アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第28話 リング・オブ・ガンダム

 

「馬鹿な! こんなところでガンダムハンマーだと!!」

 

 ノックスとか言う戦禍を受けた街で無断借用した自転車のハンドルを握りしめ、アムロは思わず叫んだ。

 ディアナ・カウンターの一員として地球に降りてきたアムロは、たまたま目にした白いモビルスーツ…髭のガンダムに何故か心奪われ、その機体の後を追うように北アメリア大陸を放浪していた。アムロが知るいずれのガンダムとも違いながら、それでいてガンダムと思わせるホワイトドール…異形の機体が、アムロの目の前でガンダムハンマーを振り回している。

 

 髭のガンダムとガンダムハンマー。

 

 二つの衝撃がアムロの脳内を過電流となって奔り、長く長く混乱していた記憶の歯車を嚙み合わせた。

 

「――ガンダムハンマー、か…?!」

 

 そうだ。

 ア・バオア・クーで終わる『TV版』の世界…未来を閉ざされたあの世界で生きた時、俺は必ずガンダムハンマーを使っていなかったか?

 幾度もの大気圏突入の記憶がフラッシュバックする。

 間違いない。

 ガンダムハンマーだ。

 アムロは我知らず雄叫びを上げていた。

 

――――――◇ー◇ー◇――――――

 

「父さん! 応答してくれ!」

 

 サイド7に立つガンダムのコクピットで、アムロは通信機に叫んだ。

 

『なんだアムロ、私は忙しいんだ。言われていることをさっさとやれ』

 

 仕事に没頭している時のテム・レイはひときわ愛想がない。そんなテムの言葉を無視してアムロは叫ぶ。

 

「父さん、ガンダムの予備パーツ、Fの第七区画と言ったよな」

『私は忙しいんだ、アムロ』

「ガンダムハンマーはどのコンテナに入っているか、すぐわかるようになってるかい?」

『…何故おまえがその武器の名前を知っている?』

「…ああ、マニュアルに書いてあったんだよ! それより、なんてコンテナに入ってるんだ?」

『ちょっと待て…GB‐893のコンテナだな。アムロ、そのコンテナ…いや、Fの第七区画のコンテナは必ずホワイトベースに搬入しろ。いいな』

「どうして!」

『ビームライフルの交換パーツや予備のビームサーベルが入っている。あそこのコンテナがあるとないとでは、今後の戦いがまるで変ってくるぞ。ビームライフルとビームサーベルはジオンのモビルスーツは使えない、ガンダムだけの武器だからな』

「なんで最新兵器とハンマーを一緒にしてあるんだよ!」

「万が一ということもある。原始的な武器はいざという時の信用度が高いからな」

 

 アムロは納得した。

 『TV版』の世界では、テムの言う『万が一』が起こったのだろう。

 大気圏突入時の戦いで使えるビームライフルが一丁もなくハンマーを使う羽目になるのは、恐らくそういうことだ。

 なら、大気圏突入の戦いでガンダムハンマーを使わなければ、自分が生きていく世界を『正史』にすることができるのではないか? 

 

『アムロ、どうした! 何をやっている』

 

 通信用のモニターに映ったブライトが、冷静を装いきれず怒鳴るようにアムロに呼びかけてきた。

 

「ああ、すまない、ブライトさん。すぐに搬入作業を続けます」

『…出港まで時間がないのだ。搬入はできる限りでいい、急げよ!』

「了解」

 

 アムロはGB-893のコンテナを、スーパーナパームで廃棄した。

 

   * * *

 

 ア・バオア・クー宙域。

 連邦軍とジオンの、互いに総力を結集した泥沼のような戦いが繰り広げられている。

 そして、アムロはシャアと、もはや幾度目かもわからぬガンダムとジオングの戦いを繰り返していた。

 

“こう近付けば四方からの攻撃は無理だな、シャア! 頼む、俺の話を聞いてくれ!”

