魔王軍が攻めてくると思われる日の朝
俺達四人はティリスの部屋に集まり、その時が来るのを待っていた
「6号様。敵はどのように動くのでしょう……」
ティリスはバルコニーから街の入り口で構える騎士団を心配そうに眺めながら聞いてきた
「本当だって!ユニコーンが角でスカートを捲ってたんだよ!あれ絶対中におっさん入ってるって!」
だが当の俺たちはユニコーンの正体の話で持ち切りだった
「本当かぁ?確かに若い女ばっかり乗せる変な馬だと思ってたが……」
「そもそもユニコーンなんて神話の生き物がなぜ存在するのかが疑問だな。魔法やら呪いやら、不条理極まる現象もだ」
相変わらずの魔法アンチを見せつけるアリスに対し、ティリスがおずおずと言う
「…魔法なら、簡単な物ですが私にも扱えますよ?」
「マジ?見せて見せて!」
「それは自分も興味あるな」
もう魔王軍の事など半ばどうでもよくなった6号とアリスが食い付くようにティリスの手元に集中している
それにしても、魔王軍は来るのがやけに遅いが地雷源で足止めを食らっているのだろうか
グレイス王国との国境付近に、魔王軍の軍勢が終結していた
圧倒的な数を誇るオークやゴブリンに、屈強なオーガやさまざまな魔獣、10を越える数にまで増産されたゴーレム
そしてそれを率いるのは魔王軍四天王の炎のハイネと地のガダルカンド
この布陣を見て、震え上がらない人間など居ないと言ってもいい
「さぁお前たち!今こそあの国を我々の支配下に置くときだ!人間共に、魔王軍の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
グリフォンに乗り、上空から部下達をそう鼓舞する
そう言いながら、あの男達の顔が浮かんだが、もう敵ではないと考え直す
「おいハイネ!俺のゴーレム達は必要だったか?もう勇者もいねぇんだ。お前らだけでも十分だろ」
「油断するなよガダルカンド。勇者がいなくても、あたしを出し抜いたヤツらがいるんだ。正直、あたしは勇者よりあいつらの方が厄介だと思うね」
「俺のゴーレムをぶっ壊したヤツらか。おいハイネ、そいつは俺に…」
『いいえ!彼らの罪は私が祓わねばならないのです!!』
ガダルカンドの言葉に割って入るのは、つい最近魔王軍に入ったばかりではあるものの、その力で戦果を挙げ続けている謎のゴーレムモドキ
一応の上司はあたしなのだが、名前がアインという事しか知らない
会った当初は少し言動が不安な奴程度の認識だったが、あの6号達……いや、オルガとあの小僧にあってからの取り乱し方は異常なほどだった
「……また同じ事言ってやがる。ここまで話が通じないのは獣人以下だぜ」
ガダルカンドが呆れながら言う
幅を効かせているアインを最初は忌々しそうにしていたガダルカンドも、最近ではもう制御しづらい獣のような認識でいる
『ハイネさん。あなたには感謝しています。私に、彼らともう一度戦う機会をくださったこと、一生忘れません』
そう言って金属で造られた無機質な頭を下げるアイン
本来のアインは礼儀正しい男なのだろう
自分の事を気にかけてくれる、あたしや魔王軍の兵士に対して礼節を欠かす事は無い
だが、その口から語られるのは常に、正義、正しさ、清廉さについて
そしてある二人の名前だった
「…なぁアイン。あんたはあいつらに……」
アインがあの二人を憎む理由は何なのだろうか
