少年兵、派遣します!   作:アカザタナ

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現状、三日月のバルバトスはルプス以前の形態のみ変身可能です



新隊員と初陣

 

 

「俺はもう6号は地下牢に投獄してもらうべきだと思うんだが…」

「奇遇だな、自分もだ。だが、今戦力を削るのは避けたい事態だったからな。姫さんの寛大さに感謝だ」

 

国の命運を担っていると言っても過言ではない国宝のパスワードを、よりによって男性器の名を関した祭りにするという常軌を逸した6号の行動は、俺だけでなくその場の全員を困惑と呆れ、そして怒りに包み込んだ

 

なんせあのアリスとミカさえも理解出来ないといった表情で固まっていたのだから、相当のものだろう

 

そんなわけだから全員もれなく処刑になるかと思いきや、ティリスはそれでも俺達を評価し、この国の遊撃部隊を任せると言ってきた

実力さえあれば、多少……うん多少の素行の悪さは致し方ないという事だろうか

 

しかし、スノウだけは監督不行き届きということで、厳罰として近衛騎士団隊長の任を解かれ、6号の隊に編入される事となった

 

「貴様という奴は…!本当に!本っっ当に!!」

 

そのせいで先程からスノウはこの調子だ

流石にずっと吠えられていてはうるさいので俺も苦言を呈する

「元はと言えばお前が勝手に責任を持ったからでもあるんだぞ」

「うるさい!まさかあんな事をしでかすとは思わんだろう普通は!」

 

それについては同意しかないが、同情はしないぞ

 

 

 

 

「しかし隊員の募集は必要なのか?部隊ってのは五人一組が一般的なんだろ?」

 

俺達はまだ納得のいっていないスノウを連れて城の訓練場に向かっていた

部隊を編成するにあたって、何人か隊員を追加するようティリスに言われたのだ

 

だが、小隊として運用するなら最低三人、多くても十人いるかどうかというところだ

現在は俺達四人にスノウを合わせての五人

部隊としての一応の様相はとれている訳だが

 

そう思っての疑問だったのだが、スノウはアリスを見て言った

 

「いや、アリスはその…まだ幼いようだし。戦闘部隊に編入するのはどうかと……」

 

たしかにスノウの言うとおり、アリスは外見だけならまだ幼い

子供を戦場に連れ出す事を嫌がった事で俺の中でのスノウの好感度は上がったが、それとは逆にアリスの神経は逆撫でされたようだ

 

「はぁ?何言ってんだお前、高性能な自分を除け者にするとかふざけんなよ。そんなだから降格されるんだよマヌケ」

 

突如として豹変したアリスにスノウが目を白黒させる

アリスはどうやら、スノウに対して下手に出ても何も良いことは無いと判断したようだ

 

「ア、アリス?お前子供の癖になんて口の聞き方を……?」

「口の聞き方なんか、今まで上司の6号とオルガにタメ口利いてるお前に言われたくねーよ」

 

上司

 

そう、何故か俺は副隊長の立場に抜擢された

 

勝手な憶測だが、この中で一番戦闘力のある三日月が俺の命令に従うからだろう

それに、裏で手を回したり策をろうする役目はアリスが担う予定だから、部隊として顔を売るのは俺達の仕事という訳だ

 

それでも、あんな事をしでかした後で6号を隊長に据えるのは最良の判断とは思えないが

 

「し、しかしアリスを含めてもこの隊には後衛が一人しか居ない…五人の内訳としては普通、前衛三人に後衛は二人というのがこの国の小隊割りで……」

 

スノウがアリスにびくびくしながらそう言った

 

「なら俺かオルガが後衛やればいいんじゃねぇの?」

 

と、6号がそんなもっともらしい事を言うが、アリスはハァとため息を吐き

 

「お前ら下っ端戦闘員は耐久力だけが取り柄なんだから前衛に決まってんだろ。この際人数も関係ねぇ、使えそうな奴をスカウトしに行くぞ」

 

人の命をボロ雑巾みたいに扱うのは止めろよ

 

 

 

スノウの案内で訓練所の隅にやって来た俺達は、そこで訓練に励んでいる集団の前で足を止めた

 

「では選出は私が決めよう、お前達はリストに目だけ通しておいてくれ」

 

そう言ってスノウから渡されたのは、おそらくこの場に集められている兵士達の履歴書

 

