アサルトファング Bestia Oratorium   作:羽桜千夜丸

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 大変お久しぶりです。
 しばらく創作から離れなければならなくなっていたのと、某闇のゲームにハマってしまいご無沙汰していました。
 辞めるつもりはないので、その点に関してはご安心ください。

 それと、ぼかしてはいますが今回はややグロ注意です。



第13話 泥水と睡蓮(Nymphaea Lotus)

 

 

 梨璃たちのレギオンが学院に正式に登録された翌日の朝。

 

「……?」

 

 いつも通りに黒鉄嵐(ヘイティエラン)の格納庫を訪れた吉春は、自分のカタフラクトが置かれている区画に武器が追加されていることに気づいた。

 

 長く、口径の大きな銃。後部にはアームが取り付けられているそれが、焼鉄色の機械鎧とともに彼の眼前に横たわる。

 

 眺めていると、後ろから声がかかった。

 

「おはよ、吉春」

 

「今日も早ぇな」

 

「…ああ、莱清、慶…。これは……貰っていいのか?」

 

 吉春が尋ねると、莱清は笑顔で頷く。

 

「もちろん。9人揃ったレギオンの聖騎士には必ず支給される装備だからね、遠慮なく受け取って」

 

 彼も銃に近寄った。

 

「30ミリ狙撃砲。負のマギのパルスを使ったリニア加速機構が付いてて、弾の速度の調整が効くんだ。動力はリアクター直結式だから、ウェポンラックは空けたまま携行できるよ」

 

「ほう、それは便利でいいな。だが……重そうだ」

 

 莱清は得意げに語る。

 

「腐ったマギとは言え、動力源に繋がれてれば重量軽減効果が働いてくれるからね。君のカタフラクトなら、機動性は気にするほど落ちはしないよ」

 

「ああ、ヌーベル嬢が言っていたあれか」

 

 慶も狙撃砲を見つめる。

 

「こいつはノインヴェルト戦術の支援に最適で、遠距離でも近距離でも対処できる銃って触れ込みだが、どこまで本当なんだかなぁ……」

 

 怪訝な表情の彼に向き直る。

 

「使ってみないことにはなんとも言えないとは思うが…。慶にも支給されたのか?」

 

「クリバノフォロスに搭載できねぇ銃なんか貰ってどうすんだ。断ったに決まってんだろ。そもそも、手元にゃ換装できる武器も多いし」

 

「……。それもそうだな。ノインヴェルト支援用の火器があるということは、例の特殊弾も?」

 

「うん、一柳嬢たちに支給されてるはずだよ」

 

 

 

 少しして、諸々の点検などを終えた吉春と慶が格納庫から出る。

 

「アールヴヘイムの聖騎士は順調か?」

 

「んなわけねぇだろ…。まともに口効いてくれんのは田中(たなか)嬢か番匠谷(ばんしょうや)嬢くらいだぜ?しかも別に仲がいいとか、そんなことねぇしよ……」

 

「もう組んで2ヶ月は経つんだろう?なのにその状態なのは…。他のメンバーとはどうなんだ?」

 

天野(あまの)嬢とは話ができねぇし、その元凶の江川(えがわ)嬢には…言葉は通じるってのに話が通じねぇ。遠藤(えんどう)嬢も、別の意味で話にならねぇな……」

 

「………」

 

金箱(かなばこ)嬢、高須賀(たかすが)嬢は俺を足かパシリくらいにしか思ってねぇし、(もり)嬢には避けられてるな」

 

「ああ、彼女は人見知りだったな。まだ打ち解けていないのか……」

 

渡邊(わたなべ)嬢に至っては何考えてんのか全然わからねぇ……けど、俺に微塵も興味ねぇのはわかってんだ」

 

「……そうか」

 

 吉春にはただ乾いた反応をすることしかできない。

 

「同族以外に冷たいってのがエルフの世界(アールヴヘイム)らしさだ。まぁ必要最低限の連絡は、田中嬢につくようにはなったからな。それだけでも大したもんだろ?」

 

 皮肉を込めた自嘲の笑みを浮かべる慶。

 

「以前、一柳嬢はアールヴヘイムと君が上手くやっているような話をしていたが」

 

「当たり前だろ。仕事はキチっとやらねぇとダメだ。けどな、プライベートまであいつらと一緒は御免だぜ」

 

「となると……君が牙刃の騎士団(ファング・パラディン)に入った理由も……」

 

