大気圏突入による電波障害で、アムロはホワイトベースから孤立した。
思わずため息をつく。
今度こそは時間内にホワイトベースに戻ると心に決めていたのだが、やはり戦いに時間がかかった。ガンダムで大気圏突入する羽目になるのは、避けることのできない固定イベントなのだろうか。
ホワイトベースの進路がどうなったのか気になるところだが、今は確認する術もない。それよりも、今は我が身の心配だ。
アムロはガンダムの操縦マニュアルをめくった。大気圏突入の手順はかなり後ろの方に載っている。
「あった。大気圏突破の方法が…」
アムロはページを読み込み、あらためてため息をついた。
また耐熱フィルムだ。
勿論この出撃前に、装備されている大気圏突入機能が耐熱フィルムであることは確認している。別に無事に大気圏突入ができるのなら問題はない。問題はないが…なにかこう…耐熱フィルムで大気圏突入をしているガンダムを想像してみると、アムロは非常に複雑な気分になるのだ。あくまでもイメージなのだが、リアル感に乏しいとでも言うのだろうか。しかし技術的にはこちらの方が理にかなっていて現実的な気もするし、とにかくアムロは何ともデリケートな気分にさせられるのだ。
いや、そんなことを考えている暇はない。
ガンダムのコクピットはすでに温度が上昇してきている。
アムロは思考を停止して、マニュアルどおりに大気圏突入シークェンスを開始した。
「…姿勢制御。冷却シフト。全回路接続…耐熱フィルム!」
ガンダムは下腹部のポケットから耐熱コーティングが施された巨大なシートを展開し、大気が生み出す高熱から逃れようと…した。しかし、ガンダムの右手は何も掴むことなくフリーズした。コクピット内に緊急ブザーが鳴り響く。
「なに? どういうことだこれは? …エラーコード099? 耐熱フィルムが積み込まれていない、だと…?」
アムロは必死で大気圏突入シークェンスを何度も繰り返した。しかし、その度にガンダムは虚しく指をつまみ合わせ、動きを停める。物理的に搭載されていない物は、何度やったところで取り出せるわけはないのだ。
「どうなってるんだ、いったい! メカニックの連中は何をやっていた! …駄目だ、うわぁっ!!」
ガンダムのコクピット内は目に見えるほどに赤熱化し、大きく揺れながらあちこちで火花を咲かせた。ガンダムの機体各所が大きくかしいでいく。
その頃、シャアはコムサイの操縦室でモニター越しにガンダムの様子を窺っていた。
「あのモビルスーツはなんとか手に入れたかったが、やむを得んな。破壊できるだけでも良しとしよう。ドレン、無線が回復したら大陸のガルマ大佐を呼び出せ」
「ようやくわかりましたよ、シャア少佐。よしんば大気圏突入前に敵を討ち漏らしても、敵の進入角度を変えさせて我が軍の制圧下の大陸に木馬を引き寄せる、二段構えの作戦ですな」
「戦いは非情さ。そのくらいのことは考えてある」
シャアは乱れる映像の向こうでガンダムが爆散していく様を、仮面の下でドヤ顔を決めながら見つめていた。
シャアは、名も知らぬガンダムのパイロットの断末魔の叫びを聞いたような気がした。
――――――◇ー◇ー◇――――――
“…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ”
流れ込んでくるジーンの思念をアムロは感じ取った。マシンガンの銃口がガンダムに向けて鈍く光る。だが、今のアムロはそれどころではない。
「! なんだ、此処は! …まさか、またか?!」
此処は…今は、宇宙世紀0079の9月。サイド7。2機のザクと戦ったアムロ・レイ初陣の時だ。
……
…
「出てくるなら早く出てくれよ」
宇宙要塞ソロモンの内部に侵入したアムロとガンダムは、ドズル・ザビ中将の気配を追っていた。
『うわあーっ!!』
『ビ、ビームが。ば、化け物だーっ!!』
通信機に飛び込んできた絶叫が、アムロに敵が近いことを教えた。
「いたか! 確かめてやる」
ガンダムはモビルスーツ用の巨大な通路を進んでいく。やがて、前方の十字路にぐずぐずに溶解したジムとボールの残骸が見えた。
「遅かったか。――むこうか!」
アムロは額に電気をスパークさせながら、ガンダムに十字路を折れさせた。
モビルスーツ用の通路は数百メートル先で、上下に伸びた巨大な発進口に繋がっているようだ。そこに、巨大な鉄柱のようなものが動いているのが見える。
“あそこか、ビグ・ザム! 間に合った!”
連邦軍の艦隊に特攻される前にビグ・ザムを叩くことができれば、甚大な被害を未然に防ぐことができる。アムロはガンダムを駆けさせた。が、次の瞬間、アムロのニュータイプ能力は自身に自分の死を悟らせた。
“――しまった!”
