アサルトファング Bestia Oratorium 作:羽桜千夜丸
ある日の早朝。
朝焼け空に照らされる校舎から反射した光が、シャッターの開いた格納庫に淡い影を伸ばす。その主である冬賀は、己の半身である鋼の巨人、その右肩の後ろを見上げていた。
そこには本体の鈍い銀の装甲と異なり、光を反射しない真っ黒な楕円体……コガネムシのような形の機械と、それを収める台が付いている。
また、両肩の上や腕の一部、膝には、金属の棒でできた手すりとしても機能する追加装甲が備えられている。
(いよいよか……)
考え事をしていると、格納庫の出入り口に人影が現れる。
「おはようございます、冬賀!」
『はい、おはようございます。一葉様』
彼女は予定の確認のためにやって来ていた。
「今日は学園から離れたところの訓練地で、貴方からの攻撃も有りのノインヴェルト戦術の練習です。準備はいいですか?」
『問題ございません。そちらの方はいかがですか?』
「早起きが苦手な藍を無理矢理起こす形になってしまいましたが、大丈夫です。それはそうと……」
「?」
一葉は少し興味ありげな顔になった。
「昨日、牙刃の騎士団のトラックが来ていたようですが、新しい装備でも…?」
『はい。取り付けは昨日のうちに済んでおりますので、早速本日より使用させていただきます。皆様もきっと気に入ってくださるかと』
そう答えた彼は自信のある笑みを浮かべていた。
数時間後。
ヘルヴォルと瀑銀隊の面々は、郊外のうち捨てられた街にやって来ていた。立ち並ぶ背の建物や道路が植物に覆われている、広大な廃墟の町である。
「皆様、ついに来ましたよ!冬賀との模擬戦形式での、ノインヴェルトの訓練の日が!」
一葉がノリノリで喋る一方、恋花は不安そうな顔だ。
「大丈夫なのかな〜…。なんか、一方的にボコボコにされそうな気がするんだけど?」
「そう?」
隣に立っている瑤は普段通りであった。
「買い被るわけじゃないけどさ、冬賀だってそこらのリリィよりは実戦経験あるわけでしょ?それにここは遮蔽物だってたくさんあるし、冬賀の想定してる市街戦に近くて、学園でやってきた訓練とは条件も違う」
一呼吸置き、彼女は瑤と藍、千香瑠がいる方に向き直った。
「本格的なノインヴェルトに慣れてないあたしらには不利かもってことよ。用心するに越したことないっしょ」
「そこもちゃんと考えていますよ」
一葉は得意げに説明する。
「今回はロングパスを主軸に、相手を撹乱しつつパス回しのペースは少し抑えて組み立てます。実際に都心で使用する場合に近い形になるはずです」
「確かに、街中だとビルの間を通してパスを繋ぐ必要があるものね」
千香瑠も彼女の意見に賛同していた。
「この形式の訓練は初めてなので、冬賀には遠距離から詰めて来てもらいます。それ以外は好きに動いて構いません」
『かしこまりました。では、お先に』
「お願いします」
「とーが、またねー」
一葉と藍に見送られ、冬賀は地面を滑走しながら街の中に姿を消した。一旦彼への通信を切り、一葉は簡単に作戦会議を開く。
「それでは、スタートは瑤様からお願いします。『オペレーションおおかみさん』で、散らばって展開してください」
「わかった」
瑤は頷き、訓練用のインク入り弾を受け取る。
通信を開き、冬賀にも呼びかけた。
「それでは、訓練開始です!」
一葉は自分のレアスキル、『レジスタ』を発動させていた。効果範囲にいるリリィのマギに働きかけ、攻撃力や機動力などを上昇させる支援スキル。新たな視野とも呼べる超常的な空間把握力も獲得するため、指揮を執る上で好都合である。
その彼女の俯瞰的視野が冬賀のクリバノフォロスを捉えた。そのとき、瑤から通信が入る。
『一葉、冬賀の右肩…背中寄りのところに付いてるのは何なの?』
「新しい装備とのことですが、詳しくは何も…。念のため、注意はしておいてください」
『うん。それじゃあ始めるよ』
一方、冬賀もタイミングを合わせていた。
(訓練用ペイント弾、左腕ガトリングに装填完了。そろそろパス回しが始まる頃…。この距離なら撃墜もされないかな。……『スカラベウス』)
彼が脳内で命令した瞬間、右肩の台から黒々とした物体が切り離された。直後、下側…コガネムシの尻にあたる部分のスラスターが点火。
パシュウッ
と小さな音を立て、晴れた空へと急上昇した。
藍に最初のパスを回した瞬間、瑤の耳に一葉からの通信が入る。
