アサルトファング Bestia Oratorium   作:羽桜千夜丸

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 エレンスゲ編3話目です。何となくこの章が一番読まれている気がしていますが、実際どうなんでしょうね…。




第3話 死神の吠声(はいせい)

 格納庫で自らの半身である鋼の巨人に、左腕ウェポンユニットを装着する作業を進めている冬賀。

 

 彼の機体に一葉からの通信が入る。彼女たちの位置情報も同時に届いた。

 

『ヘルヴォルより司令部。目標区域に現着しました。近隣市街地の被害状況は?』

 

 続いて聞こえるのは司令部教導官の声。

 

『住民に重軽傷者41名。死者は確認できていない。区域周辺の住民の避難はまだ完了していないため、迅速な状況対応が求められる』

 

『負傷者がそんなに……』

 

『でも死者がいないのは幸い。これ以上の被害が出ないよう、やるしかない』

 

『ええ』

 

 千香瑠と瑤のやりとりの後、恋花の愚痴が流れる。

 

『避難が完了してないって?こういうフォローの悪さがエレンスゲって感じね』

 

『避難はマディックの皆さんが主導していますが……』

 

『リリィや騎士になれるような適性がなかった子たち……確かに、戦えば大きな被害が出るね…』

 

『…ヒュージに襲われたら、ひとたまりもないわ…!』

 

『そうならないよう、私たちがこの区域のヒュージを片付けましょう。冬賀、あとどれくらいで出撃できますか?』

 

『……』

 

 作業の進行状況と、ヘルヴォルの位置から所要時間を割り出す。

 

『出撃までは20分程度かかるかと』

 

『なるはやでもそれくらいか……。一葉、冬賀はアテにせず行くしかないね』

 

『今は仕方ありません。ヘルヴォルよりエレンスゲ司令部へ。敵勢力発見。これより状況を開始します』

 

『司令部よりヘルヴォル。了解、敵勢力の殲滅に当たれ』

 

 通信が一度切られる。この間にも組み立て作業は続いていた。

 

 

 

 しばらくして…

 

 

  ズガァァァァァァァ………

 

  ザ----…

 

 

(……今の通信は…?)

 

 爆発音と共に訪れた通信の乱れ。それが収まると、一葉の声が入ってくる。彼女は司令部教導官と話しており、冬賀は千香瑠に話しかけた。

 

『千香瑠様、爆発音を検知いたしましたが、皆様ご無事ですか?』

 

『冬賀くん、ええ。でも避難所の辺りで爆発したみたいで…今、一葉ちゃんが…』

 

『……マディックではヒュージの対処に多大な損害が出ると言っているんです!』

 

『損害の出ない戦いなどない』

 

『っ!』

 

 司令部の教導官が冷徹に返した。一葉はその返答に息を飲み……

 

 

『皆様!ヘルヴォルはこれより避難区域に向かい、避難民の保護を最優先に行動します!瀑銀隊もこちらへ!』

 

 

 予定の変更を告げた。

 

『もちろん!』

 

『かしこまりました』

 

『お、おい?!』

 

 真っ先に賛同したのは千香瑠と冬賀。一方で恋花が呆気に取られている。

 

『住民に大きな被害が出る可能性を見過ごすわけにはいきません!』

 

『恋花』

 

 名前を呼び、そのたった一言で彼女を説得したのは瑤だった。

 

『……わかってる!行くよ!』

 

『急ぎましょう、皆様!冬賀、合流地点の変更ですが……』

 

 冬賀は作業の傍ら、装備にある機能を作動させる。

 

『一葉様、貴女の通信機の信号を追尾させていただいております。そちらの動向に随時合わせて移動して参ります』

 

『…わかりました。貴方もどうか早く!今は1人でも人手が必要ですから…!』

 

『それでも心許ないけどね……』

 

『もうしばらくお待ちくださいませ』

 

 冬賀にはそう答えるのが精一杯だった。

 