“私も低く見られたものだな。この程度のことができないと思われるとは。なぁララァ”

「なにっ!」

 

 ジオングの有線サイコミュハンドのビームが、ガンダムをピンポイントで狙撃した。

 

「うわっ!」

 

 ガンダムは、幾度目かもわからぬ爆散で宇宙に散った。

 

――――――◇ー◇ー◇――――――

 

 …

『アムロ、どうした! 何をやっている』

 

 通信用のモニターに映ったブライトが、冷静を装いきれず怒鳴るようにアムロに呼びかけてきた。

 

「わかっている! すぐに搬入作業を続ける。少しは落ち着け、ブライト」

『俺は落ち着いている! …出港まで時間がないのだ。搬入はできる限りでいい、急げよ!』

「…了解」

 

 アムロはGB-893のコンテナを、スーパーナパームで廃棄した。

 

   * * *

 

「駄目だ。こんな危険なタイミングで戦闘など考えられん!」

「シャアが来るんだよ、父さん。俺がガンダムで出なくちゃホワイトベースは沈められてしまう!」

「例えシャアであろうと、大気圏突入まで数分しかないような状況で戦闘を仕掛けてきたりするものか。艦の指揮はブライト君に任せればいい。…どちらでもいい、せめてガンダムの大気圏突入装備があれば…」

「ないものは仕方がないさ。父さん、俺は行くよ」

「アムロ!」

「大丈夫、今度こそ大気圏突入前にホワイトベースに帰ってくるさ」

「…今度こそ…? おい、待てアムロ!」

 

 …どちらでもいい?

 テムの言葉がどこか引っかかったアムロだったが、今はそれにこだわる余裕はなかった。シャアはアムロに時間を与えてはくれない。アムロはパイロットシートに身体を納め、ガンダムに火を入れた。

 

 30分後、やはりホワイトベースへの帰還がならなかったアムロは、ガンダムとともに大気圏で燃え尽きた。

 

――――――◇ー◇ー◇――――――

 

 …

『アムロ、どうした! 何をやっている』

 

 通信用のモニターに映ったブライトが、冷静を装いきれず怒鳴るようにアムロに呼びかけてきた。

 

「…すまない、ブライトさん。すぐに搬入作業を続けます」

『あ、ああ…出港まで時間がないのだ。搬入はできる限りでいい、急いでくれ!』

「了解」

 

 アムロはGB-893のコンテナを、スーパーナパームで廃棄した。

 

   * * *

 

「…じぃ、ぱぁつ…なんですか、持ってきてくれたのは…」

 

 ミデア輸送機が運んできた新兵器を見上げて間抜けな声を出すアムロを、マチルダ中尉は一瞥した。

 

「コアブロックシステムを利用したガンダムのパワーアップメカです。このパーツがあれば、ガンダムはもっと強くなることができます」

「…コアブースターじゃないんですね…?」

「なぜ君がその機体の名前を?」

「いえ、なんとなく…」

 

 気もそぞろにGファイターの巨大な連装ビーム砲を呆然と見上げるアムロを見かねたように、マチルダ中尉はアムロに声を掛けた。

 

「…連邦軍でモビルスーツを開発するには、上層部で様々な確執がありました。その結果がこの機体…戦車としても戦闘機としても使える汎用性…妥協の産物かもしれませんが、これがなければガンダムの開発がなかったことも確かです。民間人の貴方たちに命懸けのモルモットになれと言うのは軍人として申し訳がないのですが…これが今のホワイトベースの戦力になることも確かです。今はこれで出撃してください、アムロくん」

 

 だが、マチルダ中尉の言葉も耳に入らず、アムロはGファイターを見上げ続けていた。

 

「ちょっと待て…これでは…また、誰も未来にたどりつけないんじゃないのか? これは…『TV版』の世界なんじゃないのか…?」

「? 生きてみんなを未来に導く…それが君の仕事でしょう? 頼りにしているわ、…アムロ」

 

 呼び捨てにして距離を縮めてくれたマチルダ中尉の厚意も、今のアムロは気づくことができなかった。

 

   * * *

 

『アムロ、聞こえるか。敵は水爆を使う』

 

 通信機から飛び込んできたブライトの言葉にアムロは耳を疑った。

 

「水爆! またか?! わかった。こちらで何とかする」

『データを送る。赤いところが水爆を爆破させるところだ。すれすれのところで叩き切ればいい』

「相変わらず雑な分解図だが…。ないよりはましだな、ブライト」

『? 一応南極条約の時の公開データだ。当てにしていい。水爆が本物なら此処もやられるんだ。やるしかない、アムロ』

「ああ…よし、ハヤト、行くぞっ」

 

