「いいか貴様ら!今回我らが請け負った任務はとてつもなく名誉なものだ!心してかかれ!」
いつになく頬を紅潮させたスノウが、俺達に向けて声高々に言う
「6号、何で俺らの部隊が軍の中央に配置されてるのかと、何でスノウのテンションが高いのか教えてくれ」
俺達の部隊は何故か、王国騎士団が配置されている中央陣地のど真ん中に陣取っていた
今までの脇役みたいな任務と比べると大出世といったところだが、そんな上手い話がある訳がない
「あの参謀のおっさんに言われた任務なんだからな。それでやたら張り切ってるんだろ」
そう答える6号の顔も、うんざりといった感じだ
「あいつか。なら、この捨て駒同然の任務も納得だな」
「俺、あの参謀のおっさん嫌いなんだよ。あいつからは自分の保身しか考えない姑息な卑怯者の臭いがする」
それは悪の組織が苦言を呈する事なのかと言いたい
6号の台詞を聞いた他の隊員達は何言ってんだと首を傾げると
「お、お前…自分を客観的に見たことはあるか?」
「おい6号、鏡っていう道具を知ってるか?」
「隊長、ブーメランも知ってますか?」
「お前ら、この任務が終わったら覚えてろよ」
そう言って口々に6号を攻め立てるが、6号はいざとなってもお前らを見捨てる事は無いと思う
悪の組織だ何だ、セクハラだ何だと言ってはいるが、良心は捨ててきていないんだからな
「6号はあのおっさんとは違ぇよ」
「オルガ…!俺の味方はお前だけだ……」
「まぁ、うちの隊が目の敵にされるのは俺があのおっさんをボロクソに罵ったせいでもあると思うがな」
「そう言えばそうじゃん!何してくれてんのお前!」
お前だって嬉々としてあのおっさんをバカにしようとしてただろうに
俺が6号に肩を揺さぶられている間に、スノウとロゼが後で何かしている音が聞こえる
「……お前ら何やってんだ?」
「な、なんでもない!」
「ですっ!」
そう言って姿勢を正す二人と、その後でぐったりと寝るグリムを見て、少し不安を覚えた
しばらくすると、魔王軍の部隊が現れ始めた
それを先頭で仕切っているのは、以前俺達の前に姿を見せた四天王の一人炎のハイネ
当然、ハイネを乗せるグリフォンもいるのだが、その脇にまた別の何かを従えていた
「なぁ、ハイネとグリフォンだけじゃなくてなんかいるんだけど、何だアレ」
「あれはゴーレムと呼ばれる岩石で作られた魔法人形だな」
それは巨岩で作られたであろう岩石の人形
その巨体はまるで小さなモビルスーツだ
動きはそこまで速く見えないが、普通の人間には手強い相手だろう
そうこうしているうちに魔王軍が動き出し、騎士団もそれに対応して部隊を動かし始めた
しかし、堂々と中央を進むハイネ達にはどこの部隊も向かう様子がない
「…なぁ、他の部隊がどんどんどっか行ってくんだけど。これってあいつらの相手は俺らがするって事だよな」
「だろうな」
「ちくしょう!結局ここでも俺は危険任務担当かよ!」
「落ち着け6号、あんな石人形ミカの敵じゃねぇよ。それに、こっちにはグリムもいんだ、あんな的足止めして遠くからぶっ壊せば……」
「グリムを起こすのは任せるぞオルガ!私はこの氷雪剣アイスベルグであの女に雪辱を果たさねば!」
そう言ってハイネの方へ走っていくスノウ
雪辱って言ってもあいつは何もされて無いんじゃないか?
