アサルトファング Bestia Oratorium 作:羽桜千夜丸
第1話 世話人
“真の敗北は一人死すること。真の勝利は皆で命を繋ぐこと。”
この言葉が彼らの思想。牙の誓いと、この教えを掲げて彼らは戦いを挑む。
人類の敵、ヒュージへと。
彼らの名は、神庭女子藝術高等学校の『
その一員である
『チャーム』を手に戦うリリィたち。その側に控える、荒々しくも勇ましい獣の騎士。
そんな彼がいるこの戦線は………
混沌を極めていた。
「ふふん、歌って踊って戦うアイドルリリィ、
桃色の髪をツインテールにしたリリィは、レールガン型のチャームを構えて犬のようなヒュージに連射……
『□?』
するも掠りもしない。それどころか、数発は仲間のフォローに回っていた秋展への流れ弾となる。
「あっぶな!!おい、下手な鉄砲を数撃つな!味方に当たるぞ!!」
「うるさいわね!!そもそも下手って何よ!!」
「っ!この…!」
ヒュージはマギを込めた弾丸を放って別のリリィを狙い、手近な秋展には接近戦を仕掛けるべく飛びかかる。
その攻撃を彼のチャーム……ロングソードの刃を握った形の『モルトシュラーク-コラプサー』で受け止め、追撃を躱してチャームをライフルに変形。ゼロ距離から、ヒュージに血色の稲妻を纏った弾丸を撃ち込む。
そうこうしている間に……。
先程狙われていた、桜色の髪と制服の上に羽織ったパーカーが特徴的なリリィは遠距離攻撃をくるくると回避していた。
そして秋展が、彼女を狙っていたヒュージを倒した頃には…。
「おお!あのヒュージ凄いいいフォルムだねー!もっとこっち向いて!」
馬上槍型のチャームをそこらに置き、荷物をいじりながら別のヒュージを眺めていた。
「おぉい!?どこを見てんだ!!あんたもだよ!」
彼が声を上げながら肩を揺さぶるのは、白群の髪をリボンで飾った、カーディガンを着た緑目のリリィ。
彼女はその顔に恍惚の笑みを浮かべていた。
「ああー!憧れの
「何てこった!どこも見ちゃいねぇ!!」
彼が半ば青ざめていると、リリィの後ろからヒュージが迫って来た。
『□□!』
「!」
「でぇえい!!」
彼女が襲来を察知した頃には、ヒュージは彼の手にある武器によって斬り裂かれていた。
「あ、ちょっと貴方たち!しっかり連携を…」
このレギオンのリーダーである、長い銀色の髪を横で編み込んだリリィが声を上げる。
が、パーカーのリリィとツインテールの自称アイドルリリィは全く聞いておらず……。
「
「はあ?何が……何ぃ?!」
「定盛じゃなくてひめひめ!あと、こんなところでスケッチブック広げるな!!」
……この始末である。
「何やってんだ!2人とも伏せろ!」
桃色髪リリィに新手が近づき、再び射撃を繰り出した。
それを彼女たちは寸でのところで回避する。
「きゃあ!泥が跳ねて姫歌の服が汚れちゃったじゃない!これじゃ、姫歌の魅力が下がっちゃうわ!」
「
この事態についにキレたのか、再度フォローに回った秋展は……声を荒げながら怒りに任せて武器を振るい、赤熱化した刃でヒュージを斬り伏せる。
『□□□!!』
その隙に、またもやヒュージの新手。今度は数体の群れが、白群の髪のリリィに接近する。
「あわわわ……ヒュ、ヒュージが…?!」
「しまっ…」
「
彼女を助けに来たのは、長い金の髪に紫の瞳のリリィ。彼女は幅の広い斧型チャームで群れの内何体かを破壊し、襲われそうだったリリィを抱えて移動する。
「た、高嶺様?!はううううううう……」