 

 

 やがて、取り付け作業が完了する。

 同時に一葉と恋花から通信が入った。

 

『冬賀、聞いてください…』

 

『はい』

 

『現地にいたマディックの情報により、避難所近辺で新たにラージ級ヒュージが確認されました。ミドル級も含まれる群れで、街へ大きな被害を出す可能性があります。ですから…』

 

『応援が来るまであたしたちだけで叩いとく……んだけどさ、期待できる?』

 

『……。こちらが聞いていた通信の範囲では、既に確認されていたラージ級その他へ部隊の大部分が展開し、交戦中。おそらく自分が最初の応援になるかと』

 

『…期待できないってことか。で、あんたが最初ってことは…』

 

 

『はい。取り付け作業が完了いたしました。たった今でございます』

 

 

『んじゃとっとと来て!』

 

『かしこまりました』

 

 

 通信を切り、初期設定を組む。

 

 

(接続完了……マギチャネル開放、データリンク構築…)

 

 マギの流れに乗った新武装の情報が彼の頭に入る。

 

 

(3連装ガトリングキャノン。シールド機能も兼ね備え、肩の下部分は180度回転可能…。この状態で腕を付け根から後ろへ回せば地対空射撃、ただ伸ばせば地対地射撃…畳めばシールド。右腕のチェーンソーと合わせて遠近両方に対応した……)

 

 

 装着が済めば、あとはこの格納庫を飛び出して戦地へ赴くのみ。

 

(全作業アーム、ホームポジションへ帰還。全チャネル、クリア。アンビリカル、セパレート…)

 

 鋼の巨人が目覚める。天井のアームは所定位置に収納され、背中に繋がれていたケーブルが全て外れる。

 

 膝を伸ばして立ち上がり、センサーの視覚を脳と共有させた。彼の目には無骨な格納庫のシャッターが映る。

 

(各系統、オールグリーンを確認。シャッターを開く…)

 

 遠隔操作で開かれる、格納庫の重々しいシャッター。薄雲から透けた陽の光を視覚器が捉えた。

 

『瀑銀隊よりヘルヴォルへ。出撃準備完了。クリバノフォロス-Sgr(サジタリウス)A(アダプテド)。湖穣冬賀、出陣いたします』

 

 両足の下で高速移動用ホイールが唸りを上げる。

 巨人はたちまち学園の敷地を駆け抜け、ヘルヴォルに合流すべく道路を滑走した。

 

 

 

 

(どうか…大惨事になる前に……!)

 

 川に架かる橋を渡り、路地を抜け、一葉の信号を追いかけて進む冬賀。

 すると……。

 

(……!あれは…。間違いない…!)

 

 前方に人影が見えた。

 彼と同じ方向に向かう、長く薄いグレーの髪に、上着の長袖が余るほど小柄な体躯。それに釣り合わない大きさのチャームを手に駆ける……エレンスゲの制服を着た1人のリリィ。

 

 彼女の顔は見えない。

 しかし、後ろ姿だけで冬賀には、彼女が誰かすぐにわかる。

 

 

 

『……(らん)様』

 

 

 

 彼女は気づいていないのか走り続ける。スピーカーを調整し、もう一度……

 

 

 

佐々木(ささき)(らん)様!』

 

 

「んー?」

 

 

 濃い金の瞳が振り向く。年齢の割にどこか幼い、愛らしさのある顔……。

 

「あー!」

 

 彼女はスピードを落として冬賀の隣にやって来た。

 

「とーが!とーがだぁ!」

 

 ひょいとジャンプして巨人の肩に飛び乗る。チャームの重みにより一瞬だけ膝が歪んだ。

 

『お久しぶりです、藍様』

 

「うん!とーがもヘルヴォルのおうえんにいくの?」

 

『ええ。共に戦うと約束しましたから』

 

「じゃあ今日はひさしぶりに、ふたりでおもいっきりたたかえるね!」

 

