少年兵、派遣します!   作:アカザタナ

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死霊は事件の香り

俺達がこの星の大自然に完膚なきまでに叩き潰された翌日

 

アジト建設が上手くいっていればベッドの上での起床だったのだが、あいにくそうはならなかったので寝袋だ

 

「おうミカ、調子はどうだ」

 

テントから出た俺は、小さなプランターの前で屈み込むミカに声をかけた

そのプランターには、これまた小さな植物が葉をつけている

 

「トウモロコシか?」

「うん」

 

トウモロコシは、火星でミカが手伝っていた農場で育てていた作物なだけに思い入れ深い

あれはバイオ燃料として安く買い叩かれちまってたが、これは食用として使いてぇもんだ

 

だがその苗の葉はしおれており、他の苗も似たような状態だった

 

「やっぱりそう簡単にはいかねぇか……」

「アリスが水と栄養を与えすぎだって」

 

手伝った事があるって言っても一から育てた事はねぇし、本で知識を得ただけで上手くいくとも思っちゃいなかったが、こう現実を見せられるとな

 

「本当は畑で育てたほうがいいんだろうが、ここじゃ無理だからなぁ」

 

「でも支部の立ち上げは延期になったんでしょ?」

 

「そうなんだよな……。今はこれで練習するしかねぇか………そういや、あの実はどうしたんだ?」

 

あの実とは、最後にアジト建設を邪魔した植物人間からミカが採取した実だ

上手く育てば貴重な生体サンプルになる予定だが

 

「そこの花壇に埋めたんだけど、もう芽が出てるんだよね」

「なんかヤバそうだよなぁ……。こんな街中で育てて大丈夫か?」

 

あの植物人間は重機を易々と破壊し、キサラギ戦闘服さえ貫通できるような攻撃力を持っている

 

増やしすぎなけりゃ大丈夫か?

いや、あれが成体とは限らねぇし生育にも注意しねぇと……

 

「おいオルガ、グリムが探していたぞ。これからアンデット祭りの依り代に霊を呼び込むそうだ。アリス様と6号に今度こそ力を見せてやると息巻いていたが、アリス様は忙しいらしい。6号はここには居ないのか?」

 

俺が文字通りの悩みの種をどうしようか考えていると、すっかりアリスの子分と化したスノウがそう言って公園の入り口に立っていた

 

「やっと復活したのか。城でやるんだろ?6号も見かけたら連れてきゃいいさ」

 

俺が腰を上げてスノウに着いていこうとすると、入れ替わるように見慣れない男が公園に入っていった

 

「あ、居た居た!三日月さん、探しましたよ!」

 

その男はミカの知り合いのようだが、俺には面識が無かった

 

「……誰だ?」

「お前は闘技場の支配人ではないか。いったいどうしたのだ?」

 

スノウがそう聞くと、その男は一瞬の疑問を浮かべてから答えた

 

「ああスノウさん、知らないんですか?三日月さんが闘技場の現チャンプなんですよ」

 

それを聞いたスノウは邪悪な笑みを浮かべながら凄い勢いでミカの肩に手を回した

 

「おい三日月。私が悪行ポイントとやらを集めさせてやろう。なに、謝礼はいくばくかの金だけで十分だ」

「八百長させようとすんな。というかミカお前いつの間にチャンピオンになってたんだ」

「結構前だけど」

 

俺の知らない間に、ミカも結構自由にやってんだなあ

嬉しいような寂しいような……

 

「三日月さんは血塗れマリエルとのマッチが近づいているので、ここらでお互いの実力を確認しておこうと前座試合を組ませていただきました」

「わかった。じゃあオレも行ってくる」

 

戦闘服に着替えて出ていったミカを見送りながら、俺はスノウに尋ねた

 

「血塗れマリエルってのは……」

「最近名を上げ始めた女武闘家だ。彼女のフックは相手の頭蓋を粉々にすると言うぞ」

 

倫理観のおかしなこの星の事だ、娯楽だからって闘技場内の殺人が合法化されてねぇだろうな

 

 

 

城へやって来た俺とスノウは、車椅子の上で腕を組みながらウキウキとしているグリムと、数百は下らないであろうぬいぐるみの山に出迎えられた

 

「フフフ、来たわね副隊長。今日こそはゼナリス様の強大な力の片鱗を……ねぇ隊長とアリスは?あの二人にこそ見せつけたいのだけれど」

 

