こんにちは、作者のしんしーです。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
…
ガルマ・ザビ(黙殺)。
ランバ・ラル(「あ」どてっ)。
黒い三連星(どか―ん! どか―ん! どか―ん!)。
そして…
私はここまで、数多のジオンの勇者たちを救うことなく、
その名声を地に墜としてすらきました。
ここから先も、今までと同じような行為を繰り返すことでしょう。
そうです。
私はジオニストではありません。
…地球れんぽニアンなんですっ!
――――ジーク・ゴップ!!
ホワイトベースはサイド6からの出港を待ち伏せるジオンの艦隊を一蹴し、ワッケイン率いるソロモン攻略の艦隊に合流した。
本隊であるティアンム艦隊が動くまで、ソロモン攻略の囮部隊としてチェンバロ作戦の先陣を切る。
戦いはパブリク突撃艇の攻撃から始まった。
機体ほどの大きさがあるミサイルを2発抱えたパブリク突撃艇は、その大型ミサイルを発射してビーム攪乱幕を展開する。
パイロットの生還率は20パーセントに満たないという決死の特攻により、ソロモンの長距離ビーム砲は封じられた。
続けて、巡洋艦サラミスから連邦軍の量産型モビルスーツ・ジムとボールが大量に発進する。迎え撃つソロモンからもザクとリック・ドムが多数出撃し、両軍のモビルスーツ同士の衝突が繰り広げられた。
ワッケイン艦隊が命ぜられていた15分の陽動の後、ソロモン攻略の本隊・ティアンム艦隊のソーラ・システムによりソロモンが焼かれる。
ソロモンの将ドズル・ザビは展開させていたモビルスーツ部隊を呼び戻し、水際で連邦を叩く作戦に切り替えた。
連邦の艦隊は宇宙要塞に接近し、モビルスーツ部隊はソロモンへ上陸せんと肉薄する。
「よし! 取りついた!」
ガンダムは先行するモビルスーツ部隊のさらに先頭で、ソロモンへの血路を開いていた。
後続のジム部隊がソロモンに着岸する様子を見たアムロは、斬込み役の特命を達成したことに安堵する。
歴戦のパイロットであるアムロとて、これだけの物量戦はア・バオア・クー攻略戦以来だ。
戦場に渦巻く異常なまでの数の殺意と、怒りと、憔悴と恐怖の感情を、アムロのニュータイプ能力は敏感に感知する。
その感情の渦に引き込まれずに自分への殺意を見逃さないようにするのは、エースパイロットたるアムロ大尉であっても強い緊張を強いられるのだ。
“これで、次は…ビグ・ザムか…。スレッガー中尉だな…”
アムロはジャブローからホワイトベースに乗り込んだ年嵩の兵士を思い返した。
前世でのスレッガー・ロウ中尉は、このソロモンの戦いでジオンの巨大モビルアーマー『ビグ・ザム』を倒すために特攻し戦死した。
3週間ばかりの短い付き合いだったが、齢若いアムロたちのいい兄貴分だった男だ。彼もまた、アムロが救いたい仲間の一人だった。
後で聞いたところでは、操舵を務めるミライ・ヤシマと恋仲だったらしい。
もしかしたら、ブライトとミライのこれからの人生に大きな変化を与えてしまうのかもしれないという不安は、あった。だが、それはタイムスリップする前の世界の話だ、とアムロは自分に言い聞かせる。過去の未来がそうなるからといって、今生きている命を軽んじていいわけはない。ブライトには自分でいっそう頑張ってもらうほかはない…アムロは心の中で、長年の戦友に謝罪した。
アムロは、まだソロモン内にいる筈の巨大モビルアーマーを探して意識を広げてみた。
しかし、戦場でうごめき飛び交う多くの思惟がアムロの邪魔をする。
どうにかそれらしき存在が見えた気がしたが、そこに辿り着こうとするガンダムを、今度は迷宮のようなソロモンの構造が阻む。
アムロの中に焦りが生じる。
ようやくアムロが巨大な格納庫に辿り着いた時には、ビク・ザムは巨大な火柱を立てて宇宙へと発進していくところだった。
ガンダムは後を追うが、違いすぎるロケットノズルの推力差にあえなく引き離されてしまう。
カイのガンキャノン、そしてスレッガー中尉のGファイターと合流したアムロは、もう一度意識を拡大し巨大モビルアーマーを探した。
”――見つけた!”