「………味方ごと吹き飛ばす魔法使いに、部隊の男を片っ端から襲う武闘家、放浪癖のあるじいさん……まともな奴は居ないのか」

 

他の奴も似たり寄ったりといった感じで、兵士というより問題児といった方が正しい面々が揃っていた

 

「いやよく見ろ、武神アレキサンドライト・グレイブニールだって!このじいさんにしようぜ」

「そうかぁ?……しかし、この3人だけやけに討伐数が多いな」

 

しばらくして、アリスとスノウが、年齢は15かそこらだろうか、一人の少女を連れてきた

 

銀を主体に黒と赤を含んだ髪に、右半身にだけ角と羽のようなものを生やし、目は黄色と青のオッドアイ。極めつけはお尻の辺りから生えている、爬虫類を思わせる尻尾

まるで人の手が入ったマシーンのようなアンバランスな外見は、一目でただの人間でない事を伝えていた

 

その少女は俺達から距離を取ったまま片手で眼を隠すと…

「私はロゼ。そう、戦闘用人造キメラのロゼ……あなた達は私を使いこなせる……?」

 

…………

 

「俺の名は戦闘員6号。改造手術によって名前と過去を捨てた戦闘機械……」

「俺はオルガ=イツカだ…なぁ、俺もその返しを練習すべきか?キサラギとこの世界じゃあ可笑しな名乗りは必須なのか?」

 

俺達がそう言いあっている前で、少女は両手で顔を隠した

「うぅ……あたしだって本当はこんなバカなことしたくないのに……」

 

 

 

そんなロゼの履歴書だが、特筆すべきはキメラと呼べるその体の性質だろう

 

「食べたものの能力を取り込んで強くなる……か」

 

まず思ったのは、なんだかバルバトスみたいな能力だなという事だ

ミカの愛機ガンダムバルバトスも、敵から装備と装甲を取り込み、その場その場で違う姿を見せながら戦ったものだ

テイワズで預かるようになってからはその特徴は半ば失われたが、ロゼの右半身だけに表れて見える人成らざる姿と、人に産み出された戦闘用という過去が、どことなく三日月を思わせる

 

「あの…何か変わった食べ物持ってませんか?なんだか凄く良い匂いが……」

 

そう言ってロゼがすり寄る三日月の手にあるのは、火星ヤシ…もとい地球ヤシだ

 

火星ヤシは昔からミカの好物で、小腹が空いた時だけでなく、食事に食べる事もあったくらいだ

 

そんな火星ヤシも、当然ながらこっちの世界には無く、代わりに地球産の似たようなヤシが送られてきたという訳だ

ミカいわく、火星ヤシの方が美味しいらしいが、俺は違いの分かる男じゃないしそもそも火星ヤシ自体そこまで好きじゃない

 

ちなみにこれの取り寄せに悪行ポイントを使った結果、ミカのポイントはすっからかんになった

バルバトスへの変身にもポイントを使う以上、緊急事態を考えると可能な限りポイントは節約しなければならないのだが、そうも言ってられない

そして当然そんな貴重な物を会ったばかりのロゼに易々と渡す訳もなく……

 

「……これはあげないよ」

「ひ、一つくらい……」

「ダメだ」

 

ミカの強固な意思を感じ取ったのか、諦めて6号の方に向かうロゼ

「うぅ……隊長さんは何か持ってますか?」

「コレならあるぞ。みんな大好きバランス栄養食、カロリーゼットだ。欲しかったら、俺の言うことはなんでも聞くんだぞ」

「何でもですか!?……でも抗いがたい良い匂いが……」

 

お腹を空かせた子供を、食料を引き合いに言うことを聞かせようとする今の6号は紛れもなく犯罪者だ

結局6号からしぶしぶカロリーゼットを受け取ったロゼに、ミカが手を差し出す

驚くことにその手には、地球ヤシが握られていた

 

「……?くれるんですか!?」

「一つだけだよ」

その一つも、普通と比べるとかなり小さい物だったが、それでもミカが出会ったばかりの人間にこうして接するのは初めてだ

ミカもロゼに何か感じる所があったのか、それともこっちの世界に来て何か変わったのか

正直、どちらかと言えば寡黙なミカが鉄華団以外で馴染めるか不安だったが、この分ならそこまで心配する必要は無いかもしれない

嬉しそうにヤシを頬張るロゼを見て、俺はそんな事を…

 