何度も聞こうと思ったが、何かを思い詰めてうわ言のように繰り返すアインを見ると、いつもそれ以上何も言えなくなってしまう
『今こそ、クランクニ尉の無念を晴らす時…。見ていてくださいクランクニ尉!ボードウィン特務三佐!私は………!』
もう日も暮れるかといった頃
「魔王軍が来たぞー!」
そうか、来たか
「第六騎士団は前へ出て敵を撹乱しろ!対ゴーレム部隊は第三騎士団の後ろへ!弓隊は城壁の上で待機!」
部隊へ次々に指示が下され、各々迫り来る魔王軍の軍勢と戦闘を開始する
自分達の隊が配置されているのは陣形の最奥だが、そこからでも最前線の戦いが見てとれるほどの数しか騎士は存在しない
対する魔王軍は、地を埋め尽くすほどの数と、天に昇るほどの大きさのゴーレムを引き連れ、こちらへ雪崩れ込んでいた
この戦いで私は死ぬのだろうな
スノウがそんなことを考えている間にも、次々に騎士団の後退や壊滅の知らせが届く
「スノウ殿!第四騎士団が破られました!」
伝令がまた新たに悪い知らせを伝えてきた
「な…、まさかこんなにも早く!?まさか四天王か!?」
「そ、それがその相手というのが……」
そう伝令が言った瞬間、背後で数人の騎士が宙を舞った
一瞬、何が起きたのか分からなくなったが、吹き飛ばされた騎士が地面に激突する音で目が覚める
倒された騎士は鎧ごと一太刀で打ち上げられたようで、皆即死だった
この攻撃力はオーガ以上の……
騎士達を吹き飛ばした方向から、何体ものゴーレムがこちらへ向かってくる
「6号はどこだ!あいつを出しな!!あの男ッ!生かしちゃおけない!!」
『隠れていないで出てこい!貴様らの悪行もこれまでだッ!!』
そう言って騎士団の中に割って入ってきたのは、ゴーレムの肩に乗って火弾を構えるハイネと、二本の斧を振り回す黒いゴーレム
なぜハイネの服がぼろぼろなのか気になるが、ただならぬ二人の剣幕に騎士団はじりじりと後退していく
これ以上前線を下げれば街へ侵入される…
剣を抜き、ハイネを乗せたゴーレムの前に立ちふさがり言う
「6号達はここには居ない!貴様らの相手は我々だ!」
それを聞いたハイネは私を一瞥し、鼻で笑いながら言った
「お前らじゃ力不足なんだよ!アイン!こいつらを血祭りに上げて、あのバカ共を引きずり出しな!」
『お前たちもこれ以上罪を重ねる前に!私の手で引導を渡してやるッ!!』
そう言ってこちらへ向かってくるゴーレム達の前に騎士達が立ちふさがる
そこで少し足を止めたゴーレムに対し、グリムが人形を手にしながら叫ぶ
「偉大なるゼナリス様!この石人形に災いを!足裏を地に縫い付けられるがいい!」
呪いを掛けられたゴーレムの足が動かなくなり、そこへハンマーを持った対ゴーレム部隊が追撃を加える
しかし足を止めたとてゴーレムの怪力と頑丈さは健在であり、なかなか無力化出来ずにいる
6号と三日月は数秒で決着を着けたというのに
「ちっ!それ以上はやらせるか!お前たち!あの術師を狙いな!」
ハイネの指示を聞いた黒いゴーレム…アインが騎士達をなぎ倒しながらグリムの元へ近づいていく
そこへロゼが勢いよく飛び掛かる
「やらせません!」
しかしそれをいとも容易くかわす黒いゴーレム
その動きは一瞬本物の人間のような滑らかさを見せた
見れば見るほど、その動きは三日月そっくりだ