白群の髪の彼女は腕の中で身悶えしていた。
「大丈夫、紅巴さん?」
無事ではあるが、大丈夫ではない。
「高嶺様が、土岐を抱きかかえて…。…土岐は、もう思い残すことはありません…」
そう呟くや、彼女は安らかに気絶する。
「ちょっと、どうしたの?こんなところで気を失わないで!」
「だぁあもう…!」
心配する金髪のリリィの後ろで、彼は頭を抱えて唸った。
「少し頼むわ、秋展くん」
「ああはいはい、了解したよ!」
介抱するリリィに命じられるまま、彼女が撃ち漏らした群れの残りを殲滅する秋展。
一方……。
「いいないいなー!あのヒュージもいいなー!定盛、今度はあのヒュージも捕まえておいて!あっきーも!」
「断る!俺は忙しいんだ!!」
「だから、ひめひめだって言ってるでしょうが!!あーもう!これじゃ歌えないじゃないのよ!」
「あんたはいい加減口を閉じてろ!!」
「………」
秋展と共に群れを仕留め、戦況を見ていたリーダーが呟く。
「これは……ダメね……」
隣に立っていた秋展は額に手を当てて項垂れていた。
「帰ったら頭痛薬と胃薬を買わないと…」
この混迷する戦場はどこから来たのか。
時は2日前に遡る……。
「……ほう…」
神庭女子藝術高等学校の校長室で、赤茶色の髪と瞳の青年……涼月秋展は手渡された書類を興味深く見ていた。
彼が着ているのは、この地で活動する牙刃の騎士団の部隊、灼銅城の制服。
ワインレッドの学ラン風のジャケットとズボンに茶色の革靴。
このガーデンに所属するリリィたちの制服であるセーラー服と同じ色合いであり、まるで男子生徒のように溶け込んでいる。騎士団の紋章は、襟に付けられたピンバッジに描かれている。
今日はこの学校の入学式。彼の手には、1通の命令書があった。
「名高いトップレギオン、グラン・エプレの“世話人”ですか…この俺が」
「ええ」
彼の正面で高級感あるデスクに着いている女性…ここの校長が言葉を続ける。
「去年のグラン・エプレには必要ないと判断したのでいなかったのですが、かなり大変な思いをさせていたため…今年度から彼女たちにも世話人をつけることにしました」
「なるほど。しかし、何故俺を?俺の評価は隊の中でも模範的と言うほどではありません。もっと優秀な隊員の方がいいのでは?」
「今回、貴方を選ぶにあたって重視したのは適性です。グラン・エプレのメンバーもまた適性によって選ばれていますが、それ故に…個性的な組み合わせになっています」
「はあ…」
「そんな彼女たちには、貴方がぴったりだと判断しました。灼銅城と親しいメンバーもいます。急な話で申し訳ありませんが、引き受けてくださいますか?」
「……承知いたしました」
彼が左胸に手を当てて礼をすると、校長は安堵の溜息を溢す。
「…ふぅ、よかった…。任命式まではまだ時間がありますので、入学式の後でいらしてください」
「はい。それでは」
彼は校長室を出て、廊下を歩きながら考えに耽る。
(俺が世話人…か。戦闘を補助したり、リリィ同士で言えない相談を聞いたり、訓練に付き合ったり、騎士団独自の情報網を使わせたりのレギオン専属便利屋。大役だ)
役割を再確認するとともに、担当予定のレギオンのことも思い出す。
(……聞いた話だと1年生が多いんだよな、今年のグラン・エプレ……)
服の胸に手を入れ、上着の下で着けているロケットペンダントを取り出し、握る。
(お前と同い年だな。もしかするとお前も……いや、考えるだけ無駄か)