「ああ。知らねぇし、知らせる必要もねぇ。知られたらあいつらに嫌われて終わりだ。それで仕事に支障が出たら困るだろ」

 

 ため息混じりに、彼は続ける。

 

「というか……江川嬢には完全に嫌われちまってるし……」

 

「……。聖騎士、交代した方がいいか?」

 

「いらねぇお節介すんじゃねぇよ。クリバノフォロス使いたいって向こうの要望もあんだ。それに、俺はどのレギオンだろうがどのリリィ相手だろうが変わらねぇ」

 

「なら、これからもアールヴヘイムと頑張るのか、君は」

 

「おう。……そう言や、お前のとこのレギオンの名前、決まってんのか?」

 

「第一候補なら。計画を破壊する者(ラーズグリーズ)だそうだ」

 

「はーん?面子の割に物騒な名前じゃねぇか」

 

「そう…か?」

 

 雑談もそこそこに、2人はそれぞれの目的地に向かうため別れた。

 

 

 吉春がやって来たのは校舎の一角。梨璃たちのレギオンの隊室が設けられているはずなので、その確認に向かう。

 

 と、扉の前には既に……

 

「ご機嫌麗しく、一柳嬢」

 

「あ、吉春さん。ご機嫌よう」

 

 梨璃が来ていた。彼女は扉の横に提げられた木製の表札を、不思議そうに見つめる。

 

「『一柳隊』……?」

 

「ほう、一柳隊はこの部屋か」

 

 吉春が答えると、梨璃の後ろに楓と二水が現れる。

 

「一柳隊がどうかしまして?」

 

「ええ。一柳隊ですよね」

 

 さらにミリアムと神琳、雨嘉も加わる。

 

「うむ、一柳隊じゃな」

 

「確か一柳隊だったかと」

 

「私も一柳隊だと思ってた」

 

「君たち、いつの間に集合を……」

 

 吉春が疑問を抱いていると、梨璃が後ろにひしめくメンバーに問いかけた。

 

「……私たち、『白井隊』では…?」

 

 梅と一緒に来ていた鶴紗がややぶっきらぼうに返す。

 

「どっちでもいい。だから一柳隊でいい」

 

「もう一柳隊で覚えちゃったゾ」

 

 最後にやって来た夢結も賛同する。

 

「じゃあ、一柳隊で問題ないわね」

 

「え……ええ…?」

 

 戸惑う梨璃を吉春が呼ぶ。

 

「何にせよ、せっかく充てがわれた隊室だ。早く入ってみようじゃないか」

 

「う…うん」

 

 梨璃が扉を開け、皆で控室へ入る。

 

「「おおー!」」

 

 数名のリリィから感嘆の声が上がった。

 室内は綺麗に掃除されており、ソファやテーブル、証明などの調度品は華やかながら豪勢ということもなく、気品ある物でまとめられている。

 テーブルの上では小さな白百合の花束が花瓶に生けられ、『一柳隊各位様江』と書かれた札が付いていた。

 

「昨日の内に隊長と姐御、それにセリも来て整えてくれたらしい。後で礼を言っておこう」

 

「表札も隊長さんたちが……?」

 

「さてな。この通称を決めたのは生徒会だとは思う」

 

 吉春が梨璃と話している間に、皆が思い思いの場所を見つけてくつろぎ始めていた。

 テーブルにはミリアムや二水が持ち込んだドーナツなどの菓子類と、楓が持って来ていた紅茶がセッティングされている。

 

「で、でも……これじゃ私がリーダーみたいじゃないですか!」

 

「問題はないだろう。なあヌーベル嬢」

 

「わたくしはちぃ〜っとも構いませんが?」

 

 梨璃の横に座った楓が満面の笑みで言う。

 

「梨璃の働きでできたようなもんじゃからの」

 

「ええ……?」

 

 ミリアムに言われても実感できずにいると、梅が口を開く。

 

「ま、梨璃はリリィとしてもまだちょっと頼りないけどナ」

 

「まだまだよ。もちろん、梨璃の足りないところは私が補います。責任を持って」

 

「その何割かは俺の仕事にもなるわけだが……」

 

 夢結と吉春の言葉を聞いた梨璃はほっと息を吐く。

 

「よかったぁ。ですよねー……」

 

 と、夢結がチャームのように鋭い鬼気を梨璃に叩きつけた。

 

「つまり!いつでも私が見張っているということよ!!」

 

