アサルトファング Bestia Oratorium   作:羽桜千夜丸

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 神庭編第2話です。一応日常回ですね。

 本格的な戦闘回もそのうちやります。


第2話 神聖なる契約(テスタメント)

 

 

 秋展がグラン・エプレのメンバーと一通りの交流を済ませた後。

 

「ふうん?案外、楽しく過ごせているようじゃないか」

 

「まあ…向こうがフレンドリーに接してくれるのは助かってますね」

 

 灼銅城の指令室で、秋展は隊長の桔梗(ききょう)と話していた。

 

「実際、大したものだと思うよ。叶星さんに高嶺さん……灼銅城と親しいリーダー格がいるとは言え、結成から(ひと)月も経っていないところを見るとね」

 

「他の世話人やってる隊員はどんな調子なんです?世話人になってからこっち、あんまり周り見れてなくて……」

 

「そうだねぇ…世話人が交代したレギオンは馴染めずに苦労しているところがあるようだ。他に新入生のリリィに怖がられてショックだったとか、隊員が怖いとか。そういう声は上がっているかな」

 

 彼女はデスクの上に表示されている立体映像を見ながら話す。

 

「現状、大きな問題や拗れ、いざこざの類はないみたいだけど。グラン・エプレを含めて上手くやっているレギオンも少なからずあるし……君をただの相談役に戻す必要はないから、鈴月君」

 

「……そうですか」

 

 彼の表情は、嬉しさ半分、残念さ半分という具合にやや濁っていた。それを察した桔梗は話題を変える。

 

「……さて、個性の把握もいくらか進んだんだろう?1年生3人、どんな人たちなんだい?」

 

「あ……そうですね…」

 

 秋展の表情も、元通りの明るさに戻る。

 

「まず姫歌さんですかね。気が強いところがあるみたいですが、言いたいことはっきり言ってくれて助かりますよ」

 

「ほう…?」

 

「それから紅巴さんは……まあ…とにかくす、素直ですね、ええ」

 

 実のところ、秋展はことあるごとに気絶したりしかかったり、てんぱって黙りがちになってしまう彼女の印象が強く残り過ぎてしまっている。

 

「口ごもったようだけど…いいや。もう1人は?」

 

「ああ、灯莉さん……楽しくやりたいようにやって、結果できるっていうのはいい才能だと思いますよ。絵も上手いようですしね」

 

「そうかい……」

 

 聞いていた桔梗の顔には、影のある引きつった笑みが張り付いていた。

 

「た、隊長…?顔色悪くなってますよ?」

 

「…いや、何。私が世話人やってた頃は…そんなに打ち解けるレギオン…なくてさ…」

 

 彼女は机の上に深く俯いて絞り出すように言った。

 

「……ものすっっっっっごい羨ましい……!」

 

 その様子をポカンとして見る秋展。

 

「ええ…いや、隊長ってリリィたちからも結構人気ありますよね?去年なんか、バレンタインに貰い過ぎて本部から憲兵隊(俺たち)が買収されたって疑惑かけられたり、贈与税の取り立てが来たりして……一騒ぎ起こるくらいにはモテモテじゃないですか」

 

「それもこの役職に就いてからだよ…。できれば世話人できる地位のまま人気者になりたかった…。指揮の腕が評価されても…今更さ……」

 

 机に突っ伏したまま喋る桔梗。秋展は彼女の背にどんよりとかかる縦線を幻視する。

 

「ま、まあ今からでも深い交流始めてもいいと思いますよ?例えば…資料提供して貰うとか」

 

「資料提供……?」

 

 彼女は首だけを使って頭を起こす。

 

「どんなのを誰からだい?」

 

「ええと……ほら」

 

 秋展は持っていたタブレット端末に立体映像を出す。灼銅城のヒュージの資料の他、他の騎士団部隊が公開しているデータも表示された。

 

「俺たちの部隊って、ヒュージの情報を数値とか文章に記録してはいますけど……肝心の写真が他の隊より少ないんですよ」

 