ペンダントをしまい込み、そのまま歩いて1度、灼銅城の宿舎まで戻り、その後入学式の会場へ。
灼銅城のメンバーとして、彼も入学式で仲間と共に誓いを立てる。
それから数分後。
出席していた校長と共に校長室に戻り、レギオンのメンバーが集まる時を待つ。
すると…。
コンコン
ドアがノックされた。
「来たか…」
「そのようですね。どうぞ」
「はーい!」
元気のいい返事が聞こえ、ドアが開く。
「こんにちはー!」
「こら、灯莉…!失礼します」
「し…失礼…します…」
入って来たのは、桜色の長めの髪の生徒と、桃色の髪をツインテールにしている生徒。もう一人は白群のロングヘアの生徒である。
彼女は秋展の姿を見て驚いた。
「わ…お、男の人…!」
(この人…さっきの入学式でも俺たちを見てテンパってたよな…)
「何で騎士がいるのよ」
「用事で来てるだけだ。気にしないでくれ」
「あっそ。…んー…」
「何だ…?」
ツインテールの生徒は、彼を品定めするようにじっと見た。
「……悪くはないけど、男っ気は無しでいくわ!」
「?……何の話だって?」
「せんせー!」
話の意図を確認する前に、桜色髪の生徒が手を挙げて校長の方に向かう。
「ぼくたち来たよー。何するの?」
「もう少し経てばわかります。…ああ、どうぞ」
再びドアからノックの音。
「失礼いたします…」
入って来たのは、2人の2年生。1人は長い金の髪を優雅になびかせ、もう1人は銀色の髪を横で編み込んでいる。
「あ、さっきの先輩たち!」
(ん?)
「え…えぇぇぇ!?」
(おや…?)
「か、叶星様に高嶺様…っ!1日に2度もこんな近くで……ああぁ…」
白群の髪の生徒は、2人を目にした瞬間に倒れそうになる。
「よっ…と。おーい、大丈夫かあんた」
彼女の肩を支えた秋展が呼びかける。
「……はぅっ?!ご、ごめんなさい!騎士の方のお手を煩わせて…!」
「いや、別にいいんだが…」
「……どうしたの、貴方たち」
「姫歌たち、教導官にここに集まるように言われたんです。詳しい話はそこでするからって…」
(全然知らせてない。とんだサプライズだな…)
会話を聞いていた秋展は心の中で感想を呟く。
(しかし、さっきの様子からして……任命式の直前に皆が顔見知りになってたらしい。そういうもんか)
「入学早々、先生に呼び出しされるとか定盛は大物だー!」
「呼ばれたのはあんたも一緒でしょ!!」
「……高嶺ちゃん、これってもしかして…」
「…そういうことになるのかしらね。それに彼も…」
「えっ、どういうことですか?」
と、唐突に校長が席から立ち上がる。
「皆さん、お集まりのようですね」
「ご機嫌よう、校長先生」
校長は挨拶をした銀髪の生徒の方を向く。
「
「もったいないお言葉…ありがとうございます」
「はいはーい!
「ちょっと灯莉!校長先生の前で…も、申し訳ありません…」
「あ、あの…私たち、ここにいると邪魔になるのでは…?一旦退室させていただいて…」
「いや、あんたたちはこのままで頼む」
「貴女たちにはいてもらわなくては困ります。定盛姫歌さん、丹羽灯莉さん、土岐紅巴さん」
「えっ…」
「姫歌たちを呼んでたのは校長先生本人だったの?」
校長は少し微笑んだ後、真面目な表情になった。
「……では、レギオンの任命式を始めます。今叶星さん」
「はい」
最初に呼ばれたのは銀髪の生徒、今叶星。
「貴女には引き続き、グラン・エプレのリーダーをお任せします。トップレギオンの誇りを持ち、リリィとしての使命を果たし、神庭女子藝術高校の生徒の手本となることを期待します」