「苦くて美味しく無いです……」

「あれ、外れ?」

 

幸先悪ぃなおい……

 

「腹ペコ痛い子キメラか…コイツの扱い方は理解したよ。……次はコイツだな」

 

そう言ってアリスが次に連れてきたのは、茶髪に不思議な形の髪止めをし、ローブのような物で身を包んだ女性

異様なほど白い肌で車椅子に乗っている姿は病人そのものだが、それよりも何で裸足なのかが気になる

 

「初めまして、私はグリムよ。ねぇ隊長と副隊長は妻帯者?彼女なんかは……」

早速変な事を聞いてきたグリムに、ミカが答えた

 

「オレは居るよ」

 

その発言に、その場にいた俺とアリス以外全員の時が止まった

 

「……は?お前結婚してんの?」

「うん」

「子供も出来たんだっけな……そう言えばクーデリアとはどうなんだ?」

「クーデリアとは何もしてないよ」

思えば、ミカには帰りを待つ家族が居るのだ

その間を引き裂いてしまった事に申し訳なさを覚える

 

「そっか……おい6号?」

 

男としてミカに負けたのが相当ショックだったのか、地面に手を突きながら愕然とする6号

まぁ、俺も最初聞いた時は度肝を抜かれたが

 

「……と、とにかく。その反応じゃ隊長と副隊長は独身なのね?ちなみに私も独身よ。こんなに良い女なのに」

「部隊での色恋沙汰は御法度だぞお前たち!戦闘に関することを聞け!」

 

スノウに言われてしまったので履歴書に目を通すと、気になる文字を見つけた

 

「魔法使い…?なぁアリス、魔法なんて本当にあるのか?」

「キサラギで改造手術を受ければ発火能力くらいなら身に付けられるぞ。だから、魔法なんてもんは存在しない」

 

なら俺も、何か特殊能力の一つでも着けてもらうべきか

しかし既に阿頼耶識がくっついているし、何かトラブルでも起こさないか心配だな……

 

「このちびっ子は魔法が嫌いなの?私は不死と災いを司る偉大なゼナリス様に遣える信徒。少しくらいならその力を味会わせてあげても……」

「邪教崇拝者じゃねーか。しかも不死はともかく災いだって?やっぱりこの話は無かった事に……」

「ゼナリス様に罰当たりな事言わないで!……ふふ、ねぇ坊や。お姉さんのスカートの中が気にならない?」

 

そう言いながらグリムは自分の生足を手でなぞり、スカートに手を掛ける

 

「……っ!」

 

思わず俺はそれをガン見してしまい、それに気づいたグリムはさらに声を大きくした

「ふふふ!そうよね気になるわよね?さぁゼナリス様を愚弄したことを悔い改めなさい?そうすれば……」

 

この先はどうなるんだろうかと食い付いていた俺をお構い無しに、6号がグリムのスカートをスパーンとめくり挙げていい放つ

 

「黒かよ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「6号お前…年甲斐にもドギマギさせられた俺がバカみたいじゃねぇか」

「なにお前黒パンが好きなの?」

そうじゃねぇ

 

グリムもグリムで、自分から見せようとした癖にスカートを抑えて泣き出した

 

「本当に見せるつもりは無かったのに!ねぇ!ちゃんと責任取ってよね!養って!専業主婦として養って!」

 

わんわんと泣きながらそう言うグリムを見ていると、俺は奇妙な感覚に包まれる

 

何だこの気持ち

 

クーデリアやアトラ、フミタンにメリビット、そしてタービンズの面々

これでも鉄華団の団長として、今までいろんな女に会ってきたが、その誰とも違う

なんというか、生け贄を求める亡者のような…

 

俺が得体の知れない恐怖に駆られている横で、6号も同じ物を感じ取ったのか、この爆弾を俺に押し付けてきた

 

「良かったじゃねぇかオルガ。これでお前の将来も安泰だな」

「いや、俺は遠慮させてもらっていいか。なんかこの女とは関わっちゃいけない気がするんだ」

「私を地雷女扱いしないで!それと責任は隊長と副隊長両方に取ってもらうからね!」

「「えっ」」

 

 

 

 

あの後、学歴をバカにされた6号がスノウの胸を鷲掴みにするという暴挙(約30分ぶり二回目)に出たが、無事ティリスから俺達四人用の個室があてがわれた

 

