アサルトファング Bestia Oratorium 作:羽桜千夜丸
アニメシーンの独自解釈があります。
梨璃、夢結、楓、吉春の4人は、学院近くの旧市街地を通り、逃げたヒュージを探していた。
そんな中、楓は恨めしそうに梨璃を見ている。
(七須名さんだけなら適当なタイミングで別行動を提案すればよかったのですわ。しかし……梨璃さんが…!)
「梨璃さんさえいなければ、夢結様と2人きりなのに…梨璃さんさえいなければ……!」
そんなことはつゆ知らず。梨璃は荒れ果てた街の景色を見渡した。
「すごい…。これ、ヒュージと戦った跡ですか?」
「学院自体が海から襲来するヒュージを積極的に誘引し、地形を利用した天然の要害となることで周囲の市街地に被害が及ぶことを防いでいるんですわ」
「弓形の海岸線を使って、引き込まれてきたヒュージを袋叩きにするのが俺たちや君たちの仕事だ」
「…なるほど…」
それからしばらく進むと、深い塹壕のような道に入る。
歩きっぱなしであるためか、楓は愚痴を溢した。
「はぁ……。何なんですの、この道は…」
「切り通しといって、1000年ほど前に作られた通路よ」
「はあ…。歴史の勉強になりますわね」
更に進み、空き地で小休止。槍と、左肩に装備した柄の長い長剣を点検する吉春の横に楓も座り込んだ。
「ふぅ…入学式の前からくたびれ果てましたわ……」
「安心してくれ、ヌーベル嬢」
武器の点検を終えた彼が立ち上がり、少し先まで歩き出す。
「七須名さん?」
「ヒュージを捕らえて運ぶときには、黒鉄嵐の乗り物を使う。つまり帰りは楽だ」
「気休めご苦労様ですわ。わたくしたちが見つけられなければ歩いて帰ることになりますでしょう?」
「む……。確かにな…」
「全くもう…」
風が吹き、周りで萌え始めた木々の葉がざわざわと音を立てる。
目に入るのは、ただその光景だけ。
「何にも出ませんね…」
梨璃が呟く。
「もうちょっと奥まで行きますか?」
「ん?まあな」
「本当にこの辺りにはいないのでは……何ですの?」
突然、吉春が空いた左手を伸ばして3人に「待て」と言うような仕草をする。
目を閉じ、そして……。
(開け……『ホルスの
ドクン……
彼の背中にある赤く光る結晶体が、短く、僅かにその強さを増す。
目を開き、左手の崖を見つめた。
(……一柳嬢、チャームが“留守”だな。だが、今はそれより…)
「……隠れるな、出てこい!」
言い終わると同時に、額のフェイスガードを顔に下す。彼の顔は鬼へと変わり、目の位置でセンサーが黄色の光を放った。
すると、彼の声に応えるように、崖の表面にヒュージの姿が浮き上がる。周りの景色と同化していたのだ。
この地域によく出現する、角の生えた球体型。三日月のような形の3本の脚を崖に開いた穴に引っ掛けて、3つの目でこちらを睨んでいる。
「うわっ!ほ、本当に出た!」
「何を呼んでますの!」
叫びながらチャームを取り出す楓。金属の円環内部に柄があり、その先に長い刃が付いたジャマダハルを思わせる形の剣を抜く。
「奴はこちらに気づいていた!来るぞ!」
ヒュージは鋭い足を崖に突き立て、壁を走る昆虫のように動き、梨璃目掛けて落下する。
「っ!お退きなさい梨璃さん!!」
梨璃は自分のチャームに手をかけるが、しかし。
「う、動かない?!」
「?」
楓は梨璃の動きに一瞬気を取られてしまう。
「……っ!」
「スゥ……」
この事態にまず動いたのは夢結。梨璃をかかえて攻撃を躱す。次いで動くのは吉春。楓の前に立ち、息を吸いながらヒュージに向けて槍を構え……
「イィヤッ!!」
掛け声と同時に突き出す。そのとき、背中の結晶体から血の色をした稲妻が迸った。それは肩、腕を通って槍まで達する。
そして槍の上で弾け飛び、その刃が瞬く間に光を放つ。
溶鉱炉の鉄のようなオレンジの光。
ヒュージは灼熱の槍の突きを後退で躱し、吉春の背後から放たれた楓の銃撃を受けると崖を崩す。
「おっと…!」
「一旦退きますわ!」
「そうだな!」
土煙が舞う中、4人は切り通しの上に架かっている橋の下へ移動した。
「コマンダー、こちら七須名。標的を発見したが逃げられた。位置情報を送り対応を乞う……」
吉春が学院に報告する一方、楓は梨璃を崖に追い詰める。
「うぅっ?!」
「貴女、チャームも使えないで一体何をなさるおつもりでしたの?!」
「ごめんなさい……私…」
「…通信終わり。もう止せ、ヌーベル嬢。過ぎたことだ」
「しかし…!」
「一柳さんをそこまでの初心者と見抜けなかった私の責任ですから」
夢結の言葉に俯く楓。