『はい』

 

 リリィ…藍の瞳と、巨人の兜にある歪な顔の目が、同時に黄色の光を放った。

 

 

 

 

 避難所付近。

 ラージ級ヒュージ…台座に乗った水晶のような12面体型の個体が、上部を傘のように開き、長大な触手2本を伸ばして攻撃してくる。

 周りの戦車型ミドル級の火力支援に加えてラージ級の耐久力の高さもあり、ヘルヴォルは押されていた。

 

 一葉が瑤を援護しつつ体勢を立て直す。交差点の中央で、皆が背中を合わせて周囲を見ている状態になった。

 

「み…皆…?あの……私たち、敵に取り囲まれてるみたいだけど…」

 

 十字路の各方面から、ミドル級ヒュージがジリジリと近づき、千香瑠の正面にはラージ級が聳えている。

 

「ついに撤退もできなくなったか……。とにかく、やるだけやるしか…」

 

 

 恋花がチャームを構え直した次の瞬間。

 

 

『お待たせいたしました』

 

「冬賀?!」

 

『湖穣冬賀、現着しました。それから…』

 

 

 通信と共に何者かが戦場に乱入。小柄な体に巨大なチャームを持ち上げたリリィが、1体のミドル級に近づき……

 

 

『“友人”を連れて参りました』

 

「…は?」

 

 

  ヒュンッ

 

  バギャア!!

 

 

 彼女はヒュージの脳天に得物を振り下ろし、その勢いでもって“叩き割る”。

 

 

『□□□□ッ!!?』

 

 

「1体目げーきはー!!」

 

 

 断末魔と共に戦場に響く、狂喜の叫び声。

 

「ミ、ミドル級が真っ二つに……」

 

 驚く千香瑠たちに構わず、彼女は次の獲物に飛びかかった。

 

『□…』

 

 ドッガッゴシャッ!

 

 目にも留まらぬ速さで振り回される鈍器。2体目のヒュージが跡形も悲鳴もなく潰れ飛び散る。

 

「あははは!!2体目げきはーー!!あはははははは!!」

 

「また…!一体、貴女は…!」

 

 目の前でその光景を見せられた瑤が呼びかけるが、彼女は構わず突撃していく。

 

「次はあっち!!とーが!!」

 

 向かう先には2体のミドル級。1体目が叩き割られ、2体目は……

 

 

  ドガガガガガガガガガガガガ

 

『□□□□□□!!』

 

 

 背後から連続して撃ち込まれる深紅の光弾を受けてたちまち穴だらけになり、襲撃者の方に振り向くや否や…

 

  ヴィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ

 

 

『□ッ』

 

 

  ドゴォオッ

 

 血色の稲妻を纏う長いチェーンソーで斬り裂かれ、巨大チャームに殴り飛ばされてバラバラと地面を転がる。

 

 ヒュージの亡骸の影からは巨人の騎士が現れた。左手の3連装ガトリングの銃口から煙が上がり、表面で紅い稲妻が弾ける。

 

「あはははは!!」

 

 彼女はひらりとジャンプし、巨人の肩に飛び乗った。

 

『参上しました皆様』

 

「らんがおうえんにきたよー!げーんちゃーっく!」

 

「お、応援って、1人でここに?君はリリィなんだよね?他の子は…レギオンは?」

 

 一葉の問いに、藍はあっけらかんと答える。

 

「れぎおん?らんはひとりで、よくとーがとふたりでたたかうよ!!」

 

「ひ、1人!?しかも冬賀とって…?!」

 

 問い質している間に、ヒュージの群れが立て直されていく。

 

「一葉、ヤバいっ!囲まれる…!」

 

「っ!君、そこから降りて…」

 

 一葉と恋花が庇うように藍を手招きする。

 が、彼女は巨人の肩の上で、剣を振る指揮官のようにチャームを前に向けた。

 

「いっくよーーとーが!!」

 

『はい』

 

