アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第二部 廻 戦士
第17話 ガンダムまた大地に立つ!!


  

 訳が分からなかった。

 いや、一度目のタイムスリップだって訳がわかっているわけではない。だが、何故ア・バオア・クー宙域にいた自分が再び…いや、三度サイド7にいるのだ? 

 

”…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ”

 

 ザクのパイロットの思念がアムロの中に流れ込んできた。マシンガンの銃口がガンダムに向けて鈍く光る。だが、今のアムロはそれどころではない。

 

「うるさい! 引っ込んでいろ!」

 

 ガンダムの右拳がザクの頭を殴りつけた。強大なパワーにザクの巨体が大きく揺らぐ。

 

「うぁあああああっ!」

 

 アムロの気合とともにガンダムの左腕がビームサーベルを抜き放ち、そのままザクの胴体を袈裟切りにした。

 

“――しまった!”

 

 アムロはガンダムのロケットノズルを全開にして距離を取る。推進剤が発火したザクは爆発を起こし、サイド7の大地に宇宙までつながる巨大な亀裂を造った。最初の時と違い、地表での爆発はサイド7にアムロが知る以上のダメージを与えていた。

 

“――父さん?!”

 

 アムロは、テム・レイの気配が宇宙に吸い出され遠ざかっていくのを感じた。

 

「何をやっているんだ、俺は!」

 

 迂闊なヘマにアムロは苛立ちつつ、もう一機のザクに目を向ける。仲間をやられた怒りに任せて突進してくるはずのザクは、ガンダムの動きと攻撃力…いや、アムロの迫力にたじろいだのか立ちすくむばかりで向かってこない。

 

「ええい!」

 

 アムロは自分からザクに駆け寄り、逃げる間も与えずサーベルでコクピットを貫きその動きを止めた。

 崩れ落ちて屍となったザクを見下ろしながらため息をつき、握りしめていた操縦桿から手を放し額の汗をぬぐう。

 メインカメラを回して、静けさを取り戻したサイド7の惨状を見渡してみる。

 

「…どうする…これから!」

 

 アムロはいら立ちを隠せず独り言ちた。

 

   * * *

 

 声だけでテンパっていることがよくわかるブライトに言われるまま、アムロはガンダムのパーツをホワイトベースへ搬入する作業を続けていた。

 しかし、心は此処にあらず、である。

 今、アムロはガンダムで無人のガンタンクを支えながら、サイド7の外壁の内側にあたる大地から宇宙港へ昇る巨大なエレベーターに載っている。

 

 アムロ・レイ、29歳。

 地球連邦軍外郭部隊ロンド・ベルMS隊隊長。

 階級は大尉。

 地球へ落下するアクシズの破片を押し戻そうと巨大な岩塊に取りつき、最期の瞬間にタイムスリップして再び宇宙世紀0079を生きる破目になった男だ。そして今、三度目のガンダムでの初陣を済ませた。

 

 これが、アムロが知る自分自身である。

 しかし、今の自分はサイド7で少しばかり有名だったらしい、機械いじりが好きな15歳の少年だ。サイドモニターの電源を落として暗い画面に映してみた自分の顔は、乳臭ささえ残る少年の顔である。

 

「どうやら俺は…意識だけが昔の自分に戻ってしまったのか? それも、また、だ!」

 

 アムロはもともとの気質がリアリティを重んじる技術者タイプである。

 そして、長く戦場で生きてきた軍人だ。

 どんな予想外のあり得ないことが起きてもそれを受け入れ迅速に判断し、対応してきたから生き延びることができた。

 その一方で、ニュータイプ同士の意識の共有と刻の間を見るなどという、まるで科学的ではない超常現象も体験している。

 それはアムロ自身、自分の体験でなければオカルトだと思うような話だ。

 しかし、この矛盾からできていると言っていい自身の成り立ちが、意識だけが若い頃の自分へタイムスリップするなどという信じられない状況を、アムロに現実として受け入れさせていた。

 

 …ただし、それは一度目の時は、である。

 さすがに二度目ともなると、そう簡単に現実として受け止めることはできなかった。

 いや、受け止めることはできている。正確に言えば、何故またなのだという怒り、だろう。

 通信のコールが入り、モニターに齢若いブライトの硬直した顔が映ってもアムロは笑うどころではなかった。大体この三ヶ月、19歳のブライトとはさんざん顔を突き合わせていてもう見飽きている。

 

『聞いているのか、アムロ! やり方はわかるのか!』

「ああ、スーパーナパームを使うなら大丈夫だ」

 

 アムロは不機嫌を隠すことも忘れたまま乱暴に答えた。

 

『…ならさっさと始めてくれたまえ。出港まで時間がないのだ。急げよ!』

 

 ブライトの冷ややかな怒りにも気づかず、アムロはスーパーナパームを探しにホワイトベース内の倉庫へとガンダムを向かわせた。

 見つけたスーパーナパームをガンダムの小脇に抱えてサイド7に戻る最中、アムロは民間人ともみ合うジオンの兵士らしきノーマルスーツの男を見かけた。

 

“――シャアだ!”

 

 急いでガンダムで駆け寄ったが、ランドムーバーを駆るシャアは小回りを利かせて飛び回り、そのまま姿をくらましてしまった。アムロは舌打ちし、足元でガンダムを見上げる民間人に目をやった。

 

”セイラさん…か!”

 

 ガンダムのカメラ越しに、アムロはセイラに目を奪われた。

 ひとつ前の前生で、兄・キャスバルに殺された金髪の美少女。

 アムロはセイラの断末魔の意識の拡散を思い出した。

 絶望や悲しみに囚われる間もなく、一瞬の恐怖ととてつもない痛みを受けてその思惟は宇宙に広がっていったのだ。

 

 そして、アムロは思い出していた。

 タイムスリップした自分の成すべきこと、である。

 

 ホワイトベースの仲間たちを守り、シャアをスペースノイドの希望とする。

 

 …

 アムロは再び決意した。

 また転生した理由は、わからない。

 わからないが、もう一度宇宙世紀の歴史を創り直せというのなら、それをやる。

 それだけだ。

 助けることのできなかったセイラも、今度は死なせない。

 アムロは自分の中に沸々とこみ上げてくる光の力を感じた。

 

「…モビルスーツの方。どうなさったのです?」

 

 近づいてきたものの立ちすくむガンダムを見かねて、セイラが声を掛けてきた。その声にアムロははっと我に返る。

 

『スーパーナパームを使います。この辺りにあるモビルスーツのパーツを処分するんです。ガンダムの手に乗って寝そべってください』

 

 アムロはガンダムの掌を操作し、セイラの身体を潰さぬように包み込んだ。ブライトに先程の非礼を詫び、逃走したシャアのことを報告しながら港へと移動する。巨大エレベーターにガンダムを載せながら、アムロはガンダムの掌に寝そべるセイラをちらりと見つめ、3度目の宇宙世紀0079に決意を新たにした。

 今度はこの金髪の少女も守り抜いて、皆が幸せな宇宙世紀を築き上げるのだ。

 アムロの心は志と希望に満ちていた。

 

   * * *

 

 五日後、ガンダムは大気圏突入に失敗し、アムロ・レイは燃え尽きて死んだ。

 

 

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