か情報はあるか?」
アリスの問いに、俺は聞き齧った情報を伝える
あれはその昔、人類の三分の一を虐殺した、天使の名を持つ無人兵器
ただ人を殺す事のみを基本プロトコルとし、無限に戦い、無限に殺し続ける
武装は頭のビーム砲とワイヤー式テイルブレードのみだが、子機としてプルーマと呼ばれるサブユニットを持ち、そのプルーマによって自身を修理させる事も可能
加えてモビルアーマー自体にプルーマの製造能力も備えてあり、資源のある限り無限に増え続ける
そんな無敵とも呼べる兵器
そんな俺の説明に6号は
「聞いた限りだと勝てる気しないんだけど」
「ああ、キサラギの兵器でも、そこまで完成度の高い兵器は稀だぞ。まぁ人殺ししか出来ないんじゃ欠陥も良いところだが」
アリスでさえもそんな評価を下すとは、やはり相当な兵器だと見るべきだろう
実際俺達もかなり無理をして倒した相手だ
そう、ミカの半身を犠牲にして……
「お前らはどう思う?」
「蟻っていうか鳥みたいですね……。ちょっと綺麗でカッコ良かったです」
「最近のゴーレムはみんな命を吹き込まれてなくて嫌になるわね……。あんなのとは戦いたくないわ」
「あいつからは金の匂いがプンプンするが、倒せるビジョンが浮かばないな……。しかしあんなヤツと、砂の王はよく渡り合えるな」
スノウの言葉に、アリスが考え込む
「それは確かに疑問だな。ビーム兵器をなんとも思ってないようだったが、一方であの子機の事は鬱陶しそうにしていたし……」
確かに、砂の王はあの姿で遠距離武器を持っているとは思えないし、モビルアーマーと撃ち合える力は持っていないはずだ
それだけで決着は着きそうなもんだが……
「何にせよ、一旦帰ろうぜ。水の実も少しだけど手に入ったし……」
「ああ、これだけでも十分な成果と言えるだろう」
そう言ってスノウはポケットから一掴みほどの水の実を出して見せた
逃げ出す時に袋は落としてしまったのだが、こんなときだけはスノウのがめつさがありがたい
これだけで一国の水不足を解消出来るとは思えないが、無いよりはマシだろう
あとは、砂の王から効率よく採取する手段さえ考えればいい
俺は6号に言って、バギーを呼び出してもらおうと…
「あんなのがいる砂漠をバギーで突っ切るのか?」
「……この砂漠を横断すんのか?」
6号の回答に、俺はどこまでも広がる砂漠を見て呟いた
砂漠横断初日
「暑い!!」
「暑い暑いうるっせーぞ!!」
「あっじぃ~……」
俺達は灼熱の砂漠を突き進んでいた
今のところモビルアーマーと砂の王の気配は無い
しかしところどころに魔物の死骸やプルーマの残骸、そしてビームの焼き跡があるので油断はできない
「……グリムはどうだ?」
ロゼにおぶられてぐったりと寝込んでいるグリムを、アリスが診ている
普段の日光ですら嫌がっているほどの夜行性のグリムだ
砂漠の上下から照りつける日差しに、一瞬でダウンしたのだが
「すでに日射病の症状が出てるぞ。たぶん今日中に死ぬな」
またか……
「ミカとシノに救援を呼びに行ってもらうか…?」
俺はアリスに提案するが、6号が渋い顔をした
「こっちの位置を向こうに伝える手段が無いから微妙だがな……」
「まぁ何もしないよりマシだろ」
ミカとシノが変身すれば、俺達が歩くよりも遥かに早く街まで帰れるだろう
あとはティリスに言って、捜索隊を出してもらえば……
本当に捜索隊を出してくれるんだろうか
目障りな俺達を、失態の責任を理由に始末するつもりだったんじゃないだろうか
「じゃあグリムも連れてってあげてください……。このままじゃミイラになっちゃいます……」