もしあいつらが他国のスパイなら、魔王軍に協力者がいてもおかしくはない
そう少しでも考えてしまった自分に嫌気がさす
『クランクニ尉……。あなたが命を掛けてまで救おうとしたというのに……。彼らは今なお、自らの罪に気付かずに、この世界にさえ汚れた影を落としている……』
「…っ!!」
また何かぶつぶつと呟き始めた黒いゴーレムがロゼの足を掴みんで持ち上げ、宙吊りにする
『全ては私が至らぬゆえ……あなたにも、ボードウィン特務三佐にも、会わせる顔がありません……』
「ロゼ!」
『私は今度こそ!今度こそッ!!彼らの罪を祓って見せます!それが私の……私に残された最後の………!!』
そう叫びながら黒いゴーレムがロゼに向かって斧を振り下ろそうとした瞬間
その胸をめがけて、ロングソードが突き立てられた
「どいてて」
「待たせたなお前ら!」
そこに現れたのは、いつもの鎧を身に付けた三日月と、見たこと無い武器をいくつも担いだオルガだった
その少し前
「6号様…。そろそろ……」
バルコニーから騎士団の戦いを見ていたティリスが、6号を見つめて言う
「いよいよか……。んじゃ、予定通りにやるぞ」
「おう、こっちは任せとけ」
俺と6号は互いに拳を合わせて立ち上がる
そんな俺たちを見たティリスは首をかしげた
「6号様…?あなた方には脱出の準備を……」
「分かってるよ。でも、うちの副隊長は仲間を見捨てられないお人好しなんだよ」
「ああ、それにうちの隊長も、あんたを放っておかないお人好しだよ」
そう言って、俺と6号はお互い口元をにやけさせる
そして俺とミカは、見張りも出払った城を飛び出し、戦闘が続く街の入り口へと急いだ
「副隊長!?あなた、ティリス様の護衛はどうしたのよ!」
「そうだオルガ!貴様らはティリス様からなにやら任務を与えられていただろう!」
「ああ、それなら今6号が遂行してるよ!俺達の仕事は……てめぇらをぶっ倒す事だ!」
そう言って、ゴーレムの上に立ちながらこちらを睨み付けるハイネを指差す
当のハイネは怒りを目に滲ませながら憎々しげに指を指し返す
「やっと姿を見せたね……。オルガとか言ったな?ずいぶんとちょこざいな真似をしてくれたじゃないか。あたしの魔導石をエサに、よくもやってくれたね!」
ちょこざいな真似ってのは6号がやった、ハイネの魔導石を囮に使った爆弾罠の事か
ハイネの服が所々破れている理由に合点がいった俺は、ハイネに向かって言う
「あんなもんに引っ掛かる方がマヌケなんだよ!」
それを聞いたハイネは、両手で大きな炎の弾を作り出しながら言う
「…良いだろう!6号より先に、お前から地獄に送ってやるよ!」
そんなハイネに向かって、グリムがペアリングと人形を手に叫ぶ
「偉大なるゼナリス様!あの女に災いを!炎の魔術を永続的に封じられるがいい!」
「………っ!」
呪いの内容を聞いたハイネが青ざめながらゴーレムを盾にする
さすがに今の呪いはかなりの圧力になったのか、ハイネはそのままこちらの様子を伺っている
「いいぞグリム!そのまま……」
「あんたみたいな男の目を集める淫売が、私は一番嫌いなのよ!もう少しだけ勇気があれば反動を覚悟で乳がもげる呪いを掛けてやるのに!!」
怒りで全身を震わせながら、とんでもない事を口走るグリム
それを見たハイネはますます萎縮して完全にゴーレムの影に隠れてしまった
「ひ、人を淫売呼ばわりすんな!」
