異世界暗殺者裏家業   作:真鳥

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勇者は考察する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瑞々しくしなやかな容姿の女が暗闇に包まれた夜の森の中を疾駆する。

 

 雲の切れ間から差し込む月明かりの光が一瞬だけ彼女を照らし出す。外見年齢は10代前半、幼い少女といってもいい年頃か。

 

 滑らかな白い肌を覆う最小限の布生地の黒衣はその体にぴったりと張り付いていて、均整の取れたスレンダーな肉体のラインをありありとエロティシズムに見せてつけている。

 

 黒髪のショートヘアー。青みがかる黒艶の髪がサラリと舞う。顔全体を覆うのっぺりとした白い仮面で素顔は判らない。

 

 その少女の背後からローブを纏う3つの人影が木々の枝から枝へと飛び、追い掛けてくる。

 

 すかさず仮面の少女が自身の影中からある物を取り出し構えた。右手に持つは鈍色に輝く円筒形の物体。その引き金を引き、空気を切り裂く乾いた破裂音が小さく鳴ると、ローブの追手の者ひとりがぐらり崩れ、枝から落ちた。

 

 仲間を葬られ追跡者たちは僅かに動揺するも、片手をかざし素早く何か唱える。

 

「火よ、眼前の敵を穿つ弩矢と成れ"射抜き貫く火矢(ファイアルアーチェ)"」

 

「風よ、立ち塞ぐ輩を払う劍刃と化せ"烈風の切り鎌(ウィンガルエッザー)"」

 

 炎が巻き起こり、幾つもの燃える矢となる。

 

 風が巻き起こり、幾つもの鋭い刃となる。

 

 炎の矢と風の刃が少女に襲いかかる。少女が軽やかに身体を翻し、素早く円筒形の武器を構え、続け様に引き金を引き撃つ。

 

 小さな押し込めるような空気の破裂音が数度鳴ると、迫り来る炎の矢と風の刃が弾けたちどころに霧散する。

 

 ローブの者たちが驚愕したように狼狽えたが、すぐさま短剣を振りかざし飛びかかる。少女は手に持つ円筒形武器から空になった弾倉を取り出して新たな弾倉をカシャンと装着し向け放つ。

 

 と、再び小さな破裂音が漏れて谺す。

 

 態勢を崩れさせて、ローブの者たちは力無く地上に真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十十十十十

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静寂が訪れた暗夜の森。

 

 仮面少女が手に持つサプレッサ(消音器)を装着したFNX45を油断なく構えて周囲を見渡す。

 

 サイレンサーとの使用を前提として開発された近代的なハンドガンである。亜音速弾である.45ACPとの併用により、高い消音性と威力を兼ね備えている。

 

 ボルトアクションにて排出される薬莢は地に落ちる前に消失する仕様であり、射出された弾も使用後は速やかに消失するので対象の身体から痕跡は残らない。

 

 能力で造られた擬似銃。始末には困らないが、再現機構もオリジナルと同じために弾詰まり(ジャム)や作動不良(フレームジャンクション)は起こりうるので、過信は禁物。メンテナンスは本来通り入念に行わなければならないのがネックだ。それはあらゆる銃火器類、種類問わず適用される。弾数的制限、リロードは従来通り必要であるのがネックだが、それでも余りある性能のアドバンテージをこの『異世界』には、もたらす。

 

 さらに彼女が扱う武器には先ほどのように魔法に対して何らかの特殊な効果を持っているようだ。

 

 追手を始末した少女が追撃は無いと確認して、スッと仮面を取る。

 

 森を照らす朧げな月の明かりが少女の完成された美貌の素顔を晒す。

 

 コバルトブルーの青みを含んだシャギーショートの艶やかな黒髪。鋭い眼付きに宿る透き通る蒼い瞳は、鋭利な刃物を思わせる。つんと整った小さな鼻先、淡い桜色の可憐な唇。

 

 美しい。幼くも形造られた美の女神像。絶世の美女とはかくもこうあるのか、と懸想させる。

 

 歳は13、14ぐらいか。スレンダーで痩身。しかしながら未だ女性的な肉付きが余り無い起伏が薄い肢体は雌の匂いが漂い魔性なる魅力さが備わり、さらに特徴的かつ煽情的な黒い際どい衣装を纏う。

 

「…………任務は完了した。追手の残敵の消失を確認。帰還する」

 

 凛とした涼やかな声色で呟くき、白い髑髏の仮面を被る少女。

 

 月明かりが陰り、再び雲の合間から光が差すともうそこには少女の姿は存在していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十十十十十

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お身体の加減、如何でしょうか? 勇者様」

 

 ブルネットの髪、流れる金錦糸。妙齢の、法衣の美女。垂れ目が魅惑的な瞳。豊満な乳房が衣装を押し上げ女盛りをこれでもかと主張する。

 

 傾国の寵姫さながらの女が天蓋付き寝所の上で腰掛ける青年に問う。

 

「はい。大夫、良くなったと思いますよ。治癒魔法、ありがとうございます。ユリィーゼ創始教様」

 

 青年は華奢ながら鍛え抜かれた二の腕を上げ何度か振るい確かめ、柔かな笑みを称える。

 

 端正な顔立ちの十代半ばだろう男子。並みの女子ならすぐさま惚れてしまう美青年だ。

 

「ふふ。貴方の為ならば国宝クラスの秘伝の回復薬(エリクサー)すら惜しみません。傷痕もなく無事に治療出来て良かったです」

 

 妙齢の美女、ユリィーゼ創始教は静かに微笑い勇者が腰掛けるベッドの隣りに腰掛けた。

 

 そして青年の肩にしなだれ掛かる。まるで情婦のように。

 

