少年兵、派遣します!   作:アカザタナ

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稼ぎ場は変態の巣窟

雲で月が隠され、犯罪行為には絶好の夜

 

今夜俺が居るのはいつも寝泊まりしているテントではなく王城の一角、それもこの国の王女であるティリスが寝ている部屋の前だった

 

ティリスが最近うなされているのは、キサラギの戦闘員が毎晩ティリスの部屋に侵入している事が原因と分かった

戦闘員の生命線である悪行ポイント稼ぎに最適な事、ティリスに手を出したり起こしたりするような悪事はしない事を条件に、6号は俺に口止めしてきた

しかしそれを鵜呑みにできるほど、俺はまだキサラギに染まっちゃいない

一線を越えるバカが出ないか監視するために、ティリスに掛け合って扉の前で見張る事にしたわけだ

 

 

しばらく部屋の扉の前に座り込んでいると、ゴソゴソと小さな物音が天井近くから聞こえた気がした

 

俺が静かに扉を開け、部屋の様子を確認すると……

 

 

「………お前、うちの戦闘員だろ」

「仮副支部長じゃないか。そんな入り口から堂々と侵入するなんて見直したぞ」

 

 

眠るティリスの隣には、全裸で屈んでいる一人の男が居た

 

キサラギからは6号以外に十人ほど戦闘員が送られてきているが、俺はまだその全員と親しいわけじゃない

それでも元団長の心構えとして、顔と名前くらいは記憶している

こいつはたしか6号に次ぐ古参戦闘員の……

 

「……もしかして天井裏からティリスの部屋に侵入してたのか」

「フッ……。このくらいキサラギ戦闘員なら誰でもできるさ」

 

 

親指を立ててそう言う十号に、俺は頭を抱える

 

 

まだだ、まだ耐えるんだオルガ=イツカ

 

 

もしかしたら何か重要な任務なのかもしれない

もしかしたらティリスを守るためなのかもしれない

何か深い事情があるのかもしれない

 

そう自分に言い聞かせながら、俺は汗だくの十号に尋ねた

 

「………で、なにしようとしてんだ」

 

 

「何って、うんこしようとしてるだけだが」

 

 

 

 

 

「…………分かった。いや分からねぇが、とにかくゆっくり………」

 

 

俺は思考が追い付いていない頭をなんとか回し、十号に部屋から出るよう促す

こんなところを誰かに見られたら間違いなく……

 

 

「………オルガ様……?」

 

 

目を擦りながら上体を起こしたティリスを見た俺は、城中に響き渡るほどの大声で衛兵を呼んだ

 

 

 

 

そして夜が明け……

 

 

「遅かったなお前ら……!」

「どうしたオルガ、そんな面白い顔して」

 

俺は城の謁見の間……今日は見上げる側ではなく見下ろす側に立って6号とアリスを出迎えた

俺の顔は怒りと呆れでおかしくなっていたに違いない

 

 

「……今までは良い関係を築けていただけに、此度の事は残念です」

 

場所を事件現場であるティリスの部屋に移し、ティリスが話し始めた

 

「すまんな姫さん、自分もアホ共に目を光らせていたつもりだったんだが……。まずは何があったのかを聞こうじゃないか。オルガが何かしたのか?」

「アホやらかしたのは俺じゃなくて戦闘員十号だよ」

 

何故かティリスの側にいる俺を見たアリスが不審そうに尋ねてきた

俺を他の戦闘員と同じだと思わないよう言っておかねぇと駄目だなこれ…

 

「被害者はこの私ですし、犯行は未遂に終わりましたが………。罪状は、その…夜這い、でしょうか」

「マジか……。そんな事やらかすクソ度胸を持つヤツがうちの戦闘員に……」

「アイツ、そんなに根性の据わった悪党だったのか……」

 

アリスと6号が感心しているのが意味が分からない

 

「いや、戦闘員十号は、その………」

「戦闘員十号様は、キサラギの他の方と違って城内での評判も良く、子供達に気前よく色んな物をくれたりする気さくな方だっただけに、非常に残念です」

 