「はい…。そのお言葉、胸にしかと刻みました」
パチパチパチパチパチ……
秋展が拍手すると、ツインテールの生徒…定盛姫歌たちも同じように手を鳴らす。
「
「かしこまりました」
金髪の生徒…宮川高嶺は短く返答する。
パチパチパチパチパチ…
拍手しながら、白群のロングヘアの生徒…土岐紅巴はわくわくとした顔である。
「はぁあ〜…トップレギオンの……グラン・エプレの任命式です…!この目で生で見られるなんて、土岐はもう……っ!」
「それは凄いけど…何で姫歌たちや騎士が立ち会うの?」
「それは、貴女たちもグラン・エプレの一員になるからよ。もちろん彼もね」
秋展は紅巴たちの方を見てニカッと笑った。
「………へ?」
「え、本当に〜?やったー!ぼくもかなほ先輩たちと同じレギオンだ〜!」
「ぃよっ!」
パチパチパチパチパチ…
拍手する秋展。
桜髪の生徒である丹羽灯莉は喜んでいた。が、姫歌は今一つ実感が持てないらしい。
「う…嘘…でしょ…?」
「嘘ではないわ。……ですよね、校長先生」
「ええ、その通りです。貴女たち3名をグラン・エプレの新しいメンバーに任命します。引き続いて、彼の任命式も行います。それでは…」
「はっ!」
秋展は校長の前に跪き、命令を待つ。
「鈴月秋展くん。貴方には今年度より、グラン・エプレの世話人として、全面的なサポートをしていただきます。
「了解。それでは…」
立ち上がって振り返ると、後ろに並んでいる彼女たちに再び跪く。
――我ら志ある者なり、故に蔑むことなかれ。我ら牙ある者なり、故に嗤うことなかれ。我ら傷ある者なり、故に驕ることなかれ。我ら祷ある者なり、故に怨むことなかれ。――
――あゝ響け、獣の嘶きよ。我ら大いなる縄張りをここに。手繰る鎖を華の手に。――
――我ら野を駆け、山を越え、天を舞い、海を渡る者。各々の逆境にあって牙を研ぐ者。
――君よ、いざ命ぜられよ。しからば我ら全うせん。――
入学式で暗唱した、牙刃の騎士団の誓いの文言をもう一度披露する。
最後の一節を、叶星が承諾した。
「……はい。これからよろしくね、秋展くん。姫歌ちゃん、灯莉ちゃん、紅巴ちゃん」
「おおー!あっきーが仲間になった!」
「サポートってことは…あんたが…あたしたちのマネージャー?!」
「……?かもな。そういうわけで、よろしく頼む。とりあえずお近づきの印に…」
立ち上がった秋展が徐に懐から絹のハンカチを取り出し…右手で持って左手の平に重ねる。
そして、真ん中を摘んでハンカチを持ち上げると…。
「キャラメルでもどうぞ」
「ん…?!」
「あら…」
「ええっ?!」
「は…」
「おおー!!」
手の平の上に、いつの間にか5粒のキャラメルが出現していた。
「て……手品…?」
驚きながらもキャラメルを一つずつ取る面々。
困惑する姫歌に対して、灯莉は興味深々である。
「本物のキャラメル!すごーい!どうやるの?!教えて教えて!」
「タネも仕掛けもないぞ。あ、校長先生もよろしければ…」
「あら、いただこうかしら」
「では…」
左手を拳にして校長の前に見せ、右手の指をパチンと鳴らして手を開く。
するとやはり、左手の中にキャラメルが出現した。
「奇術ですか…。お勉強されたんですね」
「まあ、エンターテインメントを学ぶ場所に顔を出す以上、これくらいは」
紅巴はキャラメルを口の中で転がしながら、悟りを開いたような表情をしている。