騎士団所属のスノウはもちろんとして、グリムやロゼにも一応住居があるそうで、今日のところは解散となったので俺達もその部屋に集まったのだが……

 

「秘匿性の高い任務だから同室の方が都合は良いんだが、さすがに四人だと手狭だな」

 

部屋には少し大きなシングルベッドが二つに机が一つ椅子が二つ

仮の拠点とはいえ、大の男が三人もいて快適なスペースではない

「つっても、俺達は床で寝るのも慣れてるし。これでも良いよな?」

「うん」

 

足を伸ばしてくつろぐことはできないが、どういう訳か電気も通っていないのに、蛇口を捻れば水が出るし、テレビや照明も備えてある

キメラのロゼといい、魔法使いのグリムといい、もしかしてこの星の方がいろいろとヤバい技術が眠ってるんじゃないか?

 

どんどん当初の楽な任務からかけ離れていってる気がするが、6号はそれでも大丈夫なのだろうか

一応幹部連中とも親しいようだし、あまり無茶はしない方が……

 

「じゃあこのベッドは俺専用ってことだな。ひゃっほーう!」

 

「前言撤回だミカ、6号を引摺り下ろして俺達がベッドを使うぞ」

「おぉい!三日月をけしかけるのは反則だろ!」

 

しばしの抵抗を見せた6号だったが、ミカに腕と首を固められ、ベッドから転げ落ちた

 

「しかしお前はやけに荷物を抱え込んでるな…何をそんなに持ってきたんだ?」

 

見ると6号のバッグはパンパンになっていて、よくわからない紐や紙も漏れ出している

俺とミカの持ち物はキサラギの戦闘服とナイフ、そしてミカは乾燥地球ヤシとバルバトスのメイスだけだ

 

「これは当たりの記念にとっといたパチンコ玉だよ…あとはナイフの手入れ道具と、八裂きミート君と…」

「なんなんだよそいつは……」

 

 

「さて、手柄を欲しがるスノウの事だ、明日にでも戦場に駆り出されるだろう。だが忘れるなよ、自分らはこの国のサポートはするが、旗色が悪くなれば即とんずらだだ」

 

持ってきた荷物をひとしきり整理し終えたアリスが、手を叩いてから言った

任務の重要性なだけに、アリスの言っている事は正しいのだが、そう言われてもなあ

 

「俺としちゃあ、ロゼは子供なのに結構酷使されてるみたいだったから、見捨てるのは嫌だな。それにスノウもあれでスラムの生まれだって話だし……」

「ロゼとグリムは激戦区で捨てゴマ同然の扱いを受けてたらしいからな。ティリスから騎士に取り立てられた自分らを厄介者の中にに放り込んだ事といい、この国にもなかなか良い性格をしてる奴がいるらしい」

 

俺がこの国に訝しさを感じていると、6号が寝転がりながら笑った

 

「なんにせよ、この国の連中は銃も戦車も知らない太古レベルの連中だ。ここはキサラギの力で大きい手柄の一つでも挙げて、褒美にアジトでも貰おうぜ」

 

 

 

 

その翌日

俺達はさっそく魔王軍との戦闘に駆り出されたのだが

 

「下級魔族で構成された補給部隊など襲って手柄になるか!それより敵の本陣に突っ込み、指揮官クラスの首を取るのだ!」

 

先程から同じことばかり言い立てるスノウに、再三俺とアリスが説得を重ねているのだが、スノウは一向に首を縦に振らない

 

「あのなスノウ。敵の補給を狙う事の重要性はアリスが説明してくれただろ?」

 

俺達の考案した作戦は、敵の補給部隊を襲うというものだった

 

軍において補給物資の役割は武器の輸送だけではない

今回俺たちが狙うのは食糧や日用品、医療器具だ

たとえ勝ってもそれらが不足しては部隊はその場所に留まれない

 

加えて今までこの国ではそういった戦法はとられていないらしく、もし上手くいったのが今回だけでも、敵は次回以降補給部隊に兵を割かざるをえなくなり、実働部隊の数も減らせる

そういう旨をスノウに説明したのだが

 

「し、しかしそんな姑息な作戦をあの将軍や参謀が認めるものか。手柄がなく降格されれば愛剣のローンも払えんのだ…このままでは灼熱剣フレイムザッパーのローンが払えず取り上げられてしまう……」

