アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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最終話 永遠にアムロ

 

“おめでとう、アムロ!”

“おめでとう!”

“おめでとう!!”

 

 テセウスガンダムのコクピットに潜り込んだ瞬間、アムロは無数の思惟の礼賛に囲まれた。

 其処はいつの間にか、全天周囲モニターを搭載した球形のコクピットの中だった。

 

“此処は――νガンダムのコクピットか?!”

 

 アムロがそう理解した瞬間に、周囲の映像は因果地平に切り替わった。いや、アムロは因果地平に転移したのだ。

 今回はアムロは裸ではなく、いつの間にか着替えた宇宙世紀0093年製のノーマルスーツをまとっていた。目の前には全天周囲モニターのウィンドウのように別の世界が開いている。

 其処には、聴衆の歓声に手を振り応えるシャア・アズナブルが映っていた。

 シャア・アズナブルは、ついに地球連邦政府の大統領へと上り詰めたのだ。

 

“…やったな、シャア”

 

 その姿には、さすがのアムロも感慨深いものがある。

 

“おめでとう、アムロ”

 

 天から響く、無限力とも違う神のような声があった。

 死者たちの魂の群れが静かに大きく割れていく。

 その先から、ひと際大きな思惟が現れた。

 アムロはその姿を凝視する。

 

「やはり君だったか、ララァ」

 

 相変わらず質素なワンピースドレスをまとったララァは、しかしこの世の女王のように泰然と振舞っていた。55億の魂たちが彼女の前に傅いていく。

 

“おめでとう、アムロ。ついに…この人たちの想いを結ぶことができたのね。素晴らしいわ”

「…ララァ、俺が最初にタイムリープした時、シャアを撃てなかったのは…君が止めていたんだな?」

 

 55億の魂たちの一部がわずかにざわついたようだ。

 ララァは答えず、笑みを浮かべて静かにアムロを見つめているだけだ。

 

「君は一体…なんなんだ? この世界の女王か?」

“私はこの世界で一番の力を持ったニュータイプ…”

「この世界で全知全能の力を持つとでもいうのか?」

“私はただ、私らしく振舞っているだけ。因果地平にいる誰もと同じように…それが何かいけないことなのかしら”

「君は…いったい何を企んでいる?」

”企むだなんて、アムロ”

 

 ララァは冷笑した。

 

“私は貴方と同じ世界で生きて、貴方に殺された最初のララァ・スン…。永遠に貴方と大佐の間に居たいだけよ”

 

 アムロの聞きたいことは、そういうことではなかった。

 何か、はぐらかされている気がする。

 だが、アムロには、何にも代えがたく尋ねたいことがある。

 アムロは、意を決してその問いを口に出す。

 

「ララァ。本当に…本当に俺は、この人たちの願いを叶えられたのか…?」

 

 アムロの問いに、ララァは慈母の微笑みで頷いた。

 その微笑みの意味を信じるまでに、アムロはわずかな時を必要とした。

 

「…うぉ、おおおおおーーーーーっ!」

 

 そして、アムロは吠えた。

 55億の魂たちは一時慄いたが、すぐにアムロに続いて雄叫びを上げた。

 歓声が無限の因果地平に広がっていく。

 

「…長い旅だったよ。ララァ」

“よく頑張ったわ、アムロ。まずはお寛ぎなさい”

 

 気がつくとアムロは、リゾートホテルのプールサイドにありそうなデッキチェアに横たわっていた。フルーツジュースを差し出されながら、アロハシャツに着替えた姿で寛いでいる。55億の魂たちの一部がその姿を変えて、大きな団扇を仰ぎ、グラマラスな女性の一団となって南の国のダンスを踊る。

 アムロの中に、静かに達成感が込み上げてきた。

 

「ララァ…俺は…本当にやったんだな?」

“ええ。大佐を導き、地球にアクシズが落ちない世界を一つ、貴方は作り上げた…アムロは救世主よ”

「やめてくれ。そんなたいそうなものじゃない」

 

 とは言うものの、充実感に満ち溢れたこの気持ちは何物にも代え難い。

 