「それは…。だからって、自重すべきでしょう、貴女は…」
「はぁ…」
吉春は腰に付けていた小箱を外して梨璃に渡そうとする。
「?…何ですか?」
「さっき怪我をしただろう?こちらにも落ち度はあった以上、お詫びはしておかなくては…」
梨璃の右腕には切り傷があり、指輪を嵌めた中指の先まで血が流れている。先程のヒュージの攻撃が掠っていたのだ。
吉春の手にあるそれを、夢結が横から取って開いた。
「…応急セット…。いえ、今はまだいいわ」
「と言うと?」
「……2人とも、少しの間周囲の警戒をお願いします」
「え?」
「了解した」
「は、はい…」
吉春と楓がこの場を離れ、夢結は梨璃に向き合う。
「まだチャームとの契約を済ませていないのでしょう。略式だけど、今してしまいます」
「はい…」
夢結は梨璃を背後から支え、チャームを持つ彼女の手に自分の手を添えた。
「痛むでしょう…」
「いえ…大丈夫です……。夢結様、私の血が…」
梨璃の腕からの血が腕をつたって指輪へと流れる。
「それでいいの。略式ということになっているけれど、これが本来の形なの」
チャームの心臓部……金属の輪に嵌め込まれたオレンジ色の結晶体が淡い光を放ち始めた。
「指輪を通じて、貴女のマギがチャームに流れ込んでいるわ」
「マギが…。そう言えば、吉春さんの背中にあった、これと似たような物は……?」
「……あれはヒュージよ」
「え?!それってどういう…」
「……今はこちらに集中して」
その頃、楓と吉春は背中合わせの位置に立って警戒していた。
刃を開き、弓矢のような形になったチャームを手にしている楓から話しかける。
「先程報告しておられましたが、学院の方からは何か?」
「『カサドール』の機動隊を向かわせてくれると。ただ、遠くまで標的を探しに行っていたそうで、こちらに着くのはいつになるやららしい」
「……不安そうですわね?」
「ああ。胸騒ぎがしてな…」
「相手はただ1体の小型ヒュージですわ。何を恐れますの?」
「…奴はどこか妙だ。まず、俺たちに奇襲を仕掛けるために待ち伏せしていた。普段の同型なら、人間を見つければ即攻撃してくる」
「偶々ではなくて?」
「そうかもな。だが、違和感が強くなったのはさっき……俺の槍を躱された時だ。あの瞬間、奴は確かに俺の手を読んでいた。前に俺たちと戦ったことをしっかり覚えている」
「………」
「それにすぐに追って来ない。引き際…戦術的撤退を心得ていると見える」
「……結局何が言いたいんですの?」
「奴は他と一味違うということだ。用心深く頭がキレる。何を仕掛けてくるか、予想はつかない物と思ってくれ……っ!」
「そうですわね…。っ!!来ましたわ!!」
角の生えた球体が上空からすっ飛んでくる。地面に近づくと装甲の隙間から足を生やし、着地しながら楓に襲いかかった。
『□□□□□□□!』
「っ!」
「ヤッ!」
彼女が剣に戻したチャームで受け止めた足の付け根に、灼熱の槍で突きを見舞う吉春。しかし。
「なっ!」
「おっと!」
ヒュージは足を細分化し、先端に刃が付いた触手を放って攻撃する。
「息を合わせなさい!」
「心得えた!」
弾かれつつ距離を取る楓は再びチャームを変形。上方からヒュージに連続射撃を浴びせつつ、その隙を吉春が突く。
「ィヤァァァァァッ!!」
槍の中ほどを両手で持ち、棒術の要領で振り回して槍の両端にある灼熱の刃で何本かの触手を斬り落とす。
楓が着地し、挟み撃ちの形になると、ヒュージは煙を吐き出しながら跳ね上がった。辺りに煙幕が満ちる。
「ぐっ!」
「ガス?!」
「大丈夫、ただの目眩しよ」
冷静な夢結。
対して梨璃は、頭を押さえた吉春に声を掛ける。
「大丈夫ですか?!」
「あ…っああ。正しく目が眩んだだけだ。しかし、これは…!」
ヒュージは煙の中に逃げた。楓もその後を追う。
「これじゃ、わたくしのカッコいいところを夢結様にお見せできないんですってば!」
彼女の様子を見ていた吉春は、はっとして声を上げる。
「………!!まさか!?戻って来いヌーベル嬢!!これは罠だ!!」
「上等ですわーー!!」
煙の向こうから彼女の声だけが響く。
ドクン……
吉春の背中の結晶体がまた光を強める。
「っ…」
すると、フェイスガードの下で彼の瞳も同じ色に輝いた。
彼の視界は暗転し、少し離れた場所にある2人分のマギが“視え始める”。顔は向いていないが、視えるのだ。
その不思議な光景にはノイズがかかっていた。
(一柳嬢のチャームはまだか…!それに奴のマギも、ヌーベル嬢のマギも“視えない”!この煙幕…俺の『スキル』を…!)