ティリスがもの悲しそうに顔を伏せる

6号は十号に会いに行くと、城の地下牢へ向かっていった

俺は十号の日頃の行いを聞いて一層頭が痛くなっていた

 

「どうしたオルガ、何か知ってる事があるなら話せ」

 

「………何でもねぇ」

 

「夜中目が覚めたら、部屋の中に全裸の十号様がしゃがみ込んでいたのです。オルガ様が居なければどうなっていたか………!」

 

ティリスが震えて自分の身を抱きしめる

年頃の女の子にはさぞ恐ろしかったに違いない

これが強姦や暗殺だと思っているからだろうが……

 

「よし分かった、その辺の話はこれから詰めていこう。おいオルガ、お前も状況を事細かに………」

 

「………うんこだよ」

「「………は?」」

 

俺はこの頭のおかしくなりそうな状況に耐えきれず言葉をこぼした

 

「おいオルガ、お前までおかしくなったのか?」

「そうですよ、オルガ様までダメになったらいよいよキサラギにまともな人間が居なくなってしまいます」

 

二人が何言ってるんだとばかりに言ってくるが、もうここまで来たら俺は真実を言うしかない

 

「………いや、戦闘員十号はティリスの部屋でうんこしようとしてたんだよ」

 

「「…………は?」」

 

だから俺を頭のおかしくなった人間を見る目で蔑むのはやめろって

 

 

それからしばらくして戻ってきた6号から、俺と同じ説明が成された

 

俺も嘘か戯れ言であって欲しかったが、やはり十号の目的は本当だったようだ

 

当然、ティリスは困惑している

 

「…………!?!?!?あのすみません、何を言っているのかがまったくもって分かりません!」

「全裸だった理由は、裸じゃないと部屋でくつろげないタイプなんだってさ」

「そこじゃねぇよ」

 

変態同士、共感できるものがあるのか6号はそういうことあるよなと言わんばかりに腕を組んでいる

 

「な、なぜ深夜に、しかも私の寝室でそのような事を……!?どうしてトイレに行かないのですか!?」

「マーキング的なもんじゃないのか?縄張りを主張したかったとか」

「私の寝室は私の物です!もう嫌!バカな祝詞を言わされそうになったり、寝室にまで侵入されたり!」

 

変態の奇行に理解が追い付かなくなったティリスが自分のベッドに体を埋めて泣き出した

6号がそれまでフリーズしていたアリスに声をかける

 

「アリス、アンドロイドのお前にも人の心があるなら、慰めの言葉の一つも掛けてやれよ」

「……いや、かわいそうだとは思うよ。自分が同じ立場ならもれなく戦闘員達を追放してるよ」

 

「オルガ、お前も人間なら同情してやったらどうだ?見てらんねぇよ」

「……………俺もうキサラギ辞めていいか?」

割と本気でそう思った俺がため息を吐いていると、扉の向こうからこめかみをひくつかせたサヴァランが顔を出した

 

「……で、どうするんですかティリス様。私としてはあの男の追放もやむ無しと考えていますが」

「……今回だけは軽罰で済ませておきます。ですが今後このような事があれば、厳しい措置を取らせてもらいますからね」

「あんた懐広すぎだろ………」

 

キサラギをあてにしてくれるのは結構だがよ……

 

あんまりにあんまりな原因に、城の兵士達は気の抜けた顔で俺達を見ていた

 

「まったく……。魔王軍の刺客かとピリピリしていたのがバカらしく思えてくる。というか警備の者は何をやっていたんだ……」

「いや、この部屋の警備はザルだったぞ。俺が何回この部屋に侵入したと思ってんだよ」

「!?」

 

6号の自白に、やっと落ち着き始めていたティリスが再び驚愕する

 

「いや、なんか王族の部屋に侵入するだけで悪行ポイントがすげー稼げるんだ。で、本人に気付かれるまで稼ぎ場にしようって事になった」

 

6号の説明にアリスは再び固まり、ティリスは目を白黒させながら俺を見た

 