 声色に温度差のあるやり取りを経て、巨人が左腕を畳み盾とし、足のホイールで駆け出す。同時に肩から藍が飛び出した。

 

「であぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 空中に躍り出た藍はチャームをキャノン砲に変形させて上方からミドル級を次々に撃ち抜き、砂埃を巻き上げる。

 

 それを引き裂いて現れる冬賀が、チェーンソーで残りのヒュージに留めを刺していく。

 

 

「あははははははっ!たーのしーー!!」

 

 

 大火力射撃と高機動の巨体による格闘戦。そのコンビネーションは……。

 

「な、なんて荒くて的確なの…?!」

 

 千香瑠も舌を巻くものだった。

 

 あっと言う間に群れが分断される。

 

「一瞬で、包囲を解いた…!あの2人が。敵を蹴散らして…」

 

「凄い力……」

 

 群れの残りを瞬く間に減らしていく、機械巨人と小柄な少女。2人が奏でるのは純粋なる破壊の調べのみ。

 

 両者の目から漏れる黄色の光は、煙を上げる線香のごとく。

 

「もっと!もっとあそぼうよ!はぁっ、はぁっ。らんはあそびたりない!!はぁああっ!」

 

 ヒュージを蹴散らして進んでいく2人。その行く手に……。

 

「……か、一葉ちゃん…?前…前に……」

 

「わーお…これはヤバい感じ……」

 

 控えていたラージ級に、藍が近接戦を仕掛ける。冬賀は足を止めて、左腕のガトリングを展開し射撃で彼女を援護。

 

「らん、たたかう!!もっと…もっともっと!」

 

 撃ち続ける冬賀の近くに4人が集まってくる。

 

「一葉、もう時間稼ぎなんて言ってられない。やるか、やられるか」

 

「っ!!藍を中心に戦闘展開!私たちでラージ級を撃滅します!」

 

「了解」

 

「それしかないか、残念ながら!」

 

「で、できるだけ頑張るわ!」

 

 と、ラージ級が鎖のような触手を放出。先端に刃が付いたそれで藍を振り払わんとする。ジャンプで後退しつつ回避し、皆の近くに着地した彼女。

 そこに鞭のごとく振り下ろされる触手を……

 

  ガギィィィィィィィィィン……!

 

 冬賀が畳んだ左腕の盾で受け止める。

 

『自分が援護します。皆様、お早く』

 

「いっくよーー!たあああああああ!!」

 

 再び飛びかかる藍に続き、ヘルヴォルの全員も駆け出した。

 

 

 

 

 水晶のような形のラージ級ヒュージと、それが従える群れとの戦いは激化の一途を辿る。

 

 圧倒的パワーでミドル級を潰していく藍を援護しつつ、ラージ級も狙うヘルヴォル。

 しかし、有効打が決まらない。

 

「……っ!やっぱりこのラージ級…タフ過ぎる…!」

 

 瑤が苦い顔をしていると、ヒュージが鎖状の触手で近くにいた恋花を串刺しにすべく伸ばしてくる。

 それを彼女は回避しながら一葉に通信。

 

「攻撃も鋭い!一葉、やっぱこのままじゃジリ貧に…!」

 

 

「まだです!群れのミドル級は減っていますし、チャンスは必ず見つけられます!」

 

 皆が疲弊していく中、メインターゲットがラージ級に移る。

 

(頭数は減ってきた……。でも、このままでは…!)

 

 触手を振り回して暴れるラージ級を見上げる一葉。

 

 

(何か…決定的な隙でもなければ……!)

