メダロットカブト&クワガタバージョン 作:ふなむし
第一話 メダル拾った
アガタヒカルは小学三年生になる男の子だ。
近所の子供たちのようにメダロットに興味を持ってくれてもいい年ごろ。
メダロットマニアのヒカルのパパはなんとかヒカルにメダロットに興味を持って欲しくてあれこれとメダロットに付いて熱く語るのだが…。
「ふーん、凄いんだね。そのメダなんとかって」
「そ、そうなんだよ、凄いんだよメダロットは…だからヒカルも…」
「ちょっとボナパルトの散歩に行ってくる」
メダロットに興味を抱く事もなく愛犬ボナパルト(ブル・テリア)と外へ駆け出す。
ヒカルはメダロット全盛期の現代でも身体を動かし外で遊ぶことが大好きな子供だった。
「う、うん。散歩もいいけどメダロ…」
「気を付けてね。公園ではあまりはしゃぎ過ぎないようにしなさい」
「分かってるよママ、行くぞボナパルト」
「ワン!ワン!」
パパは困り果てた、自分の力ではヒカルを振り向かせる事は出来ない。
これまでも色々と手を尽くしてきたお隣さんでヒカルと幼馴染のキララちゃん(メダロット歴3年)にヒカルがメダロットに興味を抱くように一緒に遊んでくれと頼んだり、学校側にもっとメダロットの関わる行事を増やしてくれと頼んだり…自身は某建設会社のお偉いさんで中々ヒカルと一緒に過ごす時間を作れずにいた為に貴重な朝の時間を使い続けて見たものの…。
効果はいま一つのようだった。
「トホホ…どうすればヒカルはメダロットに興味を持ってくれるかなー」
うーんと頭を抱えるパパを見て洗い物を済ませながらママはいった。
「メダロットは強制されてやるものじゃないでしょ、ヒカルにはヒカルのやりたい事があるんだから押し付けるのはやめたら?」
ママの言葉がパパの心臓にクリティカルヒット、パパダウン。
「う…そうだな…あー…3日徹夜して買ったんだけどなぁこのメダロット…」
そう言いながらテーブルの下をちらりと見るパパ。
そこにはメダロットのパーツとティンペットが二つずつ置いてあった。
◇
近所の公園にやって来たヒカルとボナパルト、朝ご飯の後の散歩は二人の日課だった。
「そら、とってこい!」
ヒカルは家から持ってきた骨型玩具を遠くへと放り投げる、ボナパルトは嬉しそうに玩具を追い掛けていき………そのまま帰ってこなかった。
「まさかアイツ…」
返ってこないボナパルトを迎えにヒカルは放り投げた骨の方角へ向かって歩き始めた。
所変わってヒカルがやって来た公園の中のブランコ前の砂場では。
怪しげな全身タイツに頭にアンテナをおっ立てた男が一人、砂場から掘り出したと思われる二枚のメダルを手に取り鼻息を荒くさせていた。男の名はロボロボ団員A。メダロットを利用して世界征服を目指す悪の組織、ロボロボ団の団員だ。
「ふひっ、フヒヒ…お、俺はツイているロボ…まさか我がロボロボ団が求めていたレアメダルを、同時に2つも手に入れる事が出来たなんて…こ、この輝き…う、うつくしいロボ…早く持って帰って幹部に取り立ててもらうロボーーー!」
ロボロボ団員Aは小躍りしながらがメダルを持ち出そうとしたが、ナイスタイミングで団員Aの頭に向かって何かが飛来した。
「いってぇーーーー!!?」
スコーンと良い音を立てて団員Aの頭にジャストミートしたのはヒカルの投げた骨型玩具だった。
「う、痛たたた…な、なにが起きたロボ…」
団員Aは自分の頭に受けた衝撃と痛みの元凶を見つけるとそれを手に取りプルプル震えて怒りの声を上げた。
「誰ロボーーーーー!?こんなモノ人に向かって投げたら危ないロボ!投げるなら人がいないか周りを確認してから投げろロボーーーーーー!!!」
団員Aは泣き喚きながら周りを見渡すも誰もいない、ならばこれは何処から……!?