いや、お前もその格好でそれは無理があるだろ
ハイネが俺たちに苦戦していると見て
それまで退屈そうに上空を旋回していたガダルカンドが、グリムの脇へ降り立った
「何遊んでんだよハイネ!とっととその女を……あん?お前、このあいだ……」
「とりゃー!!」
グリムを見て首をかしげるガダルカンドめがけて、ロゼが跳び蹴りを放った
しかしそれはガダルカンドの強靭な鎧の前に阻まれ、当のガダルカンドは忌々しそうにロゼを睨み付ける
「なんだてめぇ……!」
口調を荒げさせたガダルカンドが無造作に棍棒を振るい、空中で身動きの取れないロゼの体を吹き飛ばす
ロゼの体はそのまま勢いよく街の外壁に激突し、ぶつかった周囲の石とともに地面に転がった
「おいガキ、混じり物のてめぇでも、俺に勝てねぇのは魔物の本能で感じ取れるだろ!俺の邪魔すんじゃねぇ!」
そうガダルカンドが宣言するが、ロゼは血の滴る頭を押さえながら立ちあがって、ガダルカンドを睨み返す
「か、勝てなくても、怖くても……見習い戦闘員は戦わないわけにはいかないんです……それに、お爺ちゃんの遺言で、仲間は見捨てるなって言われてるんです!!」
そんな台詞を言いながら、ロゼは再びガダルカンドめがけて飛び付いた
『以前のようにはいかないぞ!この忌ま忌ましい悪魔め!!』
「そっちの方が悪魔じゃないの?」
黒いモビルスーツが投げつけた斧をいなしながら、懐に入り込んで切り上げる
『おのれ!いつまでもギャラルホルンをコケにしてッ……!!』
だが相手はそれをかわし、足裏をドリルに変形させてぶつけてきた
『クランク二尉は貴様らに救いの手を差し伸べてくれたはずだ!なぜ拒んだ!!』
「そんなのあんたらの理屈でしょ!」
戦いに集中したくても、さっきから相手がうるさい
前はこんなに声は入ってこなかったのに
「お前達のせいで、こっちだって何人も死んでる」
『クランク二尉は!私のような圏外圏出身の者にも差別せず!お前たち子供と戦う事に反対し!最後まで部下の事を考えて行動してくれた!!そのクランク二尉をどうして!!』
黒いモビルスーツの頭部が、まるで目を見開くかのように割けて、大きな赤いカメラアイがこちらを睨み付ける
『どうして殺したあぁぁぁぁ!!』
まだか6号……
俺はライフルと手榴弾で迫り来る魔物を倒しながら、6号からの報告を待っていた
ティリスを連れて街から離れるだけなのに、なぜかこんなにも時間がかかっている
そろそろスノウ達を連れて離脱しないと……
「おい!あともう少しだけ持ちこたえろ!そうすりゃ、6号がティリスを連れて離脱出来る!」
「でも、このままじゃ押し切られるわよ!」
既に騎士団は半壊し、魔王軍は続々と街への入り口に向かって来ている
「おい6号!そっちは今どんな状況だ………!?おい6号!?」
無線で6号に呼び掛けるが、応答が無い
6号だけならふざけんなで済むが、何故かアリスにも繋がらない
まさか、何者かに妨害されてるのか?
あるとするならあの黒いモビルスーツのエイハブウェーブの可能性が高い
だがミカのバルバトスからは、そんな弊害は受けていない
似ているのは外見だけで、構造は違うのか
一応、交信が不能になった場合や、非常事態が起きた場合はアリスが何らかの方法でこちらに伝えると言っていた
だが、城の周辺に変化は見られない
何かあったのか……?