「あは…あはは…。どうも朝から夢のような出来事が目白押しだと思ったら……。なるほど、全部夢だったんですね…。だってほら、目の前で超常現象が…」
「ゆ、夢なんかじゃないわ!姫歌がグラン・エプレ…神庭のトップレギオンに選ばれたのよ!しかもマネージャー付きで!…ま、まあ考えてみれば当然のことよね!アイドルリリィを目指す姫歌が所属するとしたら、グラン・エプレ以外にはあり得ないもの!!」
「ああ、それでさっきもマネージャーって言ってたのか。男っ気てのもアイドル活動において、って話だったのね…」
「あははっ!定盛、足がぷるっぷるしてるよ!」
「こ、これは武者震いよ!」
「問題。このキャラメルは何味だ?」
「はっ?!梅干し味でしょ!?」
「いや、普通のだ」
「んなっ?!」
「ねーねーあっきー!さっきのやり方教えてー!」
「ダメだ」
「ぶー!」
すっかり打ち解けた様子の1年生と秋展を、叶星たちはしみじみと見ていた。
「まさか、今朝会った子たちがグラン・エプレのメンバーに選ばれていたなんて……運命を感じてしまうわね」
「ふふっ、運命の出会いなんて素敵じゃない。……貴女もそう思うわよね、紅巴さん?」
紅巴は片言の言葉で返答する。
「……たかね、さま……えっと…わたし……。これ……ほんとうにゆめじゃ…ない…?」
「そうよ。私たちは今から同じレギオンのメンバー。期待してるわね、紅巴ちゃん」
「………」
にこり、と小さく微笑んだ紅巴は……ガクッと気絶。
「おっと…」
「紅巴…ちゃん…?」
「またか。おーい紅巴さーん」
秋展がその肩を支え、起こすべく呼びかける。
「ちょっと衝撃が強かったみたいですね…。ほら、紅巴!しっかりしなさいっ!」
秋展の腕から紅巴を移された姫歌が揺さぶると、彼女ははっと意識を取り戻した。
「……では、グラン・エプレのみなさん」
校長の言葉で、浮かれ気味だった空気が引き締まる。
「最後に一つだけ、この言葉を授けます」
「……はい」
叶星は、校長が伝える言葉をわかっていた。
「『リリィの戦いは今日が最後かもしれず、命を賭けるに値するかどうかはリリィ自身が決めるべき』。この言葉に我らが神庭女子藝術高校の思想と理念が詰まっています。いかなる時もこの言葉を胸に、貴女たちの務めを果たしてください」
「はい…心得ました」
「それから鈴月くん。『真の敗北は一人死すること。真の勝利は皆で命を繋ぐこと』…でしたか?」
「その通りです。我ら灼銅城の…思想と理念は」
「これはこの学校の理念とも通じるものがあります。彼女たちと共に、体現し続けていただきます」
「ではそのように。改めてよろしくな、叶星さん」
「ええ。皆、手を合わせてもらえるかしら」
「うん、いいよー!」
「ほら紅巴、いつまでもボーっとしてないの!」
「は…はい……ぃ…」
紅巴は姫歌に手を掴まれ、半ば強引に、皆が出した手と重ねる。
「準備できたわ、叶星」
「ええ…。ここに誓いましょう。私たちグラン・エプレは、守るもののために命を燃やし、崇高なる思想の下で戦い抜きます…!」
「ふっ…ついて行かせてもらうぜ!」
「「おー!!」」
掛け声と共に、6人が一斉に手を上げる。
(今年こそ、この新生グラン・エプレを、神庭の誇れるレギオンにしてみせる!灼銅城の助けがあれば、きっと高嶺ちゃんも…!)
決意と期待を抱く叶星。その隣にいる秋展もまた、決意を胸に刻んでいた。
(やってやる…!お前の分まで、俺も頑張るからな!)
