アムロ大尉、ガンダムに乗る。   作:しんしー

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第5話 大気圏、突入。

 

『敵だ!!』

 

 ブリッジからオペレーターのマーカーの声が響いた。アムロはアイドリング状態のガンダムを素早く立ち上げた。

 大気圏突入まで8分。会敵まで34秒。

 ホワイトベースの第二デッキが大きく開口すると、弧を描いた地球の輪郭が大きく宇宙を割っていた。通信用のサブモニターにセイラの顔が映った。

 

『アムロ。発進後4分でホワイトベースに戻って。必ずよ』

「ああ。俺だってまる焼けになりたくはないからな」

『後方、R3度。ザクは4機』

「ホワイトベースの援護は?」

『後方のミサイルと機関砲でリュウとカイが援護するけど。高度には気をつけて』

「了解。セイラさん、大丈夫。此処でシャアを討ったりはしない」

『? なんなの、アムロ?』

「いや、なんでもない」

『そう。大丈夫、あなたならできるわ』

「アムロ、ガンダム、出る!」

 

 カタパルトを蹴って、ガンダムが地球上空に翔んだ。

 

   * * *

 

 コムサイからのミサイル発射で、古今例のない大気圏突入ぎりぎりの戦いは始まった。

 アムロが捕捉した4機のザクは二手に分かれる。

 

”今度こそシャアの動きに追いついてみせる。覚悟しろ、シャア!”

 

 アムロはガンダムを操って赤いザクを追った。

 早々にシャアにダメージを与えて、撤退に追い込む。

 戦いを早く切り上げ、ホワイトベースに南米大陸への降下コースを維持させる。

 そしてアムロとガンダムもホワイトベースへ帰投だ。

 ガンダムに大気圏突入機能があるとはいえ、モビルスーツでの地球降下などそうそうやりたいものではない。

 

 アムロの撃ったハイパーバズーカの弾頭が赤いザクに命中し爆発した。

 しかし、あえて肩のシールドで被弾していた赤い彗星は、その衝撃を活かして思いもよらぬ軌道変更をする。

 思わずアムロは舌を巻いた。

 シャアもバズーカを放ち、ガンダムを狙う。

 アムロも回避した。

 ビームライフルだったら被弾していたかもしれない一撃だ。

 アムロは赤いザクに向けて再びバズーカを撃ったが、シャアはこれも回避した。

 撃墜しないように手心は加えているが、本気で撃っていないとも言えないアムロの射撃を、シャアは躱しているのだ。

 

『アムロ、シャアに気を取られすぎないで。ザクがサラミスのカプセルを』

「了解。…奴に後ろを取られるのは嫌だが」

 

 高度を下げていくホワイトベースとサラミスの大気圏突入カプセルの近くに戻ったアムロは、ハイパーバズーカで量産型のザクを狙撃する。

 一発は距離がありすぎた。もう一発はザクの肩を直撃したが、シールドを吹き飛ばすにとどまった。そして、ハイパーバズーカの砲弾が切れた。

 

「ええぃ、当たっているのになぜ落とせない?! セイラさん、ビームライフルを頼む!」

『無理よ。ビームライフルを発射することはできないわ。メカニックマンに聞いてみるけど…』

 

 その間にもシャアはホワイトベースに接近し、確実な砲撃でダメージを与えていく。

 ホワイトベースの対空機銃が弾丸をばらまくが、赤いザクは気に留めることもなくホワイトベースを観察し、急所への一撃を狙う。

 アムロはガンダムを接近させてシャアをけん制したいが、ホワイトベースに近寄りすぎれば射出されるビームライフルを受け取ることができない。

 

『アムロ、今はガンダムハンマーしか撃ち出せないわ』

「…ガンダム、ハンマー? なん…だ、それは?」

『知らないわ。あなたのお父様とオムルが今はこれしか使えないというのよ。ハンマーを射出したら教えるわ。アムロ、前を』

 アムロは眼前まで迫っていたザクを頭部バルカン砲で迎撃した。ロケットノズルを吹かして距離を取る。バルカン砲で蜂の巣になったザクが爆散した。

 

『アムロ、ガンダムハンマーを発射するわ。いいわね』

 

 ホワイトベースの艦底にある大型マジックハンドからガンダムハンマーが投擲された。

 アムロは飛んでくるハンマーの射線上にガンダムを持っていく。

 

”相対速度、早いか…掴めるか…っていうか、ガンダムハンマーって、なんだ?”

 

 アムロには、ガンダムでそんな武器を使った覚えはない。

 

 アムロはモニターが捉えたガンダムハンマーを見て、ほんの一瞬、頭の中が真っ白になった。

 トゲトゲのついた巨大な鉄球に長い鎖とグリップが付いている。

 あれを振り回してシャアに当てろというのか?