「くそっ!……おいスノウ!どうした!?」
スノウはうつむき、ただそこに立っていた
拳を握り締め、唇を噛んで血を流しながら
「……私は無力だ。お前たちに、さんざん誇り高い騎士だ何だと言っておきながら、結局一介の騎士同然の働きしかしていない」
スノウの独白は続く
「ロゼやグリムを厄介者扱いしておきながら……お前たちを追い出しておきながら……私は何も………!」
とうとう握る拳からも血が滲み出る
「悔しい……!!不甲斐ない自分が……!!こんな事で忠誠を誓った国を滅ぼされる事がッ………!!」
そう言ったスノウは、今にも泣き出しそうな顔で俺を見た
「だったら……する事は一つしかねぇだろ!」
そう言って俺は城を指差した
スノウには愛馬ユニコーンがいる
俺達より早く城にたどり着けるだろう
「行って、6号とアリスを連れて来い!ここまでくりゃあ、あいつだって覚悟を決めるだろうよ!!」
「行きなさいスノウ!」
「スノウさん!」
グリムはハイネと、ロゼはガダルカンドと対峙し、背中を向けたままスノウに言う
「……………感謝する!!」
スノウは目尻に涙を浮かべながら、ユニコーンにまたがって城へ向けてユニコーンを走らせた
「よしミカ!スノウが6号を連れてくる!それまで耐えろ!」
そう言って目の前に並んだ強敵達に向かい合う
「今さらあの小僧一人にすがって何になるってんだ?お前らはもう終わりなんだよ!」
「結局あいつも、あたしが見込んだ通りの男って訳かい!でも、楽には死なせないからね!!」
『ネズミの悪足掻きもこれで終いだ!!せめて死ぬ前に己の罪を数え、懺悔しながら死ねッ!!』
グリムはハイネを呪いで牽制しながらこちらへ進み続けるゴーレムの足を止め、ロゼはガダルカンドとその部下をくぎ付けにし、ミカは黒いモビルスーツと一騎討ちをしている
敵の幹部級はこれで全員止めているが、それでも魔王軍は依然として圧倒的な数でこちらへ向かってくる
このまま続けていると本当にまずいぞ6号…!
『しぶとい奴らめ……!!』
黒いモビルスーツが、肩部からミニガンを展開し、ミカに向かって撃ち込んだ
組み合いながらの射撃は、命中はしなかったものの、放たれた弾はグリムの周囲に着弾し、グリムの注意が一瞬だけハイネから逸れた
「貰った!!」
それを見逃さなかったハイネが、炎の弾をグリム目掛けて投げつけるが、すかさずロゼがそれを叩き落とした
だが、そんなロゼを今度はガダルカンドが掴み、地面に向かって叩き付ける
「甘ぇんだよ!半分魔族の癖によ!!」
そのまま飛び込んできたガダルカンドの棍棒が、グリムに振るわれる
「あ………」
俺は叫ぶより早く駆け出してその間に割って入った
「グリム!!」
横凪ぎの一撃が体を打ち、激痛が全身に走る
本来の狙いだったグリムは、俺の体と共に車椅子から吹き飛ばされ、地面に転がった
「副隊長……!そんな……!!」
地面に突っ伏していたロゼが叫ぶ
「へっ!相変わらず人間ってのは貧弱だなぁ!てめぇも一緒に死んでやれよ!!」
そう言って、ガダルカンドが地べたを這うグリムに棍棒を振り下ろそうとした時
ガダルカンドの背後で、ゴーレムが音もなく四散した
いや、音がなかったのではない
音が遅れていた
「………っ!?何だこりゃあ!!」
ガダルカンドが驚愕している間にも、ゴーレムは次々と粉々に粉砕されていく
「おいハイネ!いったいどうなってやがる!」
「ゴーレムが一撃で……!でもさっきのヤツとは違う……これは攻撃だガダルカンド!!城の方角から攻撃されてる!」
狼狽えるガダルカンドに、ハイネが城へ目を向けて答える
「城だぁ!?あんな遠くからどうやって……!!くそっ!お前ら!俺に着いてこい!」
ガダルカンドは城の敵を最大の脅威と見なしたのか、グリフォンに乗ったハイネと自身のお供をつれて城へ飛び去っていった
「副隊長…!!」
胴体から血を流す俺を見て、グリムは叫び、ロゼは呆然と立ち尽くしていた
そんな二人の仲間に、俺は小さく笑いながら言う
「…なんて声、出してやがる……」
「……どうして!?私は死んでも大丈夫なのに!!何で庇うような真似を………!!」
声を震わせながら言うグリムの前に、俺は膝を押さえながら立ち上がった
「俺は鉄華団団長、オルガ=イツカだぞ……こんくれぇ何て事ねぇ………」
そうだ…アリスなら、このぐらいの傷…応急手当てでなんとか……
「そんなこと………!!」
地面にまで血を流す俺を見て、グリムは目に涙を浮かべる
「鉄華団の団長として……もう仲間は見殺しにしねぇ………
それに、お前言っただろ……死ぬのは辛いって………!