公園の入り口から何かが団員Aに向かって迫っている…!!早い…!!団員Aは自身に近づくそれにまだ気が付いていない!!
その白い何かは既に団員Aの手にある玩具をロックオンしている!!
「ワンッワンッ」
白い何か、その正体は犬。
ヒカルの愛犬ボナパルトだった。
「う…うわーーーーーーーーーーーッ!!!!」
ボナパルトを見た団員Aは本気の悲鳴を上げた。
近くに正義の味方セレクト隊員がいればさっそうと駆けつけるくらいの本気の悲鳴を。
腰を抜かしてボナパルトから後ずさるがボナパルトは団員Aを意に介さずその手に持ってる玩具をジーっと見つめていた。
「い…イヌは嫌いなんだよーーーーーーーッ!!!!」
団員Aは手に持ったメダルと玩具を放り出して泣きべそかいて逃げていった…。
ボナパルトは地面に落ちた玩具を両手で抱え込むとむちゃむちゃと噛みついて遊び始めた。
ロボロボ団員が姿を消してすぐの事、ヒカルがボナパルトを迎えに来た。
「あー、やっぱり遊んでたなコイツめ」
ボナパルトの頭を撫でて玩具を取り上げるヒカル。
「ん…何か落ちてるな…」
その側に2つのメダルが落ちている事に気が付いた。
「これって確かメダ、ロットで使うヤツだよな。誰かの落とし物かもしれないからとりあえずセレクト支部に届けよっと。ボナパルト、先に帰ってろ」
玩具をボナパルトに渡すヒカル。
「ワンッ」
ヒカルの言う事が通じているのかボナパルトは玩具をくわえてヒカルより先に帰っていった。
◇
セレクト隊。
それは悪い奴ら(主にロボロボ団)から僕たちを守ってくれる正義の味方。
ヒカルの住むこの町にもセレクト隊の支部があり現在ヒカルが届けたメダルを専門の機械にかけて持ち主を探しているところだったが…。
メダルの調査が済んだ隊員がヒカルの元へとやってきてヒカルにメダルを差し出した。
「調べてみたけれどこのメダルに登録情報はなかったよ、つまりこれは遺失物じゃないって事。偶然公園の砂場に埋もれていたメダルをきみは見つけて誰かの落とし物だと思ってここまで届けてくれた。そんな優しくて偉いキミにこのメダルたちはプレゼントしよう」
「僕にですか?」
2つのメダルをセレクト隊員に渡されるが本当に受け取っていいのか疑問に思うヒカル。
「見ればきみはメダロッチも持っていない様子、このメダルを拾った事をきっかけにメダロットをはじめてみたらどうかな?」
「はぁ、わかりました」
ヒカルはセレクト隊員から渡されたメダルを素直に受け取る事にした。
「そうそう、メダルを拾った事はきちんとパパとママに伝えるんだよ」
◇
「ただいまー。パパ、ママ、公園でメダルを拾ったんだけど…」
セレクト隊員に言われた通り、家に帰ってきたヒカルは早速メダルの事をパパとママに伝えた。
ヒカルから話を聞いたパパはヒカルにメダロットをはじめるきっかけをくれたセレクト隊員に感謝しながら大喜び、そんなパパを見てママもちょっと嬉しそう、ボナパルトは相変わらず玩具をむちゃむちゃしている。
「偶然公園でメダルを2つも見つけて来るなんてこれはもう運命としか言いようがない!それで、ヒカルの拾ってきたメダルは何メダルなんだ?」
「うん、2つとも幼虫っぽい絵が描いてあるんだけど…カブトとクワガタかな?」
「ふむふむ、確かにこれはカブトとクワガタだ!!うひょーーー!こんな偶然って本当にあるのかママ!?ヒカル!!テーブルの下を見てごらん!!」
「う、うん」
パパの勢いにのまれてテーブルの下を覗くヒカル…。
そこには新品ピカピカの箱入りメダロットのパーツとティンペットがちょうど二体分置いてあった。
それも新発売のKBT型とKWG型のメダロットだ。
「先日発売されたKBT型メタルビートルとKWG型ヘッドシザースだ!カブト虫とクワガタ虫をモデルに作られた射撃用と格闘用メダロットなんだが…フハハハハ!信じられないだろう!?ヒカルが拾ってきたメダルもカブトとクワガタ、パパが買ってきたメダロットもカブトとクワガタ!これはもうメダロットをはじめるしかないなーヒカル……ヒカル?」
パパの話も途中で切り上げ既にヒカルは箱から取り出したティンペットにメダルを組み込み、一つ一つ丁寧にパーツを組み立てていた…。
「あら、パパそっくりね」
ママの言葉とメダロットを組み立てる我が子の姿を見てパパ感涙。
◇
そして、ついに。
「で…できた…」
二体のメダロットが完成した!