「ひぃ?!」

 

「弛んでいたら私が責任を持って突っつくわ。更生が必要ならすぐにでも黒鉄嵐(憲兵隊)に突き出すから、覚悟なさい!!」

 

「はっ…はいぃ!」

 

 萎縮しつつ答える梨璃。2人のやりとりを吉春は不安そうに見ていた。

 

「……教育熱心なのか何なのか……」

 

「はははっ!これなら大丈夫そうだナ」

 

 彼とは対照的に、笑っている梅。

 

「本気で言っているのか吉村嬢?俺は気が気でないぞ……」

 

 一方、先程まで機嫌のよかった楓は……。

 

「くっ…なんて羨ましい……」

 

 歯を見せながら夢結に妬みの視線を投げつけた。ドーナツを両手に持つ鶴紗がもぐもぐと問いかける。

 

「リーダーを突っつきたいのか?」

 

 

 会話を静観していた雨嘉は、不思議なものでも見たと言いたげである。

 

「百合ヶ丘のレギオンって、どこもこんななの……?」

 

「そうでもないと言いたいところですけど、結構自由ですね」

 

「ぜひカルチャーショックを受けていってくれ、王嬢。ここでしか体験できないからな」

 

 神琳と吉春が彼女と話す。やや混沌としはじめた場を、二水が仕切り直した。

 

「と、ともかく!こうして9人と1人が揃った今なら、ノインヴェルト戦術だって可能なんですよ!」

 

「理屈の上ではそうじゃな」

 

 と、梨璃がポケットから金属の円筒を取り出す。手に収まるサイズで、蓋には物々しく封印が施してある。

 

「それって、これだよね?」

 

「…?なんですか?」

 

 二水も興味深そうに覗き込んだ。

 

「ノインヴェルト戦術に使う特殊弾ですわね」

 

「わっ!実物は初めて見ました!」

 

「それな、無茶苦茶高いらしいゾ」

 

「そ、そうなんですか?!」

 

 驚いて梅の方を見る梨璃。梅の隣に立つ吉春が付け加える。

 

「俺たちが装備に使うリアクターを、6基買っても釣りが返ってくる額で取引されるそうだ。リアクターの平均寿命は1年半。1発にそれだけの戦力を集中すると考えていい」

 

「はぁ……」

 

 梨璃はもう一度特殊弾に目を落とす。

 

「ノインヴェルトとは、9つの世界という意味よ。マギスフィアを、9つの世界に模した9本のチャームに通し成長させ、ヒュージに向けて放つの。それはどんなヒュージも一撃で(たお)すわ」

 

 夢結の説明を聞いた雨嘉は不安そうだ。

 

「できるかな…私たちに」

 

「今はまだ難しいかと。何よりもチームワークが必要な技ですから……」

 

「先に言うが、間違っても俺にはスフィアを回すな。負のマギが対消滅して、爆発どころでは済まないはずだ」

 

「ひぇ……」

 

 神琳から続いた彼の説明に二水は顔を青くする。が、楓は軽く聞き流して梨璃と話す。

 

「ま、目標は高くと申しますわ」

 

「はぁ…。そうですよね」

 

 

「………」

 

 2人の様子を、夢結が静かに見つめる。

 

 

 

 しばらくして、構内にヒュージ出現アラートが鳴り響いた。

 

 

 

 一柳隊の面々はヒュージ迎撃ポイントの近くに移動し、廃墟の屋上から水面を眺めている。雨水が溜まった、巨大なクレーターの池である。

 

「ここで見学…ですか?」

 

 梨璃は夢結と共にパラソルの下でテーブルに着き、隣に立つ天葉と話していた。夢結の傍らには依奈も来ている。

 

「私たちの戦闘を見学するなら、特等席でしょ?」

 

「あの夢結がシルトのために骨折りするなら、協力したくもなるでしょう」

 

 天葉と依奈の2人は楽しそうな笑みを浮かべる。

 

「ふふ…。夢結をこんなに可愛くしちゃうなんて、貴女いったい何者なの?」

 

「え?私は…ただの新米リリィで……」

 

「ありがとう、天葉」

 

 夢結は正直気恥ずかしかったが、礼は言っておくことにした。

 

「気にしないで。貸しだから」

 

 冗談めかして言う天葉。

 一方、カタフラクトをしっかりと纏い、黒鉄嵐の通信を聴いていた吉春が彼女に近づく。

 