“御覧なさいアムロ、これが貴方の守った地球。人がニュータイプに進化するための舞台…”

 

 ララァが小さく指を回すと、二人の眼前に青く美しい地球の姿が浮かんだ。その隅にモニターのように開いた世界で、大歓声の中、シャア・アズナブル新大統領が演台に歩を進めていく姿が見える。

 今度はシャンパンのグラスが差し出された。アムロは受け取り宙空にかざしてみた。

 俺は、乾杯をしてもいいかもしれない。

 

“おめでとう、アムロ大尉”

 

 聞き慣れているがどこか違和感のある声が、アムロの耳朶を打った。

 

「誰だ?」

“僕だよ。アムロ・レイさ”

「――なに?」

 

 アムロの背後に、15歳のアムロ・レイが立っていた。

 

   * * *

 

 若き日の自身を見つめて、アムロは固まる。

 やっと、声を絞り出した。

 

「お前は…俺、なのか?」

“そうだよ。この20年、ずっと一緒にいたじゃないか。やっぱり気づいていなかったのかい?”

 

 少年兵の軍服を着たアムロは軽く笑いながら、穏やかに答える。

 

「どうして…俺が、もう一人いるんだ? ララァ」

 

 茫然としたアムロの問いに、ララァは少年のアムロを招き寄せて、アムロを見た。

 

“アムロ、時の仕組みと、貴方がなぜタイムリープを繰り返していたかはアルテイシア様から聞いているのだったわね”

「ああ…俺は一年戦争のはじめに死んだこの人たちの力で、過去の自分の身体に心だけ送り込まれていた…」

 

 アムロは、周りで事の成り行きを見守っている55億の魂たちを見渡しながら言った。

 

“僕は、君がタイムリープしてきた身体にいたアムロ・レイだよ”

 

 ララァに代わって少年のアムロが答えた。

 

「え?」

“考えたことはなかったのかい? 君の意識だけが僕の身体に入り込んだなら、その身体にいた筈のアムロ・レイの意識は何処に行ったんだろうって”

「――」

 

 考えたことがなかった。

 少年のアムロは苦笑する。

 

“そうかもね。僕からしたら君は僕の身体に入り込んできた闖入者だけど、君は僕の身体が言わば空き家だと思っていたんだろ? 君がタイムリープしてきて…僕たちは同化したわけなんだけど、君は僕の知らない…未来の記憶を持っているから僕は僕じゃない僕にすぐ気がついた。でも君は僕の記憶のすべてを知っているから、違和感が生じなかった。だから気がつかなかった。そういうことさ」

 

 アムロは絶句した。

 

“でも、僕もかなり君のことを手伝っていたんだぜ。15歳のアムロの振り、もっぱら僕が演っていたんだ”

 

「そう…なのか?」

 

 それすら気づいていなかったか、と少年のアムロは苦笑する。

 ふと、アムロは気がついた。

 

「ちょっと待て…君は先刻まで生きていた世界の俺と一緒にいたおれ、ということだな。なら、…今まで何度もタイムスリップしていた時にも…おれが、居たのか?」

“そうだよ”

“そのとおりさ、アムロ”

“ご苦労だったな、ぼく”

“お疲れ、アムロ”

 ……

 …

 因果地平に、幾多のアムロ・レイの思惟が現れた。

 15歳の少年のアムロ。

 パイロットスーツを着たアムロもいれば、デニムのジャンパーとジーンズを身に着けたアムロもいる。

 少しやさぐれた20代前半のアムロ。

 老人のアムロ。

 横たわり、意識だけで生きるアムロ。

 セイラと夜を共にした、19歳のアムロ少尉。

 正暦を生き、未来の地球を放浪していたアムロ青年。

 プロキシマ・ケンタウリという未知の世界で生きた、見慣れぬ異星人の服を着た壮年のアムロ。

 その数は言うまでもなく、アムロがタイムスリップを繰り返した回数分だ。

 アムロ達を見渡したララァが、アムロを見て静かに言った。

 

“アムロ、貴方は自分が創った世界で死んだあと…またガンダムのコクピットに旅立っていったけど、彼らは肉体と運命を共にして此処へやってきていたのよ。アルテイシア様のように一つになったりはしなかったけど”