装甲と射撃を重視したKBT型メタルビートル、カブトムシを思わせる角を模した頭部の武装と重厚感のあるパーツ、ほぼ茶色で統一された渋さがたまらない。
素早さと格闘を重視したKWG型ヘッドシザース、クワガタムシを思わせる角を模した頭部のアンテナと削ぎ落されたシャープな装甲、白を基調とした純白のボディは白い騎士のように見えなくもない。
二体のメダロットの出来にパパはご満悦。
「うんうん、初めてにしては上出来だ。さぁヒカル、このメダロッチを腕に付けて」
「うん」
メダロッチ。
それはメダロットを管理・転送する為の装置の事である。
さらにロボトルの回数や勝率、手に入れたパーツやメダルのデータなどなどを記録する為の便利機能付き。
まさに現代メダロット技術が生んだ未来のアイテムである。
「これがメダロッチ」
パパから貰った腕時計型メダロッチを左腕に付け、準備は万端。
なうろーでぃんぐとメダロッチに流れる文字、キュイーンという起動音が鳴り始め息を呑むヒカルとパパ…ママは食器を洗っている。
「ごくり…」
「どきどき…」
二人が二体のメダロットに注目していると…ヒカルのメダロッチからピコーンと音が鳴った。
その瞬間、二体のメダロットが立ち上がった。
「オレを組み立てたのはお前か?」
「私を組み立てたのはお主か?」
口調は違うが二体とも同じ事をヒカルに訊ねている、どうやら上手く起動したようだ。
「うん、僕がお前たちを組み立てたんだ。僕はヒカル、アガタヒカル」
メタルビートルはヒカルをじろじろ見て満足げにうんうんと頷き。
「そっか、よろしくな!ヒカル!」
とヒカルの腰を叩いた。
無邪気なメダロットのようだが、もう片方のヘッドシザースは…。
「KWG型ヘッドシザース。これより主、ヒカル殿を我が命に掛けてお守り致す。末長くヨロシク、ヒカル殿」
膝をついて首を垂れる姿は主に忠誠を誓う騎士のような、サムライのような…とにかく変わったメダロットだった。
メタルビートルはそんなヘッドシザースを奇妙なモノでも見るかのようにジロジロみていた。
ヘッドシザースはその視線に不快感を覚えたのかジロリとメタルビートルに視線を向ける。
「何だ?」
二体の間に険悪な空気が漂い始めた。
「お前もヒカルのメダロットなのか?」
ヘッドシザースは立ち上がりメタルビートルを見た。
「ふむ、どうやらお主もヒカル殿に仕えるメダロットのようだが…先ほどの態度、ヒカル殿に対して些か無礼ではないのか?」
「あ?オレの何処がヒカルにブレーだって言うんだよ?」
ヒカルとパパは気付いた。
あぁ、カブトとクワガタ、昆虫界の永遠のライバル…相性が良いはずもなく…。
だが流石は年長者のパパ、二体のメダロットの喧嘩の仲裁にはいってみせた。
「まぁまぁ、二人ともまだ名前を決めてもらってないだろ?ヒカル、この二体はお前のメダロットだ。名前を付けてあげなさい、一生のパートナーになるんだから良い名前を付けてあげなきゃな」
パパの言葉にピクリと反応する二体、ヒカルも頷く。
「一生のパートナーかぁ、それじゃあカッコいい名前を付けなくちゃ…メタルビートルは…ムシムシムッシー…いや、モグモグフヨードも捨てがたいなぁ…」
「「「え?」」」
パパと二体の声が重なった。
それは一体何の言葉だ?むしむし?もぐもぐ?まさか我々に付ける名前だとでもいうのか?