ロゼが死にかけの友人を見せて言う
すでに血の気が引いて、白い肌がカラカラに乾いているんだが……
「……干からびても復活できんのか?」
「さぁな……。だが、グリムを持っていく前に試したい事がある、おい6号グリムのスカートを捲ってみろ」
アリスの言葉に、まんざらでもなさそうな6号が手をわわきわきさせて応える
「しょうがねぇなぁ……ほらよ!」
「あっ!」
ロゼの制止も間に合わず、グリムのスカートがまたしてもはねあげられる
《悪行ポイントが加算されます》
「「おぉう」」
そのアナウンスに、俺とシノはドン引きする
「というわけだ。グリムにはポイントの餌になってもらおう」
「血も涙もねぇ……」
二日目
変身したミカとシノを先行させて、俺達は砂漠を歩き続ける
「おい6号、お前らのその黒い服はなんなのだ…。見ているこっちまで暑くなるではないか」
スノウが俺達の戦闘服を見て、うんざりそうに言った
お前こそ、そんな露出の多い格好でよく砂漠を歩けるな
「キサラギの戦闘服には体温調節機能がついてるんだよ……。俺のは旧式な上に整備してなかったから調子悪いけど……」
6号の言う通り、俺達の戦闘服は全領域対応を目指して作られた高性能品だ
暑さや寒さに対しては耐性と調節の二重でサポートしてくれる
だが日差しや汗に関してはどうしようもない
アリスに相談したところ『思考を弄って不快感を無くせばいい』なんてとんでもない事を言われた
何故か俺のも調子が悪いが、不良品を掴まされたのか使い回しなのか……
「な!ずるいぞ貴様ら!上と下片方ずつ私に寄越せ!」
「バカ言うんじゃねぇ!」
「お前こそそんなに暑いなら裸にでもなれ!」
暑いと思考が鈍る
俺もついスノウに怒鳴った
あと、グリムは死んだ
三日目
「6号……。お前、食料の残りは?」
「今かじってるのが最後だよ……」
そう言ってポケットを裏返して見せる6号
パラパラと食べかすとゴミが砂の上に落ちる
こんな事なら、ミカとシノにポイントで何か呼んでもらえば良かった
特にシノは日頃のセクハラでポイント長者なのだから、食料くらい訳ないだろうに
「ま、砂漠で水の心配が無いのはついてるじゃないか」
「しかし、せっかく手に入れた水の実を……」
「文句言うなら分けてやんねーぞ」
アリスに言われて肩を落とすスノウ
現在、水の管理はアリスが、食料の管理は6号が、テントなどの夜営道具は俺が、そしてグリムの管理はロゼがやっている
スノウにはこの国の騎士としての経験を生かして道案内でもしてもらおうと思ったのだが…
「自分の内蔵データによるとこの先で間違いない」
高性能アンドロイドのマッピング技術は凄いもので、街と自分たちの位置関係を完璧に把握していた
いや、たとえ間違ってても誰も分からないが
「今あるポイントで食料を呼んだら、夜を待って出発するぞ」
「おいお前ら、こうなったら四の五の言ってられねぇ。次何か魔獣を見つけたら、絶対に食べるぞ」
俺の言葉に首肯くロゼとスノウ
6号は何か嫌な予感がするのか、苦い顔を見せた
その日の晩
俺達はテントの中で鍋を囲んで久しぶりに温かい食事に……
「やっぱりじゃん!やっぱりオークじゃん!!」
鍋でグツグツと煮込まれるオークの死体……
いや、死体ではなく肉と考えるべきだろう
……その方が罪悪感が湧かない
「何でお前ら当たり前のように食ってんの!?こいつら俺達と話通じるじゃん!」
「それなら気にするな、魔王軍所属のオークと違い、野生のオークは蛮族語しか使えない」
「知的生命体を食えないって言ってんだ!オルガもなんか抵抗しろよ!」