『冬賀が肩から何かを射出…!』
「ミサイル?」
『いえ、そんな雰囲気は……なっ?!消えました?!あれの位置を把握できません!』
『大丈夫大丈夫』
「恋花?」
彼女は先程までは不安だったが、街中に身を潜めたことでいくらか楽観的になったようだ。
「ミサイルにせよ何にせよ、現状脅威じゃないんでしょ?なら、先に冬賀を倒しちゃえば」
+
『そうですね…。!恋花様、そちらに千香瑠様からのパスが!』
「見えてる見えてる!……オッケー!瑤、一旦返すよ」
『うん』
+
+
『…?妙ですね。冬賀のガトリングが開いています。まだ距離があって、遮蔽物もあるのに……』
「焦ってんのかな。あのガトリング、命中精度微妙だし」
+ +
++
+
「このままジャンプして、遠距離から狙うのもアリかもね。一葉、あたしに戻すルート残しといて」
『はい!』
『……ところでさ、恋花。今、私から見えてるんだけど…』
「どったの、瑤?」
『そのおしゃれなチェック柄、何?』
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+++
+++
恋花はようやく気づいた。手の平や服の上に浮かぶ、赤い光の十字の模様に。
「……は?何こ……」
ドドドパァン!
彼女の言葉は続かなかった。恋花が手を見つめた次の瞬間、彼女は全身を蛍光グリーンに染め上げられていたのである。
「うっそ……」
愕然とする彼女が見つめるのは建物の隙間。僅かなその空間に、こちらに向けてガトリングを構える銀色の騎士。その輝きのみ小さく見えた。
通信機から一葉たちの声が飛ぶ。
『っ!瑤様、フォローを!』
『何があったの一葉ちゃん!』
『冬賀が、恋花様を狙撃しました!建物の細い隙間を通して、ガトリングで!』
『どうやって…?』
「………皆」
恋花はようやく口を開いた。
「とりあえず……赤い光の格子が見えたらヤバいよ…。あと、ちょっとでも冬賀が見えてたらもっとヤバいから…」
すると…。
『とーが見つけた!藍がフィニッシュする!』
恋花の目に、模擬弾に向けて建物の屋上から飛び上がる藍が映る。
「あっ!ちょっと待って藍!」
藍の近くにいた千香瑠の目が、赤い格子模様を捉えた。
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「藍ちゃん!足…足に…!」
「んー?何ー?」
彼女も気づいて、空中で足を振るが……。
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「わ、ついて来………」
ドパァンドパァン!
すぐさま彼女も蛍光色に染まる。
「藍ちゃああああん!!?」
『千香瑠様、とにかくスフィアを!落とさないようにお願いします!』
「え、ええ……っ!なんとか取ったわ…!」
彼女は自分が持つ槍型のチャームの先端で、模擬弾を捕まえることに成功。
「うー…千香瑠、ごめんね……」
着地した彼女に、すでに屋上に戻っていた藍が謝った。
「う…ううん、大丈夫よ…。本番でこうならないようにする訓練だもの……大丈夫…大丈夫…」
彼女は自分に言い聞かせるように呟きながら、スフィアを保持したまま一葉と瑤に近寄る。
「お2人とも、一旦距離を取ります!」
瑤と千香瑠に呼びかけながら、冬賀から離れることにした一葉。背後を警戒しながら考える。
(ガトリングによる超精密射撃…?一体、どうやって……)
すると、声の届く距離に来ていた千香瑠が声を上げる。
「あれは……?!」
「どうしたんですか、千香瑠様?!」
「ええ……あら、見えないわ…。さっき飛んでたのよ…。真っ黒で、羽の生えたウミガメのような形の何かが…!」
「それって……」
『冬賀の肩に付いてたあれ…?』
3人のかなり上空では、長い翼を伸ばした漆黒のコガネムシ型の装置が静かに滑空していた。
この装置を操作している冬賀は、巨人と共有している視界の端で、様々な情報と共に示されている上空からの映像を見ていた。
(なんとか2人は倒したけど……3人には警戒されてるな。さっき高度を上げた瞬間、千香瑠さんにスカラベウスが見られてたみたいだったし…)
足のホイールを回して3人を追いながら、彼は独白を続ける。
(近づくとやられる可能性は高い……けど、あんまり離れられるとやっぱり当てられない。やるしかないか…!)
