アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第2話 再会、父よ…①

 声だけでテンパっていることがよくわかるブライトに言われるまま、アムロはガンダムのパーツをホワイトベースへ搬入する作業を続けていた。

 しかし、心は此処にあらず、である。

 今、アムロはガンダムで無人のガンタンクを支えながら、サイド7の人工の大地から宇宙港へ昇る巨大なエレベーターに載っている。

 

 アムロ・レイ、29歳。

 地球連邦軍外郭部隊ロンド・ベルMS隊隊長。階級は大尉。

 

 これが、アムロが知る自分自身である。

 しかし、今の自分はサイド7で少しばかり有名だったらしい、機械いじりが好きな15歳の少年だ。サイドモニターの電源を落として暗い画面に映してみた自分の顔は、乳臭ささえ残る少年の顔である。

 

「どうやら俺は…意識だけが昔の自分に戻ってしまったのか?」

 

 アムロはもともとの気質が理論とリアリティを重んじる技術者タイプである。

 そして、長く戦場で生きてきた軍人だ。

 どんな予想外のあり得ないことが起きてもそれを受け入れ迅速に判断し、対応できてきたから生き延びることができた。

 その一方で、アムロはニュータイプ同士の意識の共有と刻の間を見るなどという、まるで科学的ではない超常現象も体験している。

 それはアムロ自身、自分の体験でなければオカルトだと思うような話だ。

 しかし、この矛盾からできていると言っていい自身の成り立ちが、意識だけが若い頃の自分の肉体へタイムスリップするなどという信じられない状況を、アムロに現実として受け入れさせていた。

 

”もともとの俺の方はどうなったんだろうな…“

 

 宇宙世紀0093。

 地球へと落下するアクシズの破片に取り付き、全開でスラスターを吹かしていたのはアムロの主観ではそれほど前のことではない。

 大気圏突入の摩擦熱でνガンダムは灼熱化し、いつ爆散してもおかしくはなかった。

 

”いや…爆散したんだろうな。つまり、俺は死んだってことか…。シャアはどうなった?”

 

 自問してみるが、答えは一つだ。

 νガンダムとアムロがアクシズに押し付けたシャアの脱出ポッドは、アムロの意識が15歳の身体へ跳んだ直後に爆散したのだ。

 そしてアクシズの欠片は地球の大地に激突し、地殻すらも砕き、人類の母なる星は急速な寒冷化に見舞われた…。

 

”結局、シャアの勝ちだったっていうことか。だが…何故、俺は今、此処にいる?”

 

『アムロ。ガンダムのパイロット。聞こえているか?』

 

 自問自答が今の自分の存在意義に及んだ時、固く乾いたやや甲高い男の声がアムロの思考を遮った。

 正面の小さなサブモニターに、痩せぎすで見るからに神経質そうな中年男の顔が映った。

 

「父さん!」

 

 それは、14年ぶりに会う父、テム・レイだった。

 

『おお、アムロか、よくやったな。さすが私の造ったガンダムだ。ジオンのモビルスーツなぞ敵ではないな』

「父さん…生きてるんですね」

『当たり前だ。それよりアムロ、ガンダムでFの第7区画のパーツを優先的にホワイトベースへ運べ。キャノンやタンクのパーツなぞ後でいい。ガンダムが最優先だ。わかったな』

 

 言うだけ言って、テム・レイは一方的に通信を切った。アムロは呆然と取り残される。

 

”父さん…宇宙へ放り出されなかったんだな。よかった…”

 

 一年戦争が終わった後、アムロはサイド6で再会した父がジャンク屋の階段から転落して死んだことを聞かされた。

 不思議と感慨はなかった。

 ただ、心の何処かに持って行き場のないどんよりとした思いが残った。

 それから何年かの間は、父との数少ない思い出さえ受け入れることができないでいたものである。

 だが、それももう昔の話だ。

 今のアムロはわだかまりなく父のことを考えることができるようになっていて、そして宇宙世紀0079の9月であるならば当たり前のことなのだが、父がこうして生存していることを素直に嬉しく思っていた。

 

”待てよ…今、サイド7に父さんがいるってことは、俺は…歴史を変えてしまったんじゃないのか?”