 

 

 と、彼女の近くに来ていた冬賀に呼びかける藍の声が響いた。

 

「とーが、『あれ』やって!『あれ』!!」

 

『……はい、藍様』

 

 肯定の返答。急な出来事に恋花たちは戸惑う。

 

「え、冬賀…?!『あれ』って何?!」

 

『…一葉様。自分が隙を作りますので、一斉攻撃の合図を願います』

 

「それは…ラージ級にですか?!しかし、いつ…」

 

『………』

 

 一葉の呼びかけに答えることなく、彼は頭部の装甲を開いて生身の顔を露出させる。

 

 それは、藍がラージ級の胴体に向かってジャンプしたタイミングと同じであった。

 

「でぁああああああ!!」

 

 飛びかかる彼女に、ヒュージは容赦なく触手を繰り出す。

 

 

「藍?!」

 

 

「危ないっ!!」

 

 

 一葉と千香瑠が悲鳴に似た声を上げる……その時。

 

 

  ドクン……

 

 

 冬賀の装備……鋼の巨人の背中に収められた、極めて高いエネルギーを生み出す3基のリアクターが鈍い輝きを増し、解き放つ。

 

 巨大なエネルギーが稲妻となって冬賀へと流れ込んだ。

 それは彼の身体のある一点……喉に集中する。

 

 

(喰らい付け……『アヌビスの(あぎと)』!)

 

 

 目一杯開かれた、彼の口から放たれたのは……

 

 

 

  ドウッ!!!

 

 

 

「うわっ?!」

 

「きゃあっ!!」

 

「っ!」

 

「何?!」

 

 

 轟音。

 

 声ですらない、爆発的エネルギーを瞬間的に放つ、正真正銘の爆音。空間を震わせる大気の振動であった。

 

 

 そして、ヘルヴォルは目撃する。

 彼の咆哮が響いた、その瞬間に……

 

 

 

「……は?」

 

 

「ヒュージが……」

 

 

 

「止まったああああっ!!」

 

 

 

  ドゴォッ!

 

 

 写真に撮られたように、その動きをピッタリと停止するラージ級。それだけでない。周りの残党のミドル級も動きを止めている。

 

 呆気に取られる恋花、一葉らを置いて、止まった触手をやり過ごした藍の一撃が、ラージ級の胴体に叩き込まれた。

 

 一葉は確信する。

 これが、冬賀の言っていた『隙』であると。

 

 

「っ!皆様、ラージ級に火力集中!一気に叩きます!!」

 

「え…ええ!」

 

「わかった…っ!」

 

「何かよくわかんないけど……!」

 

 

 ヘルヴォルによる一斉射撃の第1波が命中。それと同時に、ヒュージが息を吹き返す。一時停止していた映像を再生するかのごとく動き出し……

 

「……ん?」

 

「は?」

 

 

『□□□□□□□□□!!』

 

 

 狂ったように叫びながら冬賀に触手を叩き込む。2本あるその両方で、ヘルヴォルなど意に介することもなく集中攻撃を繰り返し始める。

 

『□□!』

 

『□□!』

 

『□□!』

 

 ラージ級だけではない。周囲にいたミドル級の戦車型ヒュージも、一斉に彼だけを狙って熱線を放ち始めた。

 

 彼は攻撃を最小限にして、回避と防御に専念する。

 

「冬賀が…引きつけてる…!?」

 

 驚く瑤。一方の藍は……

 

「あはははは!!それ!それ!!それーー!!」

 

 彼に殺到するヒュージを片っ端から次々と撃破。

 戦車型は同士討ちもしたが、それにすら気づかぬまま骸となる。

 ラージ級はどれほどダメージを受けても冬賀しか眼中にないまま、自ら引き連れていた群れの残りを亡き者に変えていく。

 

 あっという間に、ミドル級の残党が消滅した。

 

「一体…何が…?」

 

「騎士団の方たちも『スキル』を持っていると聞いたことがあるの。きっとあれが、冬賀くんの……!」

 

 ラージ級に銃撃を続ける瑤と千香瑠。その横に、チャームを剣に変形させた恋花が駆けてきた。

 

「何にせよいい的!斬り込んでいくよ!」

 

「待ってください、恋花様!冬賀!」

 

『はい、一葉様』

 

 藍と共にラージ級を攻撃しつつ回避も怠らない彼に、聞いておきたいことがある彼女。

 

「どれくらいの時間、引きつけていられるんですか?!」

 

 彼は淡々と通信を返した。

 

 

『ごく短い時間です。自分かヒュージが死亡するまでですので』

 

 

「っ!皆様、近接戦で一気に!留めを刺します!」

 

「そうね!」

 

「わかった」

 

「…が、頑張るわ!」

 

「タイミングは……藍!」

 

 

「たあぁああああああああああ!!」

 

 

  バギィ!