吉春は会話している夢結と梨璃の方へ走る。再び槍の刃を赤熱化させ、2人に近づいていく。
「白井嬢!一柳嬢!場所を変えるんだ!!」
「何が……っ!」
彼よりも少し速く、煙から飛び出したヒュージが梨璃たちへ迫る。
夢結は咄嗟にチャームを構え……
「止せっ…」
「待ってください!」
梨璃が夢結の腕を押さえた。それと同時にヒュージが跳躍。背後から……
猛烈に加速した楓が飛び出してきた。
「「?!」」
驚愕する夢結と楓。楓のチャームの刃が、夢結と梨璃へ向かう…その間に。
「Break a leg…!」
カキン
吉春が割って入り、楓の突撃を槍でいなす。そのまま身を捩り、背後に立ったヒュージ目掛けて……
「ィヤッ!!」
灼熱の槍を投擲。楓から受け取っていた全運動エネルギーも加わり、赤い稲妻を伴ったそれは文字通り雷のごとく、振り向いたヒュージの目の上に突き刺さる。
『□□□□□□!?』
ヒュージは悲鳴を上げ、再び姿を消した。
「当たった…が浅いか…」
(先程の動き…伊達や酔狂では不可能ですわ…。七須名さん…貴方は一体、どんな訓練をどれほど…?それに、「足を折れ」とは…何ですの?)
槍に触れた瞬間にはほとんど速度をゼロにされていた楓。驚きの様相で吉春を見ていた。
再び移動し、煙のない場所まで来た。
吉春が先程と同様に学院に報告している横で、楓は謝罪を口にする。
「申し訳ありません、夢結様…」
「あのヒュージ、私たちの相打ちを狙ったわ」
「まさか。ヒュージがそんな知恵を?」
「残念ながら事実だ、ヌーベル嬢」
「七須名さん…?」
「待ち伏せして不意打ち。その後煙幕で撹乱し、誘導して罠に嵌める。俺たちが奴を捕獲したときの作戦だ。それを奴は自分で再現してくれた。君たち3人を惨殺処刑するためのアレンジまで加えてな」
「今回は罠ではなく、その場所に夢結様と梨璃さんが…」
「一柳さんにお礼を言うべきね。一柳さんが私を止めなかったら貴女、今頃真っ二つになっていたところよ」
「貴女、眼はいいのね」
「あはは…。田舎者なもんで、視力には自信あります」
「そういう意味では…」
「あ、吉春さん!さっきは助けてくれてありがとう!」
「務めを果たしただけだ。君の視力を俺にも分けてもらえれば嬉しかったが…」
「視力?」
「ああ。俺にはマギの存在と流れを視覚化するスキルがある。…が、さっきの奴の煙はそれを邪魔する作用があった。どうやら相当嫌われているらしい」
「あ、さっきの『目が眩んだ』って……」
「それで、どうしますの?」
「学院からは捕獲は諦めて撃破に切り替えよとの指示が出た。戦術を変えなければ、捕獲を前提とした俺たちの動きでは奴に逃げられる可能性が高いからな」
「では追いましょう。先程七須名さんが手傷を負わせたので、流れ出たヒュージの体液を辿って追跡できますわ!」
「……そうね」
が、すぐさまその必要がなくなる。
辺りに突如、またもや煙が立ち込めた。
「わっ!何?!」
「奴か!!」
吉春はすぐさま左肩の長剣を抜いて構える。と、煙の中から例のヒュージが飛び出した。そして鋭い刃が付いた触手を射出し……
「……っ!」
「ぐおっ!?」
吉春を弾き飛ばし、刃を受け止めた夢結を上に押し上げる。
「夢結様!吉春さん!」
空中に放られた夢結は触手の束に捕まってしまう。
その時。
「……!」
梨璃のチャームにある結晶体の表面に、ルーンが重なった光の筋が浮き上がる。
そしてチャームは形を変える。今までライフルのような形をしていたそれは、折り畳まれていた刃を展開し……