ガンダムは白い矢となってビグ・ザムを追った。
その先の宙域で、多くの命が消えていく。
ビグ・ザムの胴体360度に設置されたメガ粒子砲の一斉射が、何隻ものマゼラン級やサラミスタイプの連邦艦船を、一瞬にして撃沈したのだ。
「…圧倒的だ…」
呟いたアムロに、ガンダムのセンサーが僚機の接近を知らせた。
スレッガー中尉のGファイターだ。
コクピットが目視できるほどに機体を接近させてきたスレッガー中尉は、アムロに向けて両手の人差し指をツンツンと突き合わせている。
「合体して突っ込もうって言うのか! しかし…」
コアブースターとGファイターの違いはあれど、二人してビグ・ザムのIフィールドの内側まで接近しようとするのは、明らかにスレッガーの死亡フラグである。
戦後の資料では、ビグ・ザムはごく短時間しか戦闘継続できなかったらしい。このまま距離をとって放っておけば…とアムロは一瞬考えたが、やはりそれは余計な戦死者を生む。
「――行くしかないか!」
Gアーマーに合体していれば、前世と違ってスレッガーの無茶な特攻を止めることもできるかもしれない。スレッガーとアムロは二つの機体を合体させた。
「しかし中尉、どういうつもりです?」
『つもりもへったくれもあるものか。磁界を張っているとなれば、接近してビームをぶち込むしかない。こっちのビームが駄目なら、ガンダムのビームライフルそしてビームサーベルだ。いわば三重の武器があるとなりゃ、こっちがやられたって』
「スレッガー中尉!」
『私情は禁物よ。これ以上の損害を出させるわけにはいかねえ。哀しいけどこれ、戦争なのよね』
合体して通信状態がよくなった無線は、スレッガー中尉の粗だが低く逞しい声を明瞭に伝えてくる。アムロが知るスレッガーの声はもう少し甘く、プレイボーイを思わせる声だった。
『下から突っ込むぜ!』
Gアーマーは弾かれたように急加速し、ビグ・ザムの足元から急接近を試みた。
“――対空防御ォ!”
ドズル・ザビの思惟の雄叫びとともに、ビグ・ザムの脚部のクローが射出されGアーマーの機首を貫く。
『まだまだァッ!』
「!」
ひるまないスレッガー中尉からアムロは咄嗟にGアーマーの制御を奪い、逆噴射で急制動をかけた。
同時にBメカの下面部バーニアを全開にして、ジャックナイフターンのように機体を反転させる。
さらに、強引にGアーマーの合体を解除した。
射出されたスレッガーの乗るAメカはビグ・ザムから遠ざかっていく。
「脱出しろ、スレッガー!」
『了解! …え、おい、アムロ!』
幾度も死地を越えているアムロの威勢に呑まれたスレッガーはそんな自分に動揺し、その一瞬の分だけ、コクピットからの脱出が遅れた。
直撃したクローにより、機首のミサイルが誘爆する。
四散するAメカから放り出され、スレッガー中尉の身体は宇宙に消えた。
「やったなァ!」
アムロの怒りを乗せてガンダムは反転した。
Iフィールドを突破しビグ・ザムに接近。そのメインノズルにビームライフルを突っ込み発射する。
ライフルはそのまま手放し、ビームサーベルを抜きながらバーニアを全開にして飛ぶ。ガンダムはビグ・ザムの胴体に取りついた。
アムロは怒りに任せ、ビグ・ザムの堅牢な装甲に幾度もビームサーベルを突き立てた。
先程のライフルの一撃もビグ・ザムの内部に誘爆を呼び、その巨体のあちこちが火を噴いていく。
“やられはせん! やられはせんぞぉ!”
動きを止めたビグ・ザムのハッチの一つが開き、大柄な男が前世と同じくアムロに強烈な思念を叩きつけながら姿を現した。
“ジオンの栄光! この俺のプライド! やらせはせん、やらせはせん、やらせはせんぞォ!”
この男がジオン公国を支配するザビ家の一人、ドズル・ザビであることをアムロは知っている。
対人用のマシンガンをガンダムに向けて乱射しながら吠える男の背後に、アムロは人の悪意の形を見た。
前生でアムロが見た時よりもわかりやすく、悪魔のような姿で立ち揺らいでいる。
そして、前世のこの瞬間と違いすでに覚醒しているアムロのニュータイプの能力は、叩きつけられるドズル・ザビの最期の咆哮を、強烈な感情の塊として受け止め、そして理解させていた。
ジオンの栄光?
自分自身のプライド?
アムロは呆れ果てた。
ドズル・ザビは、ザビ家では稀有な武人肌の男だという。
おそらくは本当にそうなのだろう。そして、彼がぶつけてくるこの思いも、戦いに生きた軍人であれば当然だろう。
だが、死を覚悟して叫ぶ思いがこんなつまらぬ見栄かと、アムロは激しい嫌悪と怒りを抱いた。
こんな下らぬ人間が、スレッガーや多くの兵士の命を無駄に奪ったのだ。
「…宇宙におまえのような人間がいるから!」
ビームサーベルを振り下ろし、ガンダムはビグ・ザムにとどめを刺した。
重モビルアーマー、ビグ・ザムは、ドズル・ザビ中将の命を載せて、爆散した。
* * *
「…嘘だって…言えないのね、アムロ」
ホワイトベースに帰還したアムロは、ブリッジに上がりスレッガーの戦死を伝えた。
アムロにすがって問うミライ・ヤシマに、前世と同じくアムロは何も言うことができなかった。
カイもセイラも何も語らない。二人とも、自分が生き残れたことだけで十分だったのだ。
アムロには、涙をこらえながらブリッジを出ていくミライ・ヤシマの後ろ姿を見送ることしかできなかった。
* * *
『ミライ少尉。心配かけてすまなかった。宇宙を漂っているところを味方の船に救出されて助かった。アムロ曹長に礼を言っておいてくれ。だがちょいと負傷した。兵隊を続けることはできなさそうだ。故郷に帰ってお袋とのんびり暮らすことにするよ。そういう訳で指輪の話は嘘っぱちだ。宇宙にでも捨てちまってくれ。ミライ少尉が生き残って幸せになることを願う。スレッガー・ロウ』
後に、そんな手紙がミライ・ヤシマのもとに届けられたことを、アムロは知らない。