 

 

 ヒュージの背後から大型チャームを打ち込む彼女。

 その場所に、鈍い音とともにヒビが入った。

 

 

「「「はぁあああああああっ!!」」」

 

 恋花、瑤、千香瑠の連続攻撃が、その割れ目を吹き飛ばして弱点に通ずる穴へと変える。

 

 

『□□□!!□□□□□□!!!』

 

 

 体液を噴出しながら絶叫するヒュージ。だが、それでも冬賀への攻撃をやめない。

 

「これで……」

 

 体に開いた大穴に、一葉のマギを集中した斬撃が迫る。

 

 

「終わり…!!」

 

 

  ザンッ!

 

 

『□□□□!!□□……□□□□……!』

 

 

 心臓部を斬り裂かれ、割れ砕けるヒュージの体。断末魔が途絶え、地に斃れ伏す瞬間まで……その触手は鋼の巨人の方を向いていた。

 

 

 

 気づけば陽は傾き、間もなく夕焼けが辺りを染めるであろう時間になっていた。

 

「あー……綺麗な空だなあ……。ふふ…ふふふ。よく生きてたもんだわ」

 

 瓦礫の上に座り、空を見上げて黄昏れる彼女を瑤が心配する。

 

「……恋花、大丈夫?怪我は?」

 

「あー、うん。マギの使い過ぎで疲れただけ。奇跡的にほぼ無傷で済んだわ……」

 

 一方……。

 

「一葉ちゃん、藍ちゃんは……?」

 

「はい……まだ眠ったままです」

 

『………』

 

 座っている一葉の背に体重を預けて、藍がすやすやと眠っている。その様子を、千香瑠と冬賀が優しい眼差しで見守っていた。

 彼は巨人の胴体の装甲を開いており、吹き抜ける風を体に浴びている。

 

「戦いが終わった途端にコトン、だものね」

 

「大丈夫…でしょうか?」

 

「大丈夫よ。こんなに穏やかに眠ってるんだから」

 

 一葉は申し訳なさそうにしながら、恋花たちの方にも顔を向ける。

 

「すみません、危険なことに付き合わせてしまって」

 

「ほんとほんと。死ぬかと思った!」

 

「す、すみません!」

 

「恋花」

 

 ミーティングのときのように彼女に謝らせる恋花を、瑤が軽く叱る。

 

「でも、これが…これからのヘルヴォルの戦い方なのね……」

 

「え……」

 

 呟いた千香瑠の方を向く一葉。唐突な言葉に少し驚いたのだ。

 

「ほら、向こう」

 

 千香瑠が指差すのは、瓦礫の山と街の境。健全な建物が見えている。

 

「私たちが来るまで、ヒュージが暴れてた場所。ちゃんと守れたわ」

 

 彼女が穏やかな笑顔を見せると、一葉も安堵の表情になる。

 

「はい、そうですね……。よかったです、ヘルヴォルの最初の一歩を無事に踏み出せました」

 

 そう言って、彼女は藍を背負って立ち上がると冬賀に向き合った。

 

「ありがとうございます、冬賀」

 

『……と、仰られますと…?』

 

「今日、勝利できたのは貴方の力があってこそでした。これからもよろしくお願いします」

 

『………』

 

 冬賀は意外そうな顔できょとんとした後、ほんの少しの笑顔を浮かべ……

 