瑤、千香瑠、一葉の3人は冬賀との距離を開けつつ作戦を練り直す。
『一葉、手はあるの?』
「現状、攻撃の正体がよくわかりません。長引くとこちらが不利ですから……」
一葉は覚悟を決めて提案する。
「ある程度離れたら
『Uターンしてカウンターで撃ち込むってことか』
「確かにこのまま、遠距離から狙っても仕方ないわ。飛び込んで行くしかなさそうね」
「ではお2人とも、私の合図で一気に逆走してください!」
「ええ!」
『わかった』
その頃、冬賀は…。
(いつまでも鬼ごっこを続けるなんて、一葉さんは悠長なことをしない。もうそろそろ何かを仕掛けてくるか……)
3人が太い道に差し掛かる、その瞬間。
「今です!」
「はあっ!!」
『っ!』
走りながら踏みしめた一歩。その一蹴りにマギを込め、体を捻って向きを変えると地面を思い切り蹴飛ばした。
3人は勢いを揃えて冬賀を囲む位置へ急接近する。
(ああ、来た!)
その様子を、冬賀もまた目にしていた。
+ +
+
++
(まずはスフィアを持ってる千香瑠さんから……!)
一方……。
「そうはさせないわ…!瑤さん!」
狙われていた千香瑠は彼女にパスを回す。
「千香瑠を撃つ時間はあげない…!」
(遅かった…!なら今度は……)
+
+
千香瑠に映っていた光の模様が減り……
(瑤さん………)
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+
++
「甘い…!」
彼女の方に増える。狙われているとわかった彼女は一葉にパスする。
だが、彼の狙いは……。
(……の、マギスフィア!)
+++
++
+++
「あっ…?!」
(当たれ…!)
ドガガガガッ!!
短く連射されたペイント弾。数発が訓練弾の後ろを通り過ぎ、そして最後の1発は……。
ドパァン!
「うわっ!?」
命中。訓練弾は空中で破裂し、軌道の先にいた一葉にインクの雨を降らせる。
「「「…………」」」
『……マギスフィア、ロストを確認』
愕然とする3人の耳に、冬賀からの通信が届いた。
数時間後。
制服を着替え、学園に帰還した6人が控室に集まっている。
「冬賀、何あのチート?!」
恋花から質問されることを想定していた彼は、格納庫から持って来ていたタブレット端末に新たな装備の立体映像を表示する。
『新型試作装備、ステルスドローンのスカラベウスです。負のマギを溜め、放出量を制御できるヒュージ・マギ・コンデンサが動力源となっていて、機体から充電して使用します』
映し出されたのは、コガネムシの形をした小型飛行マシン。
『マギを持つ生命には存在と行動に関する全てが認識されなくなるという、とある
「そんなヤバいスキルがあんの?!」
「なるほど、それで私が見ていたときに消えたんですね」
驚く恋花の横で、一葉は冷静に思い出していた。冬賀が立体映像のコガネムシに触れると、その背中が変形して長い翼が展開した。そのまま説明を続ける。
『このようにスラスターと翼を備えていて、スラスターで打ち上げた後に噴射を止めて滑空します。スラスター動作中は先程のステルス機能が使えません』
「じゃあ、やっぱり私が見たのは……」
『千香瑠様には、高度を上げるためにスラスターを噴射したタイミングを目撃されていました』
千香瑠は自分が見た物体の記憶と、目の前の立体映像を重ね合わせる。
『ただし、他の機能は滑空しながら使えます。それが高解像度望遠カメラによる偵察と、レーザー反射波照準補正システムです』
「わー…すごーい……」
藍が瑤に寄りかかりながら、眠そうに反応した。
「眠くなるのもわかるけど……。そのレーザー…補正システムって?」
『元々はミサイルの誘導に使うシステムだったのですが、これを他の火器に転用して高いロックオン性能と命中精度を実現しています。反射光をセンサーで検知することで照準を補正し、自分のガトリングの場合は命中精度が桁数で向上しました』
「滑空ってことは音がほとんどしないってことか。装甲は光を反射しないって書いてあるし……」
恋花がタブレット端末に表示された情報を読む。
