アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第15話 怒る宇宙

 

“聞け、シャア!”

 

 ガンダムが振り向きざまに、エルメスが操るビットを撃破する。

 

“ニュータイプを戦いの道具にするな! お前だって人の革新を見たいんだろうが!”

“なんなのだ、この不快な感覚は!”

“大佐、下がってください、邪魔です!”

 

 ガンダムを討たんと赤いゲルググが前に出るが、その進路をビットが横切り、妨げる。

 

“ララァ、落ち着いて話を聞け! 俺はシャアを殺すつもりなんかないんだ!”

“…アムロと言うの、貴方は? 大佐は私が守る”

“ララァ! 奴との戯れ事はやめろ!”

“――シャア…!”

“…あそこに、アムロと兄さんが…?”

“――セイラさんか? 此処は危険だ! 来ないでくれ!”

 

   * * *

 

 連邦とジオンの決戦の場となるア・バオア・クーへ向かう宙域で、アムロと、ララァと、そしてシャアは戦っていた。

 連邦の白き流星に、ジオンの赤い彗星とソロモンの亡霊が猛攻をかける。

 

 サイド6では空振りに終わった出会いから、テキサスコロニー、ソロモン宙域と、幾度かの対話によってララァとアムロはニュータイプの交感を成し遂げていた。

 しかし、最初の出会いでアムロに強い不信と恐怖を抱いたララァは、アムロと共感するには至っていなかった。

 ララァは、宇宙世紀を人類が革新を迎える時代にしたいというアムロの思いはすでに共有することができていた。

 シャアをスペースノイドの良き指導者として立たせるために、自分に力を貸してほしいというアムロの思いが本心であることも理解できている。

 

 だが、アムロの中のいくつもの矛盾した思いがララァを混乱させていた。

 シャアに対する期待と憎しみ。

 アムロがララァを殺したという偽りのない記憶と感覚。なのに、今こうして生きている自分。

 ニュータイプ同士の共感でアムロが嘘をついていないことがわかるだけに、ララァは混乱し、怯える。

 そして、シャアと自分を守るために、アムロに牙を剝く。

 

 自身に原因があることはアムロも理解していた。

 シャアに対してもララァに対しても、アムロは前世での因縁を強く引きずっている。

 シャアを導き未来を救いたいという志があっても、心の奥底にあるシャアへの敵意と殺意をアムロはどうしても消すことができなかった。

 ララァを殺めた時の絶望と、魂となってから変わることがなかったララァに対する苛立ちと憤りも同様である。

 シャアとララァ、それぞれに対するアムロの負の感情が、理性の部分よりも強くララァに伝わっていた。

 そして、それはシャアに対しても、である。

 特に、ニュータイプ能力の目覚めが浅いシャアには、アムロの志の部分は伝わらず、どす黒い負の感情のみが強く伝わっていた。

 

『ララァ! ガンダムのパイロットはニュータイプとして危険すぎる。私はガンダムを討ちたい。私を導いてくれ』

『お手伝いします、大佐!』

『すまん、ララァ』

 

 二人の通信による会話は、思惟の流れとなってアムロには駄々洩れである。

 

“だからシャア! ララァを…ニュータイプを道具にするな!”

「! ええい、ガンダムのパイロットかこれは!」

 

 シャアに対する条件反射のようなアムロの怒りが、三者の理解をまた妨げていく。

 そんな中、アムロは接近してくるもう一つの思惟を感じ取った。

 セイラのGファイターが、アムロ達が戦う宙域に闇雲に飛び込もうとしている。

 

“来るな、セイラさん!”

 

 アムロは焦った。

 敵意むき出しの二人のニュータイプを相手にセイラを庇いながら戦うのは、アムロ大尉をもってしても困難だ。

 アムロに増援が来るにしても、カイのガンキャノンとハヤトのガンタンクくらいか。シャアとララァが撤退するほどの脅威とは思えない。

 

 やむを得ない。

 

 アムロはこの場でのララァの説得を諦めた。

 ジャブローの時と同じように、シャアの機体に相応のダメージを与えて撤退させる。

 

「覚悟しろ、シャア!」

”え?”

 

 アムロの決意を感じ取ったララァは動揺した。

 あるいは、アムロの意思を誤認した。

 アムロの中のシャアに対する殺意を、今、アムロが下した決意と結びつけてしまったのである。

 それが誤りであることに、ララァはすぐに気がついた。

 だが、その一瞬の遅れが新しい悲劇を生む。

 

”! いけません、大佐!”

「なに?!」

 

 ゲルググのビームナギナタの刃は、シャアの狙いどおり正確にGファイターのキャノピーを切り裂いた。

 セイラの肉体が高熱のメガ粒子に瞬時に焼かれていく。

 

”――ああっ、兄さん!”