「そう…だったのか…」

 

 アムロはあらためて、これまでの永い旅を想った。

 

“さあ、アムロ大尉。みんなで一緒にシャアの演説でも聞いてみようよ”

 

 そう声を掛けてきたのは、一番初めに自分に話しかけてきた自分だろう。アムロ達は、ララァと、55億の魂たちとともにシャアの演説に聴き入った。

 

「…此処に至って私は、人類が今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである! それが、私が地球連邦政府大統領を目指した真の目的である。これによって、地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を宇宙に上げる。諸君、自らの道を拓く為、宇宙も地球もなくすべての人々のための世界を手に入れる為に、あと一息! 諸君らの力を私に貸していただきたい! それを成し遂げた時、私は、父ジオンのもとに召されるであろう!」

 

 シャアは万雷の拍手に包まれた。

 因果地平の魂たちもため息をつく。

 アムロは、また気づかぬうちにテレビを観るようにソファに腰掛けている。そして、自分の隣で寛いでいるララァに尋ねた。

 

「ララァ。俺はこの後…どうなるんだ?」

“どうなるって?”

「他のおれのように…此処で過ごしていくのか?」

 

 アムロの眼前に小さく世界が開き、其処にはまたアムロ自身が映っていた。

 暗く、赤熱化した球形コクピットの中に火花が飛び、リニアシートも吸収できないほどの振動の中、アムロは必死でパイロットシートにしがみついている。それが、最初の人生の今際の際の自分の姿だとアムロはすぐに理解した。

 

「…俺は、一度あそこに帰るのだな。そしてνガンダムとともに燃え尽きて、もう一度此処に来る…」

 

 ララァは沈黙を返した。

 

「俺の旅は終わった…いいんだ。いいんだが…」

 

 アムロは言い淀んだ。

 

“なんなの? アムロ”

「…俺は、俺の世界の地球を救うことはできなかったのだな。そのことだけ…悔しいよ」

 

 ララァは、喉を鳴らして静かに笑い始めた。

 

“何を言っているの、アムロ。貴方の旅はまだ終わっていないでしょう”

「――なに?」

 

 ララァは周囲の55億の魂たちを見渡した。

 

“あなたはまだ、この人たちの願いを叶えていないじゃない”

「え?」

 

 アムロは魂たちを見渡した。アムロと目が合って、慌てて視線を逸らす者、にやりと笑いかける者、哀し気な眼差しを向ける者…その態度は様々だ。

 

“この人たちの願いは『地球に隕石を落とさないこと』よ。こちらのアムロとガンダムだけではお話にもならないわ”

 

 アムロは、自分とともに20年を過ごしたという自分を見た。少年のアムロは、深く頷きながら自分を見つめている。

 

「え?」

“だって、貴方はそう言ったじゃない”

 

『ふざけるな! たかが石っころ一つ! ガンダムで押し出してやる』

 

 突然、記憶がフラッシュバックした。

 アクシズの片割れが地球への落下コースに乗ったと知った時、アムロはそう叫んだ。

 そして、シャアを道連れにアクシズに取りついた。

 …絶望的な予感がした。

 自らの一言で、これから先の何かがすでに決定していたことをアムロの無意識は悟った。

 それがいったい何なのか。

 

“この55億の魂の方たちは、『正史』の世界の出身の方たち。新しくできたほかの世界ではなく、自分たちの世界…『正史』の地球を救いたいのよ…”

 

 ララァが静かに、アムロの絶望を紡ぐ。

 

“さあ、アムロ、御覧なさい。これが元の世界の貴方の一秒後の姿。”

 

 ララァの声にあわせて、小さな窓の中にアクシズの破片に取りついているνガンダムが映しだされた。その機体から、優しくも力強い七色の光が迸る。

 

「僕の世界をハッピーエンドにしてくれたお礼に力を貸すよ。テセウスガンダムのスラスター出力なら少しは役に立つ。本当に少しだけどね」

 