あれか、グリムの仇とかそんなところか
と、そんな間にロゼもどこかへ駆け出していく
「あ、あたしもグリフォンの味が気になるので行ってきますね!」
「お、おいロゼ。グリムの御守りはお前の仕事だろ!」
「グリムを起こすのは自分に任せろ」
今日はショットガンを置いてきたアリスがグリムの元へ向かう
高性能アンドロイドだし、衛生兵としてこの部隊にいるのだから、任せても良いだろう
「おう、じゃあやっちまえミカ!」
俺の言葉を聞いたミカが、バルバトスへ変身し、ゴーレムへ向かって飛び出した
思った通りというか、ゴーレムは硬さは相当なものだが動きは鈍重といった様子で、すばしっこく動き回るミカに対応しきれていなかった
しかし今日のミカはメイスではなくロングソードを持ってきているので、相性はあまり良くなく、決定的な一撃を食らわせるのは苦労しそうだ
「三日月にだけ任せてられるか!おらぁぁぁ!食らいやがれ!」
そう叫んで駆け出した6号が、ミカを掴みあぐねているゴーレムの背中に渾身の一撃を与える
その拳が当たった場所にはピキピキとヒビが入る
「やるじゃねぇか6ご…」
「いだぁぁぁぁ!!折れてるー!これ絶対折れてるよ!!」
そう言って地面を転げ回る6号
「何やってんだ6号!」
「本当にヤバい時はそんな事叫ぶ余裕なんて無いもんだ。だからお前は大丈夫だ」
アンドロイドなのだから当たり前だが、本当に血も涙も無いヤツだ
「ち、ちくしょう!キサラギの戦闘員が舐められてたまるか!『制限解除』!」
そう言った6号の戦闘服が、いつもより光を増していく
「このバカ!相手は他にもいるんだぞ」
「制限解除?なんだそりゃ!」
「お前らの戦闘服にある機能だよ。一時的なパワーアップだが、引き換えにクールタイム中は無防備になる」
「おらぁぁぁ!!やっちまえ三日月!!」
6号が、地面に拳を落としていたゴーレムの手を掴んで動きを止める
それを背後から、ミカがロングソードをゴーレムの頭部と思われる場所に突き立てて砕いた
何か重要な部位だったのか、ゴーレムは動かなくなり、音を立てて倒れた
その手前、6号の体からは湯気が立ち煙り、肩をだらんと落として立ち尽くしていた
「無茶しやがって…。しばらく動けねぇんだろ?」
「おう、けどまぁハイネとグリフォンはスノウとロゼが相手してるし、オルガと三日月がいりゃあ…」
「そのハイネがこっちに向かってきてるぞ。あとロゼもグリフォンに振りほどかれて落っこちてきてるな」
「ぐ、グリムは……?」
「確認したが、何故か気絶してたぞ」
さっきスノウとロゼが慌ててたのはそれか
あいつ本当にまともに戦闘に参加出来ないな
「6号、貸し一つな」
「くそったれー!」
これに懲りたら変な無理はすんなよ
「よぉ6号!」
スノウを下したハイネが、6号の前に仁王立ちして6号に向かって話しかける
「ひ、久しぶりだな炎のハイネ…」
「やっぱりお前らは面白いよ!ダスターの塔もお前らがやったんだろ?最高だよ!さぁ、殺ろうぜ!」
そう言って両手に火玉を作り出して構えるハイネ
「ま、待った!その前にお前に一つ聞きたい事がある」
それは不味いと制止する6号に、ハイネは動きを止める
「……なんだい?言ってみな」
そうだ、いいぞ6号。そのまま時間稼ぎを
「なに食ったらそんな胸になるんですか?」
それを聞いたハイネが何も言わずに6号へ火玉を飛ばすが、ミカが盾になり防いだ
モビルスーツのナノラミネートアーマーは熱に非常に強く、その性質はそれをコピーしたキサラギ製でも健在のようだ
「次は守ってあげないからね」
「いや!つい気になって!」
あのバカ…
お互いもう相手にされなくなったのか、スノウとロゼが帰ってきた
スノウは刀身が溶けて柄だけになった剣を涙目になりながら振り回し、ロゼは口からペっペと毛と羽を吐き出しながら6号の元へ駆け寄る
「うわぁぁぁ!アイスベルグがぁぁぁ!」
「隊長!グリフォンは不味いです!とても食べられません!」
片や氷を炎の使い手に突き立て、片や空を飛ぶ相手を生のまま丸かじりにしていた二人
「お前らは変な武器を持ってただろ!あれでアイスベルグの仇をとってくれ!」
「隊長!何か燃やせる物もってませんか?弱火でじっくり焼けば食べられるかもなので!」
「お、おいバカ。揺らすな…!」
二人に揺らされるだけの6号を見て不審に思ったのか、ハイネが聞く
「どうしたんだ6号…?なぜずっと固まっている?もしかして動けないのか?」
しめたという顔をしたハイネは飛び上がると
「その娘とゴーレムモドキは炎に強いみたいだが、お前らが防ぎきれない特大のヤツをおみまいしてやるよ!」
そう言って両手を掲げ、頭上に大きな火炎の渦を作り出す
「あれはヤバいよオルガ、ここら一体をまとめて焼くつもりだ」
「た、隊長!あたしこんなところで服が燃えると困ります!こんなところで全裸ショーをやらされたらお嫁に行けなくなっちゃいます!」
「その時は俺が貰ってやるから安心しろ!おいスノウ!お前この役立たず!ここはお前が自分の命と引き換えに俺たちの助命をだな……!」
「そ、そんな事するか!というかなぜ貴様は動けんのだ!」
「アリス!何か火を防げる装備はキサラギに無ぇのかよ!」
「あるにはあるが、自分の体内時計によれば向こうは昼休憩中だ。今から申請しても間に合わないな」
「悪の組織が昼休憩なんかとってるんじゃねぇ!」
どうする?6号を見捨てて逃げるか?