『…光栄でございます』

 

 義肢の右腕を装備との接続部から外し、その前腕をパチンと戻して左胸に当て、頭を下げて礼とする。

 金属の腕が、少年の胸元で陽の光を受けて煌めいた。

 

 と……。

 

「応援、到着しました!」

 

「ラージ級はどちらに?!」

 

 エレンスゲのリリィたちがやって来た。新たに発見されたラージ級を撃破すべく送られた部隊。

 

 しかし、彼女たちが倒すべき敵はもう亡骸である。

 

「あははは……」

 

 恋花は笑顔で彼女たちを出迎え……突如目を釣り上げた。

 

 

「遅いわーーーー!!」

 

 

 

 

 ビルの谷間に沈む夕日を眺めながら帰投するヘルヴォル。メンバーは冬賀のクリバノフォロスの肩の上や、展開された左腕の上に座っている。冬賀は足元の車輪で動いており、今や完全に彼女たちの乗り物だ。

 

「これ楽チンじゃん!いいねいいねー!」

 

「恋花、冬賀を足にするのは…」

 

 瑤が彼女を窘めるが、一葉も乗り気だ。

 

「確かに、迅速な移動が可能になるのは戦略を立てる上で大きなプラスですね…。活動範囲も広がるでしょうし……。冬賀、この移動方法を今後も行なっていいでしょうか」

 

 頭の装甲を開けている彼は何食わぬ顔で答えた。

 

『ご命令とあれば、いつでも』

 

 と、恋花が話題を切り出す。

 

「で、冬賀。何個か聞いときたいことあるんだけどさ……」

 

『はい』

 

「まず、さっきの……ヒュージを止めたやつ。何?」

 

『……EX(絶滅)スキル、『アヌビスの顎』。ヒュージのマギに働きかけ、動きを固める音波を発するものです。スキルの効果範囲内に存在するヒュージは動きを数秒止めた後、発信源の破壊を最優先として活動するようになります』

 

「…絶滅…スキル…」

 

「なるほど。危険な役どころですね…。それで、貴方の身体は……」

 

 一葉が悲しそうに見つめたのは彼の左目。半分ほど機械センサーになったその顔が横に振られた。

 

 

『違います、一葉様。アヌビスの顎は……死に瀕するほどのダメージを受けた身体でなければ発現しないスキルです』

 

 

「「?!」」

 

『だからこそ、死神の名を持つスキルなのです』

 

 皆が驚くが、彼は静かに言葉を続ける。

 

『そしてヒュージ・マギ・リアクターがなければ……騎士団に入らなければ、スキルが発現することはありません』

 

「じゃあ……冬賀くんは……」

 

「瀑銀隊となる前から…」

 

 彼はさも当然のように答える。

 

 

『はい。元よりこうでございます。EXスキルに共通で付随する再生機能でも、発現前に受けた傷に効果はありません。アヌビスの顎は、EXスキルの中では再生能力がやや高いものですが』

 

 

「「………」」

 

 しばしの沈黙。クリバノフォロスが切る風が少し冷たくなった。

 その沈黙を破ったのは……瑤だった。

 

「……何があったの?」

 

『………』

 

 彼は悩むように目を閉じた後……決意めいた顔で言葉を発する。

 

 

 

『……日の出町の惨劇です』

 

「「!!」」

 

 ヘルヴォルの全員の顔に衝撃が走る。

 彼女たちの間ではあまりにも……知れ過ぎた一件であるためだ。

 

『あの事件の折、自分はヒュージの熱線に身を焼かれました。自分の家も、家族も、近所の方々も友人たちも……何もかもを失いました』

 

「………」

 

「………」

 

 一葉に恋花…眠っている藍を除く皆が、沈痛な面持ちで彼の話を聞いている。

 

『幸か不幸か、自分には負のマギへの耐性があり……早期に発見されたこともあって命は助かりました。しかし……それ以外のほとんど全てを失いました。生きていた証明も証人も失い…自分は1度、死んだ身です』