何回死んでもいいって…
死ぬのは辛くねぇみたいな顔しても……
死ぬのが大丈夫な訳ねぇだろうが……!」
「…………っ!!」
俺の言葉を受けたグリムはとうとう目から涙を流す
「いいから行くぞ……あいつが……6号が待ってんだ………」
すまねぇミカ、お前ら……
俺はやっぱり、お前らがいなきゃ何も出来ないただのガキだった
お前らにまた会えるかと思ったが……それはできなかったな………
それでも…俺は……鉄華団の団長として………お前らに胸張れるように……最後まで…仲間を………
「お前らが止まらねぇ限り……その先に俺はいるぞぉ!!」
だからよ……
止まるんじゃねぇぞ………
目の前がどんどん暗くなっていく
一度目の死の瞬間を、思い出すことすらできなかった
目の前で起きた光景に、三日月・オーガスは一瞬我を忘れそうになった
「…………!!」
オルガが死んだ
以前のように、目の届かないところでは無く
目の前で、手の届く近さで死なせてしまった
怒りが自分の中を、バルバトスを駆け巡るのが分かる
「バルバトス…お前の力を……オレに………!!」
そこまで言ってから思い出す
あの日オルガに言われた言葉
今度は無理はするなよ
「…オルガの命令……だけど…!!」
歯がゆさと苛立ち
自分で自分を制御できなくなっていくのが分かる
『これで残るは貴様だけ……!貴様を倒し!貴様らの罪祓い切る!!』
「………うるさいんだよ、お前!!」
攻撃を返すが、感情的になった単調な攻撃は易々と防がれる
『終わりだ!!』
「………っ!!」
振り下ろされる斧を頭に受けながら、バルバトスからリミッター解除のデータが送られる
ごめんオルガ
オレ………
バルバトスが潜めていた野生を解放しようとした時、急に黒いモビルスーツの動きが止まった
「…………………!?」
『バカな……あれはハイネさんの停戦信号…!?』
その見つめる先には、いくつかの色の違う炎が空へ向かって打ち上げられていた
『……つくづく運の良い奴めッ!!』
それを見た黒いモビルスーツは、構えていた斧を地面へと振り下ろし憎々しげに叫ぶと、他の魔物と共に撤退していった
それを追撃するでもなく、三日月・オーガスはただ眺めていた
オルガを守れず
オルガの命令も守れず
「オレはッ…!」
まだ弱い……!
騎士団の生き残りと共に戦場に散らばる無数の死体を眺めていたロゼが、キメラの再生力で治した頭の傷から手を離しながら言う
「グリム……あたしたち、勝ったの………?」
「…ええ、きっと隊長が何かしてくれたのね」
動かなくなった一人の男を膝にのせ、震える声を抑えながら答える
「グリムのせいじゃない…あたしが……」
背中にそっと置かれるロゼの手
「…………っ!!」
目から溢れ続ける涙を両手で押さえる
それでも涙は止まらず、顔を押さえる指の隙間から噴き出した
もう一度、自分の膝で横たわる男の顔を見る
どこまでも優しくて
誰よりも仲間思いで
死ぬのだって怖くなくて
それでもどこか子供な男
みんなに慕われる自分達の副隊長
両手でその頭を持ち、その額と自分の額を合わせ
「…偉大なるゼナリス様……!この愚かなる信徒の名において!どうか…!どうかこの男に災いを……!」
願わくばこの呪いが
「不死の呪いに、掛かるがいい!!」
彼にとっての祝福になりますよう─────