「…………あの、ユリィーゼ創始教様?」

 

 勇者の青年が困惑気味に自身の身体に体重を預けてくる妖しい美熟女に声を掛ける。

 

「もう、勇者様。二人きりのときはユリィとお呼びくださいと申し上げてるのに。貴方様の御身は万一があってはならぬ故。私はとてもとても心配だったのですよ」

 

 ユリィーゼは今にも衣装から零れ落ちそうなくらい豊満な乳房、爆乳、いや超乳、いやいや魔乳と呼ぶに相応しい大双丘を勇者の腕にムニュンムニュンムニュリンと押し当て柔らかな物体の形を変えてくる。

 

「はは…………心配を掛けてすみません。ですが、この通り僕は大丈夫でした。まあ、かなりの深手は追いましたが…………」

 

 勇者は困り顔で頬を掻く。美女の大胆なアプローチに多少戸惑いつつも慣れているのか動じない。

 

「流石は稀代の勇者様…………あの賊、裏界隈に名高い闇の暗殺者『影喰いし者』と認識しました。ですが、あれほどの強者を仕留めてしまえる力を持っているのはやはり神に選ばれし勇者様で在られます。私めは感服致しましたわ」

 

 勇者により寄りかかり、懐いた猫のように密着し身体に頬擦りするユリィーゼ。ほんのり頬が赤みを差している。瞳は潤み、ギラギラしている。情欲に満ちた牝の顔だ。

 

「…………やっぱり相当な名のある人物だったんですね。道理で恐ろしく腕が立つ手練れだと思いました。対応が一歩遅ければ、やられていたのは僕でした。しかし、僕は変装スキルで完全に別人に成り代わっていたのに見抜かれていたのは暗殺者だからか」

 

 勇者は抱き付き頬擦りしてくるメス猫美熟女を軽くいなしながら考察する。

 

「かの者はあらゆる隠密暗殺の術技に卓越していると聞き及んでおります。看破されたのも肯けます」

 

「…………でも、最後に何故トドメの攻撃して来なかったんだろう? 何だから驚いていたように見えたけど。まあ髑髏の仮面だったからなんとなくしか分からなかったけど」

 

「勇者様の聖なる力にたじろいたのでしょう。所詮は闇に生きる生業の輩。光挿せば闇は祓われて当然。すべては勇者の徳が導いたのです、そ、れ、よ、りも♡」

 

 ユリィーゼはガバッと勇者をベッドに押し倒し組み伏せた。

 

「ちょっ!? ユリィーゼさんっ!!」

 

「あはぁん♡勇者様のお身体に本当に傷が無いか、隅から隅までじっくりたっぷりねっぷり確かめるのも聖職者の務め♡久しぶりにこうして二人きり逢えた機会、またあの時のように激しく互いの理解を深め─────」

 

 赤い舌でベロォと紅い唇を舐めながら眼下に押し倒した青年を睨め付けるユリィーゼ。まるで獲物を捕らえた猛禽類、肉食獣さながらに。

 

 バッッッタァアアアアアンンンッッッ!!! 

 

「お母様ッッッ!!! やっぱりここにいたッッッ!!!」

 

 いきなり扉を乱暴に壊れんばかり開け放ち現れたのは美少女。

 

「チッ…………鍵ごと破壊したのね。流石、我が娘、身に余る馬鹿力。人払いしたのは逆に不味かったかしら」

 

 金髪をサイドテールに結ぶ年の頃16、17ぐらいの美少女。

 

 ハーフメイルの胸当て、腰に剣を帯びる姿は剣士か。

 

「あらあら、どうしたのミリィーナ? 血相変えて。お母さん勇者様と大事な用があるって伝えといたわよね?」

 

 ユリィーゼがわざとらしく起き上がり可愛らしい仕草で小首を傾げる。

 

「…………お母様。勇者は、ユズルは、私の婚約者なのよ。それを実の母親が真昼間から寝取ろうなんて…………こんの、泥棒万年発情期猫クソババアがッッッ!!!」

 

 怒髪天とはこれいかに。金髪を逆立てる美少女は歯を剥き出し鬼の形相で憤怒する。帯剣していた腰のロングソードを今にも抜き放ちそうだ。

 

「…………ふう。貴女の旦那さんになるなら、彼は私の義息子にもなるのよ? 母と義息子の大事なスキンシップぐらい大目に見なさい。それでも栄えある王宮聖騎士団を率いる千人隊長なの? クソ雑魚メスガキ」

 

 さも、威は我に有りとばかりに腰に手を当て豊満な双丘をたわませ、娘の行手に敢然と立ち塞がる母親。いつの間にか手には華美な装飾が施されたメイスロッドがにぎられている。

 

 互いの視線に魔力を織り混ぜた激しい火花が奔り交差する。

 

 勇者ことユズル、本名「比良坂結弦(ひらさかゆずる)」は溜め息を吐く。

 

 また始まった。もう珍しくもない親子喧嘩。

 

 こんな光景は何度目か。

 

 そして開催される世紀末母娘ゲンカを尻目にふと考える。

 

 あの襲撃してきた暗殺者のことを。

 

 暗殺者は特殊な能力か何かで擬態していたが、神から授かったチートスキルで見抜いていた。

 

 その朧気な姿を。

 

 真っ黒な暗闇。

 

 何処までも黒色の暗影だった。

 

 人の形を為した影そのもの。まさにそれだった。

 

 不意を突かれたが、反撃には手応えは確かにあった。人ならざる魔性、不死者、魔人の類でも神から貰ったこの力を受ければ生きてはいないだろう。

 

 しかし、ふと思う。

 

 また、逢う。

 

 そんな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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