アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第3話 再会、父よ…②

 シャア・アズナブル。

 赤い彗星の異名を取ったジオンのエースパイロットにして、スペースノイド独立運動の指導者ジオン・ズム・ダイクンの遺児。

 一年戦争の後、地球の引力に魂を魅かれた人間たちに絶望し粛清するためにネオ・ジオンを立ち上げ、アクシズを地球に落とそうと画策し実行した男。

 後世の文献ではこの男を『連邦の英雄アムロ・レイの好敵手』などと謳っているものも多くあったが、アムロにしてみればそんな美しい言葉で語られるべき相手ではなかった。

 有り余るカリスマ性と能力を拙速な行動につぎ込み、勝手に人類に絶望し暴挙に走る愚かな男。

 極限状態の戦いの中で、自分が切っ掛けを作った私怨で最期までアムロに絡んでくる小さな男。

 それがシャア・アズナブルだ。

 無論、アムロにもシャアに対する遺恨はあるし、自分が決着をつけねばならないと思う相手ではある。

 だが、アムロにしてみればシャアは好敵手どころか、彼の人生に現れた忌むべき怨敵である。

 

「これで終わりだ、シャア!」

 

 ニュータイプ能力に覚醒しているアムロ大尉には、照準器でシャアを捉えられずともビームライフルを直撃させることは容易い。だが、なぜかアムロはトリガーを引くことができなかった。身体が動こうとしないのだ。アムロは自分に憤る。

 

”アクシズで燃え尽きて死んだ筈の俺が、なぜ今、此処にいる! シャアを殺すためなんじゃないのか!”

 

 だが、どんなに自分を叱咤しても、アムロはシャアを撃つことができなかった。シャアに向けてトリガーを引こうとする指が、誰かに押さえられているかのように動かない。

 

「…ええぃ!」

 

 アムロは苛立ちに任せて闇雲にビームライフルを乱射した。シャアの気配はまったく怯えることなく、悠然と遠ざかっていく。

 

「…シャア、サイコフレームの借りはこれで返したぞ…!」

 

 吐き捨てた次の瞬間、アムロはホワイトベースに向けて飛ぶ熱源体を察知した。

 ムサイ艦が放った二発の対艦ミサイルだ。

 アムロは瞬時に冷静さを取り戻し、ビームライフルを二連射してミサイルをなんなく撃墜した。

 

 そして…赤い彗星のザクが来る。

 

   * * *

 

”見せてもらおうか。連邦軍のモビルスーツの性能とやらを”

”! どうしていつも貴様は人を見下す!”

 

 変わらぬシャアの傲慢な思念を受けて、アムロに衝動的な殺意が込み上げる。

 

”シャア! お前は此処で殺す!”

 

 照準器に赤いザクを捉え、ビームライフルのトリガーを引いた。

 しかし赤いザクは一瞬早く、かき消すように真横へ回避した。

 

「やるな、シャア!」

 

 シャアはアムロの背後に回り込んでガンダムを撃つ。アムロもまた、難なく回避した。

 

”馬鹿な。直撃の筈だ!”

「舐めるな!」

 

 アムロとシャアは互いの攻撃を回避し、さらにライフルとマシンガンを撃ち合った。時に肉弾戦まがいの接近を許しあいながら、しかしどちらも致命となる一撃を与えることができない。

 

「ええい、あんなザクに! どうしたっていうんだ俺は!」

 

 思わぬ苦戦にアムロは苛立った。

 シャアが驚愕するガンダムの運動性だが、今のアムロには機体全体に鉛を張り付けられているような鈍重さしか感じられなかった。

 だが、それを差し引いても、シャアの赤いザクの機動力や運動性能は、グリプス戦役やネオ・ジオンのモビルスーツと比べればあまりに鈍く遅い。

 攻撃を当てられない筈はない。

 しかし、シャアの操縦はアムロの感覚の死角に滑り込むように動く。

 

“これが赤い彗星の腕前ってことか。…しかし、それ以上に!”

 

 アムロはもう一つ別の理由で焦り苛立っていた。

 シャアへの殺意に突き動かされていながら、自分の中にそれを押しとどめようとするもう一つの衝動がある。

 アムロはそのせめぎあいに困惑し、ひたすらに消耗していた。

 

”ええい! 此処でシャアを殺さなかったら、地球が破滅するんだぞ、アムロ!”