いや、そんな事出来るか!
何とかその前にあいつを……!
「偉大なるゼナリス様!あの女に災いを!金縛りに会うがいい!」
「ッ!?……これは呪いか!?」
突然、ハイネの体がピクリとも動かなくなる
振り返るといつの間にか目を覚ましたグリムが、いくつもの人形を握り、ハイネに向かって手を伸ばしていた
「な、ナイスだグリム!初めてお前が役に立ったな!」
「ねぇ、それを言うのは止めてくれないかしら」
そんなやり取りをしているうちに、6号が戦闘服の小さな起動音と共に動き出した
動けないハイネの前に立ち、勝ち誇った顔でスノウが言う
「ふふふ、さぁ炎のハイネ!諦めておとなしく投降しろ!そして我が手柄になるがいい!」
しかしハイネは小さく笑って言った
「……なに終わった気になってるんだい?あたしにはまだ隠し玉がいるんだよ」
そう言ったハイネの背後に、黒い何かが勢いよく着地し、土埃が上がる
「ッ……!?」
「ミカ!?」
何を察知したミカがそこへロングソードを振り下ろすが、それは二本のバトルアックスによって防がれた
ミカの攻撃を正面から受け止めた相手
一体何者かと目を凝らし、見えたその姿は
『これこそまさしく運命だ!クランク二尉!ボードウィン特務三佐!私は今度こそ!彼らを悔い改めさせて見せます!!』
地球で三日月と戦って倒された筈の、ギャラルホルンのモビルスーツだった
黒いモビルスーツとミカが斬り合う
お互いの金属の体に武器を振るい、互いにそれを回避しながら次の攻撃に移る
流れるような打ち合いはまさしくあの時の再現だ
「あいつは、エドモントンの時の……!?」
何であいつがここに……!?
「どういう事だオルガ!あんな魔物は見たことが無いぞ!なんだか変身した時の三日月に似ているような気がするが……」
スノウがそう聞いてくるが、今は俺にもわからない事が多すぎる
「お前らは一旦下がれ!あいつはミカと互角の相手だ!油断してると殺されるぞ!」
「偉大なるゼナリス様!あの黒いゴーレムに……」
「我が業火の渦に焼かれ……」
『邪魔をするなァァァァ!!』
「ひゃっ!?」
「わっ!?」
ミカを援護しようとしたグリムとロゼに向け、黒いモビルスーツは持っていた斧を投擲した
ロゼはすんででそれを回避し、グリムは6号に抱えられて逃げてきた
後に残された車椅子がバラバラに吹き飛ぶ
「おいオルガ!なんだかあいつは殺意がヤバい!こっちの事本気で殺そうとしてくるぞ!」
「そりゃそうだろうよ。とにかく、ミカが相手をしてる内に他の奴らを片付けるんだ。その後で、全員でかかるぞ!」
振り下ろされる斧をかわし、返しにロングソードを顔に向けて振るうが、膝蹴りを受けた刀身は肩を掠めるだけに留まる
そのまま密着し、胴体に爪を突き立てようとするが、黒いモビルスーツは体をその場で回転させて斧を食らわせてきた
「前よりも速い……!」
『貴様らは、クランク二尉の思いを無駄にして!ボードウィン特務三佐から多くのものを奪って!それでもなお罪を重ねると言うのかッ!!』
「……あのおっさんは自分で死にたがってたよ」
『またそれかァァァァ!!!!』