「なぁ天野嬢」

 

「吉春くん、どうかした?」

 

「いや…。江川嬢に、慶を邪険にしないよう言っておいてくれないか?ああ見えても、なかなか傷ついているんだ」

 

「面白いと思って放ったらかしてたんだけど、ダメだった?」

 

「それを世間では“イジメ”というんだ……」

 

「ふぅん?じゃあ、この戦闘の後にでも言っとくね」

 

 呆れながら、「イジメ」に合わせて上げた両手の人差し指と中指を2度曲げる吉春。その背中に、依奈が目を遣った。

 

 30ミリ狙撃砲がアームでリアクターに繋げられ、接合部の僅かな間隙から暗く赤い光が漏れる。

 

「ノインヴェルト支援用の武器……。その戦術が見たいんでしょ?お見せする間もなく倒しちゃったらごめんなさいね」

 

 

 自信満々の笑顔で、2人は廃墟から降りていった。

 戦闘が始まるまでの暫しの静寂に、夢結が口を開く。

 

「ときに梨璃。貴女、レアスキルは何かわかったの?」

 

「え?あれから何も……。私にレアスキルなんて、ないんじゃないですか?」

 

 どこか申し訳なさそうに笑った。一方で夢結は祀との会話を思い返す。

 

 

 

『レアスキル、『カリスマ』。類稀なる統率力を発揮する、支援と支配のスキル。更には、騎士団員に対する効力がある可能性も指摘されている、数少ないスキルの一つ』

 

『……梨璃のレアスキル…?まさか……』

 

 

 夢結は隣のパラソルの下にいる、二水たちと話す吉春を見る。

 

 

『私も彼も、梨璃の手の内にあると…?』

 

 

 次いで思い出すのは、ここに来るまでの移動の間のこと。廃墟の中で、彼女は吉春とも話していた。

 

 

『一柳嬢のマギに…?』

 

『ええ。貴方の『ホルスの眼』で見て、変わっているところはないかしら』

 

『……。わからない、というのが正直なところだが』

 

『わからない?』

 

『ああ。例えば、君と一柳嬢のマギは違って見える。王嬢と郭嬢のマギも、安藤嬢と吉村嬢も違う。皆、見分けはつくが、それ以上のことはわからない』

 

『………』

 

『彼女のレアスキル…不明なのは気がかりだろうが、少なくとも彼女のマギに異常がないことは明らかだろう。なら、これで一つ、安心ということにしてみてはどうだ?』

 

 

 

 経過した時間は、1秒と少し。

 梨璃の言葉に返答する。

 

「……そう。気にすることはないわ。何であれ、私のルナティックトランサーに比べれば……」

 

「いけません、そういうの!」

 

「………」

 

 夢結の自己卑下を梨璃が遮る。

 

「そんなふうに自分に言うの……。お姉様は何をしたって素敵です!」

 

「……そうね。そう有りたいと思うわ」

 

 

 

 梨璃と夢結が話している頃。

 吉春は、熱心にタブレット端末を見ている二水の横に立って話していた。同じテーブルの楓は羨ましそうに梨璃たちを観察しており、二水と吉春を気にしてはいない。

 

「また何をやっているんだ、君は……」

 

「アールヴヘイムの聖騎士をされている、御業さんがどんな方なのか気になりまして…」

 

 映し出される立体映像。そこには黒鉄嵐の面々の能力などが顔写真と共にズラリと並んでいた。

 

「ヒマか」

 

「大したことは載っていないだろうに……」

 

 同席している鶴紗からのジト目も気にせず、二水が続ける。

 

「でも、興味深いですよ。例えば吉春さん、EXスキルの『再生機能』のランクがAですが、御業さんはDになってます」

 

「ああ…。あまり気にする必要はないところだ。俺のスキルは確かに再生能力は高く、他人の傷も治療できる。が、使い込むとリアクターの寿命を食い尽くす」

 

 立体映像をスクロールし、慶の情報を指差した。

 

「彼の場合、他人の再生はできず、普通に医学的処置を受けた方が傷の治りが早いだけだ」

 

「なるほど…。では、いざというときに怪我をしたら、吉春さんに治してもらえるんですね!」

 

「致死量の負のマギを浴びることになるが、それでもいいなら考えておこう」

 

「えぇ……」

 

 彼の返答に、二水は不満を露わにする。

 