「も、もしかしてオルガ様も……?」

「………………」

 

 

認めたくねぇもんだな

自分自身の若さ故の過ちってやつは

 

 

 

 

ティリスに城から追い出された俺達は、目的もなく街中をうろついていた

 

「まったく。せっかく警備のアドバイスをしてやったのに、何だよアイツ。あんなに怒る事ないじゃないか」

「現行犯じゃないからと、罪に問われなかっただけ感謝するべきだと思うけどなあ………」

 

まったく悪怯れる様子のない6号にアリスがもっともな事を言う

 

「あのな6号、普通だったら人の家に勝手に侵入するだけで重罪なんだぞ。しかもなんだスクワットにジャンガに焼き肉って。どうしてそう頭の痛くなる事ばかり考え付くんだ」

 

「じゃあ、ティリスに夜這い掛けろって言うのか?やだよティリスって腹黒いし、国なんか継ぐことになったら責任とか取りたくないし」

「犯罪を犯すなって言ってんだ」

 

もういっそ罪状の付くような犯罪を犯して捕まってくれた方がマシだったかもしれない

 

「そうは言っても、それが俺達悪の組織の仕事なんだぞ。あそこは良い稼ぎ場だったんだがなあ」

「ここ最近の建設資材やら重機はあれでポイント稼いでたのか。おい6号、次は王様の部屋に侵入しろよ。警備が厳重だったらサヴァランの部屋でもいい」

「頼むからそれは止めてくれ、絶対俺に責任飛んでくるだろ」

 

俺は昨夜の報告を聞いた時のサヴァランの顔を思い出しながら言った

 

「それよりお前ら。十号が拘束された以上、アジト建設は当面の間また延期だ。暇な戦闘員をかき集めて、そこいらのぬいぐるみに片っ端から火を付けねぇか?」

「お前は普段まともなクセに、非科学的な事が絡むとバカになるなあ」

「グリムが手ぇ出すなって釘刺してたぞ、せめてそういうのは祭りが終わってから確めろよ」

 

俺がそう言っても、アリスは我が物顔で闊歩しているぬいぐるみ達を忌々しげに観察している

実際に我が物だったんだから問題無いが……

 

「おい、あそこにいるのはグリムじゃねぇのか」

 

アリスが指差す先には、人混み…正確には人とぬいぐるみの集りがあった

祭り期間だから復活が速いのか、その中心にはグリムの姿

その前に立っているぬいぐるみと涙目の少女の手をとって、目を閉じて優しく何かを話していた

 

死者と会話ができるのはグリムだけ

ああやって死者の言葉を代弁しているのだろう

 

 

「グリム様、兄は何を言っているのですか?この中には本当に兄がいるのですか……?」

 

ぬいぐるみの手を握りながらグリムにそう尋ねているのは、まだ若い少女だった

グリムは優しく笑いかけながら、少女とぬいぐるみを近づける

 

「あなたのお兄さんかどうかは知りませんが、彼の名はレリウス。あなたに向けて『ただいま、僕がいない間にちゃんと夢を叶えられたんだね。おめでとう。一人で生活出来ているかがずっと心配だったけど、安心したよ』と仰っていますよ」

「兄さんッッ!」

 

感極まった少女が兄に抱き付く

ぬいぐるみもよしよしと少女の頭に手を乗せた

 

あの少女の兄というと、年齢的に戦争で喪ったんだろうか

別れの挨拶も満足にできなかった相手がああやって帰ってきてくれたんだもんな、そりゃ泣きつきたくなるか

クッキーとクラッカーにも、ビスケットを……

 

「『辛かったね、大変だったね。マリエルは凄いね、僕の自慢の妹だよ』と仰って………」

「わあああああああー!!」

 

優しくぬいぐるみに抱きしめられた少女が泣き声を上げた

そんな二人を見ていると、自然と目尻が熱くなる

 

「…『内気で体の弱かったマリエルが、将来は拳闘士になってチヤホヤされながら荒稼ぎしたいなんて言い出した時は、何を言い出すんだと思って止めたけど………。今思えば僕達が間違っていたよ』って」

「うんっ!あのね、あのね……!私ファンの人から『血塗れマリエル』なんて二つ名まで貰っちゃたんだ!それでね、今度チャンピオンとの対戦があって……」

 

血塗れマリエル……?

