人々が無邪気にお祭りを楽しんでいる昼下がり
俺はテントから出てすぐに植えられた謎の種の世話をしていた
「やっぱりコイツ成長速くねぇか?同じ日に植えた他の種はまだ芽も出てねぇんだが」
「よーし、このまますくすく育って元気な美少女になるんだぞー」
6号はアジト建設の時に蜂の巣にされそうになった事をもう忘れたらしい
あの人型の部分が一般の植物でどの部位にあたるのか分からないが、そう遠くないうちにあの姿になりそうだ
というか花壇の他の植物の元気が日に日に無くなってる気がする
「早いとこアジトを完成させて植え替えた方が良さそうだな……」
「つっても、当分先だろうけどな」
畑作業を切り上げ、俺は6号と一緒に屋台が建ち並ぶ通りを進む
そこには暇になったキサラギの戦闘員が悪行ポイント稼ぎのため、次々とイカサマや詐欺の仕込まれた店を広げていた
もちろん俺達も例外じゃなく……
「君たちって本当に魔王軍よりタチが悪いよね」
「“君たち”……か。まあそうだよなあ………」
この星に来てからずるずると犯罪者の仲間入りを果たしている気がする
俺は窓を拭いているラッセルにそう言われながら、机と椅子を部屋に並べていた
俺達が出す店は、6号考案の女性従業員が男性客とおしゃべりする店
いわゆるキャバクラとかいう奴だろう
路地裏に接した小さな家を借り受けて店を出したが、それなりに客は舞い込んでいる
「一名様ご案内!ささっ、今なら当店のナンバーワン、スノウちゃんが空いてるよ!」
服装だけはまともな飲食店スタッフのような6号が、新しい客を店に連れ込んできた
おどおどと席に着いた男の隣に、扇情的な服装をしたスノウが座る
6号は女性経験の薄そうな青年ばかり連れてくるので、見てくれだけは良いスノウに簡単にほだされている
そしてスノウがダメでも……
「ううっ、本当にこんな格好で見ず知らずの男の人と……!」
「ほら、これが終わったら自分が美味しいものを食わせてやるから」
第二第三の手としてロゼとアリスを連れてきている
トラ男と昭弘が最初反対したが、最終的にアリスがねじ伏せた
俺は店の奥に構えて裏方作業を担当している
誰が見ても割高な価格設定のスナックや飲み物をカウンターに並べ、受け取った金を袋に詰めるのが主な仕事だ
「……というかラッセルさんはなんで居るんですか?ここって男の人しか来ないと思うんですけど………」
「ど、同族?違うぞ、ボクは下働きとして呼ばれただけで、君たちみたいにお客さんに侍ったりしないから……!」
こうして俺達の仲間がそれぞれ男性客の相手をするのだが……
「おいアリス。お前もうちょっと愛想良くできないの?スノウみたいにうまくアピールしろよ」
「お前見てくれは子供なんだからせめて言葉は選べよ。もう愛想悪いとかじゃなくてただ単に口が悪いだけじゃねぇか……」
「当店のナンバーツー、アリスちゃんは口が悪いのが売りなんだぞ。こういうのはなるべく色んなタイプを用意しておくんだ。おら、そのポテト運ぶからよこせ」
毒舌極まるアンドロイドに恐怖し……
「隊長、この仕事凄いです!ちょっと一緒にお話しするだけで、勝手に食べ物頼んでも怒られません!」
「よし良いぞ、お前が美味しそうに物を食べてるだけでお客さんは満足するからな。もっとじゃんじゃん注文していいぞ。相手が子供なら向こうも手荒な手段には出にくいしな」
「おいロゼ、この仕事は本当は悪い事なんだからな?たぶんお爺ちゃんが知ったら悲しむからな」
食いしん坊キメラに財布を空にされ……
「ね、ねぇ6号。あのお客さんさっきからずっとボクの方を見てて怖いんだけど……」
「あの目はガチだな……よし、ちょっと行って笑顔を振り撒いてこい。今日はあの子は無理なんですって俺が言ってくる。そんで先伸ばしにしまくって稼げるだけ稼ごう」
「伸ばすだけ伸ばして実は男でしたなんて発狂するだろ。大人しく帰ってもらえ」
女装キメラに絶望を突きつけられ……
「ふふん、どうだお前たち、私のナンバーワンっぷりは!今のところ私が一番男達を満足させているのではないか?私の取り分は半分でいいぞ!」
「あいつちょっと前までこの国の公務員だったよな。これ以上落ちぶれるところは見たくねぇんだが……」
「一応、アリスに借金返すためだしなあ……」
おそらく俺達の中で最も悪女と呼んで差し支えない守銭奴女に金をむしりとられ……
一瞬の油断につけこまれた男達が、俺達の目の前で次々と泣きを見ていた
そして揉め事に発展しそうになると……
「話があんなら裏で付けようか」
「い、いえ、なんでもないです……!」
黒いスーツを着こんでサングラスをかけた昭弘の出番だ
昭弘の巨体を見てまで暴れる人間はそう居ねぇからな