「ああ……この前の関東地域部隊長報告会でも思ったよ。それがどうかしたかい?」

 

「ちょっと考えがありまして……」

 

 

 

 

 程なくして、再びグラン・エプレに出撃要請が出された。秋展も交えた訓練の最中の出来事。

 ミーティングが行われた後、出撃前に秋展は彼女に声をかけておく。

 

「灯莉さん、ちょっといいか?」

 

「なにー?」

 

「この戦闘が終わったら、あんたにやってもらいたいことがあるんだが……頼めるか?」

 

「うん、何するの?」

 

「単純なことだが………」

 

 

 

 

 数時間後。

 

 グラン・エプレの1年生メンバーは寮に設けられた談話室に集まっていた。

 女子寮であるため、当然秋展は入れない。

 

「ふーっ…疲れたぁ…」

 

 姫歌はぐったりとソファに身を預ける。隣には紅巴が座っていた。

 

「そうですね…。今日は訓練の最中に出撃がありましたから。でも、被害がほとんどなくてよかったです」

 

「と言っても、ヒュージはほとんど叶星様たちが倒したんだけどね。2人のフォローも秋展に任せてばっかりだったし。勝手に動こうとする灯莉を制止するのが1番疲れたわ」

 

 一方、当の灯莉はどこからか持ち込んだ絵の具で厚めの白い紙に何やら描いている。

 

「んーと、えーと…たしか、ここんところがこうなって…」

 

「……疲れさせた張本人はこんな感じだし。はぁ〜…これじゃアイドルリリィへの道も遠いわ…」

 

「お疲れ様、皆」

 

 と、そこに学校への報告に向かっていた2人がやってくる。

 

「あ……叶星様!それに高嶺様も!」

 

「今日はご苦労だったわね。訓練もあったし疲れたのではなくて?」

 

 姫歌は慌てて立ち上がり、首を振る。

 

「ぜ、全然ですよ!元気が有り余って……これからランニングでもしようかなって」

 

「あら。いい機会だから灼銅城の人たちと一緒に走ってみたらどうかしら。修行に来てる子もいて気合いが入っているわよ。秋展くんもこれから10キロほど走るらしいわ」

 

「え……?えと…」

 

 口籠る姫歌の近くでは、灯莉が絵を描き進めていた。が、上手く描けない部分にぶつかったようだ。

 

「あれぇ〜、さっきのヒュージどうなってたっけ?たしか、こう……腕がにょろ〜んってなってたような…」

 

「あ……っ」

 

 姫歌は彼女が描いているモノに気づく。先程戦っていたヒュージの、やや大きめのサイズの個体が紙の上に再現されつつあったのだ。

 

「さっきのヒュージなら、もう少し下の方から腕が生えていたわね。色ももっと燻んだ灰色をしていたはずだわ」

 

「あっ、そうだった!ここがこうなって……こうだよね!」

 

 高嶺からのアドバイスを受けて修正する彼女を、姫歌が叱りつける。

 

「灯莉!叶星様たちがいらっしゃってるんだから挨拶しなさいよ!」

 

「いいのよ姫歌ちゃん。それより、灯莉ちゃん。このヒュージの絵、個性的で凄いわね」

 

 ようやく上級生の方を向く彼女。

 

「んー?んぁー、叶星先輩とたかにゃん先輩!わーい、遊びに来てくれたんだ!」

 

「そもそも私たちも同じ寮生だけどね。1年生と部屋のある階は違うけど」

 

「すみません、相変わらずフリーダムな子で…。ヒュージの絵を描くのも止めなさいって言ってるんですけど…」

 

「どうして?別に悪いことをしているわけではないでしょう。私たちが討つべき相手のことを知るのは大切なことだわ」

 

「灯莉ちゃんの場合は、討つべき相手というか純粋に興味がお有りのようでして…」

 

 紅巴の声を聞いていた灯莉は、少し手を止めて顔を上げた。

 