 ハヤトが操縦するGメカに乗って、アムロとガンダムは水爆ミサイルを追った。

 発射されたばかりで初速の遅い水爆ミサイルを捉えるのは思いのほか簡単だった。

 だが、問題は此処からだ。

 

「やれるか…ヤ――――ッ!」

 

 ガンダムのビームサーベルが、水爆ミサイルを切り裂いた。

 

「え?」

 

 アムロの中に違和感が生じた。

 そして、東ヨーロッパの空に、巨大な茸雲が立ち上った。

 

「フフフ…愚かだったな、レビル。この戦いは私の勝ちだ。歴史は生き残った者が創るのだよ。ンフフ…ハーッハッハッハ!」

 

 成層圏から茸雲を見下ろすマ・クベの高らかな嘲笑が、宇宙に響き渡った。

――――――◇ー◇ー

 

 生と生の狭間の刹那で、アムロはふと思う。

 …ガンダムハンマーを使わなかったのに、今の世界は『TV版』だったんじゃないか? 

 

          ◇――――――

 …

 

「父さん! 応答してくれ!」

 

 サイド7に立つガンダムのコクピットで、アムロは通信機に叫んだ。

 

『なんだアムロ、私は忙しいんだ。言われたことをさっさとやれ』

 

 仕事に没頭している時のテム・レイはひときわ愛想がない。そんなテムの言葉を無視してアムロは叫ぶ。

 

「父さん、ガンダムの予備パーツ、Fの第七区画と言ったな! GB‐893のコンテナ、中身は何なんだ? 教えてくれ!」

『そんなことまで私がいちいち知っているわけがないだろう。いいから、Fの第七区画のコンテナはすべてガンダムで運び込め。死にたくなかったらな』

 

 死にたくなかったら、か。

 まったくだと毒づきながら、アムロはガンダムをFの第七区画へと向かわせた。

 其処には、今までどおりGB-893と書かれた淡いグリーンのコンテナがあった。アムロはガンダムを操り、めりめりと外装を壊して中を確認した。

 

「まずは…これか…」

 

 其処には、黒光りするガンダムハンマーが静かに眠っていた。

 そしてアムロは、そろりと視線を移し、隣に鎮座するコンテナを見た。

 こちらのコンテナも、ガンダムで破壊して中を調べる。

 アムロが探しているものは、なかった。

 次のコンテナを壊して、また中を調べる。

 ガンダムの奇行に搬入作業に励んでいた作業員たちが手を止め集まってくる中、アムロはコンテナの中身を調べる作業を繰り返した。

 そして。

 

「――!」

 

 コンテナの中で巨大なシートに包まれ眠るあれに…アムロの目は釘付けになった。

 

 耐熱フィルム。

 

 前生から持ち越した疑問が、アムロに閃きをもたらしていた。

 タイムリープした過去が『正史』か『TV版』か、これを確定するもの…それは、ガンダムハンマーではなかった。

 耐熱フィルムの方だったのだ。

 耐熱フィルムを大気圏突入の際に使用した時、アムロの生きる世界は『TV版』に確定していたのだ。

 

 耐熱フィルムを使用しなければ、アムロが生きる世界は『正史』に確定される。

 この時、シャアがスペースノイドのために正しく立ち上がり世界を統べることができれば、おそらくこの無限に繰り返されているタイムリープは終わる。

 条件クリアでミッションコンプリート、だ。

 だが、これまで幾度となく繰り返したタイムリープで『正史』に確定した例は必ずしも多くなかった。

 今後の戦いに備えて、アムロはなるべく多くガンダムの補給パーツをホワイトベースに搬入するようにしていた。後の戦いが少しでも楽になるようにと補給パーツを積み込めば積み込むほど、アムロは『正史』で生きる可能性を低めていたのだ。

 

 耐熱フィルムが納められたコンテナ。

 これをホワイトベースに搬入すれば、その世界は『TV版』に確定する。

 搬入しなければ、『正史』だ。

 