「アリス様は忙しいのだ、お前に付き合っている暇など無い」

「6号なら、川にゴミ拾いに行くってよ」

 

「スノウはこの国の騎士でしょう!?いつからアリスの側になったのよ!あと隊長のそれは絶対嘘よ!副隊長は分かってて放置したでしょう!」

 

逃げに入った6号を捕まえんのがどれだけ大変だと思ってんだよ

この間なんか、制限解除で逃げてクールタイムは隠れてやり過ごすってやり方で一日逃げ続けられたからな

 

「……まあいいわ。さあ刮目なさい!ゼナリス様の偉大なる力を!」

 

グリムが一つだけ手前に置かれているぬいぐるみに手を掲げると、それが少し光り……

 

そのまま平然と動き出した

 

グリムの話が本当なら、このぬいぐるみにはこの国の人間の魂が入っている

 

死んで肉体を失った人間を現世に呼び戻す

 

そんな神をも恐れぬ儀式を見た俺は

 

「……終わりか?」

「何よその目は!想像より地味だったとか言うんじゃ無いでしょうね!」

 

今までみたいに、魔方陣とか光の柱とか、そんなものを使うと思ってたんだが

 

まあ市民に見せるわけでもないし、これだけの数を捌くのに時間をかけて派手にやる必要もないか

 

俺は嬉しそうにぴょんぴょん跳ねているぬいぐるみに手を触れる

 

「これでこのぬいぐるみの中に、この国のご先祖様の霊が入ったのか」

 

「ああ、祭りの期間中はそれぞれの親しい人の側に居るだろう。これから忙しくなるぞ、なんせ祭り期間中は出店が増えるからな」

 

「…怪しい物を売るやつがいないか見張るんだよな?」

 

「………そうだ」

 

目を反らして答えるスノウに俺がジト目を向けていると、グリムがパンッと手を叩いて俺達を呼んだ

 

「ほらほら二人も手伝って!祈りを捧げるのはプリーストがやってくれるから、あなた達はぬいぐるみを運んできて!」

 

それから俺とスノウは他の騎士やメイド達とともに、ひたすらぬいぐるみを並べ続けた

 

俺はグリムお手製だというぬいぐるみを担ぎながら、一つ疑問に思っていた事をグリムに尋ねた

 

「気になってたんだが、まだ祭りの期間より少し早くねぇか?」

「実は、毎年ちょっとだけ気の早い霊がいるのよね。その人たちのためにちょっと前からこうして依り代を用意しておくの」

 

合計して百体ほどは運んだだろうか

せっかちな霊は一通りみんな入ったのか、ぬいぐるみはそれ以上は動かなくなった

 

案外重いぬいぐるみに疲れて、俺は床に座り込んだ

 

「……結構デカいよな。動物モチーフなのはなんか理由があんのか?」

「そんなの可愛いからに決まってるじゃない。あなた達の気持ち悪い人形も祭り関係者に見せてみたけど、満場一致で却下だったわよ」

 

生き遅れ呼ばわりされた事が相当癪に触ったのか、グリムは八裂きミート君人形への当たりが強い

きっとグリムが見せた他の人にも、何かしらの暴言を吐いたんだろうな

 

「そういや、ロゼはどうした?あいつならお前の手伝いだって進んでやるだろ」

「ロゼはあのトラの男に着いてっちゃったのよ。お菓子を貰ってるからってホイホイ行っちゃって。隊長の影響で何かにつけて奢ってもらおうとしてくるし……」

 

今まで自分にべったりだったロゼを盗られたと思っているのか歯ぎしりするグリム

グリムはロゼの事を数少ない友人って言ってたが、マジで他のゼナリス信者っていねぇのか

 

「まあトラ男は悪い奴じゃないから別にいいだろ。それにお前だって自分に優しいイケメンが出たらホイホイ着いていくだろ?」

「一応これでも中身を認めた人にしか本気のアタックはかけてないんだけど……。でも、保証はできないわね」

 

 

いつの間にか逃げ出していたスノウにどんな呪いをかけてやろうか話し合っていた俺達の前に、ティリスがやって来た

その顔はひどく疲れているように見える

 

「……オルガ様、それにグリム様もご苦労様です。アンデット祭りは無事に開催できそうですか?」

「ええ、今のところ滞りなく……。あの…ティリス様、少しお疲れの様子ですが何か?」

 