 

「! セイラさん! なんだ、アレは!」

 

 アムロはほとんど泣き声で叫んだ。

 

『大丈夫、あなたならできるわ』

「だから、おだてないでくれ! ――シャアっ!」

”とどめだ”

 

 赤いザクのバズーカ弾がガンダムを捉えた。未知の武器に動揺したアムロの隙を、シャアは逃さず突いたのだ。

 しかし、バズーカの弾頭は奇跡のような確率で射線上に割り込んできたガンダムハンマーに命中し、ガンダムは直撃を免れた。この機を逃さず、アムロはガンダムハンマーを掴む。

 

「うわあああああ!」

 

 とにかくアムロは、トゲトゲ鉄球を赤いザクに向けて投げつけた。

 シャアはバズーカで狙撃する。弾き返された頑強な鉄球は、破壊されることなくガンダムの手元に戻った。

 

 シャアは部下のザクにガンダムを攻撃するよう命令し、弾頭の尽きたバズーカを投げ捨てた。自身もヒートホークで接近戦を挑む。

 ハンマーを振り回しシャアを狙うガンダムの背後から、部下のザクが接近した。

 シャアも思いきりよくガンダムに肉薄し、ヒートホークで切りかかる。

 

「うわあッ!」

 

 アムロはかざしたガンダムシールドでシャアの攻撃を受け、一方、直近まで迫っていたザクにガンダムハンマーを叩きつけた。

 質量兵器の重い一撃を胴体に受けたザクは、パイロットを揺さぶりながら大きく吹き飛ばされていく。

 自分を相手しながら片手間に部下のザクを迎撃されたことに、シャアは怒る。

 

”なめるな!”

 

 シャアの意志とともにザクの鉄拳がガンダムの頭部を殴りつけた。

 今度はアムロがコクピット内で大きく揺さぶられ、何度もシートに叩きつけられる。

 一方、ガンダムハンマーの一撃を受けたザクはそのダメージが動力炉まで浸透し、ついに爆発した。戦死した部下の名を叫び、しかしシャアは退却を余儀なくされる。シャアにとっても大気圏突入までもう時間がないのだ。

 

『アムロ、ホワイトベースに戻って。オーバータイムよ』

「了解、セイラさん」

 

 ガンダムはハンマーを投げ捨て、ホワイトベースに接近する。

 しかし、いまだホワイトベースに攻撃を仕掛けていたザクが着艦への進路を阻み、アムロは近づくことができない。

 

”ええい! お前も焼け死ぬことになるんだぞ!”

 

 そしてアムロとガンダムは、ホワイトベースへの着艦のリミットを超えた。 

 アムロが知る史実どおりだ。

 

   * * *

 

 大気圏突入による電波障害で、アムロはホワイトベースから孤立した。

 思わずため息をつく。予想以上に戦いに時間がかかった。

 ホワイトベースの進路がどうなったのか気になるところだが、今は確認する術もない。それよりも今は我が身の心配だ。ガンダムの落下速度はすでにホワイトベースへの帰還を不可能としている。

 

”…それにしても何だったんだ、あのガンダムハンマーって武器は…ふざけてるのか?”

 

 心の中で毒づきながら、アムロはガンダムの操縦マニュアルをめくった。大気圏突入の手順はかなり後ろの方に載っていた筈だ。

 

「あった! 大気圏突破の方法が…え?」

 

 アムロは再び、固まった。

 ガンダムに大気圏突入機能があることを知っているアムロは正直どこかのんびり構えていたのだが、今まさにハンマーで脳天を殴られたような衝撃を受けていた。

 だが、そんな暇はない。

 時は一刻を争う。ガンダムのコクピットはすでに温度が上昇してきている。アムロはあえて思考を停止して、余計なことを考えずただマニュアルどおりに大気圏突入シークェンスを開始した。

 

「…姿勢制御。冷却シフト。全回路接続…耐熱フィルム!」

 

 アタマ真っ白で固まるアムロをよそに、ガンダムは下腹部のポケットから耐熱コーティングが施された巨大なシートを展開した。大気が生み出す高熱から逃れようとその陰に身を隠す。

 

 正直、あまりかっこいい絵面ではない。

 

「え、ええと…大丈夫なのか、これ?」

 

 大気圏突入の衝撃はガンダムを大きく揺さぶる。

 だが、アムロの不安をよそに、赤熱化していたガンダムの装甲は冷却され、通常のトリコロールの色彩に戻り始めていた。コクピット内の温度も低下している。アムロは安堵のため息をついた。

 

「耐熱フィールドよりよっぽど効率がいいじゃないか…すごいな…νガンダムにも搭載すればよかった…」

 

 やがて無線が回復し、アムロに呼びかけるセイラの声がノイズ交じりに聞こえ始めた。

 ホワイトベースの後部甲板上部に着艦するよう指示が出る。

 残り少ないロケットノズルの燃料を吹かし、言われたとおりにアムロはガンダムをホワイトベースに着艦させた。

 

「セイラさん、此処は地球のどのあたりだ? ジャブローへの降下の航路を守れたのか?」

『…アムロ、今、ホワイトベースからの映像を送るわ』

 

 セイラの沈痛な声とともに映像が切り替わり、モニターは多数のドップ戦闘機を引き連れたジオンのガウ攻撃空母の姿を映した。

 

「…北米か…」

 

 アムロは人生で二度目の、地球をほぼ一周する長い旅を覚悟した。

 

 






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