「だって、ヒュージって不思議じゃん!あんな生物、他で見たことないもん!あっきーも、きょーちんも興味あるみたいだし、きっとユニコーンもいるんだよ!」

 

「えーと…どういうことかしら?」

 

「お、恐らくですが…」

 

 困り顔の叶星に、紅巴が助け舟を出す。

 

「ヒュージのような奇怪生命体が存在するなら、ユニコーンといった幻想世界の動物も存在する……と、灯莉ちゃんは確信していらっしゃる感じではないかと…」

 

「ぴんぽーん!」

 

「ふふ、さすがね。もう仲間のことは何でもわかっているという感じかしら」

 

 高嶺の言葉に、紅巴は一歩下がる。

 

「いえ、私なんか…。灯莉ちゃんの話に、秋展さんが絡んできた理由…と“きょーちん”が誰かもよくわからないですし…」

 

「あ、それね。あっきーが頼んできたんだよ!ぼくが描いたヒュージの絵を見たい人がいるからって!」

 

「誰よ、そんな変わった発注する人…」

 

 姫歌は半ば呆れていた。

 

「きょーちんだよ!灼銅城の隊長さん!生きてるヒュージの写真とか映像が少ないから、ぼくの絵が要るんだって言ってたって言ってたよ!これ、絵の具が乾いたら持ってくんだ」

 

「桔梗さん…そんなあだ名に…」

 

「言ってたって言ってた…。ややこしいわね…。やっぱ、姫歌は灯莉のことなんてちっともわからないわ…」

 

 

 その後、5人は親睦会(という名のお茶会兼鍋パーティー兼お泊まり会)を開催した。

 

 

 終始慌てていた紅巴を宥めていた叶星は、寝る前の支度や風呂に皆が散らばっている間にベランダに出て、携帯電話を取り出す。

 

「もしもし、秋展くん?」

 

『ああ、叶星さん。何か楽しげなことをやってるって?』

 

「え、知ってたの?!」

 

『さっき、灯莉さんが絵を持ってきてくれたときに聞いてな』

 

「いつの間に…。その、何だか悪いわ…。貴方抜きでこうやって…」

 

『いやあ、気にするこたないぜ。こっちもリリィに内緒で焼肉行ったりするし、おあいこだ。それにな、女子だけのお楽しみに男が押しかけんのはダメだってよく言われてたんで。元々行くつもりもなかったんでよ』

 

「そう…。それならまあ、よかったわ」

 

『ああ。隊長も喜んでたぞ。あんたたちが仲よくやってると知ってな』

 

「……ええ、喜ばしいことよね。1年生3人もすっかり仲良くなっていて…昨年の私たちに比べたらずっと楽しめているわ」

 

『余裕ができたってのは結構だ。けどあんたのこと。今日の反省を訓練に活かしたくて電話してきたんだろ?』

 

「っ?!……貴方と高嶺ちゃんには、何でもお見通しみたいね…」

 

『んなことはねぇ…けど、わかることもあるからな。今日の動きを反映した訓練のプランはこっちでも用意するから、待っててくれ』

 

「ええ…。頼りにしてるわ、世話人さん。一緒に頑張りましょう」

 

『任せろ。じゃあまたな』

 

「はい」

 

 

 

 電話を切った秋展は、宿舎の自室の窓から外を見上げる。

 

 神庭女子藝術高校。中心市街地から離れた住宅地にあるとは言え、東京の夜空に瞬く星の数は少ない。

 

「………」

 

 彼は首に提げていたロケットペンダントを開く。そこには、彼と同じ色の髪と目に、元気がよさそうな少女の写真が入っていた。

 

「お前も……あの5人と会わせたかったな、秋奈(あきな)

 

 秋展は言いながら、もう一度、掻き消えまいと輝く星灯を見上げた。

 

 

 

 

 数日後。

 

 叶星、高嶺、秋展の3人は訓練施設に向かいながら話していた。時間は昼過ぎ。午後の訓練の幕開けである。

 