 だが…この選択をせざるを得ない時点で、アムロは状況がすでに詰んでいることに気づいた。

 今回のタイムスリップも、失敗だ。

 このまま耐熱フィルムをホワイトベースに積み込めば…大気圏突入でアムロとガンダムはそれを使わざるを得なくなり、世界は『TV版」に確定する。

 積み込まなければ…アムロとガンダムは大気圏突入に失敗し、燃え尽きる。2度目のやり直しだったか、耐熱フィルムを欠いていたガンダムは大気圏で燃え尽きた。あれを繰り返し、アムロはまたサイド7の初陣の時に戻ることになる。

 この状況には、欠けているものがある。

 冷却フィールドの発生装置。

 『正史』の世界へ行くための、重要なピースが不足している。

 

“どうなっているんだ…どうしたら冷却フィールドの発生装置を手に入れることができる? いや、『正史』の世界に行けた時はどうして冷却フィールドの発生装置がガンダムに搭載されてたんだ? ルナツーか? いや…あんなところにガンダムのパーツがある理由がない…。どうなっている?”

 

 アムロは取り乱していると言っていいほどに焦っていた。

 

”大丈夫だ…まだ『正史』で生きるチャンスはある筈だ…今度のタイムリープは、無駄じゃない…無駄にしてたまるものか…”

 

 だが、幾度となくやり直しを繰り返してきた経験が、アムロに囁いた。

 

 今回も、失敗だよ。

 

 絶望感が、アムロを襲った。

 

“…一番早い解決策は…耐熱フィルムを積まずに大気圏突入して燃え尽きる…いや、この場で自死、だな…そしてもう一度やり直しだ。だが…!”

 

 自分は決して自死を選ばない。

 それは、アムロの矜持だ。

 しかし。

 

『アムロ。何をやっている。ガンダムが動いていないぞ。どうしたんだ』

 

 通信用モニターに映ったテムの呼び掛けも、今のアムロには虚ろに響いた。

 

『アムロ、どうした。何をやっている』

「…何でもないよ、父さん。…また、やり直せばいいだけのことだ…」

『何を言っている、アムロ。どうしたんだ?』

 

 ほとんど泣いていると言っていいアムロの声に、テムは息子の異常を察知した。

 

「何でもない。何でもないんだ、父さん…また、耐熱フィルムだった…それだけだよ。それだけのことなんだ…」

『耐熱フィルム? ガンダムの大気圏突入装備のことか?』

「他に何があるっていうんだ」

『あるぞ?』

「…え?」

『あると言っているんだアムロ。ガンダムの大気圏突入装備は耐熱フィルムだけではない』

「あ、ああ…。え? でも、…どういうことだ?」

 

 アムロは溢れかけていた涙を拭いながらテムに尋ねた。

 

『耐熱フィルムはガンダムの実験的な装備でな。開発が間に合わない可能性が高かったんだ。だから、私は他の装備も並行して開発していてな。ガンダムには非常事態に備えて過熱したエンジンを冷やすための冷却剤が積んであるんだが、大気圏突入時にこいつを放出することで冷却フィールドを生成してだな…』

「父さん…それ、本当なのか?」

 

 小さなモニターの中のテムは、心外だとばかりに表情を固くした。

 

『当たり前だ。メカのことについて私は嘘などついたりはせん。耐熱フィルムより効率は悪いが、ガンダムを大気圏内に送り届けるくらいの冷却能力があることは私が保証する』

「…父さん…、つまり冷却フィールドの発生装置があるんだな? それ、何処にあるんだよ…?」

『お前がいるのはFの第七区画だな。そのあたりのコンテナの中にある筈だ。冷却フィールド発生装置を組み込んだガンダムの腰部ユニットがそのへんにある筈だぞ』

「…え?」

 

 アムロはなにか、全身の力が抜けそうになった。

 状況を、整理してみる。

 

「…父さん、まずガンダムの腰部ユニット、基本的には耐熱フィルム装備型が実装されてるってことだよな?」

『ああ、そうだ』

「…もしさ、俺が耐熱フィルムをホワイトベースに搬入してなかったら、どうする?」

『冷却フィールドのユニットに交換する』

「…そのこと、俺に言うかい?」

 