ちなみにだが、ロゼとラッセルを連れてきた理由の一つに昭弘を連れ出すためというのがある
スノウとアリスだけなら参加しないと言ってたからな
誰がどう見てもケツモチ以外の何者でもないが、賢いやり方だ
このやり方で悪行ポイントを稼いでもそこまで罪悪感が湧かないのが恐ろしいところだ
「トラ男さん、見ての通り手は出させてませんよ」
「うん、やっぱり昭弘を信じて正解だったにゃん。あっアリスにゃん、スマイル一つ」
「やってもいいが、有り金全部置いてけよ」
嫌そうな顔のアリスにそう言われながら、嬉々として財布の口を開くトラ男
アリスは金を受け取ると、信じられないくらい雑な作り笑顔を見せた
やろうと思えば普通の笑顔も作れるだろうに……
まあトラ男が満足そうだし別に構わねぇがよ
そうしてしばらく荒稼ぎしていた俺達を、客がぼったくりだと通報するまでにそう時間はかからなかった
「全員動くな、警察だ!この店が違法営業をしているとの通報が………!」
ドアを開け放って通告してくる警察官
それを見た6号の動きは速かった
「撤収!」
「がってんだ!」
「お前らは一回怒られろ!」
俺達は重たい金の袋を譲ろうとしないスノウを犠牲に、店を放棄した
その翌日
俺はアリスに連れられて、6号とロゼと一緒にとある屋敷にやって来たのだが……
「パトラッシュ!お座り!ほら、お座りしろ!」
「───ッッ!────ッッッ!!」
俺の目の前で、6号にリードを引いて押さえつけられている犬のぬいぐるみ
その中身はこの街のご先祖様ではなくロゼだった
それを屋敷の主人が心配そうに見守っている
「パトラッシュなのかい!?おいでパトラッシュ、私と一緒に散歩しよう!」
「パトラッシュが帰ってきて良かったな。早速報酬を払ってくれ」
俺はどっちに同情すべきだろうか
仮にも人間なのに犬の真似をさせられているロゼか
素直な願いをいいように利用されているこの老人か
どっちもが正しい人間の答えかもしれない
(おいアリス、最初依頼を聞いた時はどうやってパトラッシュを連れてくるのか疑問だったが、これはパトラッシュが見つからなかったのか始めからそんな気無かったのかどっちだ)
(そんな事ができるならとっととこの国のアンデッドとやらを殲滅してるよ。始めから爺さんを騙くらかして礼金をせしめるつもりだったよ)
やっぱり最低だよお前らは
(爺さんは喜び、俺達も喜ぶ。ロゼ以外みんなが幸せになれる素敵な依頼だろ?)
(隊長、恨みますよ!お爺さんをガッカリさせたくないので我慢しますが、帰ったら覚えといてくださいね!)
ロゼは唯一の家族だったお爺ちゃんの事を思い出しているのか、嫌そうながらも四つん這いになりながら爺さんの側に歩いていく
もしバレたらロゼの命は無いんじゃねぇかこれ
俺は死んだ団員に会わせるとか言って中身がジャスレイだったりしたらその場で殴り殺す自信があるぞ
(そもそも人間以外も帰ってくんのか?)
(さあ?もしそうならネコぐるみに魔獣が入ってたりするかもな)
グリムはともかく、一般人にはぬいぐるみの中身を判別できないのは地味に大きな問題だな
ハイネみたいな奴が紛れ込んでいても気づけないわけだし、ぬいぐるみに罪を擦り付けようとする犯罪者もいるかもしれねぇし…
「パトラッシュ、どうしたんだい?四つん這いだがどこか苦しいのかい?」
「おい爺さん、パトラッシュは犬じゃねぇのか?」
アリスが訝しんで爺さんに尋ねる
そういえば6号とアリスは犬だと思っていたみたいだが、なんでそう思ったんだろうな
「パトラッシュはマウンティングゴリラだよ。とても好戦的で、強そうな人を見付けるとマウントを取ってボコボコに……」
「うおおおおおおお!?パトラアアアアッシュ!」
お爺さんが説明するや否や、パトラッシュが6号に向かけてタックルを放った
6号はすんででそれを回避し、二発目を放ってきたロゼに掴みかかる
ロゼがマウントを取って6号に思いっきり殴りかかっているのを見て、砂漠で遭難した時の事を思い出す
あの時もロゼは無理やり連れてったんだよな
食事でなんでも許されると思ってる訳じゃないが、今度何か奢ってやるか……
「パトラッシュ、お前が好きだったスポポッチの高級リブロースを山ほど用意したからね。せめてこの祭りの間、たんとお食べ」
「こらパトラッシュ、行くな!後でバナナやるから行くんじゃない!!」
爺さんの言葉を聞いたパトラッシュが、6号に尻尾を向けて爺さんの側へ駆け寄ろうとする
これだけ利用されてるんだから好きに過ごせばいいと言いたいが、それは洒落にならない
幽霊が物を食べられるはずがないだろ
(おいロゼ、バレないで無事終わったらとっておきのお菓子を取り寄せてやるから我慢しろ!)