「おいハイネ!こいつはいったいどういう事だ!何であいつが魔王軍にいる!?」
「さぁね、どういう関係か知らないが、お前らに教えるわけないだろう!!」
金縛りが解けたハイネがグリフォンを呼びながら言う
「アイン!今日のところは引き上げるよ!」
『ハイネさん!私はッ!私の信じる人道のため!彼の罪を祓わねばならないんです!止めないでくださいッ!』
「聞きなアイン!味方が居ない今、あんた一人が戦ってもジリ貧になって負けるだけだよ!今は退くんだ!命さえあれば復讐だろうがなんだろうが、何度だってやり直せる!」
『くっ!ですがッ…!』
「命令だアイン!そのゴーレムから離れて今すぐ……」
「殺ったーー!!」
「あっ!」
黒いモビルスーツを説得していたハイネの懐に潜り込んだスノウが、ナイフでハイネの手元から何かを弾き飛ばした
それを拾ったアリスが目を光らせながらハイネに尋ねる
「……ほう?これはもしかして、何か大事なものか?」
それは赤く光る石だった
研磨され丸くなり、吸い込まれるような淡い光はまるで宝石のようだ
「あっ、いや、そんな事は……」
口ごもるハイネを見た6号はアリスと目を合わせ
「だってよ、じゃあ貰っとこうぜ」
「い、いや!それはその……。た、大切な……」
それを見たグリムが俺達の側に来て言う
「それは魔導石ね。魔法使いが魔法を使うときの触媒として使う物だけど……。その石はかなりの魔力を内包しているようね」
「じゃあハイネが四天王なのは……」
「その石の力じゃないのかしら。他の物でも代わりは利くと思うけど……」
「四天王程の力は使えなくなるって事だな」
それを聞いた6号は、過去一番のにやけ顔を見せた
戦いの音の聴こえなくなった戦場に、カメラのシャッター音だけが響く
『き、貴様ら!何と非道なッ!!』
「う、うぅ……死にたい……」
「死にたいの?」
「ひっ…!?」
『貴様ァァァァ!!』
ついさっきまで殺し合いが繰り広げられていた場所で、何故か魔王軍幹部の撮影会が始まった
「よーし、次は手を後ろについて、脚を開いて腰を落とすんだ。そんでそのままダブルピースを……こら!手で隠そうとするんじゃない!」
カメラ片手に遠慮ない要求する6号
対するハイネはさんざん扇情的なポーズをさせられて涙目になっている
「うっ…ううっ……うううううー……!」
『申し訳ありませんハイネさん!自分が指示を聞かなかったばかりにッ!!』
それを見せられた隊員は俺を含め全員がドン引き…
しているわけでは無かった
「くっ…!くくく!いい様だな炎のハイネ!良いぞ6号もっとだ!強敵が墜ちていくさまを見るのは実にたまらん!」
6号の後ろからスノウが腹を抱えながら恍惚とした表情で笑う
こいつはもうダメかもしれない
「た、隊長、さすがに可哀想ですよ。石を返して、堂々と再戦すれば良いじゃないですか」
「なぁアリス。俺、言うこと聞けば返してやるなんて言ったか?」
「いいや?こいつが勝手に勘違いしただけだな」
それを聞いたハイネは愕然とした表情で固まる
さすがは6号、下手に出る相手にはとことこ容赦が無い
しかし仮にも幹部がこんな言葉狩りに引っ掛かって大丈夫か?