パパの額から汗が落ちる、二体のメダロットも警戒態勢に入ったようだ。
「クヌギジュエキー…スイカシルシル…んー…パパはどんな名前がいいと思う?」
我が子のトンデモないネーミングセンスを目の当たりにし唖然とするパパ。
そのパパに向かってもっといい名前をお頼みします、むしむしとかモグモグとか嫌だと二体は熱い視線を送っている。
ハッと我に返ったパパは二体のメダロットが少しでも良い名前を付けてもらえるようにと口を開いた。
「そ、そうだな。KBT型の彼の正式名称はメタルビートルっていうんだ、それを略してメタビーなんてどうだい?シンプルイズベストっていうだろ、パパはカッコいいと思うけどなぁ」
「流石パパさんだ!オレその名前気に入った!良いだろヒカル!?」
間髪入れずにパパの言葉に乗っかるメタルビートル略してメタビー。
絶対に変な名前は付けられたくないという気迫にヒカルも惜し負けたのか…。
「お前が気に入ったのなら…うん、じゃあお前の名前はメタビーだ!」
「やったー!ありがとうパパさん!!」
「よかったなメタビー」
パパとメタビーの間に強い絆が生まれた瞬間だった。
ほっと息をつくメタビーの隣では未だ警戒態勢のヘッドシザースの姿があった。
「それじゃあクワガタのお前は…」
「…ゴクリ…」
息を呑むヘッドシザース。
そこへ既に名前の決まったメタビーが揶揄いに入る。
「クワガタはムシムシモグモグ?でいーんじゃないかー?オレは良い名前だと思うぜー、これからよろしくな!ムシムシモグモグ!」
「ムッ」
売り言葉に買い言葉、売られた喧嘩は買うヘッドシザース。
右腕パーツ『チャンバラソード』をクワガタの鋏の如くガチガチ言わせてメタビーに対して威嚇を始める。
「キサマのその幼稚な態度、勘弁ならん!そこへなおれ!叩き切ってくれる!」
「上等だァ!てめーは最初から気に入らなかったんだ!穴だらけにしてやる!」
対するメタビーは左腕パーツ『サブマシンガン』を構えてヘッドシザースへと銃口を向ける。
「あらら、こいつは不味いぞ」
「メタビー!クワガタ!部屋の中で暴れるのはやめるんだ!」
二体を止めようとするヒカルとパパだが。
「どいてくれヒカル!パパさん!」
「ヒカル殿、パパ殿、もはや戦いの火蓋は切られた」
一触即発。
ヒカルもパパも今回は止められないか…!!
カブトとクワガタ、昆虫界の宿命の戦いが今始まる…!!!
「行くぞクワガタァ!!」
「来い、カブトォ!!」
二体が戦闘を開始しようとした、その時。
「ヘッドシザースだからヘザーちゃんでしょ?」
台所から聞こえるママの声。
ジャーと流れる水道の音が部屋の中に響き渡る。
そうだ。
今はカブトとクワガタの雌雄を決す戦いの時ではない、二体のメダロットの名前を決める時だ。
「そうだね。それじゃクワガタの名前はヘザーだ」
ヒカルの言葉にヘッドシザース略してヘザーは先ほどまでの怒りは鳴りを潜め。
「…ヘザー、それが私の名前…」
「…ムー…」
新たな名前に静かに喜びを感じているようだった。
メタビーの方はというとライバルが自分と同じ理由で名前を付けられたのがどうにも納得がいかない様子。
「それよりヒカル、あんた今日終業式でしょ。遅刻するわよ」
「あ、そうだった。それじゃメタビー、ヘザー、学校に行くから…転送、っと」
「「あ」」
二体のメダロットをメダロッチに転送し、ヒカルは学校へと向かっていった。
つづく。