(副隊長も食べ物で釣ろうと……!で、でもとっておきですか?どんなのですかそれって)
やっぱり美味しい物には抵抗できないのか、聞き返してくるパトラッシュ
あれはマクマード親父の家で出してもらった……
(名前はカンノーリとか言ったっけな。パリパリの生地に砂糖とクリームたっぷりの……)
(うっ……。で、でも高級リブロース………)
爺さんに飛び付こうとしていたパトラッシュの動きが鈍る
いいぞ、あと一押しで…
「パトラッシュの口に合うかわからないけど、最近私が気に入ってるモケモケ肉も上等な部位を取っといてあるんだ、それも好きなだけ食べるといいよ」
「パトラッシュ!お前グリムにバレたらどうなるか分かってるんだろうな!肝に命じておけよ!!」
高級肉に負けた俺は、そう捨て台詞を吐いて屋敷を後にした
やることが無くなって解散した後、俺が街中を監視していると、物影から道行く人を観察している物体が目に留まった
背後から近付いてみると、それはネコの形をしたぬいぐるみだった
おそらくグリムが作ったアンデッド祭り用のぬいぐるみなのだろうが、やはり動きが人間臭い
俺はそのまま忍び寄り、背後から両手を掴んで押し倒した
「ハイネ、お前はもう来ないよう……ん?」
取り押さえている俺の手を叩きながら、ぬいぐるみの頭が外れ落ちる
「お、俺だよオルガ……」
どういう訳かそこからシノが顔を出した
「シノ?お前なんでぬいぐるみ被ってんだ」
「最近街の人に迷惑かけ過ぎたからよ、お詫びにこの格好でちょっと見回りでもしようかと……」
そう言うシノの目線は俺の眼ではなく、空中を泳いでいた
「………本当にか?」
「この格好ならうっかりセクハラしてもたぶんバレないから………」
あまりに想像通りだったので、俺は脱力してしゃがみこんだ
昔から女に飢えててすぐに手を出そうとする奴だとは思っていたが、これ程とは思わなかった
そう考えると、俺はシノの事をまったく理解していなかったのかもしれない
いや、悪化したのには理由があるな
「シノ、それお前のアイデアか?」
「………そうだぜ」
俺の問いにシノは再び目線を反らした
「嘘付くな。誰だ、誰に聞いた?どうせ6号だろ!お前あいつらに毒され過ぎだぞ、鉄華団に居た時だって真面目じゃなかったがここまでじゃなかっただろ!」
「ど、毒された訳じゃねぇと思うけどなあ……」
ここ最近のキサラギの活動は、本当に酷い物だった
雇い主でもある王女の部屋に侵入するわそこでおかしな事ばかりするわ……
何かにつけて犯罪の既成事実を得ようとして不可抗力を装い、はた迷惑な行為を繰り返す
最初は悪を名乗るほどの器じゃ無いと思っていたが、最近はもうこっちのほうが悪質だと思い始めている
俺達が嫌っていた悪どい大人になりかけている気がしてならない
「鉄華団だって最終的には真っ当な商売だけでやっていく筈だったんだぞ、なのに俺は今日だって結局詐欺まがいの事を………!」
本当にこのままでいいのか?
こんな事してて、死んでいった団員に顔向けできるのか?