「――アルテイシアか?!」

 

 アムロとシャアは、宇宙に霧散していくセイラの意識を感じ取った。

 

「シャアッ!」

 

 アムロは激昂し、過去の自分にタイムスリップしてから抑え続けていたシャアへの殺意に身を任せた。

 

「――貴様ッ! 自分の妹を!」

 

 怒りに任せてゲルググに接近したガンダムは、ビームサーベルでゲルググの右腕を切り落とした。

 

「シャア、覚悟ッ!」

 

 ビームサーベルを突き出し、ゲルググのコクピットを狙う。

 しかし、セイラを殺めてしまったことにシャアは放心し、ガンダムの攻撃を回避しようともしない。

 ゲルググの動きが止まった違和感に、アムロはかろうじて我に返ることができた。

 この展開は、まずい。

 

“――大佐、危ない!”

 

 ゲルググを押しのけて、エルメスがガンダムの前に立ちふさがった。

 ビームサーベルの切っ先がエルメスのコクピットに迫る。

 ララァの身体は脱出装置によりシートごと後方に運ばれる。

 ララァは、前面コンソールが外側から溶解し、膨れて溶けていく様をストップモーションのように見て取った。

 

 次の瞬間、ララァは光に包まれ絶叫する。

 

   * * *

 

 ララァは自分の意識が宇宙に拡散していく様を見た。

 

 

 

 

 銀河に浮かぶ草原と山々。

 

 

 

 

 駆けていく二つの人影は、自分とアムロだろう。

 

 

 

 

“人は、変わっていくのね…私たちと同じように”

 

 

 

 

“アムロは、本当に信じて?”

 

 

 

 

 ララァの問いかけに答えはなかった。

 

 ララァは、後ろを振り返ってみる。

 

 後ろを駆けている筈のアムロがいない。

 

 

 

“…アムロ?”

 

 

 

 アムロは宇宙に浮かぶ草原の向こうで、ララァを呼んでいた。

 

“おーい、ララァ。帰ってこい。君は死んでなんかいないんだから”

 

“え?”

 

 戸惑いながら、ララァはふと空を見上げた。

 

 巨大な隕石が、高熱をまとい降ってくる。

 

 空が落ちてくるかのようだ。

 

 その岩壁にへばりつきロケットノズルを吹かす白いモビルスーツの小さな姿が、ララァには見えた。そして、その手元近くに埋もれた、さらに小さな赤い球体。

 

 ララァは、すべてを理解した。

 

“あ――ッ!!”

 

 ララァは再び絶叫した。

 

   * * *

 

 戦場だった宇宙空間で動きを停めたエルメスに、ガンダムが不安げに寄り添っていた。

 

“ララァ、しっかりしろ。怪我もないだろう?”

 

 呼びかけてくるアムロの思惟に、ララァは目を覚ました。

 

“アムロ…私は一体…?”

“ビームサーベルをオフにした。すまない、コクピットは押しつぶしてしまったかもしれないが…なんとか間に合ったみたいだな”

“大丈夫…二度目はなんとかなったようね、アムロ。最初の時もこうしてくれればよかったのに”

“まったくだ” 

 

 全てを理解したララァの軽口に、アムロは苦笑する。

 ララァは、エルメスのコクピットに開いた大穴から宇宙を見ながら頭を振った。

 

「アムロ…私、刻を見てしまったわ…」

「なら、俺の言うことが理解できるか、ララァ?」

「ええ。…あんなことをするなんて…大佐らしいわ」

「だが、奴のエゴで地球も大勢の人間も死なせていいわけはない。力を貸してくれるか、ララァ」

「私は大佐の役に立つと決めているわ」

 

 ララァの眼前の穴の向こうに、ガンダムが現れた。腹部の装甲が開き、コクピットにアムロの姿が見えた。

 アムロは、ララァを見据えて言った。

 

「なら…ララァ。シャアを頼む」

「わかったわ、アムロ」

 

 二人のニュータイプは、ついに共感と理解を果たした。

 

   * * *

 

「ウォオオオオーーッ」

 

 シャアは絶叫し、ゲルググのコンソールに拳を振り下ろした。

 

「アルテイシア…取り返しのつかないことを…取り返しのつかないことをしてしまった…大切な人を…実の妹を、この手で殺してしまった…」

 

 シャアとセイラ、いや、キャスバルとアルテイシア、二人の未熟なニュータイプは、今際の際の別れの交感すら叶わなかったのだ。

 

 決死の覚悟で宇宙遊泳をしてきたララァが、ゲルググのハッチを叩きながら必死にシャアに呼びかけている。

 その呼びかける声すら、今のシャアには届いていなかった。

 

 

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