「いや、言い出しっぺは俺だし……」
地球じゃ、人間の言葉を理解する犬や猫も一部では食べられていた
前の世界でも、厄災戦後の食糧難では、人間同士を食べて飢えを凌いだという
さすがにここまで人に近いとまだ抵抗が残るが、正直魚よりも見た目はマシ……
いや、やっぱり顔は見せないでくれ
「……うまいか6号」
「……おいひい」
空きっ腹に染み渡ったのか、6号は少し涙を流した
四日目
「おい6号……。そろそろ一時間経ったぞ……」
「…気になるなら自分で捲ったらいいだろ……」
どういうわけか、俺達がグリムのスカートを捲っても悪行ポイントが加算されなくなった
6号に聞いたところ、悪行ポイントは相手がどれだけ嫌がっているか、そして自分がどれだけ悪事の自覚をしているかで決まるらしい
つまり、グリムが嫌がっていない、もしくは俺達が当たり前だと思っているのか
というかそもそも死んだ相手にこんなことしてポイントを稼ぐことが許される訳がない
きっと幹部連中が細工しているのだ
「ちくしょう……。前借りも使えねぇし。絶対アスタロト様が見てるんだ……」
たぶん五日目
体力の消耗を抑えるため、なるべく夜に移動をすることにしたのだが、そのせいで魔物にほとんど出会わない
なにより二体の魔獣の縄張り争いのせいで、見つけたら頃にはみんな死んでカラカラなのだ
腹を空かせ過ぎたロゼがプルーマの残骸を齧っていたが、すぐに吐き出させた
さすがに機械まで取り込むことは無いだろうが、もしそれでロゼが敵に寝返ったりしたらたまったもんじゃない
六……か七日目
とうとうスノウが自分のスカートを捲れと言い出した
6号が言われた通りに捲ってみたが、それでもポイントが入らない
アリスが言うには、緊急時には犯罪が犯罪では無くなるという
6号から、国が滅びかけてる時はツボや樽を割っても犯罪にならないなどと訳のわからない事を言われた
何日目か……
俺達はテントの中で休んでいた
皆一様にぐったりとして、ロゼに至っては自分の尻尾を齧っている
6号が『その尻尾ってちょん切ったら生えてこないのか』なんて言ったせいで一時本気で悩んでいたほどだ
ミカ達はまだ帰ってこない
アリスに言われた通りに直進しているのなら、もうとっくに向こうへは着いているだろうが、こっちへ戻ってこれるかどうか……
今のところ通信も無い
そろそろ本格的にヤバくなってきた
特にスノウが重症だ
昼間に『オアシスを見つけた!』などと叫んで走りだし、結局蜃気楼で無駄足に終わったりしていた
そのスノウは俺達の横で倒れたまま動かない
かろうじて意識はあるようで、水の実を見せると小さく反応を返した
俺達の戦闘服みたいなものも無いのに、よく耐えているもんだ
汚れた髪をかきむしりながら、どうしたもんかと考えていると、6号が疲れきった顔で言ってきた
「……おいオルガ。意識があるうちにスノウでポイント稼いでおけよ……」
「お前がやれよ……。俺だってさすがにそこまでしたくねぇよ」
さすがに瀕死で倒れる女性を剥いて腹を満たすほど落ちぶれたくは無い
だが、俺がそれで良くてもスノウとロゼは限界が近い
そうなると……
「おい6号、俺とお前で殴り会うぞ」
そう、無理に女に嫌がらせする必要も無い
俺と6号が殺しあってポイントを稼げばいい
……これで本当にポイントが入るかは知らん
「却下だボケ!!この極限状態で野郎の裸拝んで何が楽しいんだオラァ!!」
俺の画期的なアイデアを一蹴する6号
「隊長、副隊長……。あたしも、もう我慢出来ません……」
と、俺と6号が構えるのを見たロゼが、顔を赤くして言った
………も?