 少年のアムロの声に重なって、νガンダムの機体からアクシズの破片の下へ光が広がっていった。

 その光がナノサイズと言っていいレベルまで拡大された時、アムロは、その光の粒がアクシズを押し戻そうとするテセウスガンダムのスラスター光であることを知った。となりにも、となりにも、となりにも、…無数のガンダムが岩肌にへばりつき、推力全開でアクシズを押し戻そうとしている。

 

“あの光は…貴方のタイムリープの結果、生まれて救われた世界のアムロとガンダムたち…”

 

 ララァがうっとりと、静かに言った。

 

「そう。僕たちはガンダムでアクシズを宇宙に押し返すんだよ」

 

 アムロ少年が淡々と言葉をつなぐ。

 アムロは55億の魂たちをもう一度、見渡した。申し訳なさそうに目を逸らす者、アムロの絶望の顔を見て嗤う者…彼らの意志とて、一つではないのだ。

 

「馬鹿な…いったい何機のガンダムが必要なんだ、そんなことをするのに…」

 

 アムロは茫然としながら呟いた。

 νガンダムから迸る光の粒は、すでに地球の裏側まで届こうとしている。それは、アムロの知らないとてつもない大きさを表す数の単位を、その数だけ掛けた答より多いだろう。

 ララァが変わらず微笑みながらアムロを見た。

 

“アクシズの破片は落下エネルギーだけで1.4×10の22乗ジュール…νガンダムのスラスター出力を約90トンとして…ガンダムが何体必要か、計算してあげましょうか?”

「…ラ、ララァ、君も此処では…不思議ちゃんなのかい…」

“フフッ、私は私らしくいるだけ…”

「では…この仕打ちは何なんだ? 55億の魂たち、おまえたちは何がしたい?」

 

 アムロは、自分たちを囲む無数の死者たちに叫んだ。

 ララァが、アムロの問いに静かに答える。

 

“意識が永遠に生き続けたら拷問よ。私たちはただ、あなたの活躍が見たいだけ”

「俺を見て嗤っているのか!」

 

 ララァは小さな窓に映るシャアを見た。

 

“私は永遠に貴方たちの間に居たいの…”

 

「もういい、やめろ、ララァ! お前たちも何処かへ行け!」

 

 アムロは叫んだ。

 55億の魂たちがアムロの叫びに慄く。

 その思惟を感じながら、アムロは理解していた。

 

 人は、死んでも人だ。

 死んで聖人になるわけではない。

 無限に続く時の拷問には、少しばかりの余興も必要だろう。

 俺は、死者を慰める道化なのだ。

 

 因果地平に長い沈黙が下りた。

 

 すでにララァから事の真相を知らされていたのだろう幾多のアムロ達も、55億の魂たちも、いつの間にかその姿を消していた。

 

 因果地平には、アムロとララァの二人だけだ。

 

 アムロはうずくまるように身体を丸め、動かない。

 

“アムロ。貴方が思ったとおり…人は、死んでも人よ。生きている人に…妬みも、羨みも、悪意も、すべてあるわ。…そして…善意も”

 

 ララァの静かな声が消えて、さらに、数万年とも思える僅かな静寂が降りた。

 

 やがて、アムロが静かに動き出す。

 

「…すまない、ララァ。長く待たせたようだ」

 

 アムロは小さな声で、呟くように言った。

 

“もう、やめるの、アムロ?”

 

「…いや、もう大丈夫だ。君が僕を、ガンダムのコクピットへ送り返すんだろう? …準備する。もう少し待ってくれ」

 

 青いジーンズとデニムのジャンパーに着替えたアムロは、静かに立ち上がった。

 

”…いいの、アムロ?”