最近そう思う事が増えてきた
「オルガよぉ。俺はお前のその真面目さに助けられて来たから今さら文句なんて言えねぇけどよ、もうちょっと肩の力抜いてもいいんじゃねぇか?」
シノが肩をすくめながらそう言う
「俺だって気は緩んでるさ……こんな生活続けてりゃあ嫌でもな。けどそれで後悔なんてしたくねぇんだよ俺は」
「やっぱ真面目だなあオルガは。俺なんかこれだけ好き勝手やってるってのに、お前はまだ皆の事考えてるんだもんなー」
この世界は確かに居心地がいい
いつもピリピリ張り詰めていたあの頃とは大違いだ
バカばかりするキサラギの戦闘員
気ままに生活する鉄華団の団員
慕ってくれているこの星の仲間
こんな環境、恵まれ過ぎてるとも思う
だからこそ、もう一度失う事も、自分らのせいで危険にさらす事も、まっぴらごめんだ
「俺はよオルガ。確かに鉄華団がでっかくなって、皆が楽になって嬉しかったけどよ。CGS時代も今じゃそんなに嫌いじゃ無くなってるんだぜ」
シノが俺やユージンの前でたまに出す、落ち着いたトーンで話し出した
「確かに大人はおやっさん以外皆クソ野郎だったし、あいつらのせいで皆辛い思いして、勝手な都合で皆…ダンジも死んでよ」
シノがそう言って静かに拳を握りしめる
シノは鉄華団の実働部隊として、前線で数えきれない程の仲間を失ってきた
俺のように、自分を信じて従った仲間を失ってきた
「俺バカだから、火星の王がなんなのかもよく分からねぇで、オルガを信じて着いてきたけどよ。火星の王になるって決めてからのオルガは張り詰めてるっつーか、なんか辛そうだったぜ?」
そう言われた俺は、なんて返したらいいのか分からなくなった
火星の王になると言い出してからの俺は、ずっと書類とマクギリスとばかりにらめっこしていて、団員と面と向かって話す機会はどんどん少なくなっていった
だが俺がそうしている間も、団員は俺の顔を見ていたんだな
「俺思ったんだよ、俺達にたどり着くべき場所なんか必要無いんじゃないかってな」
「………!」
シノの言葉に、俺は思わずその顔を見た
俺に顔を合わせたシノは口元をほころばせると、そのまま少し笑った
「だって俺、お前らと前に進んでるだけですっげー楽しかったんだよ。オルガとユージンが居て、ヤマギが居て、皆でバカやったり一緒に戦ったりしてよ」
俺もそうだったのかもしれない
あのときは先も見えない旅ばかりだったが、皆で悩んで乗り越えていくのは確かに楽しい日々だったかもしれない
ビスケットを失ってからかな、俺が躍起になったのは
「だから……あー、結局難しい事は言えねぇけど、俺はガキ大将やってた頃のオルガの方が好き……って事か?」
恥ずかしいのか、思考がまとまらないのか、シノは頭をかきむしりながら俺に問いかけてきた
「そんなに心配しなくてもよ。俺はもう失敗しねぇし、三日月と昭弘だってきっと負けねぇって。それに6号とアリスを見てると、何でも乗り越えられそうな気がすんだろ?安心してドーンと構えててくれよ団長!」
ぬいぐるみの手に背中を叩かれ、俺はさっきのシノと同じように手に力を込めて握りしめた
いつまでも引き摺ってるのは俺だけか
ミカも前に進んでる
なら、俺が変わらなくてどうする
「俺はもう団長じゃねぇってのに……。でも、確かにな………ありがとよ」
「お?なんでオルガが感謝すんだ。まぁあれだよ、俺も皆も笑ってるオルガの方が好きって事だよ」
俺がそう言うと、シノは歯を剥き出して笑った
どんなに絶望的な状況になっても前を向き続けるシノの姿に、俺も知らない間に元気付けられてたのかもしれない
俺は最後になって逃げようとしたってのにな…
シノの明るさはやっぱり鉄華団には必要だった
居なくなってからの鉄華団は終始重苦しい雰囲気のままだった
その時にこそ、シノの力を借りたかった
そして今ならいくらでも借りられる
「でも、だからってお前みたいにはならねぇからな」
「っかー!オルガは女を知らねぇからなー!メリビットさんはおやっさんに取られちまったしよぉ!仮でも誰かと付き合ってみろっての!」
シノが大きくため息を吐きながら言う
「俺はそういうのは……。お前らが俺の家族だしよ、俺は一家の長として……」
「わかってるけどよぉ。オルガだって最初はメリビットさんにドキドキしてただろ?そういう気が少しも無いってのは家族の前に男として心配になるんだよ」
お前だってザックに連れてってもらった店じゃ赤っ恥かいたんだろうが
それに、別にメリビットさんには何も感じちゃいねぇって……
「あの昭弘だってちょっといい感じになったんだぞ!オルガも一人くらいそういう相手を持ってみろって!第一女の魅力を分からねぇ癖に俺にとやかく言う権利は無いだろ!」
「うるせぇよ!この話はもう止めだ止め!ほら、その着ぐるみも脱げ!」
俺にネコぐるみを脱がされそうになったシノはそれをまた被り直し、そのまま裏路地に消えていった