こうして新たに発足したグラン・エプレ。その初陣は……
冒頭の戦いであったのだ。
「「はぁ……」」
戦闘から帰還した後。
構内のカフェテリア。その一角にあるテーブルに、2人分の溜息が盛られた。紅茶とコーヒーから立ち上る湯気が揺れる。
1人はグラン・エプレのリーダーである叶星。もう1人は彼女たちの世話人、秋展。2人はテーブルを挟んで向かい合い、初出撃での戦いを思い出していた。同じテーブルに、紅茶を手にした高嶺が加わる。
「グラン・エプレの記念すべき初実戦、どうだった?」
「高嶺ちゃん…」
「最高だった。きっと大物になれる」
秋展が頬杖をついたまま答えた。叶星は苦笑いで返す。
「そうかな…」
「ああ。何せあのシュールレアリズムの極みみたいな戦場から全員無事に生きて帰ってこれたんだ。奇跡的な采配だったぜ、ホントに」
「ありがとう…」
「皮肉で言ってんだよ…」
苦い顔をしている2人に対して、高嶺は笑顔である。
「ふふ。そんなに落ち込まないで、2人とも。一応、無事に任務は達成できたんだから」
「ソーデスネ」
「でも、私たち神庭のトップレギオンなんだよ!あの戦い方じゃ、とても成功とは言えないわ!」
「まだ結成したばかりなのだからしょうがないでしょう。私たちのグラン・エプレがどうなっていくのかは、これからよ」
「………」
「上手いことまとめたな、高嶺さん」
「……うん、そうね。そうよね!これからよね!」
「おお…」
勢いよくガッツポーズをする叶星。その顔にはいつの間にかやる気が漲っていた。
「そうと決まれば、まずは1年生のみんなと親睦を深めるところからやってみるわ!」
「ええ、その意気よ」
「……カラ元気じゃないことを祈ってるぜ?」
「うん、大丈夫。……あ、高嶺ちゃんの方は大丈夫だった?」
「私?」
「今回の戦い、1年生たちをサポートしながらだったから…身体への負担とか、大丈夫かなと思って……」
「私は大丈夫だから、心配しないで。今年は世話人もいるから」
「おう!」
「…わかった。でも無茶はしないでね。私、高嶺ちゃんに負担がかからないように頑張るから!」
「あ?それ言うなら俺のセリフ…」
「叶星、貴女はまだ昔のことを気にしているのね」
「だって、私のせいで高嶺ちゃんが……」
「おいおい…」
「止めて。あれは私が望んでしたこと。貴女のせいじゃない」
「でも……」
「私は大丈夫だから。気にしないで」
「なあ、叶星さん。不安なら俺をこき使え。な?」
「……うん」
頷く叶星だが、内心の不安は消えなかった。
しばらく経って…。
学校の敷地内にある灼銅城の司令部で、秋展は世話人としての初出撃を報告していた。
「……以上です」
「なるほど……。君は、彼女たちをどう見るかな?」
灼銅城の隊長…紺のロングヘアの
「よく言えば、未知数のポテンシャルを持ってる。しかし、それを引き出すためには一から訓練をする必要がある…ってところですかね。悪く言えば……今はカオスな集団でしかない」
「そのようだね。となれば、君やリーダーがやるべきことは?」
「早急に連携と、それに合わせた個々人の技量の向上を行うための訓練を用意すること…かと」
「わかっているじゃないか。ただし、急げばいいってわけでもないよ。彼女たちと交流して、個性を把握する必要があるからね」
「リーダー格の2年生2人とはそれなりに話す仲ですが、1年生3人とどう接するかは…」
「向こうからお誘いが来ているよ」
「……え?」
彼女は言いながら、楽しそうにタブレット端末を操作してメールの文面を彼に見せる。
「私の方に連絡が来るとはね。早いところ、連絡先を教えてあげたらどうだい?マネージャーくん」
そのメールの送り主は……姫歌だった。
『さあ盛り上がっていくわよ紅巴!』
『は…はわわわわわ…!』
「おい……」
ここは、とあるカラオケボックス。授業が終わったタイミングで来るように言われていた秋展は、予想外の光景を前に困惑していた。