 

ローンで買ったその剣がよほど大事なのか、腰に挿した剣を両手で掴み目尻に涙を浮かべるスノウ

 

「そういう事なら6号に任せておけ。手柄を誇張し、最大限に報告するのは大の得意だ」

「……姑息なコイツらしいな」

「お前ら、ひっぱたいて良いか?」

 

戦闘直前とは思えない空気感のまま、俺達は出立した

 

 

 

 

 

「来たな…予想通り、武器も持たずに油断しきってるぞ」

 

アリスの呼び掛けで草影から様子を見ると、そこには鼻が大きくて平たくて…なんというか豚のような頭をした人形の生き物が服を着て荷車を引いていた

 

「ヒャッハァー!!ここは通さねぇぜぇぇ!!」

「な!?て、敵襲!敵襲ー!」

 

いかにもチンピラなセリフを吐きながら6号がその目の前に躍り出た

当然襲撃など想定していなかったその敵は、右往左往しながらちりぢりになり始める

もはや部隊としての様相は完全に失われたが、悪の組織は勝ってる時は調子に乗ってドンドン行くらしい

 

「逆らう奴は皆殺しだぁ!命が惜しけりゃ荷物を置いて失せやがれ!」

「失せやがれ!」

 

6号が先頭の荷車をひっくり返し、アリスがショットガンを空に向けて撃つ

戦闘力のない兵站部隊ならこれだけでも十分だが、こっちも出来るだけ戦果が必要なんでな

 

「こっちも負けてらんねぇぞミカ!」

「うん」

「た、隊長…なんだか物凄い悪事に加担しているような気分に……あっ!ミカさん!それはあたしのご飯になるんですから叩き潰さないでください!」

 

 

 

「お前ら喧嘩してる場合かよ!仮にも隊長とお目付け役なんだから敵と戦え敵と!」

 

順調に制圧が進む裏で、6号によって降格させられた事と胸を揉まれた事を根に持っていたスノウが、6号を背後から襲ったらしい

二人はじりじりと間合いを計り合っており、今にも殴り合いを始めそうだ

 

「いやオルガ、こいつはいつか絶対やらかす。どっちが上か今ここでわからせてやる」

「や、やる気か!?良いだろう、我が愛剣の錆にしてやる!」

 

「一番まともに戦ってるのがミカと新入りのロゼってどういう事だよ!」

 

もしかしたらロゼがこの隊で一番まともな奴かもしれない

そのロゼはというと

 

「我が業火の海に沈むがいい…永遠に眠れ、クリムゾン・ブレス!」

 

またしても謎のポーズと口上と共に口から火炎を吹き出し、慌てて武器を持ち出した魔族を文字通り炎で包み込んだ

 

あの口上を聞いていると地球に降りた時に追ってきたやつらを思い出す

あいつらのは『面壁九年、堅牢堅固』だったか?

 

 

「……じゅるっ」

 

丸焼きになった魔族を見て、ロゼの口からよだれが垂れた

 

そう言えばコイツ、魔獣の肉を食べ漁ってるとか言ってたが…

コイツら、一応は知的生命体だよな

 

「おい、魔獣って狼とか熊じゃねぇのか」

 

「……?オークも似たようなものですよ?」

 

キョトンとしながら食人宣言するロゼに、俺はたまらず目をそらした

 

やっぱりこの隊にまともな奴は一人も居ない

 

俺がそう再確認している間に、ショットガンで無慈悲にオークを蜂の巣にしたアリスがキョロキョロと見回しながら言う

「そう言えばグリムはどうした?」

 

たしかにこの戦いが始まってから一度も姿を見ていない

あれだけ言っていたのだから魔法の一つも見せてもらいたいものだが、一体どこに……

 

「「「おい」」」

 

木陰で寝ているグリムを見て、思わずスノウと6号と声が揃ってしまった

 

協調性が無いにも限度があるだろ

 

呆れのあまりため息を吐いた時、ミカがメイスを持ち直した

「オルガ、新手だよ」

「新手?いったいどこから……」

 

 

「上!?」

「「グリフォン……!?」」

俺達の上空に、鳥と獅子の合わさったような怪物が現れた

 

 

 

「補給部隊が遅いと思って来てみれば、まさかこんな事になってるとはね……」

 