 

それって頭蓋砕きが得意技の?

 

拳闘士の家庭事情に俺が少し引いていると、その周りで感涙していた人山が動き出した

 

「おい見ろ!チャンピオンだ!」

 

人混みを掻き分けながら現れたのは、買い物帰りなのか両手に肥料と苗を抱えたミカの姿だった

それを見たアリスが首をかしげる

 

「……なんで三日月がチャンピオンって呼ばれてるんだ。もしかしてお前らも自分の知らないとこで好き勝手やってんのか?」

「昭弘は犯罪行為には手を染めてねぇよ。シノがセクハラのし過ぎで自警団にボコボコにされたくらいだ」

「俺ですら厳重注意で済んでんのに、あいつどんだけ見境なく手ぇつけてんだ」

 

歓声を上げる通行人に迷惑そうにしていたミカの前に、兄を後ろへ下がらせたマリエルが立ち塞がる

 

「チャンピオン!あなたの無敗記録、私が終わらせます!」

「……………」

 

マリエルの事がよく分かっていないのか、ミカが無視して通りすぎようとする

ミカはいちいち相手の顔を覚えたりしねぇからな

 

「完全スルーだ!まるで眼中に無いとでも言わんばかりに……!」

「さすが、鉄の鎧も血に染める『鉄血の三日月』と呼ばれるだけあるぜ……!」

 

このまま引き下がれないのか、拳を握り締めたマリエルが再びミカの前に飛び出すと、今度はミカもそれを睨み付けた

両者の間にひりついた空気が流れ、辺りの人間はみな固唾を呑んで二人見守っている

 

「ねぇ、どうして私と関係ないところで盛り上がってるの?せっかくこのグリムさんが真面目に働いてるのよ、もっと構いなさいよ!」

 

すっかり話題を奪われたグリムの悲痛な叫びを背に、俺達はアリスが放火犯になる前に退散する事にした

 

 

 

「アイツ、珍しく聖職者っぽい事やってたな。死者との会話とか凄くねぇ?」

「俺も祭りが始まる前は心配してたけど、最近は真っ当な聖職者らしくなってるよな」

 

俺と6号が、出会った頃には想像も付かなかったグリムの姿について話していると、アリスがやれやれと手を上げる

 

「お前らは詐欺に注意しろよ。あのマリエルとかいった女はサクラだな。事前にグリムと打ち合わせといて一芝居打ったんだろ」

「お前、頑なにファンタジーを信じようとしないのな」

「俺もこの状況を受け入れてる自分が少し怖いが、お前は疑い過ぎだろ」

 

そこらじゅうでぬいぐるみと戯れている街の住民をバカを見る目で眺めていたアリスにつられて、6号もぬいぐるみの群れに目を向ける

 

「しっかし、これがこの星の祭りかぁ……。お前ら、どう思う?」

「どうって……。まあ平和だよな、戦争中の息抜きって感じがして良いんじゃねぇか?」

 

俺は祭りなんかの催しものに馴染みが無い

そういうのはもっぱら地球や歳星みたいな場所だけで開かれてたし……

火星でもクリュセなんかじゃやってた気がするが、それもギャラルホルン主導の物ばかりで馴染みが薄かったからな

でもバカ騒ぎすんのは嫌いじゃないし、戦時はこうやってガス抜きすんのも大事だからな

 

だが俺の回答に納得いかなかったのか、6号だけでなくアリスもやれやれと首を振った

 

「祭りと言えば喧嘩にボッタクリと決まってんだろ。こんな大人しい祭りはキサラギとして認められんな」

「おう、テキ屋もなければ揉め事もない。こんなお上品な祭り見てられねぇよ」

 

悪い笑いを見せる二人を見た俺は、この祭りが無事に終わる事は無いなと思った

 

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