グリムが心配そうにそう言うと、ティリスは少し強がった笑みを見せたが、すぐに肩を落とした

 

「……そうですね、お二人なら何か知っているかもしれません。実は最近悪夢にうなされているのです」

 

額を押さえながらそう言うティリス

俺はその原因が何か、ひとしきり頭を巡らせて考える

 

「キサラギの戦闘員がバカな問題ばかり起こしてるからそのストレスで……とかか?」

「その線が本当にありそうで嫌ね……。でも、何かしらの呪いの可能性もあるわ」

 

キサラギ戦闘員の悪行は国公認だが、当然街の一般人から苦情は出ている

シノや6号なんかは一日一回はセクハラや小犯罪をしているだろうし、かなりティリスの頭を痛めているはずだ

 

て言うか、キサラギに独学で呪いを修得した猛者がいても不思議じゃねぇよな……

 

「城の見回りが怪しげな影を見たという報告も上がっていますし、私は魔王軍の破壊工作ではないかと思っているのですが……」

 

この国の政治は、かなりティリスに依存している

サヴァランをはじめとする他の人間もうまくやっているが、それでもティリスの働きはかなり大きい

それだけでなく、国王が失踪し王子であった勇者が行方不明な今、ティリスに何かあれば王族がいなくなってしまう

だからティリスは国の精神的主柱としての働きも大きいのだ

 

キサラギとしても今グレイス王国の傘を失うのは結構困るだろうし、手は貸した方がいいな

 

「心配なら、キサラギの戦闘員を見張りにつけるか?あんたの寝顔を見てハアハアしたりするかもしれねぇが、手は出さねぇだろうし」

「そんなの余計に眠れませんよ!見張るとしても部屋の入り口まででお願いします!」

 

自分で言いながらも、それは止めといた方がいいなって思ってたよ

 

 

 

一旦持ち帰って相談するとティリスに言い残し、依り代の様子を確認したいと言うグリムを車椅子に乗せた俺は城から出て街へと足を運んだ

 

「うん、ひとまずは問題無さそうね」

 

嬉しそうに街中を闊歩するぬいぐるみ達を見たグリムが、満足そうに言う

 

「わざわざ見回りまでするのか?」

「そうよ?アンデット祭りは国から正式に任された仕事だからね」

 

そう言ってグリムは誇らしそうな顔を見せた

 

国からボロ雑巾のようなな扱いを受けてなお、こうして誠心誠意尽くしているのは紛れもなく聖職者の器だと言う他ない

グリムの話じゃ、ゼナリス教を忌み嫌う人もいるらしいが、どういう経緯でアンデット祭りが始まったんだろうな

 

そんな事を考えながら、俺は目の前に広がる現実離れした光景に目をやった

 

犬、猫、兎、熊……

様々な形のぬいぐるみがひとりでに街中を歩き回り、周囲の人間から暖かい声を掛けられている

 

「本当に死者を迎え入れてんだな」

「やっぱり信じてなかったの?副隊長にはゴーストだって見せたじゃない」

 

グリムが頬を膨らませてそう言ってくる

 

「あんなの得体の知れない化け物みたいなもんだろ。こうやって生きてる人間と変わり無い様子が見れるだけで違うもんさ」

 

死んだ後の事は、普通の人間にはわからないものだ

死後の世界が有るのか無いのかは墓からはわからないし、人間の形を保てているのかどうかはゴーストからはわからない

だから、ああして普通に生活している姿が見れるだけでも安心できる

 

俺も、ああやって死んだ人間に会えればどんなに嬉しかっただろうか

言葉を交わせずとも、一言謝れたらどれだけ救われただろうか

 

まあ、今こうして会えてるんだけどな

ほんと、ありがてぇもんだ

 

 

「ねぇ、副隊長と私ってやっぱり気が合うと思うの。ぬいぐるみの趣味だけは看過できないけど、結婚さえしてくれればあの気持ち悪い人形も毎日作ってあげるから……」

「急になに言い出すかと思ったらそれか…」

 

俺が改めて自分の数奇な巡り合わせに感謝していると、グリムが真顔で求婚してきた

俺が呆れると、グリムは車椅子に乗りながら駄々をこねる

 

「何よ、副隊長もそろそろデレてくれたっていいじゃない!」

 

俺は黙って車椅子を押しながら、グリムの姿をもう一度見てみた

 

顔もスタイルも良いし、家事全般も得意で、金使いや酒に荒いわけでもなく、ロゼのような半魔族や俺達のような流れ者にも差別しない

 

ちょっと圧が強い事と、邪教信者な事に目を瞑れば、俗に言う良い女ってやつそのものだ

 

そんな女性に好意を寄せられているのは、普通なら嬉しい事だろう

いや、俺だって嬉しくねぇわけじゃねぇだろ?