グリフォンと呼ばれた怪物に乗って現れたのは、白髪褐色で、これまた扇情的な衣装を身に付けた女

人間にしては長い耳と、頭から生えた二本の角

魔族とみて間違いなさそうだ

「まったく、部下に丸投げするんじゃなかったよ。この惨状はお前達がやってくれたのか?変な鎧のお兄さんよ」

 

 

「……なぁあんた、さっきから何してんの?それ」

 

「おい6号、どうせ撮るならグリフォン撮れ。あいつの存在は航空力学に真っ向から喧嘩売ってやがるからな」

「バッカお前!こんなエッチな褐色巨乳お姉さんだぞ!撮らないなんてむしろ失礼だ!へっへっへ、こいつは使えるぜ」

「本当に欲望に忠実な奴だな、何に使うかは聞かねぇけどよ……」

 

その肝心の6号はカメラを手に一心不乱にシャッターを切っていた

レンズに写っているのが胸と尻じゃなければ現地調査ご苦労と言ってもいいんだがなぁ

 

「で、あんたは誰だ?見たところ…まさか幹部か?」

「へぇ、ひと目見ただけで分かるとはね。あたしの実力を見抜いた事に免じて、お前の無知は許してやるよ」

 

まさかと思ったが当たりだったようだ。キサラギの奴らといい、悪を名乗る連中はどうして常軌を逸した格好を好むのか

 

機嫌を良くしたのか、その魔族は例のごとくポーズを決めて名乗りを始めた

「あたしは魔王軍四天王が一人、炎のハイネ!なんだかあんた達は面白そうだ。荷物を置いていくなら見逃し、て………!?」

ハイネを守るかのように上空を旋回していたグリフォンに、ミカがメイスを投げつける

 

戦闘服で増幅されたミカの筋肉による全力の投擲は、グリフォンの胴体に直撃し、毛と血を撒き散らした

 

「おいおいマジか三日月」

 

さすがにたまらなかったようで、バタバタと空中で暴れながらハイネの後ろに隠れるように降り立った

そんなグリフォンの頭を心配そうに撫でながらハイネがこちらを睨んで言う

 

「グリフォンを投擲だけで落とすなんて……いや、あんただけじゃない、そこの前髪の男も6号も。それにそのゴーレム臭い小娘といい、本当にお前たちは何者だ?」

 

姿勢を低くしたハイネの指先から、小さな火球が現れる

流石にヤバそうだと感じたのか、6号は写真を撮る手を止め、アリスはショットガンをハイネに向けて構える

 

その時だった

 

頭上を掠める大きな影

影の進んだ先を振り返ると、そこには三メートル以上ある巨体に角と羽を生やした魔族が立っていた

 

「怪人級……」

全身の鎧とその隙間から見え隠れする筋肉

そして巨大な鋼鉄製の棍棒を片手で担いだその姿は、まさしく悪魔と呼ぶにふさわしかった

 

その姿を見た6号とアリスは即座に顔を見合わせると

 

『スノウを囮に即刻逃げるぞ!』

『がってんだ!』

『おまっ!そういうのは最後の手段だろ!』

 

「おい貴様ら!今何かよからぬやり取りをしただろう!」

スノウが身の危険を察して二人に叫ぶ後ろで、その魔族の握っていた棍棒が無造作に振るわれる

 

「おはようございまし……た?」

 

瞬間、辺りに響く小気味良い音

 

骨が砕け、血が飛び散った音

 

それが聞こえなくなった時、グリムの体は車椅子から投げ出され、木の陰で動かなくなっていた

「お、おいグリム?」

「くそっ。おい6号!アレの相手は私がするからグリムを回収してこい!」

 

回収……?

 

いや、あれはだってそんなまさかいやきっと

 

……落ち着け、冷静になれオルガイツカ

 

「おいハイネ、人間イビリなら俺も混ぜろよ!」

「……チッ、もういい興が冷めた。後は好きにしな」

 

ハイネを乗せたグリフォンが飛び去っていく

頭が混乱しているが、スノウの口振りだと、グリムは何とか無事なのだろう

 

「……ミカ、あいつの相手は出来るか?」

「さっきのでメイスがどっかいっちゃったけど、たぶん何とかなるよ」

 

「おい人間!殺す前に名乗ってやるから覚えとけ!俺は魔王軍四天王が一人、地のガダルカンド様だ!覚えたか?覚えたな?じゃあお前らも死ね!」

 