「っ…俺たちのスキルに便利さを求めるな。リリィに対抗できるほど強力なスキルは、例外的に8つのみ。負のマギはエネルギーとして質が低い分扱いやすいが、戦力としての基本性能がリリィに及ぶことはあまりない」

 

「そうなんですか?」

 

「だからこそ、俺たちは装備を多種類作って手数を増やしている。チャームだけで戦える君たち(リリィ)とは違う」

 

「それで今のお前、あと乗せモリモリになってるのか」

 

 鶴紗が見上げる吉春の背中。中央の30ミリ砲に加えて、右肩の後ろには両端に刃のあるいつもの槍、左肩には20ミリ携行砲がつけられ、腰にはその予備弾倉と応急セット、3個のグレネードが備えられている。

 かつてない重装備だ。

 

「天ぷらと一緒にするな、安藤じょ…いや、何か違うな…?」

 

「私はさき入れ派ですぅ」

 

「二川嬢、話題を変えるんじゃない。……ともかく。大抵の騎士にできる、魔法らしいことと言ったら、少々の身体強化と引力場、斥力場の形成くらいだからな。リリィには朝飯前でも、俺たちにはそこが限界だ」

 

「引力場…?」

 

「以前の訓練で、俺が棒を床に張り付けていただろう?ああいうことだ」

 

「ああ…思い出しちゃいました……」

 

 俯く二水。吉春は焦りつつフォローする。

 

「ま、まあ……君もこうして腕利きの揃ったレギオンのメンバーになっている。努力すれば、相応に強くなれるものだ」

 

「……皆さんについて行けるか不安です」

 

「引っ張ってくれるさ、皆が」

 

「……。ところで、御業さんのスキルは……」

 

「ああ、彼は………っ!」

 

 

 吉春が言いかけた直後、アールヴヘイムが向かった先から轟音が響いた。

 

「な、何ですか?!」

 

「敵に動きがあったな…!」

 

 

 

 

 少々時間を遡り…。

 

 

 海水に浸かる廃墟の街並み。その波打ち際にて。

 

 ガンメタルに塗装されたヒト型4脚戦車の狭い操縦席で、パイロットの慶は顔の前に投影された映像を紅い眼光で見つめる。

 彼の視界に映るのは近くに展開するアールヴヘイムのマギ。吉春と同じく、死角なくマギを可視化するEXスキルである。

 

 やがて、彼のスキルが海中にもマギを捉えた。リリィたちに比べてぼんやりとしか見えないが、ヒュージのものであることは明白。

 

「敵を捕捉した。パルス機雷を散布し移動ルートを固定する…」

 

 壱の通信機へ事務的に連絡しながら、慶は戦車の左腕……9発入り箱型ミサイルポッドの最上段3発を点火。

 

 煙を吐き出し、上空へ打ち出されるミサイル。

 

「……っ」

 

 慶の瞳の光が僅かに強まると同時にミサイルが分解。内部から球体を多数放出して海面へとばら撒く。

 

 が。

 

 

  ジャララララ……

 

 

「なっ?!」

 

 

 ヒュージを待ち受けていた依奈が驚きの声を漏らす。

 

  バキバキバキバキィ

 

 敵は海中から鎖状の触手を繰り出し、振り回して空中の機雷を……尽く叩き潰した。

 

 

(パルス機雷に、直接の破壊力はねぇと気づいてやがったのか……?!)

 

 

『□□□□□!!』

 

 

 慶が推理する間にも、ヒュージは降り注ぐ機雷の破片をものともせずに海面から飛び出した。

 

 長い触手と短い足が3本ずつの、歪な円錐形。以前のレストアに比肩する大きな体躯。

 

 

  ドブン

 

 

 着水するヒュージ。その重量故の衝撃が大波を起こす。

 

「チッ!」

 

 慶は脚部のホイールを回転させ、廃墟の間に雪崩れ込み威力を増す波から距離を取る。

 

 その建物の上で…。

 

 

「私たちに揺動を仕掛けた?!」

 

「ヒュージのくせに小賢しいじゃない!」

 

 

 依奈と亜羅椰が追撃を加えるが、ヒュージは水面と水中を行き来して掻い潜り、着実に陸地へと近づいていく。

 

 

 

「押されてるナ、アールヴヘイム」

 

「ええ。あのヒュージ、リリィをまるで恐れていない……」

 

 離れた場所から見守る梅と夢結が分析する。吉春は慶…ヒト型の戦車の動きを目で追う。

 