 テムは怪訝な顔をして答えた。

 

『…それは、言う必要があるのか? もともとお前が知っていることでもないだろう』

 

 アムロはぐうの音も出なかった。

 そのとおりだ。

 わかってみればどうという話でもなかった。

 アムロは二回目のタイムリープで父を宇宙に放り出してしまって以来、この過ちだけは絶対に繰り返さないよう心に決めて、実行し続けていた。

 宇宙に放り出されずホワイトベースに乗り込むことができた父は、耐熱フィルムがホワイトベースに積み込んであれば、当然それをガンダムに実装する。

 『TV版』の世界に確定だ。

 もし、たまたま…耐熱フィルムがホワイトベースに積み込まれていなかった場合、父はガンダムの腰部ユニットを冷却フィールド発生装置搭載型に換装する。

 このパターンの時、アムロは『正史』の世界に生きていたのだ。

 確かにテムが言うとおり、もともとアムロが知っているわけがない耐熱フィルムと冷却フィールド発生装置のユニットの換装を、わざわざアムロに伝える必要もないだろう。むしろ、忙しい中マニュアルまできちんと差し替えこのことをアムロに全く気付かせなかったあたり、テムの仕事は細部まできちんとしていると言っていい。父は、アムロとガンダムが大気圏に散ることのないよう最善を尽くしていたのだ。

 だが…。

 アムロの中に、父に対する何とも言えない感情が込み上げる。

 父がガンダムの腰部ユニットについての経緯をきちんと伝えてくれていれば、少なくともここ何回かのタイムリープはしなくて済んだのではないか?

 どんなに忙しくても、ホウ・レン・ソウは仕事の基本だぞ。

 持って行き場のない怒りとも苛立ちとも言える複雑な思い、父の仕事ぶりへの敬意、ようやく無限の監獄から脱出するための光が見えた安堵。様々な思いがアムロの中で渦を巻く。

 

「…父さん…ははっ、さすが、俺の父さんだ…」

 

 やっぱり仕事バカのクソ親父だ、とアムロは心の中で罵倒してやりながら呟いた。

 

『え? なんだアムロ、どうしたんだ?』

 

 息子に初めて感謝と憧憬と…何故か怨嗟のこもった眼差しを向けられたテム・レイは、動揺した。

 だが、息子はさらに、意味不明な申し出…いや、おねだりをしてくる。

 

「なぁ、父さん…俺が頼んだらガンダムの腰部ユニット、冷却フィールド発生装置の方に交換してくれるかい?」

『え? なんだ、アムロ? 何を言っている?』

 

 しかし、アムロの切羽詰まった真剣な…すがるような顔を見たテム・レイは、一瞬で決断を下した。

 

『構わんぞ。腰部ユニットのコンテナを持って早くホワイトベースに戻ってこい。時間はいくらあっても困らないのだからな』

「…いいのか、父さん?」

『――お前がそうしたいのだろう。なら、構わん』

 

 アムロは小さなモニターの中の父の顔を見つめた。

 

「わかった。…父さん」

『なんだ』

「ありがとう」

『…ああ。』

 

 テムは動揺と照れ臭さに耐えきれず、慌ててモニターからフェードアウトした。

 

『アムロ、ガンダムで何をやっている。コンテナを壊して回っていると報告が来ているぞ』

 

 もう一つの通信用モニターに、ブライトの顔が映った。

 

「ああ、すまない、ブライト。すぐに搬入作業を続けます」

『…出港まで時間がないのだ。搬入はできる限りでいい、急げよ!』

 

 言うだけ言って、ブライトは通信を一方的に切った。

 アムロは潤んでしまった目をこすり、鼻をすすって心を立て直すことに努めてみる。

 

“…あんたがそうしていつも急かしたのも原因だったんだぜ、ブライト”

 

 アムロは、運びきれないほどたくさんのFの第七区画のコンテナを見渡して心中呟き、ブライトに八つ当たりして強がってみた。

 

   * * *

 

 五日後。

 アムロとガンダムは、史上初のモビルスーツによる大気圏突入を成し遂げた。

 

 このタイムリープを最後にすると、アムロは不退転の決意で一年戦争を駆け抜けた。

 

 

 

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