「ガンダムでアクシズの破片を押し返す。…俺が言ったんだ。それを叶えるチャンスがあるなら、やるさ」

 

 力強い瞳でアムロはララァを見据える。

 アムロ・レイは、決してあきらめない。

 

 ララァは慈愛と哀しみを混ぜた笑顔を作った。

 

「ララァ。ひとつ頼みがあるんだが…いいか?」

”――なに? アムロ”

「魂の人たちに…謝っておいてくれないか。怒鳴ってすまなかったと」

“――わかったわ、アムロ。”

 

 アムロ・レイ大尉は、いつの間にかそこにあった、仮初めのガンダムのコクピットに座った。

 アムロが戦いに飛び立つなら、此処からが一番ふさわしいだろう。

 アムロはこれからまた、宇宙世紀0079・サイド7のガンダムでの初陣の時にタイムリープする。

 おそらく、これからも幾度も…ガンダムのコクピットへと翔ぶのだろう。

 

 いや。

 翔んでみせる。

 地球が駄目になる瀬戸際なのだ。

 やってみる価値はある。

 アムロ・レイは、くじけない。

 

 アムロの飛ぶ意志を静かに待っていたララァが、アムロに声を掛ける。

 

”――アムロ、発進の準備、よろしくて?”

 

 アムロはガンダムの操縦桿を握りしめた。

 そして、叫ぶ。

 

「了解。――アムロ、ガンダム、行きまぁす!」

 

 

 

 

 

 

 

   * * *       

 

 

 ~ エピローグ ~ 

 

「…行ってしまいましたな、アムロ大尉は」

 

 因果地平に一人佇むララァ・スンの傍らに、シャリア・ブル大尉が現れた。

 そして、もう一人…と数えていいのだろうか、150億年前に滅びた異星の美女の姿を借りた血まみれの巨神が静かに立った。

 

「どちらにいらしたの、大尉も、無限力さんも」

「空気を読んでいました。…よろしかったので? ララァ様」

「何がです」

”儀式さ。アムロ君に施すいつもの魔法だよ”

 

 シャリア・ブルに代わって、無限力がララァに問うた。

 ララァは口元だけで小さく笑った。

 

「いいのです。今回のアムロは、辛い記憶を消すことを求めませんでしたから」

「…その代わり、永い沈黙でしたな」

「あら、短かったわ」

 

 何処かむきになって答えたララァに、シャリア・ブルは少しだけ苦笑した。

 

「おっしゃるとおりで。…しかし、やはり、生きている人間はいい。人が変わる瞬間…立ち上がる姿ほど見ごたえのあるものはない…それが良い方向へ変わるものならなおさらと言うものです。魂の皆さんも、きっと満足でしょうなぁ…。貴方はどう思われるのです、無限の力を持つ…貴方は?」

 

 シャリア・ブルは、傍らの美女に言葉を投げた。

 

”彼に付き合った甲斐はあった…そう言えば満足かい?”

 

 無限力は、静かにシャリア・ブルを一瞥して優しく答える。

 

「…しかし、ララァ様もお人が悪い。何故教えて差し上げなかったのです? 55億の魂の方たちは、これを最後にもう彼を自由にしてあげようと決めておられるのに」

 

 ララァはシャリア・ブルに背を向けたまま少し歩みだし、そして彼に振り返り笑った。

 

「だって、それでは面白くないでしょう? 意識だけが永遠に生き続ける私たちにも、糧は必要ですから。アムロには、カーテンコールの代わりにもう少し頑張ってもらいましょう」

 

 シャリア・ブルは小さく肩をすくめてみせた。

 強大と言っていいララァのニュータイプの能力は、いつしかララァをこの生と生の狭間の世界で無数の魂たちに崇め奉られる立場にさせていた。

 だが、それはララァがこの世界を統治していることを意味しない。

 むしろ、逆と言っていいだろう。

 たとえ自らの意にそぐわぬことでも…多くの魂が望むことならば、それを成さねばならない。

 

 ララァは、アムロが翔んでいった地平の彼方を静かに見つめていた。

 

「…ところでララァ様。シャア大佐と…アルテイシア様は、どちらに?」

「…アストライア様のところです。もうずっと、母上に甘えてらっしゃるわ。…特に大佐が。」

 

 シャリア・ブルは、顎にあてた口髭を撫でる手を止めてララァの後ろ姿を見つめた。

 それは崩れ落ちそうに華奢な、小さな少女の寂し気な背中だ。

 シャリア・ブルは無限力と顔を見合わせ、小さく呟いた。

 

「…女性というのも、大変なものですなぁ」

 

 因果地平は静かに闇を煌めかせている。

 

                                        < 了 >

 

 

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