 

「……どうして…ですか…」

 

 俯いた一葉が問いかける。

 

「どうして…戦ってこれたんですか…?」

 

『……。この体では、自ら命を絶つことすらままなりません。何度となく絶望しました。故郷の全てを喪ったと知った時。手足と、目と、声を失い、自らの意思で彼らの居場所に行けないと知った時…』

 

 学園まではまだ距離がある。

 

『騎士団の施設で治療を受けながら、自分には選択権が与えられました。1つは、騎士団に入り新しい身体を手に入れ、騎士として戦い、死と隣り合わせとなって生きること。もう1つは入団せず、義肢と義眼を諦め……野垂れ死ぬこと』

 

「野垂れ…?」

 

『財産も、自分の生存を証明する人も物も失くしてしまいましたから。公的な支援を受けることはできない身だったのです』

 

 春の夕方。街に冷めた風が吹いている。

 

『自分にはもう、選択肢はありませんでした。行く場所も、帰る場所もないこの体にまだ使い道があるなら、1つでも果たさなくては……』

 

 夕焼けが、長い影を路地へと落としていた。

 

『……何のために生まれ、なぜあの日を生き残ったのか…その意味がわからないまま…自分にとって無意味なままに、この命は朽ち果てて……生き残らせてくれた全ての方の命すら無意味にしてしまうことでしょう』

 

 赤い空を映して煌めく川。その上に架かる橋を渡る。

 冬賀は申し訳なさそうな顔を彼女に向けた。

 

『一葉様……自分に信ずる正義はございません。ただ、出涸らしのようなこの命を手放せずにいる…それだけのことです』

 

「……あ…」

 

 一葉は午前中に、教導官から言われた言葉を思い出した。

 

『騎士団の他の隊員にも、自分のような者は多くおります。居場所を失くした者。帰る場所を失くした者。日々の糧が手に入らない者。その家族など……リリィにも似た境遇の方は大勢いらっしゃるかと』

 

 教導官と同じことを、他ならぬ彼の口から聞く。

 

 

『我ら、牙刃の騎士団に正義はございません。ただ、昨日を無駄にしたくない。今日を乗り越え、明日を迎えたい。そう願う者たちが、傷を舐め合って共に戦う。それだけのことです。大義名分もなく、幸も不幸も関係なく、ただ生きるために』

 

 

「でも……貴方は1人で…」

 

 だんだんと学園が近づいてくる。

 

『エレンスゲ女学園が要請した隊員が1人であった以上は仕方ありません。それでも居場所ができ……』

 

 彼は少し頭を動かして、一葉に抱えられている藍を見た。

 

『その上、新たな友人にも出逢うことができました。単独行動が基本の藍様と自分は、戦場で遭遇する機会が多かったためです』

 

 学園はもうすぐ。

 

『ヘルヴォルによる、“瀑銀隊への直接命令権”。これは本来、最高戦力である貴女方を守るために、自分がこの身を犠牲にすべき時に行使することを想定していました。学園は、一瞬でも騎士団と共闘していただけで、充分な評判を得られる実績と考えていたようですから』

 

 冬賀はもう一度振り向く。

 

『それが…貴女から直々に、名高いトップレギオンの指揮下に加わり、共同で戦うように命令を受けたことは想定外でした。自分に価値を見出してくださったこと、この上ない喜びです、一葉様』

 

「……そうですか…」

 

 柔らかく微笑む冬賀に、一葉は切ない笑顔を向ける。

 

「それは…よかったです…」

 

 他の皆も少し複雑な笑顔。そんな少女たちを乗せた巨人が門を抜け、学園へと帰還した。

 

 




 信じられるか?これ、一日の間の出来事なんだぜ……。
 新学期初日からバタバタし過ぎな気がしますが、このガーデンならこういう事態を引き起こしたり、やりかねないのが何とも言えないところです。

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