「わっ…!」
柄がやや短い片刃の大剣となった。
「!」
その光景を見た楓。彼女たちの後ろには、真っ赤に焼けた長剣の上で血色の稲妻を瞬かせる吉春がいる。
「白井嬢は任せろ!君たちは……!」
彼が指差したのは、ヒュージの額に刺さったままの槍。
楓は頷くと、チャームを構える梨璃に問う。
「一撃でしてよ。そのくらいできまして?」
「う…うん!」
梨璃と楓は突撃、吉春は斬撃の構えを取り……
「「やああああああ!!!」」
「イヤアアアアッ!!」
一度に飛びかかる。マギ放出によって加速する2人に、彼は背と脚のスラスターからのエネルギー噴射でタイミングを合わせた。
ヒュージにとっては、前の2人か後ろの1人か…どちらに夢結を叩きつければいいか迷っている間の出来事だった。
稲妻を纏った灼熱の剣が扇状の弧を描き触手を焼き斬る。同時に2人の攻撃が、槍が刺さった場所に過たず命中。
僅かな傷口は、その衝撃でもって蜘蛛の巣状のひび割れとなり…ヒュージの顔面を崩壊させる。
『□□□□□□□□□!!!』
ヒュージは脇を駆け抜けた2人に、斬り裂かれたものとは違う触手を繰り出そうとする。
が、勝負は着いていた。
拘束から開放された夢結はチャームを振り下ろし、崩れたヒュージの顔に四角い刃でもって最後の一撃を加える。
ひび割れはヒュージの背中まで達し、その体を割り砕いた。
『□□□□□□□□□……!!』
青い体液と共に撒き散らされる断末魔。
「よし、これで……?!不味い!!」
ヒュージは倒れたが、その余波もまた大きかった。
亡骸が衝突して切り通しの崖が崩れ、楓の頭上から岩が落ちる。
「楓さん!!」
「え……きゃあ?!」
梨璃は咄嗟に彼女を崖の穴に突き飛ばした。直後、その穴が岩で塞がり……
「梨璃!」
「あっ…?!」
岩だけでなく、飛び散ったヒュージの体液も降ってくる。それから梨璃を庇うように、夢結が彼女に被さった。
が、2人にはさほど体液が付いていない。
「大丈夫か?」
「…っ」
「吉春さん!」
夢結の更に上から、2人を覆う形で吉春がしゃがみ込んでいたのだ。体液の大部分は彼が背中で受け止めている。
開かれたフェイスガードの下には、涼しい顔があった。
「…何故?そんなことをしても、私が貴方たちを信用しないことに変わりはないわ」
「それはさっき聞いた。こちらも、さっき言ったことをもう一度言わせてもらうが……」
立ち上がった彼はヒュージの残骸に向かい、剣を肩のウェポンラックに収めて槍を拾い上げる。
「務めを果たしただけだ。君がどう思おうが、俺は役割を遂行する。さ、そこを退いてくれ。ヌーベル嬢を引っ張り出す」
「……」
2人が岩から離れると、吉春は槍を穴の入り口と岩の隙間に差し込み……
「わっ…しょい…!!」
力を込め、テコの要領で岩をずらす…と、隙間からは無事な姿の楓が出てきた。
「楓さん、大丈夫?」
「り…り…さん…」
再び太陽の光を浴びることができた彼女。その表情は…どこか心ここに有らずといった具合だ。
「さてと…」
ブロロロロロロロロロロロロ……
吉春が槍を肩に装着し直す。時を同じくして、バイク型の乗り物が近づいて来た。
「迎えが来た。学院に戻るぞ」
車体全体が装甲され、機関砲やミサイルが載せられた2輪のマシン2台が4人の前に停まる。
「何…あれ…」
「黒鉄嵐の機動隊の機体、『カサドール-
車体の表面には、その車輪を咥えるように狼の横顔の紋章が描かれていた。
アニメ第1話の敵、自分が捕まえられたときの状況を再現してるんじゃない?と思ったので。