 

 二人の戦いにコアファイターが乱入し、シャアをけん制した。

 その隙に、アムロは戦場に接近してくる別のザクを狙撃した。ビームライフルは一撃でザクを四散させる。シャアに当たらない鬱憤を晴らすがごとくの正確な狙撃だ。

 その破壊力に驚愕しながら、シャアが後退していく。

 

 遠ざかっていくシャアを感じていながら、疲れ果てたアムロは赤いザクを追撃することができなかった。

 

    * * *

 

 ホワイトベースに着艦したアムロは、コアファイターに乗っていたリュウ・ホセイに導かれ、メイン・ブリッジに上がった。

 勝手知ったるホワイトベースだが、初めて乗った軍艦を我が物顔で闊歩する15歳の少年というのもまずかろうと、言われるままに従うことにした。

 ブリッジには、宇宙服を身に着けたままのブライトに、青い少年兵の軍服をまといオペレーター席に座るオスカとマーカー、私服姿のミライにセイラ、カイにハヤト、フラウ・ボゥの姿があった。

 傷ついた正規の軍人たちに助けられながらホワイトベースを操る彼らは、あまりにも少年であり、少女であった。その景色にアムロは衝撃を受ける。

 

”こんな子供ばかりで戦っていたのか、俺たちは”

 

 リュウと小声で言葉を交わしたブライトが、つかつかと歩み寄りアムロの前に立った。

 あれ?この時ブライトに殴られたんだったかな、とアムロは身構える。

 

「…素晴らしい操縦だった、アムロ君。君のおかげでホワイトベースは無事出港することができた。礼を言う」

「い、いえ…」

 

 予想外の言葉に戸惑ったアムロだったが、睨みつけながら続いたブライトの言葉に思わず安堵してしまう。

 

「だが、ガンダムの性能をあてにしすぎる。戦いはもっと有効に行うべきだ」

「…え?」

「甘ったれるな! ガンダムを任されたからには君はパイロットなのだ。この艦を守る義務がある」

 

 ああ、これでこそブライトだ。

 若く青いブライトにアムロは笑いがこぼれそうになる。

 だがブライトは、たかだか半年の士官候補生のキャリアで100名を超す民間人の命を預かる羽目になったのだ。そしてこれから、ア・バオア・クーでホワイトベースが撃沈されるまでの長い戦いを陣頭に立って歩まなくてはならない。そして、その中では多くの命が失われていく。

 

 アムロは格納庫ですれ違った少年の顔を思い出した。

 その少年は、かつてホワイトベースが地上で白兵戦をした時にジオン兵に撃たれて死んだ少年だ。

 彼は額を撃ち抜かれ、苦痛ではなく驚きの表情を固めて即死していた。

 それは、アムロが初めて見た殺された人間の遺体、だった。

 アムロは、この世界で自分がなすべきこと…いや、したいと思うことがようやく見つかったような気がした。

 

「あ、ああ…そうだな、ブライト…さん。次はもっとうまくやってみせる」

 

 アムロの決意と意思のこもった言葉に、どうなることかと息を吞んでいたブリッジのすべての人間がアムロを見た。

 アムロは言葉を続ける。

 

「僕がホワイトベースを守ります。だからみんなで、全員で生き残りましょう。ジャブローまで辿り着くんです。そうでしょう、ブライトさん」

「…あ、ああ。そうだな…。ガンダムの整備をしておいてくれ。人を使ってもいい。アムロ、君が中心になってな。…頼む」

「はい」

 

 鼻白みながら命令するブライトに、アムロは決意を込めた敬礼で返した。

 14年前の自分の身体に心を飛ばされた意味と理由は、今のアムロにはわからない。

 だが、目の前にいる少年たちと、これから自分が係る人たちの命を守ること。

 そして、シャアによるアクシズ落としを阻止するために、自分は宇宙世紀0079に戻ってきたのかもしれない。

 

 アムロは決意に満ちた足取りで、ガンダムの待つ第2デッキへと向かった。

 

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