「接近戦では不利だな…。おそらくここからは……」

 

 

 

「コイツ、戦いに慣れてる!」

 

 チャームにて斬りつけた亜羅椰が弾き飛ばされる中、天葉が自らの得物に特殊弾を装填。

 

「アールヴヘイムはこれより、上陸中のヒュージにノインヴェルト戦術を仕掛ける!!」

 

 

「御業さん…!」

 

 号令を聞いた壱が慶と通信を繋ぐや、ぶっきらぼうな返答があった。

 

『わかってるっての!!150ミリ砲で支援攻撃だろ!』

 

 直後、ズドンと空気が震える。

 ヒト型戦車の右腕である長いキャノン砲から、真っ赤に焼け、血の色の電光をまとった砲弾が放たれた音だ。

 

『薬莢に当たんなよ、お前ら!!』

 

 放たれる度、砲の後ろから特大の金属管が飛び出して地面にガラガラと転がっていく。

 ズドン、ズドンと繰り返し発射される砲弾は、ヒュージの周辺に降り注ぎ進行方向を誘導する。

 

(ついでだ。侵徹ミサイルに負のマギをチャージ……)

 

 キャノン砲を制御する傍ら、彼は左腕のミサイルポッド…その中央の列に備えられたミサイルにエネルギーを込め始める。

 

 

 一方、廃墟の屋上では…。

 

 

「よく見ておきなさい」

 

「は、はい…」

 

 

 璃梨と夢結が、慶の砲撃の間にマギスフィアを回していくアールヴヘイムを観察する。

 

「ノインヴェルト戦術は、その威力と引き換えに、リリィのマギとチャームを激しく消耗する、文字通りの諸刃の剣ですっ!」

 

「だからこそ、バックアップとして随伴する騎士団の動きも重要なんだが…。頑張れよ、慶……」

 

 

 二水と吉春による解説が終わると同時に、最後を担当する彼女にスフィアが渡る。

 

「不肖、遠藤亜羅椰!フィニッシュショット、決めさせてもらいます!!」

 

 

  ドギャウッ!!!

 

 

 銃口にスフィアを合わせ、光の塊を射出する。それは真っ直ぐヒュージへと向かい……。

 

 

  ギンッ!

 

 

「何っ!?」

 

 

 ヒュージが展開した光の壁……防御結界にめり込んで止まった。何の破壊力も生じさせないまま、眩く輝き続ける。

 

 

「フィニッシュショットを…止めた……?」

 

「嘘っ?!」

 

 

 天葉、壱、亜羅椰たちが驚く中、慶は自身のスキルでヒュージのマギを覗き見る。

 

(コイツ…このエネルギーは何だ…?!)

 

 そして、敵の体内に()()()を見つけた。

 

 

「……コイツもかよ、畜生が!!」

 

 コックピットで叫び、マギスフィアをロックするや否やミサイル発射ボタンを強引に叩く。

 

 

 エネルギー充填が完了したミサイルが1発のみ、戦車の左腕から飛び出した。

 

 

 

 廃墟の屋上でも。

 

「何じゃあ?!」

 

「えっ…?」

 

 驚きと興味が混ざった声を上げるミリアム。その近くで、夢結も敵に違和感を覚えた。

 また、吉春は急いで慶に連絡する。

 

「慶!そのミサイルはまずい!今、天野嬢が…!」

 

『あ?!あいつ……っ!』

 

 

 

「あ…!」

 

 無理矢理にでも、スフィアを結界に押し込もうと飛び出した天葉。しかし、彼女の横を通過して、同じくスフィアに向かうミサイルを目にした。

 

 彼女の身体に比べて遥かに大きく、重たいミサイルの中には大量、かつ高密度の負のマギが詰め込まれている。

 それが、彼女が向かうスフィアと接触したなら、起こることは明らかだ。

 

「ヤバっ…!」

 

 空中で踏み止まろうとした、まさにその時。

 

 

  ギュンッ!