四天王を名乗るだけあって、ガダルカンドの攻撃は苛烈だった

巨大な棍棒をいとも軽々と操り、背中に生えたこれまた巨大な羽で突風を巻き起こしてこちらの体勢を崩そうとしてくる

 

ミカもその動きについていき攻撃をすんでで回避して反撃を食らわせているが、全身を鎧に包んだ相手ではたいしたダメージは期待出来ないし、ロゼのクリムゾン・ブレスも効果が薄い

ミカがバルバトスになれれば勝機は見えるかもしれないが、悪行ポイントが無ければそれも出来ない

 

「おい6号!グリムの回収はどうだ!?」

ガダルカンドの隙をうかがいながら6号を急かす

「………6号?」

 

6号はぐったりとしたグリムの背中に手をかけて呆然としている

何やってんだ、治療ならともかく回収するくらい…

 

「ソイツはもうダメだ、既に死んでいる」

 

「………っ!」

 

アリスからの無慈悲な通告が頭の中に響く

 

あの棍棒で頭を打たれて生きているとは思えなかったがが、スノウの反応で少しは生きていると思えた

だが、そんなのはただ楽観していただけだと知る

 

 

死んだ

 

死なせた

 

俺が殺した

 

 

 

「ミカ!俺のポイントで武器を送る!あいつを潰せ!」

「アリス!R-バッソーを転送してくれ!あいつはズタズタに引き裂いてやる!」

 

6号もまったく同じ考えのようだ

激昂した6号の顔が、自分の殺意を肯定してくれているように感じ、ここ最近感じていなかった思いが心の底から沸き上がってくる

 

 

コイツは今、ここで殺す!

 

 

そんな俺達を見て、ガダルカンドは可笑しそうに笑っている

「なに熱くなってんだよ人間!どうせお前らは簡単に死ぬってのによ!」

 

そこへ、ガダルカンドよりも一回り小さい魔族が慌てた様子で駆けつけてきた

「何をしておられるのですかガダルカンド様!」

 

武器の到着も待たず、今にも飛びかかろうとする俺と6号をよそに、ガダルカンドはその部下のと会話を始めた

 

「何だお前か。今日の戦はクソ生意気なラッセルの野郎が指揮してるからよ…」

「主戦場では既に戦闘が始まっております!あてがわれた戦場な遅れればそれはあなた様と我ら一族の責任となります!それに今回の戦ではハイネ様の部隊が著しい活躍を見せており、このままでは四天王内での影響力に差が生まれてしまいます!一刻も早く戦場にお越しください!」

 

それを聞いたガダルカンドは小さく舌打ちをすると、羽を翻して大きく飛び上がった

 

「命拾いしたな人間!今日はその女でも抱いて泣きながら寝るといいぜ!!」

 

 

 

目的は無事に達成した

補給に打撃を受けた魔王軍は、そう長くは留まれないだろう

しかし、そんなことは何の慰めにもならない

 

「あの野郎戦場に向かうって言ってたな…」

「今から向かっても間に合わんだろう、相手は空を飛べるんだ。今から戦場へ向かうには遠すぎる。それにあいつの口振りから察すると四天王クラスが三人も揃ってる事になるし、この状況じゃ退くしか無いな」

 

6号がもう動かなくなったグリムを抱き上げしばらく虚空を眺めた

きっとあいつも何か思うところがあるんだろう

何だかんだと言って、あいつはまだ良心のある子悪党だ

仲間の死を悲しむくらいはして当然だろう

 

「……グリムを弔ってやろうぜ。スノウ、この国じゃ遺体は土葬か?それとも燃やすのか?」

 

葬式じゃあ、花を弔いに捧げるんだったな

あいつの好きな花くらい聞いてやるんだった

 

仲間になったからには日の浅い深いに関わらず家族同然であり、身を裂くような悲しみがオルガの中を駆け巡る

仇も討てず、ただただ無駄死にさせたこともさらに拍車をかける

一瞬、自分の背後から散っていった鉄華団の仲間に睨まれているような気がした

 

 

俺は何も変わってないじゃないか

 

 

拳を握り、唇を噛んでうつむく俺と6号を、スノウが訝しげな顔で見つめる

「グリムはこのぐらいでは死にはしないぞ。履歴書をちゃんと読まなかったのか?」

 

……は?

 

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