アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第27話 メビウスの刻を超えろ

 

 一年戦争を『正史』でクリアしたアムロは、満を持して行動を開始した。

 すべてに万全の対応をし、自分が助けられる人々はすべて助けてア・バオ・クーを迎えることができた。父もラル夫妻もマチルダ夫妻もリュウも、カイが匿った少女もスレッガー中尉も、もちろんララァもセイラもシャアも、すべて健在である。

 燃えさかるア・バオア・クーから仲間たちを導きその脱出を確認してから、アムロは別れのメッセージを彼らに贈った。

 

 アムロはジオンに投降したのである。

 

 ジオングとの決戦でガンダムのダメージを最低限にとどめたアムロは、ガンダムを持ってそのままジオンに降ったのだ。

 シャアの庇護があったとはいえ、敗走でただでさえ混乱しているジオンに『連邦の白い悪魔』が投降することはあまりに予想外かつ危険な行動と言えた。

 友の仇と嬲り殺しにされる可能性もあったし、その不可解な行動は後に連邦軍からも疑義がかかる可能性が高い。だがアムロは、7年の歳月を半ば幽閉されて過ごす愚をまた犯すことはできなかった。アムロもまた、スペースノイドの自由とニュータイプの時代を創るために戦わねばならないのだ。

 シャアはララァとともに、アクシズへ向かう艦隊と合流した。

 そのシャアの別れ際の尽力により、アムロはどうにかジオン本国へ向かう艦に移乗することができた。サイド3に辿り着き、これもシャアの口利きでジオニック社に接触、『ノボル・ソウゲツ』というモビルスーツのテストパイロットの籍を手に入れた。戦後、ジオニック社はアナハイム・エレクトロニクス社に吸収され、『ノボル・ソウゲツ』もアナハイムの人間となった。

 

 躍進するアナハイム社のMS開発部門でテストパイロットを務める『若き天才』ノボル・ソウゲツはすぐに頭角を現し、より中枢に近い計画に携わるようになった。

 日進月歩するMS開発に、ノボルも積極的に関わった。これから起こる戦乱に強力なMSは欠かすことはできない。アナハイム社でMS開発に関わるということは、敵陣営に渡る技術の開発に関わることでもある。しかし、アナハイム社が戦争を操る闇商人として君臨していく歴史の流れを覆すことはできそうになかったし、アナハイム社に秘匿されていく技術に関わることや、そこで培われる人脈は有益なものだとノボルは判断した。また、最新の機体のテストパイロットという仕事は、ノボルにとっても充実を得られる貴重な時間でもあった。

 

 しかし、時代は再び、さらに不穏な臭いを強くしていく。

 ティターンズが勃興し、ノボルはララァの気配を感じてシャアの帰還を知る。

 また30バンチ事件が発生したことは、アナハイムの情報網とノボルの人脈により早期に知ることができた。

 ブレックス・フォーラ准将と、クワトロ・バジーナ大尉がエゥーゴを立ち上げる。

 そして、グリプス戦役が勃発した。

 この戦いの趨勢は本来の『正史』とほぼ変わることはなかった。

 アナハイム社の人間であるノボルは戦線に加わらなかったので、クワトロ・バジーナ大尉と再会することはなかった。

 『アムロ・レイ』がいないことは歴史の流れに影響はあったはずだが、グリプス戦役からネオ・ジオン戦争においては『アムロ・レイ』はさほど大きな影響は与えていない筈だった。実際、この時期の『アムロ・レイ』の不在は、時の流れの修復力に打ち消される程度だったようだ。

 

 戦役の最中、クワトロ・バジーナはその正体を明かす。

 そして、戦いの終結とともに行方不明となる。

 引き続き勃発したアクシズ…ネオ・ジオン戦争中、シャアの消息が知れないのは本来の『正史』と同じだった。しかし、ノボルは焦ることはなかった。シャアが歪むことはないと確信していたのだ。

 

 そして、宇宙世紀0093年。

 スウィート・ウォーターで、シャア・アズナブルがついに立った。

 難民救済政策により生まれたコロニーで政治家として立身し、行政長となったのである。これを知ったアムロは『ノボル・ソウゲツ』の名を捨て、アナハイム・エレクトロニクスから出奔した。

 『アムロ・レイ』に戻ったアムロは、サイド3を経由しスウィート・ウォーターへと渡った。

 シャアを支えるシンパたちと合流する。

 かつてジオンに投降し本国に辿り着いた時に出会ったランバ・ラル夫妻とはこの時再会し、シャリア・ブルとも初めて対面した。

 

 シャアのシンパは政治家としてのシャアに賛同した言わば『表社会』の者たちのほか、ネオ・ジオン戦争の後に瓦解したエゥーゴやカラバのメンバー、一年戦争からシャアに付き従う古参の部下たち、そしてキャスバル・レム・ダイクンを知る父の代からの重臣と様々な者たちがいた。