 

 アムロの背筋に悪寒が疾った。

 歴史の改変をしてしまったかもしれないという事実は、アムロに耐えがたい不安と恐慌を招いた。

 

”どうする? 元の時代に戻れたとしても、俺が知っている宇宙世紀とはまるで違う世界になってしまっているかもしれないぞ…。いや、元の世界はそのままで、パラレルワールドができたのか…?”

 

 パラレルワールドが生み出されたのなら、元の世界が改変されたわけではないだろうからそれほどの問題ではないような気がする。

 だが、世界の理を乱したという点では、やはり犯してはならない暴挙のようにも思える。

 

”いや…歴史には改ざんされても元に戻ろうとする修復力があるって説もあるぞ…。どうする? 俺はこの後、どう動いたらいい?”

 

 再び通信のコールが入った。

 サブモニターに、小さな目にさらに白目の少ない青年の硬直した顔が映った。

 アムロの長き戦友、ブライト・ノアだ。

 ただし、19歳である。

 アムロはそれまでの焦燥を忘れて噴き出しそうになった。

 10数年後、核ミサイルを持ち出し地球の命運をかけた戦いを繰り広げる連邦軍歴戦の名将の容貌は、この頃からまるで変わっていない。

 決戦に向けて「皆の命をくれ」とまで言った男も、今はテンパってアムロに怒鳴り散らしてくる若僧だ。

 アムロは笑いをこらえながら青いブライトを適当にいなし、人とはわからないものだな、としばし感慨にふけってしまったのだった。

 

『聞いているのか、アムロ! やり方はわかるのか!』

「ああ、すまない、ブライト…さん。スーパーナパームを使うなら大丈夫だ…です」

 

 まだ追いかけてくるブライトの叱咤を聞きながら、アムロはスーパーナパームを探しにホワイトベースの倉庫へとガンダムを向かわせた。

 

    * * *

 

 見つけたスーパーナパームをガンダムの小脇に抱えてサイド7に戻る最中、アムロは民間人ともみ合うノーマルスーツの男を見かけた。

 急いでガンダムで駆け寄ったが、ランドムーバーを操るジオンの兵士は小回りを利かせて飛び回り、そのまま姿をくらましてしまった。

 アムロは舌打ちし、ガンダムの足元からこちらを見上げている民間人に目をやった。

 

”セイラさんか!”

 

 一年戦争が終結しホワイトベース隊が解散してから、結局アムロはセイラと再会することはなかった。

 14年ぶりに再会したセイラは、アムロが知る十代の少女のままだ。

 しかし金髪の美少女の眼差しは相変わらず、カメラ越しにでさえわかるほど他人を拒むかのように硬く厳しく、いっそ冷徹にさえ見える。

 

「モビルスーツの方。どうなさったのです?」

 

 近づいてきたものの立ちすくむガンダムを見かねて、セイラが声を掛けてきた。アムロははっと我に返る。

 

『スーパーナパームを使います。この辺りにあるモビルスーツのパーツを処分するんです。ガンダムの手に乗って寝そべってください』

 

 アムロはガンダムの掌を操作し、セイラの身体を潰さぬように包み込んだ。逃げたジオンの兵士のことをブライトに報告しながら、港へと移動する。

 

”参ったな…この齢になってもセイラさんには頭が上がらないか”

 

 一連の作業を続けながら、頭の片隅でそんなことを考えアムロは苦笑した。

 

 巨大エレベーターに載り港を目指しながら、出力を絞ったビームライフルでスーパーナパームに点火する。戦うことなく破壊されたモビルスーツの残骸たちが、悼む炎に包まれていく。やがてエレベーターが停止し、宇宙港へ続く隔壁が少しずつ開き始める。その隙間を縫って先ほどのジオン兵士が脱出していくのを、アムロの目は捉えた。

 

「! シャアか?!」

 

 アムロは突然、自分から遠ざかっていくジオンの兵士がシャアであることに気づいた。

 すぐにもコクピットから飛び出して後を追いたかったが、今のアムロはノーマルスーツを着ていない。歯噛みしながら隔壁が開くのを待ち、掌のセイラを気密エリアに降ろす。

 出港しようとするホワイトベースとともにガンダムで宇宙に出た時には、シャアの姿は最大望遠の映像でもかろうじてしか捉えられないほどにサイド7から遠ざかっていた。

 

”ええい! どうして俺はあれがシャアだと気が付かなかった!”

 

 照準器越しに、ぶれるシャアの後姿を睨みつけながらアムロは歯噛みした。

 

 

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