「こ、ここまでやらせておいてそりゃないだろ!こ、殺す!お前は絶対に……!」
「魔法も使えねーのにどうやんだよ!ほら、早く俺を殺してみろ!」
「ぐぎぎぎぎぎ………!」
そのさまを見せつけられた黒いモビルスーツは体をワナワナと震わせて叫ぶ
『貴様は……!貴様らは!またしても罪深き子供を増やし、清廉な者を愚弄するのかッ!!』
「こ、これは俺達のせいじゃねぇよ!」
『黙れェェェェェ!!』
後ろでうるさい俺達を見た6号が、ハイネに向き直って言う
「ったく、そんなに返してほしいのか?」
「か、返してくれるのか!?た、頼む…それは大切な……!」
そこまで聞いた6号は戦闘服のズボンに手をつけると
「ほーら、取ってごらん」
魔導石を股間のチャックに入れ、ブリッジのポーズでハイネに見せつけた
『貴様ァァァァァァッ!!!!!』
「や、止めろアイン!く、くそッ!くそッ!……6号、お前、覚えてろよぉぉぉぉぉ!!!!」
戦いが終わった後、俺達は街にある酒場に集まっていた
「それじゃあ、四天王炎のハイネの無力化及び、魔王軍先兵の壊滅に~!?」
「「「「「乾杯!!」」」」」
6号の合図に合わせて乾杯をし、それぞれテーブルに出された酒と食事に飛び付く
「しかし、大戦果だったな6号!あのゴーレムを撃破し、手段はアレだったが魔王軍四天王を弱体化させたのだ!我が隊の一人勝ちではないか!」
「最近は私が死ぬことも減ってきたしね、隊長達が来る前は戦闘のたびに死んでいたのに……」
「たいひょうたひが来てからは、おいひい物をお腹一杯食べられてひあわせれふ!」
「そうだろうそうだろう!もっと俺を誉めてくれてもいいんだぞ!」
「……どうひたんれふか副隊長?難しい顔して」
ロゼが口いっぱいに食べ物を含ませながら聞いてきた
「いや、あの黒いモビル…ゴーレムの事でな」
俺の言葉を聞いたスノウも、少し考え込んでから言った
「ふむ、確かにアレについては気になるな…。私は今までそれなりに場数を踏んでいるが、あんな魔物とは戦った事が無い」
「副隊長達をやたら目の敵にしていたけど、何か心当たりでもあるの?」
「心当たりというか、殺しあったっつーか……」
何故ここに居るのか、何故あいつもミカのように小さくなっているのかなど、疑問は山積みだが、考えても結果が出ない
魔王軍にキサラギが関与しているのか?
だとしたら俺達は一体……
「しかし、あいつ相当強かったな~。三日月ですら苦戦させられてたみたいだし、スノウなんか一撃だろうな」
「き、貴様言わせておけば!私だって、これでも腕には自信がある!なんせこの国の最年少で騎士に叙勲されたのだからな!」
そこまで聞いた6号が尋ねる
「……つーかお前、今いくつなんだ」
「十七だ、騎士に叙勲されたのは十二の時だな」
それを聞いた俺と6号は口に含んでいた酒を揃って吹き出した
「お前ふざけんなよ老け顔が!俺より年下なのかよ!?」
「き、貴様老け顔とはどういう了見だ!私だってこれでも乙女の端くれなのだぞ!」
しかしまさか二十歳以下とは思わなかった
まぁ昭弘もあの顔と体で俺らと同年代だし、アトラもあれでそこまで子供でも無いしな……
というか普通に酒を飲んで問題無いのか
「おい、お前ちょっと焼きそばパン買ってこい」
あの時は冗談だと思ってたが、それ本当にやるんだな
「ふぅ。そう言えば、今日はアリスと三日月は連れて来なかったの?」
「あぁ、こんな時間の酒場はお子様の教育に良くないだろ?」
「ミカはトレーニングしたいっつって、先に帰ってるよ。今、何か腹の足しになるもの持って帰ろうか考えてるとこだ」
「戦場にまで連れていって今さら…?しかし、あの子は口は悪いが凄まじい才能を秘めているな。この間なんかも、城の図書館の全ての本を一日で読み終えたなどという噂を聞いたぞ」
「あたし、商人さんと何か交渉しているアリスさんを見かけましたよ」
「私は、治療術師の詰め所に何かを持ち込んでいるアリスを見かけたわ」
あいつそんな事もしてるのか
俺達三人じゃあそういう頭を使う仕事は難しいからな
しかし、このまま放っておくとこの国がアリスに裏から牛耳られそうだが、本当に任せておいて良いのだろうか
「……それに三日月もだ、あの変身能力といい本当に我々と同じ人間なのか?あいつも、城の騎士達と勝ち抜き戦をやって優勝したなどと嘘みたいな噂ばかり聞くが」
「……あたし、近所で有名な悪党一味をミカさんが一人で壊滅させたって聞きましたよ」
「……私も、駄目になった大量のトレーニング器具を城から持ち出してる三日月を見かけたわね」
