異世界暗殺者裏家業   作:真鳥

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日常、潜むもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 活気溢れる鮮産市場。

 

 行き交う人々。競り合う店の売り人。値引きを要求する客。

 

 採れたての野菜、瑞々しい果実。出店の屋台で売られている香ばしい香りを放つ串焼き、甘い匂いを漂わせる飴細工。

 

 ここは王都南部城下町。

 

 様々な人々が日夜暮らす生活の資本たる骨子たる憩いの場。

 

 故に喜怒哀楽が絶えない盛り場。

 

 肩が打つかる、誰彼と文句を付ける、喧嘩する、そんなことは日常茶飯事。

 

 スリ、置き引き、万引きもセットとばかり毎日毎日付属する。それだけに油断ならない場でもある。巡回する兵士たちもいつものことと適当に遇らうのがセオリーだ。よほどでなければいちいち咎めない。

 

「はい、お嬢ちゃん。熱いから気をつけなよ。可愛いから一本オマケだぜっ!」

 

 飾り気のない白い目立たないワンピースを羽織る13、14くらいの黒髪ショートの麦藁帽子を被った小柄な少女が屋台のオヤジから串焼きを買い、華奢な細腕で受け取る。

 

 麦藁帽子を深く目深に被り鍔広で隠すも、雪のように白い肌と可憐な美貌が僅かに覗き見えてしまう。

 

 串焼きを食べながら手提げの編み籠を持ち、俯き加減で歩く。ごった返す人波の中を縫うように器用に自然に違和感なく、さりげなく躱しながら。

 

 その時、見すぼらしい姿の幼い少年が鋭く眼を光らせ、人と人の僅かな合間から手を伸ばし、少女の編み籠から財布を抜き取った。

 

 まさに神業。彼はスリの常習犯。未だ捕まったことのないプロの手口。

 

 少年は隙だらけの少女からまんまと財布を頂き、ホクホク顔で獲物を確かめようとして顔を顰めた。

 

 手にしていたのは財布では無く、果物だったから。

 

 慌ててさっきの少女を探すが、とっくに姿を見失ってしまい判らない。

 

 首を何度も不思議そうに傾げる少年。

 

 間違いなく財布を盗ったはずなのに。何故? 

 

 混乱するスリ少年を尻目に人々の波を流れるように進む少女が編み籠から幾つか果物を取り出すと、シャクリと小さな口を当てがい噛り付く。

 

 艶めいた紅い唇に垂れた果実の甘い汁を舌先でペロリと舐める。

 

 少年に財布をスられた瞬間に、近場の青果店から代わりに果物をくすねて交換したのだ。

 

 一瞬の出来事。瞬きよりも速い。少年の技術より遥かに高度な技だ。少年すら気付かなかった。ちなみに果物の代金は少年の財布からしっかりと頂いて店先に置いてきたので、盗品ではない。

 

 喧騒の中を歩み去る少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十十十十十十

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食糧品と日用品を買い揃え、家路に帰路するため歩く少女。

 

 人目が疎らな裏路地近辺。常識人なら、まず誰も近付かないエリアだ。

 

 酔っ払い、浮浪者、不審者、違法なモノを捌く売人、犯罪者など数多棲家にするために普通ならば絶対に寄り付かない。

 

 そんな所に年端もいかない少女が訪れればどうなるか。

 

 路地裏から薄汚い格好の男たちがワラワラと現れる。どう見てもカタギではない真っ当な手合いではないだろう。

 

 背後からも下卑た笑みを浮かべた輩どもが、逃げ道を塞ぐように陣取る。

 

「へへへ…………自分からノコノコ、こんな辺鄙な場所まで来るとはよ〜」

 

「帽子で隠れてるが、俺は見たぜぇ。かなりの上モノだぜ。このガキ。狙ってたんだぜ?」

 

 どうやら最初から目を付けられていたようだ。

 

 遠巻きから視線を感じると思っていたら、人攫いの類いか。

 

「どうする? 楽しんでから売り捌くか?」

 

「そうだな。オレたちで暫く飼って、客取らせて稼がせるのも悪くないな」

 

「おいおい、お前ら。そうやって前の女も、その前の女もブッ壊しちまっただろうが。遊び過ぎるなよ〜」

 

 男たちは楽しそうに汚ない嘲笑を上げながら少女を囲い込み近付く。

 

 彼らの頭の中では、泣き叫ぶ痛いけな少女を思う様に組み敷き蹂躙している想像が漏れなく展開されているに相違ない。

 

「ひひっ!どれ、顔を見せやが─────」

 

 ひとりの男が少女の麦藁帽子の鍔広を捲り上げようとし───────

 

 その腕が肩口から、消えた。

 

 すべての動きが止まる。すべての時間が固まる。

 

 あらゆる事象、誰もが塗り込められる。

 

 少女の足元。濁った黒々しい水溜りの波紋から伸び上がった影が鋭利な大鎌の刃を造り出していた。

 

 まるで死神が携えた大鎌の如く、切り取った男の腕を切っ先に突き刺したまま持ち上げる。

 

 周囲の男たちは一体何が起きたか、何が行われたのか、それを足りない頭で理解する機会は永遠に訪れない。

 

 影の虚刃が超速でグルグルリと円周を描いた。

 

 男たちの身体に水平に亀裂が幾重にも奔り、そうしてスライスされ、薄い何枚もの肉の破片へと成り果てたから。

 

 卑しく浅ましい愚かな表情を貼り付けたまま。

 

 バシャアァッ!と大量の血と肉塊が弾け、ブチ撒く水音が響く加工屠殺現場と化した路地裏。

 

 麦藁帽子の少女は特に感情を窺わせない冷たい視線でバラ肉となった男たちの成れの果てを無表情で見下ろす。

 

 少女の足元の影が膨れる。

 

 意思を持つかのように滲み出し拡がり、肉片の残骸を暗闇の中にゆっくりと飲み込んでいく。

 

 ほんの僅かな合間に路地裏は、血潮のシミひとつ残さずに綺麗さっぱりと清掃された。

 

 少女は何事も無かったような足取りで裏路地の影中へと歩み入り、文字通り溶け込むよう姿が消えた。

 

 後には表通りの市場の活気のいい客引きと、人々の忙しない声だけが聴こえる。

 

 誰もいない裏路地に、いつまでも静寂さが支配し、横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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