 

 

「…は?」

 

 

 ミサイルはぐにゃりと弾道を変え、咄嗟に構えられた彼女のチャームにガツンとぶつかる。

 

 そのまま、ミサイルの先端にて彼女をぐいぐいと押し返し始めた。

 

 

 

「み…ミサイルが生きてるみたいな動きを…?!」

 

 そんな光景を目の当たりにして驚愕する二水に、吉春が説明する。

 

「二川嬢。EXスキルには、リリィに対抗できるものが8つあると話したろう?慶が持つスキルはその内の一つで、俺の『ホルスの眼』の上位スキルでもある」

 

「上位スキル…?」

 

「マギを視ることと同時に、ある特殊なことができるんだ」

 

 

 

 ミサイルに押されながら、天葉が呼ぶ。

 

「ちょ…ちょっと慶くん?!」

 

 

『うるせぇ!!』

 

 ヒュージが伸ばした鎖状の触手2本に両腕を絡め取られ、3本目の射程まで引き寄せられながら慶が返答。

 

『いつものパシリみてぇに!面倒なやつは俺にやらせてろよ!!お前は後ろで仲間を守りやがれ!!』

 

「何を…うわっ?!」

 

 ミサイルの中から滲んだ負のマギが斥力場を形成し、先端にしがみつく天葉を叩き落とす。

 

 直後、ミサイルはまたもや弾道を曲げてヒュージ…否、マギスフィアへと飛んでいく。

 

『負けるかよ…!負けてたまるかよ!ニワトリ野郎がぁ!!』

 

 左腕のミサイルポッドは巻きつかれた触手によって押しつぶされ、右腕の砲も明後日の方向に向けられている。

 

 が、彼の叫び声と共に触手が巻きついた砲から放たれた弾は、あり得ない運動で弧を描きヒュージの結界で爆ぜる。

 

『両腕はくれてやらぁ!!テメェの悪趣味には合わねぇだろうが知るか!!』

 

 瞬間、彼は機体の武装を全て破棄(パージ)。同時に4つの足の下に斥力場を形成する。

 

 

 

「彼は自分に繋がっている負のマギを、自由自在に動かせる。何発のミサイルだろうと砲弾だろうと弾丸だろうと、彼が放てば全てが追尾弾。超高性能の誘導兵器だ」

 

 

「それ……リリィの最新型チャームに匹敵してますよ?!」

 

 廃墟の屋上で、吉春の説明を聞いた二水が目を丸くした。

 

「だからこそ、リリィに対抗できるスキルに数えられている。それが彼の能力……始まりの濁流――」

 

 

 

 捉えていたヒト型戦車を、正中線で叩き斬ろうとヒュージは3本目の触手を振り上げた。

 

 

『奴を飲み込め……『ナウネトの(みずち)』ィ!!』

 

 

 斥力場で飛び退きざまにその乗り手が吠えた瞬間、上空から赤熱化した対ヒュージミサイルが激烈な加速でもってスフィアにぶち当たる。

 

 

   バ ァ ン!!

 

 

 落雷のごとく閃光が迸り、破裂音が空気を強烈に叩く。

 

 負のマギと、リリィのマギによる対消滅。そこから生じる莫大なエネルギーはヒュージの防御結界を消しとばした。

 

 だが、被害はそれだけに留まらない。

 

 

 瞬間的に超高温、超高圧となった空気が、灼熱の矢の嵐となったミサイルの破片諸共に、周囲のあらゆる全てに襲い掛かる。

 

 

「『ヘリオスフィア』!!」

 

 

 背後にレギオンの仲間を集めた天葉は、レアスキル……極めて強固な防御結界を張って仲間を守った。

 

 彼に言われた通りに……。

 

 

「はあ……はあ……」

 

 

 爆炎が通り抜け、空気の温度が下がり始めた頃に結界を解除する。

 息を吐くと、彼女の手にあるチャームにビキビキとヒビが入った。

 

「あ…そう言えば、彼は……」

 

 燃え盛る爆心地付近に慶の痕跡はない。そこから離れた地面に目を遣ると……。

 

 

「嘘……慶…くん…?」

 

 

  シューー……

 

 

 彼女は、煙を上げて地面に転がる金属塊を見つけた。

 

 

 

「す…すごい爆発でした……」

 

「衝撃の後に爆風が……」

 

 二水と雨嘉が話す中、吉春は急いで通信機を起動。

 

「慶!慶!!生きてるか?!応答しろ!!』

 

『………』

 

「慶?!おい!!」

 

『…………し…死なねぇ……死んでたまるか…よ……』

 

「っ!よかった…!吹き飛ばされたから、却って無事で済んだのか……」

 

 

 

 吉春との通信を外へ漏らしながら、焼け焦げ、無数の破片が突き刺さった金属の塊が、ギチギチと鳴りつつ天葉たちの目の前で立ち上がる。

 