 かつてのホワイトベースの乗員たちの名前もあった。

 その運命が変わるようにとアムロが影で尽力したハヤトはカラバからの流れでシャアと志を同じくし、カイはジャーナリストの立場から、時にシャアを支持し自身が信じる未来を求めた。セイラは…正しい道のりで父の跡を継ぐシャアに、複雑な思いはあれど本来の『正史』ほどには厭世家になっていないのか、遠回しながら資金援助や財界等のコネクションで支援をしている。

 

 シャアの側近と言える幹部たちの間で議論が重ねられた。

 結果、『裏方担当』のシンパはシャアと袂を分かつことになった。

 シャアが唱える『スペースノイドとアースノイドの融和』政策は、アースノイドはもちろん、過激なスペースノイドの集団からも敵視される可能性が高い。

 シャアは非暴力の元でスペースノイドとアースノイドの相互理解と協調を勝ち取らねばならないが、軍事力を行使してシャアを潰そうという勢力が現れるなら、対抗できる力は必要だ。『裏方担当』のシンパはスペースノイド解放武装過激派組織『ロンド・ベル』を名乗り、シャアとは無関係にこれを討つ役割を担うこととしたのである。主にジオン公国時代からのシャアの部下たちと、エゥーゴ・カラバ上がりの元軍人たちが『ロンド・ベル』に移籍した。

 

 『ロンド・ベル』のモビルスーツ部隊隊長となったアムロは、地球圏で起きる戦火にガンダムを駆って介入し、地球圏の真の統一を妨げる者たちと戦った。

 一番大きな戦いは宇宙世紀0096に起きた戦乱であろうか。

 「地球連邦議員まで上り詰めたシャア・アズナブルは偽物である」として『真のシャア・アズナブル』が蜂起した戦いは、封印されていた宇宙世紀憲章の解放を招いた。ロンド・ベルの活躍により解決したこの事件を追い風にして、シャアはさらに躍進する。そして宇宙世紀0100年の今、シャア・アズナブルは初めてのスペースノイド出身の地球連邦大統領となるべく選挙戦を戦い、あと数刻ですべてが決する。下馬評は、僅差ながらにシャアの勝利と見込まれていた。

 

   * * *

 

 使えそうな交換プラグの入った小箱を手に、アムロは高所作業車の架台に乗ってガンダムのコクピットへ向かった。架台はガンダムのすぐ近くを舐めるように上昇していく。間近で見るガンダムの装甲は傷だらけである。

 

“こいつも長く戦っているからな…”

 

 姿かたちは変わっているものの、この機体は正真正銘のガンダムである。

 ア・バオア・クーでジオンに投降した際、ガンダムはアムロとともにサイド3へと運ばれた。ジオニック社のシャアの知己は、アムロとシャアの希望に従い、10余年に渡りガンダムを隠匿していたのである。アナハイムを出奔したアムロはガンダムと再会し、ともにスウィート・ウォーターへと渡った。以来、ガンダムは修理を施され、アムロの愛機として幾多の戦場を駆けてきたのだ。

 

 試作機であるガンダムの純正補給パーツなど、ジオンはおろか、連邦軍内にいたとしても手に入る筈はなかった。

 ジムシリーズや横流しされたアナハイム製のガンダムのパーツ、その他、手に入る限りの最高最良のパーツでガンダムはレストアされ続けた。

 実のところ、オリジナルのガンダムのパーツはすでに一つもない。

 外観とて、ガンダムらしい意匠は見受けられるものの、面影はないと言っていい。

 胴体のコアブロックシステムはとうの昔に廃されジムⅡのそれをベースに原形をとどめない改造を施されているし、両脚はΖガンダムの規格落ち部品を強引に流用している。腕はジェガンとリガズィのそれを継ぎ接ぎ、頭部もカスタム仕様のジムのそれに取って付けたⅤ字アンテナがかろうじてこれはガンダムであると主張している始末だ。

 それでも、流石にフィンファンネルなどのサイコミュ兵装は搭載していないものの、バイオセンサー系は最新のものがこれでもかと搭載されている。

 アムロでなくては操縦できないとてつもなくアンバランスな機体ではあるが、この時代の最新型モビルスーツに匹敵する戦闘力を持つ冗談のような機体である。

 

 もちろん整備性は劣悪だ。

 『連邦軍系のモビルスーツの部品なら何でも使って当たり前』『戦場から帰還したこの機体をもう一度出撃させられるように整備できなけりゃアマチュア』などとメカマンたちから言われ放題のガンダムは、マークツーだゼータだダブルゼータだと『ガンダム』を冠する機体が数多く存在するようになったことから、いつの頃からか『テセウスガンダム』と呼ばれるようになっている。アムロに言わせればこれはガンダムでありガンダムはガンダムなのだが、『テセウス』という言葉の意味するところを知ったアムロは納得して、以降彼らがそう呼ぶことを咎めたりもしない。

 

 架台をガンダムの腹部で停止させ、アムロはコクピットにもぐりこんだ。

 つけっぱなしのテレビがガンダムの足元で歓声を上げる。

 選挙の結果が、出たらしい。

 

 

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