ミカもなかなか好き勝手やってるんだな
前から別に俺が手綱を握っていた訳じゃなかったし。いろいろ自由な状況なら、あいつも楽しくやれているのだろう
スノウが胡散臭いものを見る目で俺達を見つめる
「おい6号、オルガ…貴様ら……」
「何もしてないよなぁ?」
「おう、何もしてないぞ」
6号にあわせて俺もとぼけて見せる
それを見たスノウはジョッキを煽ると
「…フン。まぁ、貴様らの素性なぞどうでもいい。今やお前たちは我が隊に欠かせない存在だからな。だが!私はまだ貴様を認めた訳ではないぞ6号!」
「おい見ろよお前ら、これがツンデレってヤツだ。口ではこんなでも、もう俺が好きで好きでたまらないんだぞ」
「へー!スノウさんが隊長に突っかかるのは好きの裏返しですか!」
「ふざけるな!叩き斬るぞ!」
ツンデレが何かは知らねぇが…たぶんろくでもないことなんだろうな
そんな事を考えながら、俺もぬるい酒の入ったジョッキに手を伸ばす
そのまま俺達は、夜がふけるまで宴を楽しんだ
「おう、帰ったか。……また偉く酔っ払ってるな」
「酷いものだったぞ、墫ごと持ってこさせたり、今日の俺はお大尽だと叫んだり……。ここに来るまでも、道端で用を足そうとしたりところ構わず吐いたり……」
「……すまねぇ」
頭がガンガン鳴り、腹から何か逆流してくるのをこらえながら小さく謝る
「こいつは金を貯める事ができないからな、あればあるだけ使う男だ。それにオルガも、たいして酒に強くねぇのに、お前らといるといい気になって飲みまくるからな……ご苦労さん」
「じゃーなスノウちゃん!ほら、おやすみのチューしろよ!!」
「バカな事をいってないでとっとと寝ろ!」
水を飲んで一息つき、壁にもたれ掛かった時、ミカが聞いてきた
「ねぇオルガ。オレ、弱くなってるかな」
ミカのそんな質問に、一瞬どう答えればいいかわからなくなる
「……何言ってんだよミカ。そんなわけねぇだろ?」
それは間違いない事だ
ミカがいなかったら鉄華団はあそこまで大きくなることも無かったし、ギャラルホルンと渡り合う事も無かった
それは事実だ
なのに
「あいつ、前よりも強くなってた」
「でも、お前より強いって事はねぇだろ」
「……………」
ミカは軽くうつむいた
俺は、この世界に来て気付いた
たまに見せるその顔が、俺は嫌いだったのだと
何か覚悟を決めた顔
俺のため、鉄華団のため
自分を後回しにするその顔が
もちろん、ミカにそうは言わない
ミカをそうさせたのは俺であり、それがオルガ=イツカと三日月・オーガスの関係なのだから
ただ
「なぁミカ、これだけは言わせてくれ。今度は無茶はするなよ」
「……それがオルガの命令なら、そうする」
「しっかし、どうすんだこの活躍ぶり!そのうち王様が、ティリスと結婚してこの国を治めて欲しいとか言い出したらどうしよう。この国は一夫多妻制ってどうなんだ?」
と、そんな事を言い出す6号
こいつはいつもこんなこと考えてるのかと疑問に思う
アリスも同じような事を考えたのか面倒そうしながら言う
「しるかんなもん。というかティリス一人じゃ不満なのか?」
「そもそも勇者がこの国の第一王子なんだぞ。国の治世はそいつが継ぐだろうな。ティリスは大方、政略結婚にでも使われるんじゃないか?」
「あいつの場合、逆に嫁ぎ先を懐柔して取り込んだりしそうだがな……」
「いや、不満ってわけじゃないんだが。ほら、結婚式前夜とかに、『私実は隊長の事が……』みたいな展開になったとき困らないようにさ」
「……自分はもう理解出来ない事なんて無いと思ってたが、まだまだだったよ」
「……俺も、それなりにお前とつき合ってきて何だかんだ意思疎通出来るようになったと思ったが、全然だったよ」
「そうか。まぁ、お前らは出来る子だ。これからも頑張れよ」
そう6号に慰められた俺とアリスは顔を見合せる
……どうしろって言うんだよ
「しかし、ロゼは食費がバカにならなそうだし、グリムは何しでかすかわかんないしなぁ。まぁ、スノウなんかを嫁にしたら違う意味で刺激がありそうだな!」
そう言って6号が笑う
酒が入って口が緩くなっているのか、今日の6号は話が止まる気配がない
「あぁ、そろそろキサラギの幹部ルートも確立しとかないとな。ぼちぼちスパイ任務を完了させるか」
「お前なぁ、一応近くに近衛騎士団の連中も寝泊まりしてるんだぞ」
「まったくだ。だからそういう話は日本語でしろと……」
そう俺達が6号に言った瞬間、部屋のドアが開かれる
「スパイとは……どういう事だ……?」
そこに立っていたのは、顔をうつむかせて小さく震えるスノウだった