 

じゃあなんで俺は……

 

「俺じゃなくて6号にしたほうがいいんじゃねぇか?」

 

俺は半ば逃げのような問いをグリムに投げ掛ける

 

「隊長も悪く無いけど、副隊長は私と同じゼナリス様の加護を受けた身じゃない。あと、副隊長は死者との向き合い方が真摯なのもポイント高いわよ?隊長と違って身も固そうだし」

 

平然と言ってくるグリムから目をそらす

 

俺にはもう家族がいる

そしてその家族には、もうグリムも入っている

 

だから、これ以上は存在しない

 

だから……

 

 

 

……名瀬の兄貴がいたら、情けねぇって言われちまうかもな

 

「副隊長は好きな人でもいるの?居ないなら私にしておいた方がいいわよ。後で惚れても遅いからね」

 

グリムのそんなふざけたような言い方が、今だけはありがたかった

 

 

 

 

 

「ちくしょう!地雷を踏んだ!」

「期待させるだけさせておいて、そのまま放置だなんていやああああああ!」

 

見回りを続けていた俺達が6号の声で酒場に入ると、そこにいた涙目の女が6号に掴みかかっていた

そこはかとなくヤバい人間の臭いがするその女は、顔を赤くしながら全身をくねくねとさせている

 

「……なんだ、珍しく女性から好意を向けられてんじゃねぇか。良かったな6号」

「良くねぇよ!ちょっと嫌がってくれるだけでよかったのに……!」

「こらっ、見ての通り女連れよ!あっちへお行き!」

 

グリムがしっしっと追い払うと、その女は舌打ちをしてしぶしぶと離れていった

 

「ふう、助かった。危うくとんでもない地雷女を掴まされるところだった」

「隊長も案外大変なのね。奢ってくれるなら、いつでもデートに付き合ってあげるからね」

 

俺と6号はどの口が言うんだとばかりに顔を見合わせるが

グリムはそんなこと気付きもせずに、車椅子から身を乗り出して話し出した

 

「ちょうどいいわ。副隊長だけじゃなく、隊長にもアンデット祭りに関する重要な話があるの」

 

真剣な面持ちのグリムに、俺は気を入れ直す

 

「いいけど、ここの会計お前もちな」

「「……………」」

 

当たり前のようにたかろうとする6号とテーブルに座り、その対面にグリムが座る

 

「こんな事になるならもっと高い店にいるんだったな……。あ、このつまみおかわり」

「人の金でバカバカ注文するなよ。まあこの前とかは奢ってもらったけどよ」

 

6号は給料が入ると気を良くして皆に奢りまくるのだが、金使いが荒いせいですぐに底を尽かしている

それで周りの人間に奢らせているわけだから、プラスマイナスゼロ……むしろマイナスな時もありそうだ

キサラギ社員としてはわりと珍しくもないらしいが

 

「それで二人に話っていうのは、ここ最近アンデット達の様子がおかしい事についてなの」

 

アンデットの様子がおかしい

 

俺はアンデットを何度も見たことがある訳じゃないし、自分が不死だからって違いがわかるわけでもないが……

グリムが言うならおかしいのだろう

 

おそらく、グリムの手伝いで魔の大森林に行った時みたいな……

 

「副隊長はこの間見たと思うけど、ゾンビやアンデットが私の言うことを聞かなくなっているのよ。今までこんなこと無かったのに……」

 

グリムがそう言うと、6号はグリムに胡散臭い物を見るような目を向け

 

「お前が無駄に死んでばっかりいるからゼナリスに見捨てられたんじゃね?」

「どうして隊長も副隊長と同じ事を言うのよ!私は貴重な信徒の一人だから捨てられたりしないわよ!」

 

やはり俺と同じ結論にたどり着いた6号に、グリムはテーブルをバンッと叩いて抗議する

 

「私の予想では、何者かがアンデットを裏で操ってるんじゃないかと睨んでるの。それなら私の言うことを聞かなかったのも辻褄が合うわ!」

 

