アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第一部 BEYOND THE TIME ~ 始まり ~
第1話 跳べ!ガンダムに


『ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ! そのララァを殺したお前に言えたことか!』

『お母さん? ララァが? うわっ!』

 

   * * *

 

 激しい光に全身が包まれて、アムロ・レイの意識は跳んだ。

 

   * * *

 

 気が付くと、アムロは狭いコクピットにいた。

 アムロは眼前にあるものが照準器だとも気づかぬまま乱暴に押しのけ、前後左右を見渡した。

 正面と左右には平たいモニターが配置され、正面モニターの上には通信用の小さなサブモニターが設置されている。

 汗ばんだ手が握りしめているのは、アームレイカーではなく昔懐かしい操縦桿だ。

 

 操縦桿?

 

 そしてアムロは、自分が素手で操縦桿を握りしめていることにようやく気がついた。

 自身の手首はデニムのジャンパーの袖口に包まれている。

 

「! なんだ、此処は!」

 

 アムロは思わず叫んだ。

 見回したモニターには、緑が多くあつらえられた丘陵地の景観があった。

 直感的に、アムロは此処がコロニーの中だと理解した。それも造られて間もない…新造のスペースコロニーだ。

 正面のモニターに、マシンガンを構えゆっくりと歩いてくる緑色のモビルスーツが見えた。

 ネオ・ジオンのモビルスーツ…ギラ・ドーガにしては妙にのっぺりとして野暮ったく、そのフォルムは全体的に丸みを帯びている。

 

「…ザク、か?」

 

 アムロはかつて味わった、腹の底からこみ上げてくる圧倒的な不快感を思い出した。

 それはアムロが生まれて初めて感じた死への恐怖、だ。

 そして、アムロは自身の置かれている状況を本能的に理解した。

 確信を得るために、膝元に視線を落とす。

 そこには今の今まで忘れていた…しかし、一目見たと同時にそれと思いだす、あれがあった。

 

 地球連邦軍Ⅴ作戦の極秘マニュアル。

 

「――ガンダムのコクピットか? 此処は!」

 

 此処は…今は、宇宙世紀0079の9月。サイド7。2機のザクと戦った、アムロ・レイ初陣の時だ。

 

   * * *

 

”…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ”

 

 ザクのパイロットの思念がアムロの中に流れ込んできた。

 アムロはシャイアンの基地での生活が始まったばかりの頃に、一年戦争の様々な記録を見たことがある。

 その中には、自分が行った史上初のモビルスーツ同士の戦闘の記録も当然あった。

 相手のザクのパイロットは確か、ジーンとデニムといった。

 初めて自分が殺した人間の名前くらい覚えておこうと、半ば自虐的に思った覚えがある。

 

「っこいつッ!」

 

 アムロの中に怒りが込み上げた。

 このジーンというパイロットはただ手柄が欲しくて暴走しただけだということを、アムロは流れ込んできた思念からリアルに感じ取ってしまったのだ。

 この男の浅はかな功名心が、平和に暮らしていたサイド7を戦場に変え、殺める必要のない大勢の民間人の命を奪い、生き残った人々の運命を変えた。

 アムロ自身の運命もだ。

 この2機のザクがこうしてサイド7を襲撃することがなければ、自分は軍人になどならずまったく違う人生を歩んでいただろう。アムロは軍人として生きてきた自分の人生は受け入れている。しかし、自身の意思に依らない選択を決定づけた敵パイロットのあまりに愚かしい行動理由に、衝動的な怒りに突き動かされた。

 

 ザクは至近距離からのマシンガンの攻撃でガンダムを破壊しようとしている。ルナ・チタニウム合金とはいえ、ほとんど零距離となればダメージは避けられないだろう。頭部のバルカン砲は弾丸切れだ。

 とっさにアムロはガンダムの左掌でザクマシンガンの銃口をふさぎ、そのマシンガンを右腕で殴り飛ばした。そのままザクの鼻面をつかみ、力尽くで引き寄せる。反動をつけて、今度は押し飛ばした。

 ガンダムのパワーに振り回されたザクは、顔面の動力パイプを引きちぎられて吹っ飛んでいった。それが14年前に自分がとっさに繰り出した攻撃と同じことに、アムロは後から気が付いた。

 

”やるじゃないか、昔の俺も”

 

 心の中で少し笑い、アムロは落ち着きを取り戻した。

 ガンダムに押し飛ばされたザクは僚機に助けられながら立ち上がり、ガンダムに背を向けた。

 サイド7のシリンダー基部にある宇宙港に向けて跳ぶつもりだ。

 

 「逃がすか!」

 

 ガンダムはビームサーベルを引き抜いて、ザクに向けて駆けた。

 と、同時にアムロは思い出す。

 確か俺は、一台目のザクをビームサーベルで両断し爆発させコロニーに大穴を開けてしまったのだ。まだサイド7の中にいる民間人を危険にさらすわけにはいかない。

 

「…やってみせる!」

 

 港に向けてジャンプしたザクを追って、ガンダムが翔ぶ。

 登録されたモーションに従いザクを薙ぎ払おうとするガンダムの操縦系を、アムロは素早くマニュアルに切り替える。

 

「うおおおおっ!」

 

 ガンダムはランドセル越しにザクの右胸を刺し貫いた。サーベルは手放し着地する。

 ザクは爆散することなく、轟音を立ててサイド7の大地に落ちた。

 

”…よくもジーンを!”

 

 あまりにも静かに僚機を倒されたもう一人のパイロットの怒気がアムロを叩いた。

 だが、アムロはそれどころではなかった。

 ガンダムがおかしいのだ。

 動きが重い。

 アムロの思ったように動かない。

 

「そうか! マグネットコーティングされてないから、俺の動きについてこれないんだ!」

 

 マグネットコーティングは、一年戦争以降に開発されたモビルスーツにはほぼ標準で使用されている技術である。

 この技術を搭載していないこんな鈍重なモビルスーツを扱うのはまさに14年ぶり…かつてガンダムに限界を感じた時以来だ。

 アムロはザクを追ってガンダムを跳躍させてから違和感を確信した。そこから、動作のタイムラグさえ計算に入れて空中でザクのコクピットを刺し貫くことができたのは、まさに神がかりと言っていい技量である。

 

 そんなアムロにとって、怒りに任せて突進してくる2機目のザクを、記憶にあるとおりコクピットだけを狙って刺し貫くなど造作もないことだった。

 崩れ落ちて屍となったザクを見下ろしながらため息をつき、握りしめていた操縦桿から手を放して額の汗をぬぐう。

 静けさを取り戻したサイド7の惨状を見渡し、アムロは独り言ちてみる。

 

「さて…どうする、これから…」

 

 

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