「……なるほど、こっちまで偵察されてた上に精密射撃まであったら、そりゃあ今日みたいにコテンパンにやられてもおかしくないか…」
「実際、ヒュージの遠距離攻撃でスフィアを失うケースは珍しくないそうですからね。今後はここの対策も練っておきましょう」
一葉の言葉を聞いていた瑤がスカラベウスに視線を落とす。
「実質的に“鷹の目”が追加されたようなもの。敵に回すと厄介だけど味方だと心強い。一葉が前に言ってたみたいに、機体を改良して強くなってる」
『……そうとも言えます』
複雑な心境を顔に出している冬賀に、一葉が詰め寄った。
「はい!冬賀、今後もこの調子で頼みますよ!役立つ物をどんどん載せてください!」
『機体重量の制約はどうかお忘れなく』
「……一葉、あんた冬賀の装備を熊手かなんかだと思ってんの…?」
そんなやり取りから数日後。
それなりに練習を重ねたヘルヴォルに、ついにノインヴェルト戦術用の特殊弾頭、その実物を使った訓練を行う日がやって来た。
今日もまた、彼女たちは訓練地に訪れていた。
「では、妨害してくるスモール級の群れを縫ってラージ級に当てるという想定で、テストしてみましょう!」
藍が千香瑠を見上げる。
「ねえねえ、今日もお外でやるの?」
「強力な攻撃だから、周りに被害が出ないように…だって」
瑤と恋花も話している。
「ノインヴェルト戦術……本物は本当に久しぶり……」
「あたしは失敗のリスクの方が怖いけど…。まあ、四の五の言ってられないか。冬賀、準備は?」
スタートを担当する彼女は、弾を装填しつつ彼に問う。
『いつでも構いません』
「んじゃ始めて」
『了解しました。スカラベウス、射出します』
パシュウッ
天に舞い上がったコガネムシは、長い翼を広げるとリリィたちの視界から消えた。
「いくよ!」
その間に、皆が配置に着いたことを確認した恋花がチャームを構える。
「はああぁぁっ!」
マギを蓄えて一気に放出することに特化した弾丸。恋花のエネルギーが込められ光を放ち始める。
「弾丸にマギが入った!瑤さん、藍ちゃん!パスが入りますよ!」
状況を見ていた千香瑠が、恋花の近くにいる2人に呼びかける。
「瑤!頼むよ!!」
恋花がパスを放つ。同時に一葉が彼を呼んだ。
「冬賀!周囲のスモール級から、パスを出したメンバーとマギスフィアを守ってください!」
『かしこまりました』
彼はガトリングを展開して恋花を見ながら後ろ向きに滑走。スカラベウスの視野を頼りに、パスを追いかけつつ恋花の援護射撃をしながら瑤の方へ向かう動きである。
「恋花、任せて!」
スフィアを渡された瑤はしっかりとチャームでキャッチ。
「さすがです、瑤様!」
「藍っ、いくよ!」
一葉に褒められた彼女はすぐさま近くの藍にパスを回す。
やや上に打ち出されたそれを……。
「受け取っ…たぁっ!!」
藍はスフィアと共に近寄って来た冬賀を踏み台にしてジャンプし、空中で受け止める。
その間に、既にパスを出していた2人も動いて陣形を変えている。藍が先程までいた場所をカバーしていた。
「うん、練習通りです!前線の2人の間で、ヒュージを押さえ込む担当とマギスフィアをキープする担当が、一瞬で入れ替わりましたね!」
一葉も移動しつつ状況を見る。藍は手近なビルの上に立ち、自分の後ろの方を向いた。
「藍のマギものっけた!千香瑠!うけとってーーっ!!」
光を放つ塊が、冬賀の頭上を抜けて千香瑠のいる場所へ。
「よし、ここでバックパス通った!」
恋花に見られながら、彼女はチャームを構え直す
「やれる……やらなきゃ!…ふっ!」
ズン、と彼女のチャームにエネルギーと勢いがぶつかる。彼女にはそれが
「くぅううう…!」
千香瑠が受け止めた瞬間、一葉が呼びかける。
「一葉、ターゲットに向かってスタートします!」
それに合わせて冬賀も急旋回。足のホイールから砂煙を巻き上げ、勢いを落とすことなく援護を続行する。
「千香瑠の超ロングパス……ここが難しい…!」
「いや、千香瑠の実力ならいけるって!」
瑤と恋花に見守られながら、彼女は自らのエネルギーをスフィアに込める。
「一葉ちゃん!お願い!!」
ギィン!!