グリムが人差し指を立てながらそう言う

 

「そいつが死体を弄んだ張本人ってわけか」

 

「そういや俺も、この間ゾンビにアジトを襲撃された時に怪しい影を見かけたような気がする」

 

「このままじゃ、アンデット祭りに影響が出かねないわ。だから二人には何か怪しい事件が起きないか、街中を監視しててほしいの」

 

グリムに言われた6号が眉をひそめる

 

「祭りにトラブルってのは付き物だろ。俺達キサラギとしては悪事をうやむやにできるから大歓迎だぞ。イカサマにショバ代に、手口には困らないからな」

 

「アンデット祭りは神聖なものなんだからそんなことしないで!」

 

所属しておいてなんだが、キサラギって本当にろくでもないな

祭り期間中は戦闘員を見張っていた方が良いのかもしれない

 

「まあアジト建設が延期になって暇だしな。見張りと報告くらいならしてもいいが、あんまり肩入れするとアリスがうるさいし……」

 

そう言いながら俺は、アリスの嫌そうな顔を思い浮かべた

この間もアンデット対策と言って俺の服に殺虫剤をぶちまけてたし……

色々と過剰な気もするが、筋金入りのアイツの事だ

きっとこの世からオカルト現象が消滅するまで止まらないだろう

 

「あのちびっ子はまだ信じてないの?もし私のぬいぐるみに変なことしたら呪うって伝えておいて」

 

「アンドロイドに呪いは効かねぇっての。あいつはどうやったって信じねぇだろうからやめとけ」

 

ゴーレムなんかは体は無機物でできていてもその実何か魂のようなものが宿っているらしく、ゆえにグリムの呪いも効果がある

しかしアンドロイドは完全な機械なので、おそらく呪いは通じない

もし呪いがグリムに返っていかない場合、トリスでのエンゲルの例のように関係ない人間に呪いが降りかかるかもしれない

グリムとアリスはあんまり顔を会わせない方がいいのかもしれねぇな

 

「まあ、魔王軍が絡んでるんならまた土地をぶん盗れるかもしれないし、頭の隅にでも置いとくよ。じゃ、会計よろしく」

「お前本当にそれでいいのか」

 

良い笑顔で席を立ち、店を出ようとする6号

俺が呆れながら自分も少し払おうと懐から財布を取り出していると

 

「違うって!ちょっと俺を見て嫌がってくれるだけでいいんだって!」

「いやああああああああ!!」

 

店の奥から聞きなれた声と、聞きたての声が聴こえてきた

 

「あっ!おい待ってくれよオルガ!スルーしないで助けてくれよ!」

「御愁傷様」

 

さっきの女に絡まれているシノを放置して勘定を済ませた俺達は、さっさと店を出た

さっきの6号もそうだが、俺の予想だと先に絡んだのはこっち側だ

あれは自業自得だ、シノも少しは慎め

 

 

 

 

その後さらに二軒目に連れ回そうとする6号をグリムに押し付け、俺は仮拠点の公園へと帰ってきた

 

本当は、俺が押し付けたかったのはグリムの方だが

 

 

「魔王軍のネクロマンサー?」

 

公園に勝手に設置した物干し竿から洗濯物を取り込んでいるラッセルに尋ねた

 

「ああ、誰か居ないか?こう、こそこそ裏からやる姑息な奴は」

「君たちの仲間同様、ネクロマンサーはだいたい姑息だと思うよ。でもボクが知る限りじゃ、幹部級のネクロマンサーは居なかったような気がするなぁ。ガタルカンドはもう殺されたし……」

 

ダメ元で聞いてみたのだが、ラッセルはすんなりと話してくれた

嘘の可能性も否定できないが、ラッセルはそんな事ができるような性格はしていない

現に今俺達に従ってこの格好で働いているのがなによりの証拠だ

 

「お前、そんなべらべらと内部情報をしゃべって大丈夫なのか?」

「……黙ってたらなにされるか分かったもんじゃないからね」

 

自分がこの格好をする事になった理由を思い出し、遠い目をするラッセル

 

「四天王としていいのかそれで。一応、魔王軍がお前を消そうとしてきたら阻止するけどよ」

 

ラッセルは俺達にとって大事な捕虜だ

まあ大事かどうかに限らず虜囚に手を出す事は許さねぇが、ラッセルにはグレイス王国に水を供給するっていう極めて重要な仕事があるからな

 