『慶、その場を動くな。救護班が向かう』

 

『…じ…自力で……合流…してやる…よ…。おかしい……だろ…?痛く…も、熱くも……ねぇ…んだ……』

 

 熱で輪郭すら変形し、両腕も無くした4本脚の……ヒト型戦車だったモノが歩き始める。

 

「……っ!?」

 

 装甲の割れ目から、不気味な色の液体がボタボタと滴り落ちた。天葉は思わず口に手を当てる。

 

 彼女だけではない。アールヴヘイムの誰もが、コックピットの中の様子を想像して青ざめた。

 

「け……慶く…ん…?」

 

 ギチ、と音を立て、液状に垂れ下がった視覚センサーが天葉を見る。黄色い光は、まだ消えていない。

 

『あま…の…嬢…。俺に…構うんじゃ…ねぇ…よ…!俺は……俺は…お前ら…みてぇな……()()()()()じゃ……ねぇんだ……』

 

「な…何を言って……」

 

『…誇り…高い……アールヴ…ヘイム…だろ…?なら……ブラン…ド……大事に…して…俺を…使い捨てろ…。こ…こんな…ふうに…な…!』

 

 うわ言のように呟きながら、立ち止まっているアールヴヘイムから慶は離れていく。

 

『それ……が…正し……い……』

 

 

「「………」」

 

 アールヴヘイムの全員が絶句したまま、彼を見送る。程なくして、壱の通信機に吉春から声がかかった。

 

『田中嬢、敵はまだ撃破されていない。君たちはどうするんだ?』

 

 壱は通信機を天葉に渡す。

 

「……不本意ですが、アールヴヘイムは撤退します」

 

『……了解』

 

 通信を切り、彼女はもう一度、慶が去って行った方を見る。

 地面には、赤黒い液体が点々と並んで続いていた。

 

(彼は……いったい…?)

 

 

 廃墟の屋上で、状況確認を進める吉春。その傍ら、一柳隊の面々が燃え盛る旧市街地の一角を見つめる。

 

「アールヴヘイムがノインヴェルトを使って仕損じるなんて……」

 

 楓が呟いていると、突如。

 

 璃梨がチャームを閃かせて飛び出した。

 

「璃梨さん?!」

 

「おい、一柳嬢!」

 

 二水と吉春に呼び止められた彼女は、振り向きざまに言う。

 

「あのヒュージ、まだ動いてます!黙って見てたりしたら、お姉様に突っつかれた挙句吉春さんたちに更生させられますから!!」

 

 まだ息があるヒュージに向かっていく彼女。楓たちも乗り気で続く。

 

「どさくさ紛れに一柳隊の初陣ですわね!」

 

「援護するぞ、皆!」 

 

 駆け出し、アーマーのフェイスガードを下ろした吉春。黄色い光を放つ視覚センサーの下で紅い眼光を研ぎ澄ます。

 

「『ホルスの眼』…。奴の防御結界は崩れたな。仲間が世話になった借りを、利子も付けて返してやる…!」

 

 すると……。

 

『よ……吉春……』

 

 またもや彼との通信が繋がる。

 

「慶?!もう喋るな、君は…!」

 

『一つ…だけ、言わねぇと……ダメ…だ…。い…いいから…聞け…っ!』

 

「…何だ?」

 

 

『…し、白井嬢…に、気を…つけろ…。いいか…。せ……戦闘、終わるまで…っ…絶対、目……放す…な…よ……』

 

 

「白井嬢からだと…?……まさか、奴も……そういうことなのか、慶!?」

 

『…………』

 

 音にならないほど細い息だけが、通信機から漏れ出てくる。

 

「くっ…慶…。今はとりあえず休め……」

 

 

 時を同じくして、夢結は胸のペンダントを握り込んだ。

 

(お姉様……私たちを守って……!)

 

 

 かつて愛した姉を思い出しながら、彼女は妹とともにヒュージへと飛びかかる。

 

 





 アニメ見返してて思ったのですが、どこからともなくチャームを取り出す楓さんや夢結さんって……アレ、演出ってことでいいんですかね?この小説では省いてますけど…。
 あと、チャームは撃っても薬莢が出ない辺り、『スターウォーズ』のブラスターみたいな、実体のある弾を撃ってるわけじゃない武器みたいですね。本作の騎士団の装備は完全に実体弾を撃つ物としています。
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