「ロ、ロゼ?待て、こういうのはエロ担当で良心が痛まないスノウを先に……」
「……そうだロゼ考え直せ、6号は絶対に責任とろうとしないぞ」
……言っていて何かが引っ掛かる
「でも、これ以上は……!」
「……分かった、悪かったな恥をかかせて。行きなりの事で取り乱した」
「お前吹っ切れるの早すぎだろ……」
6号にツッコミながらも考える
なんだろう
何か大きなすれ違いをしているような
「そんな……。あたしもこれは越えちゃいけない一線だって分かってます……。でも……」
「ロゼ、今は非常事態だ、気に病むな。それに言ってみればこれは本能だ。別におかしな事では無いんだよ」
「本能……。別におかしな事じゃない……」
おかしい
この部隊でそんなうわついた話になる事が
6号だって前に嘆いていた
隊の連中と全然エロいイベントに発展しないと
これがそれなのか?
「はい!あたし何だかスッキリしました!こんな状況ですし、しょうがないですよね!」
「ああ、しょうがない!一つ問題があるとすれば、互いに合意の上ってとこだな」
吹っ切れたような笑みを浮かべるロゼの肩に手を置き、目を輝かせる6号
そんな6号の台詞に、ロゼが首をかしげて言った
「合意の上だとマズいんですか?」
……あっ
「ストレートに言われると何もマズくない気もしてくるが、皆を助けるためだ。そう、必然性ってヤツが………。どうしたオルガ、合点がいったような顔して」
すべてが繋がった俺は、巻き込まれる前にテントを出ようとした
「……俺はミカ達が来ないか見張ってる事にするよ」
早いとこ、ここから出た方がいい
「おいオルガ。ロゼがここまで言ってるんだ、俺達もそれに応えてやろうぜ」
「お願いします副隊長!お二人とは一度全力でやってみたかったんです!」
そそくさと退散しようとする俺を、二人が引き留めてくる
違うんだ6号
お前は違うんだよ……
俺が助けを求めるように、事態を面白そうに見ていたアリスを見る
「ロゼと6号に聞きたいんだが、今から何をするつもりなんだ?」
「何って、食うんだよ!」
「そうです!隊長と副隊長を食べるんです!」
なぜだろうか
言葉は同じなはずなのに、俺には全く異なって聞こえる
「……今からロゼとエロい事をするんだろ?」
「今から三人で殴り会うんですよね?」
だんだんと理解が追い付いて来たのか、6号が顔から赤が抜けていく
「食べるって性的な意味じゃなくて?」
「食欲的な意味ですよ?」
「……………」
やっと理解した6号が騒ぎたてる間に、俺はこそこそとテントの入り口に手を掛けて……
「おいオルガ!お前何一人だけ逃げようとしてるんだ!元はと言えばお前のせいなんだからお前も来い!!」
「そうですよ副隊長!これは自然界の節理にのっとった生存競争なんです!」
助けを求める俺に、アリスは指を3本立てて見せると
「……おいアリス」
「ノルマは三百な」
くそったれ!
「グレイス王国遊撃隊所属、戦闘キメラのロゼ!参ります!」
「秘密結社キサラギ古参社員、戦闘員6号だ!お前でポイント稼いでやるよ!」
「同じくキサラギ所属の新入り戦闘員、オルガ=イツカだ!ロゼ!まずは6号を潰すぞ!」
翌朝
6号がアレコレとロゼにセクハラして得たポイントと、俺と殴り合って得たポイントを使って呼んだバギーに乗って、俺達はグレイス王国の正門が見える辺りまで到達した
問題のロゼは、戦闘中に稼いだポイントで取り寄せた食料を使って無力化してある
口から食べかすとよだれを垂らし、服もズレてひどい有様だが、幸せそうな顔で今は眠っている
途中で合流したミカとシノが、バギーでぐったりとしている俺達を見て言う
「なぁ、皆疲れきってるのは分かるけどよ。何でオルガと6号は歯形まみれなんだ?」
「……言いたくねぇ」
「……俺もう地球に帰りたい」