それを止めようと魔王軍が奪還作戦を決行してくるかもしれないし、最悪の場合刺客を放ってくるかもしれない

 

ハイネがそんな事を許可するとは思えないが

 

そういえば、ハイネはどうしてんだろうな

重要な任務を失敗して四天王の一人を失ったわけだし、四天王の位を剥奪されたりしてそうだ

 

「それはどうも………。まあ、アイツみたいに強情にしてても良いことないって気づいたんだよ」

「あのエドモントンの時の奴か。俺はアイツと直接はやりあってねぇんだが、魔王軍ではどうだったんだ?」

 

ちょっと安心したような顔のラッセルの言葉に、背をいかして高いところの洗濯物を回収していた昭弘が言った

 

アインはまだ俺達に何も言ってきていない

牢の見張りからは何も不審な事はしていないと言われている

やっぱり、俺の方から持ちかけるしか無いかもな

 

「一言で言うなら、抜き身のナイフみたいなヤツだったな。俺達以外にはそこまで酷くねぇみてぇだったが」

「魔王軍に居た時も、けっこう好き勝手やってたよ。おかげでずる賢い系の大人はだいたい殺されてたからね」

 

アインは俺達を[罪深き子供]と呼んだ

 

アインと彼の上官について、マクギリスから少し聞いた事がある

火星でのアインの上官クランク=ゼントは子供が犠牲になる事を良しとせず、己の身一つで決闘による解決をはかった

クーデリアと火星独立は大人の問題であり、それに子供が巻き込まれる筋合いは無いと

だがそれは俺達が鉄華団がとなり、初仕事に決意を固めた翌日だった

俺達は巻き込まれた無力な子供ではなく、彼らにとっての本当の敵になった

 

敵だったのだからしょうがない

 

それを言う事を、誰も責めはしないだろう

 

けれど、知ってしまった以上俺はそうは言えない

 

「……なんとかしてやりてぇんだろ?」

 

昭弘の言葉に、俺はうなずく

 

「……ああ、アイツの恩人を殺したのは俺達だ。今さら償ったりできねぇし、したってどうなるって話でもねぇ。でもどんな形であれ決着は着けねぇとな。でなきゃアイツはまた、死ぬまで俺達に縛られちまう」

 

俺は仲間達に戦いしか知らない人生を歩ませたからこそ、憎しみや復讐に駆られた人生は何も生まないと知っている

和解なんて到底無理かもしれないが、こうして奇跡のような新しい人生を歩んでいるのだ

 

争わずにいられりゃ、それに越した事はねぇ

 

「そういやお前、ロゼにキメラの素性は話さねぇのか?」

「向こうからは聞いてこないし、こっちからは話さないよ。もともと人間側より魔族側だったって事は言ってあるけどね」

 

ラッセルはあの遺跡で、人類を殲滅する事にこだわっていた

あのロボットにそれができるかはさておき、それが創造主によって命じられた、戦闘キメラの役目

それについてロゼが詳しく知れば、一体どうするのだろう

 

「あの同族も悩んでるみたいだったよ。お前らがどうなろうと勝手だけど、あいつはボクほどひねくれて無いんだから相談くらいはのってやれよ?」

 

同じ戦闘キメラとして思うところがあるのかそう言うラッセルに、俺は少し考えを改める

 

「お前、けっこういいヤツだな」

「そう思うならもうちょっと待遇を改善してくれないかなぁ……。トラ男に言っておいてよ、メイド服はまだいいけど、バニー服だけは絶対に着ないから」

 

もうだいぶ毒されてきているラッセルを見ていた昭弘が、洗濯カゴを地面に置きながら言った

 

「ラッセル、お前家族は?」

 

その質問にラッセルは何を言ってるんだという顔をしながら答える

 

「キメラに家族は居ないよ。強いて挙げるなら創造主だけだね。その理屈でいくと、同族は兄弟姉妹って事になるのかな」

「そうか……。いや、なんでもない」

 

 

それからしばらくして、少し汗ばんだミカとげっそりとしたシノ、そしてなぜか仕事してやった感を出しながら帰ってきた6号を迎えた俺達はラッセルが作った晩飯を食べた

 

「敵に兵糧掴ませてるのはどうなんだ?」

「美味いからなんでもいいや」

 

危機感が欠如している6号に俺は呆れたが、実際ラッセルの作る食事は本当に美味かった

 

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