マギの塊が空を切り、真っ直ぐ一葉へ向かう。そして。
「ナイスパス!」
遠くで受け取った彼女が声を上げた。
「ほら、言った通り」
恋花が得意げになる一方、一葉もまたエネルギーを重みとして感じていた。
「ぐっ!!これは…皆の気持ちがこもってる分、重い…!でも……!」
冬賀が彼女の背後に近づいてくる。その気配を感じながら……。
「はああああああっ!!」
ドギャウッ!!
気合い一閃。一葉のチャームから放たれた巨大な光弾が地面で炸裂する。
ゴオォォォォォッ!!!
解き放たれるのは莫大なエネルギー。地は衝撃で震え、暴風に抉られ、爆炎が周囲の大気を焼き焦がす。
爆心地から吹き出す地盤の破片。冬賀はしゃがみ、左腕を畳んだ盾の内側に一葉を入れてそれらから守った。
「わっ!」
「きゃぁっ!」
「すごい…爆風!!」
いくらか離れていた瑤や千香瑠たちにも、エネルギーの残滓が叩きつけられる。
「うぉぉぉ……これはヤバい!!」
「……すごい…。すごいすごい!かっこいいーー!!」
驚きで精一杯の恋花の横で、藍は花火を見た子どものようにはしゃいでいた。
暴風が吹き抜けた後、瑤と千香瑠は爆発地点を確認する。
「……クレーター、できてる……」
「校内でやらなくてよかったですね……」
と……。
「うーーーん……」
何やら悩みながら、冬賀に連れられて一葉が戻って来た。皆も合流する。
「大分、抑えたはずなのに…身体が重いです。マギの消費はギリギリまで絞っても、やっぱりかなり大きい……」
「でもまあ……一葉、これ成功じゃね!」
恋花に笑顔を向けられ、彼女もまた笑顔になった。
「はい!皆様、おめでとうございます!これからこの戦術を、実戦レベルまで引き上げていきましょう!」
ひとまずの成功に皆が喜ぶ中、空中から溶け出るように現れた黒いコガネムシが銀色の巨人の肩に収まった。
そして、半月後……。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ………!
エレンスゲ女学園内に、警報音と共にアナウンスが響く。
『司令部より各レギオン。新宿区都庁前方面にラージ級ヒュージ発生の一報あり。エリアディフェンス外から侵攻した模様。全レギオン、出撃せよ。繰り返す………』
ギュィイイイイイイイ……ギャリギャリッ
滑走していた鋼の巨人が足を止める。
手すり状の装甲のおかげで乗り心地が向上した冬賀のクリバノフォロスから、ヘルヴォルの皆が降りて着地した。
既に荒れている街並みを千香瑠が見渡す。
「この辺りは別のガーデンの管轄じゃ……」
「戦闘協力って名前の『外征』だよ。スポンサーの方々へのアピール、
恋花は吐き捨てるように言った。冬賀も周囲のガーデンの情報を確かめる。
『……ここのガーデンには騎士団も配備されていません。エレンスゲ女学園と思想か近しいようです』
すなわち、リリィ至上主義の極み。憲兵隊すらいないガーデン。
装甲の下で苦い顔をしていると、瑤が警戒する。
「皆、もう戦闘区域に入った。注意を……!」
「ヘルヴォル並びに瀑銀隊よりエレンスゲ司令部へ。戦闘想定区域に現着!」
一葉の通信に返答があった。
『エレンスゲ司令部よりヘルヴォル。ラージ級の討伐を最優先として行動せよ』
ごく短い言葉で、一葉たちはその真意を理解する。
「……一同、了解」
千香瑠は不安と悲しみが混ざった顔になっていた。
「ラージ級以外でももたらされる犠牲はしょうがない…ということでしょうか……」
「まあ、そういうことでしょうね」
恋花が答えていると、通信機を切った一葉が皆の方に向く。
「ラージ級は当然倒します。そして、守れる命も全て救いましょう!」
「……はい!」
千香瑠も気持ちを切り替える。すると……。
『スカラベウス、敵部隊を捕捉しました。ラージ級が引き連れるミドル級の群れ、2時の方向、距離およそ70です』
ドローンのカメラが、台座に乗った水晶のような形の12面体型ヒュージと、その周りを闊歩する戦車型をしっかり捉えていた。
「フォーメーション、きりんさん!」
指示を出した一葉が呟く。
「リリィとしての誇りを胸に……!」
冬賀もまた、心の中で呟いた。
(騎士としての使命を胸に……)
「ヘルヴォル、出撃!!」
今日もまた、巨人の重騎士と共に少女たちが戦場に飛び込む。
この章、他2つより特殊演出多いな……。