「なんで俺があんたたちのお出かけに付き合ってんだ?場違いだろ、どう考えても!」
『あんたはマネージャーなんだから、あたしたちの実力を知ってもらう必要があるのよ!』
「オーケーちょいと待て。あんたがアイドルとして頑張りたいってのはよくわかった。けど俺には専門外だぞ?!力になれねぇって!」
『いいのよそれで!あたしたちの歌を聴いて、一般人目線で評価すればいいの!』
「んなバチ当たりなことできるか!!」
『お…男の方に聴いてもらうんですか…?』
「ああほら…紅巴さんも乗り気じゃないみたいだぜ?」
『臆しちゃダメよ紅巴!アイドルリリィには男性ファンだって付くんだから!』
『は…はいぃ…!』
「無茶振りだ!止めてやれって!」
『そうも言ってられないわ!声楽科の発表練習も兼ねてるんだもの。第三者、しかもステージで人の目を引く方法を知ってる人に、あたしたちのパフォーマンスを見てもらうのは大いにプラスよ!』
『そ、そうです!頑張らないと…』
「……ま、まあそこまで言われたら悪い気はしねぇ…が……。…わかったよ、聴くだけ聴く。ただ…アドバイスはあんまアテにするなよ。ド素人の戯言だからな」
『ちゃんと聴くわよ。歌は素人でもエンターテイナーとしては同じなんだから!』
「過大評価もいいとこだぜ…。けど、俺としても願ったり叶ったり…か…」
『何か言った?』
「何も。それよりササっと済ませちまおう」
『じゃああたしから行くわよ!!』
こうして、姫歌はイタリア歌曲をオリジナルの振り付けで、紅巴は落ち着いた民謡の合唱曲をゆったりと披露した。
『…お、お粗末さまです…』
「うん、やっぱ姫歌の見た通りね。いいもの持ってるわ、紅巴。あんたはどう?」
「そうだなぁ…。まあ印象としては、姫歌さんは曲との一体感がとんでもなく高い。紅巴さんは曲に対して素直で自然体。方向性は違うが、2人とも歌う曲を自分のものにしてるな。下地はいい感じじゃねぇの?」
「ふふん、当然!」
「わ…私も…?」
「にしてもあんた、中々見る目あるじゃない。素人って言うから期待してなかったけど」
「カラオケにはよく連れてこられたからな。好きってほどじゃないが、聴かされるのには慣れてんだよ」
「ふぅん…。せっかくだし、あんたも何か歌いなさいよ。時間はまだあるわよ」
「いや、2人の練習の邪魔しちゃ悪い」
「あの……聞いてみたい…じゃダメです…か?」
「………」
おずおずと提案する紅巴。秋展は仕方ないな、とでも言いたげにマイクを受け取った。
「時間の無駄だと思うが…まあいいか…」
マシーンを操作すると、イントロと共にモニターに英語の歌詞が映る。
「洋楽歌謡曲…!」
「しかも女性ヴォーカルで…キーを少ししか変えずに…?!」
驚く2人を他所に、秋展は歌う。流麗な発音で、曲の雰囲気に合った声で。
「う……上手い…!」
「くっ!やっぱ歌声のパンチ力じゃ男性が有利ね…。でもあたしだってモノにできれば強力な武器よ!」
「……ふぅ…」
曲が終わり一息。姫歌と紅巴は拍手していた。
「とってもお上手でした…!さすがです、秋展さん…!」
「ええ、素直に褒めたげるわ。あんた、声楽科レベルに片足突っ込んでるわよ」
「そりゃあ光栄だ」
瞬間、秋展の脳裏に懐かしい記憶が甦る。
…………
『がーーん!ごじゅってん!!こうなったらもう1回…!』
『もういいだろ。何回延長すりゃあ気が済むんだ?』
『だってだって!キー同じなのにやる気のないお兄ぃの方が点数高いなんて納得いかないもん!』
『お前なぁ…。晩飯、俺が持ってる缶詰めになってもいいのかよ…』
『いいじゃん、偶にしかないお兄ぃとの息抜きなんだよ!奮発してよぉ!』
『こっちはお前に美味いもん食わせてやりてぇの!』
『っ?!狡い!うぅ〜〜〜……』
『わかったらほら。行くぞ』
『だぁあもう!わかったよ!その代わりとびっきりのとこ連れてって、私を満足させて!!』
『ああはいはい、了解だ』
…………
(やっぱ、俺の柄じゃねぇよな、こういうの…)