おそらくビグ・ザムは脚を折って屈むようにして高さを合わせたのだろう。通路の先に巨大な砲口が覗き、解放を待ちきれない無数のメガ粒子の光が一つの強い光芒となった。人間感覚では巨大な通路も、モビルスーツには逃げ場のない細い一本道だ。ガンダムは無駄を承知でシールドをかざす。
物理的な力とさえ言っていい光の柱に飲み込まれて、アムロとガンダムは消滅した。
――――――◇ー◇ー◇――――――
“…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ”
流れ込んでくるジーンの思念をアムロは感じ取った。マシンガンの銃口がガンダムに向けて鈍く光る。だが、今のアムロはそれどころではない。
「! なんだ、此処は! …まさか、ま(ry
……
…
中央アジア、砂漠地帯。
ホワイトベースはランバ・ラル隊の艦内への侵入を許し、兵士と兵士が互いに生身をさらす、血みどろの戦いを続けていた。
“…まったく、この展開になるとは、今度のやり直しときたら…!”
拳銃を手に通路を掛けていたアムロは、ジオンの兵士と出合い頭に取っ組み合いになった。
鍛え上げられた屈強な兵士に、インドア派のハイスクールの生徒の体力が太刀打ちできるわけはない。
顔面を思いきり殴られ、さらに床へと投げ飛ばされた。
「…くっ!」
兵士の持つアサルトライフルの銃口が目の前で鈍く光るのを、アムロは見た。
ダダダダダッ!
アムロの意識は、瞬時に消し飛んだ。
もう一発、銃声。
最後に、硝煙の立ち上る拳銃を片手に走り寄ってくるブライトを見たような気がする。
「アムロ! しっかりしろ! ガンダムをセイラと代われ。第2ブリッジの敵をガンダムで撃退するんだ! アムロ! アムロ―――!」
――――――◇ー◇ー◇――――――
“…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ”
流れ込んでくるジーンの思念をアムロは感じ取った。マシンガンの銃口がガンダムに向けて鈍く光る。だが、今の(ry
……
…
「もう剣を引け! 汚い手しか使えないお前はもうパワー負けしている!」
ガンダムはテキサスコロニーの宙域で、尖った細い角を頭に付けた灰色のモビルスーツと、剣戟を振るいあっていた。
なかなか姿を現さず、僚機に牽制させて宇宙機雷が撒かれた宙域に誘い込んだりする小賢しいパイロットの戦い方に、アムロは苛立っていた。
「ええい!」
アムロは思い切りよくロケットノズルを吹かし、一気に敵モビルスーツに肉薄した。
灰色のモビルスーツはシールドをかざし、身を隠す。
「無駄だ!」
ガンダムはビームサーベルで一気呵成に切りかかる。
“フフフ。かかったな、ガンダム”
ドコドコドコッ!
「うわぁっ、盾からミサイルが! だまされたあっ!」
「もらったぞ、ガンダム!」
つんっつんっつんっ!
どかーん!
マ・クベ、アムロとガンダムに三勝目。
――――――◇ー◇ー◇――――――
“…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスーツ”
流れ込んでくるジーンの思念をアムロは感じ取った。マシンガンの銃口が(ry
……
…
“聞け、シャア!”
ガンダムは振り向きざまに、エルメスが操るビットを撃破する。
連邦とジオンの決戦の場となるア・バオア・クーへ向かう宙域で、アムロと、ララァと、そしてシャアは戦っていた。
連邦の白き流星に、ジオンの赤い彗星とソロモンの亡霊が猛攻をかける。
“ニュータイプを戦いの道具にするな! お前だって人の革新を見たいんだろうが!”
“なんなのだ、この不快な感覚は!”
“…あそこに、アムロと兄さんが…?”
“――セイラさんか? 此処は危険だから! 頼むからもう来ないでくれ!”
シャアの説得を続けながら、アムロの知覚は接近してくるもう一つの思惟を感じ取った。セイラのコアブースターが、アムロ達が戦う宙域に闇雲に飛び込もうとしている。
“! 駄目だ、シャア!”
アムロは叫んだ。
「なに?!」
アムロの強い思念の叫びに、ゲルググのビームナギナタの刃は、かろうじてコアブースターのキャノピーを焼かずに避けて宇宙の虚無を切った。アムロは安堵する。しかし、ララァはアムロのその隙を逃さなかった。
“ごめんなさい、アムロ! あなたの来るのが遅すぎたのよ!”
ほんの一瞬動きを停めたガンダムを、ビットの放ったメガ粒子の光線が四方から刺し貫いた。
“――ララァ!”
アムロは絶叫する。
“私は救ってくれた人の為に戦っているわ”
“たった、それだけの為に?”
“それは人の生きる為の真理よ”
“では、この僕達の出会いはなんなんだ?”
“これは? これは運命なのよ、アムロ!”
“うわぁあ――ッ!”
ガンダムとともに、アムロの身体は爆散し消失した。
――――――◇ー◇ー◇――――――
“…ははっ、怯えていやがるぜ、このモビルスー(ry
……
…