大気圏突入から数日が経った。
ホワイトベースはガルマ率いるジオン軍に追われるまま、北米大陸を逃げ回っていた。
アムロがいかにガンダムで活躍すれど、他のクルーはみな素人である。致命的な被害を出さずに敵中を彷徨っていることは、それだけでも奇跡といえた。
* * *
「なんです、オムルさん? ぼくに用って」
「アムロくん…さっきの出撃で、ガンダムで空中戦やったんだってな…」
アムロを呼び出したホワイトベースのメカニックマン・オムル・ハングのテンションは低い。
「ええ。ガンダムのロケットノズルとジャンプ力があれば、短時間なら可能だと思っていたんです」
「それはいいんだが…ジオンの戦闘機、30機以上も撃墜したんだって? 装備していったのはハイパーバズーカだったよな?」
「はい。だからバルカンで」
アムロの答えにオムルの顔が引きつった。
「それなんだ…バルカンの弾丸が、半分以上残ってるんだ…ガンダムのバルカンは150発しか装填できないんだよ?」
「知ってます。だから、一機につき二、三発で済ますようにしたんです。ドップ程度だったらエンジンかコクピットを狙えば十分墜とせますから」
「ふ、ふーん…そうだな…」
オムルは動揺した。アムロが言うとおり、それはそうなのだが、できるかどうかは別問題だ。こんなことは普通、神業という。
「もういいですか、オムルさん。ぼく、ちょっと父さんに用があるんです。じゃあ」
とりあえず、中身の自分が15歳の少年ではないことを訝しがられることがないよう、それっぽく振舞ってみることにしたアムロ大尉であった。
* * *
北米大陸に降下してしまったことで、アムロの中から完全に迷いが消えていた。
ホワイトベースの進路と今後がアムロの記憶にあるとおりに進むのであれば、仲間たちを死なせないためにはどうすればよいかは実にわかりやすいのだ。
シャアも、ジャブローにたどり着くまではホワイトベースに絡んでくることはない。ニューヤークでガウを撃墜しガルマ・ザビを討ち取ることで、シャアは左遷される筈だ。当面…ジャブローにたどり着くまでは、ホワイトベースの仲間たちを死なせないようにすることに集中できる。
父テム・レイは、マチルダ中尉の最初の補給の際、サラミスの大気圏突入カプセルから移乗してきた面々とともにジャブローに向かうことになった。最後までガンダムを心配し、ビームジャベリンとかいう新しい武装を嬉しそうに説明しようとする父と半ば喧嘩別れしながら、アムロは安堵してミデア輸送機を見送った。これで父が死ぬことはおそらくないだろう。
アムロは記憶にない細かい戦闘をいくつかこなし、地球に降下してきたランバ・ラルのグフと戦った。そして、ホワイトベースは太平洋を横断し、日本の山陰地方のとある海岸でしばしの休息をとっていた。
「太陽の光が一か所から来るって、わざとらしいわね」
「でも、これが自然というものなのね」
水着で日光浴を楽しむセイラとミライのもとに、やはり海パン姿のカイがやってきた。
「アムロを知らないかい」
「デッキでガンダムの整備をするって言っていたわ」
「はっ。相変わらず真面目だねえ」
セイラの答えにカイは毎度のシニカルな表情を作って肩をすくめた。
「アムロだって死にたくないだけなのよ。少し根を詰めすぎてるとは思うけど…」
「そうでもないぜミライさん。アムロだ」
少年兵用の青い軍服の上着を脱いだランニングシャツ姿のアムロが、三人のもとへやってきた。
「よぉアムロ。お前もセイラさんたちの水着姿を拝みに来たのかい」
「違いますよ。ミライさん、ブライトさんを知りませんか。ガンダムの補給パーツの在処がわからないんです」
「ブライトなら自室で仕事をするって言っていたわ。…彼も少しは休んだ方がいいんだけど」
「指揮官はそうもいかないですよ。ちょっと行ってきます」
「おぅおぅ。男どもはみんな真面目だねえ。ところでアムロ、お前、実家は地球にあるんだって? どの辺なんだい?」
「なんです? カイさん、急に」
「いや、何となく気になってな」
「北米のプリンスルパートっていう街ですけど」
「…ふぅん」
「もう行っていいですか」
「…ああ。悪かったな、足止めしてよ」
「いえ。じゃあ」
その場を立ち去りながら、そういえば母さんと会いそびれたな…とアムロは一瞬思った。
でもまあ、いいや。
ホワイトベースは中央アジアに渡った。
* * *
ちなみに、数日前。
「――父さん!」
「おお、アムロ。無事だったか。さすが、私のガンダムだ」
「そのガンダムの大気圏突入装備なんだけど…耐」
「ああ、耐熱フィルムか。あれはまだ連邦軍の中でも極秘の装備でな。試作品だったから心配だったぞ、アムロ」
「…そ、そうなのかい…なんでそんなものが」
「そんなことよりアムロ、私はガンダムの教育型コンピューターから今のデータを取らなくてはならん。装甲の損傷具合、もだな。…ほれ、おまえだってやることはいくらでもあるだろう、はやくしろ」
例によって、テムは言うだけ言うととっととガンダムのもとへと駆けて行った。
アムロは憮然として取り残される。
さすがに腹は立つのだが、なにか、父の振る舞いには自身にもある良くない所を見せつけられたような気がして、素直に怒れない。
親子というのはそういうものなのか?とアムロは思った。