「実力も観察眼もあるなら、マネージャーにはもってこいね……って聞いてる?!」
姫歌の方に向き直る。
「ああ、顎で使われろって?」
「そういう意味…じゃ……あるけども!言い方よ!」
「はっはは。気にすんな。元々世話人ってのはそういう役だからな」
「…あの、あくまでリリィとして戦うときですよね…?」
「ア…」
「『アイドルリリィなんだからこっちの戦場も手伝うのは当然』……だろ?わかってるわかってる。任せとけって」
「っ…先読みを…!それでいて嫌な顔一つしないし…」
「優しいです、秋展さん…!」
パンパンと手を鳴らし、急に仕切り始める秋展。
「ほらほら、時間はまだあるとは言え限られてんだ。さっさとあんたたちの練習をしようぜ」
「そうね!休んでばっかりもいられないわ!」
「がっ…頑張ります…!」
「ところで、灯莉さんは誘わなくてよかったのか?」
「誘ったところで、すぐどっか行ってたわよ。他の部屋に迷惑かけるかもしれないし…」
「そういうもんかねぇ…」
(3人とも揃ってりゃ、交流も一気に進んだんだがな…。ま、贅沢も言ってられねぇか)
彼女に会えなかったのは少し残念だったが、秋展は時間一杯まで2人の練習を見守った。
翌日。
訓練を終えた秋展がカフェテリアで昼食を摂っていると……。
「あっきー!」
「っ?!」
突然、正面の席に灯莉が座ってきた。トレーの上には菓子が盛られている。
その衝撃的な登場に驚き、彼は咽せた。
「…ッゲホ…!あ、灯莉さん…急に何だよ!?」
「ねーねー、この前のキャラメルのやつ教えて!」
「まだ続いてたのかその話!なんでそんな食いつくんだ?」
「ぼくね、びっくりしたんだ!今までやってみてできなかったことないんだよ!でも、あっきーのアレだけは何回やっても真似できないんだ!」
「それが不思議だって言いたいのか?」
「そう!教えて!」
「……なあ、灯莉さん」
「なになにー?」
「ここ最近の、あんたの様子を教員とかリリィたちに聞いてみたんだが……あんた、人から教わるより自分から勉強する方が向いてるだろ?」
「んー…興味ないことは興味ないかなー」
「だから、俺から教わるよりあんた自身で色々調べた方がいい」
「えー?つまんないよ!ぼくはあっきーから教わりたいの!」
「……一つ言っとくぞ」
「うん!」
「手品ってのは、一見凄いことやってるように見えて実は大したことないんだ。ただ上手いこと人の目を騙してるだけだぜ?」
「つまりー?」
「…中身を知ったら面白くねぇってことだよ。俺もそうだったしな。それでもやってみたいか?」
「うん!」
「……やれやれ、根負けだな、こいつは…」
しばらくして、校舎前の庭。秋展はハンカチを使った手品を灯莉に教えていた。
「なんだー、ここにキャラメルあるんじゃん!」
「な?わかれば大したもんじゃねぇだろ。……幻滅したか?」
「ううん、ホントは簡単なんだってわかったらスッキリしたよ!ね、他には何かないの?」
「そう簡単に手の内を晒すかよ。興味あるなら、あんた自身で色々やってみるんだな」
「………よし、決めた!」
「何が?」
「あっきーはこれからぼくの師匠!ぜったい超えるからね!」
「はぁ…。もう好きにしろ…」
「あ、もうすぐ次の授業!じゃあねあっきー!」
「おう」
灯莉は嵐のように訪れ、落ち着きもなく立ち去った。
「やれやれ、フリーダムだな。おまけに皆、好き放題に呼んでくれる。世話人、マネージャーときて今度は師匠かよ……。だが…本質への理解欲に好奇心……それに画力。ヒュージと戦う上で……」
秋展も宿舎に向かいながら考える。
「……いや、戦いの最中より…その後か、灯莉さんの特技が活きるのは。次の出撃で、何かしらの用意を…」
メンバーと一通りの交流ができた彼は、司令部にある相談事を持っていくこととなった。
第1話の時点で複数日経過してるのはここだけか……。
次は百合ヶ丘編の続きを投稿予定です。ローテーションでやるか、ガーデン関係なく話が固まり次第出すか……。