「レギオン内で交換日記を?」

 

「ええ、情報と思いを共有するためにやってみることにしたの。今は紅巴ちゃんが持っているわ」

 

「へー、いいんじゃねぇの」

 

「羨ましいというなら、貴方も入れてあげるわよ」

 

「んー…いや、俺は勘弁だ。わざわざこっちの宿舎に持ってきてもらうのも悪いし、俺はあんたたちの寮に行けないしな」

 

「あらそう?」

 

 高嶺は意外そうに彼の言葉を聞いていた。

 

「ま、コミュニケーションは疎かにするつもりなんてねぇから安心してくれ。今日の訓練も、ある意味そうだろ?」

 

「そうね」

 

 話している間に訓練施設に到着。体育館のような広いコンクリートの空間の中に入ると、紅巴の声が聞こえた。1年生3人は既に来ている。

 

「……見てください!私のノートに叶星様と高嶺様の文字が…!しかも叶星様の日記に高嶺様が語りかけてるんですよっ!」

 

「そ、そうね。交換日記ってそういう物だからね」

 

 やや呆れ気味に答えたのは姫歌だった。

 

「あゝ…土岐は果報者です…。この思い出があれば、どんな困難だろうと乗り越えられます…!」

 

 恍惚とした表情の紅巴。すると……

 

 

 

 

「ほーーう。そりゃあ燃費がよくて結構なこった」

 

「今日の戦闘訓練は思いっきりやれそうね」

 

 

「……っ?!」

 

 

 背後から不意打ちが入ってきた。声の主は秋展と高嶺。彼女の横には叶星がいる。

 

「あー、たかにゃん先輩とあっきー!どうもこんにちわー!」

 

「おう!」

 

「ふふっ、こんにちは」

 

「叶星様も…お疲れ様でーす」

 

 姫歌に挨拶された叶星が皆の前に立って場を取り仕切る。

 

「それじゃ、早速だけど今日も戦闘訓練を始めましょうか」

 

「は、はいっ!」

 

「秋展くん、準備を」

 

「了解。久々に暴れてやろう」

 

 いそいそと倉庫に向かう秋展に続き、姫歌たちも移動しようとする。

 

「それじゃ、1年はあっちでいつもの練習に入りますね。灯莉、紅巴。行きましょう」

 

「いいえ、今日は貴女たちも訓練に加わってもらうわ」

 

「え……っ?」

 

 しかし、叶星の意外な言葉に3人とも立ち止まった。

 

「さっき言ったでしょう?今日の戦闘訓練は思いっきりやれそうだって」

 

「じゃあ、叶星先輩たちと練習できるのー?!やったー!」

 

 高嶺の言葉に大喜びの灯莉。

 後ろの倉庫からは何やら機械音が響き始める。

 

「基礎訓練は引き続きやってもらうとして…そろそろレギオンとしての連携を考えた訓練メニューも混ぜないと、いざという時にまともに動けないでしょう?」

 

『そういうことだ』

 

「わっ?!」

 

 ガション、ガションという足音と共に背後から聞こえた声。そちらを振り向くと、紅巴の眼前には球体型のヒュージがいた。

 目や角は黄色く光っている。牙刃の騎士団が用意した訓練用ダミーだ。

 その内部にあるスピーカーからは秋展の声。コントロール用スーツを身につけた、隣を歩く彼の言葉がヒュージのダミーから発せられる。

 

『こいつは自動操縦が基本だが、今回は俺が操作して、あんたたちの相手をするぜ!やってみたかったんだよなぁ、これ!』

 

「まずは姫歌ちゃん、灯莉ちゃん、紅巴ちゃん。3人でフォーメーションを組んでみてくれるかしら」

 

「オッケー、任せといてください!行くわよ灯莉、紅巴!」

 

「いいよー!ばっちこーい!」

 

「ご、ご指導よろしくお願いいたします…!」

 

 ダミーヒュージのセンサーが3人を捉えた。

 

『オーライ!ダミーヒュージ、鈴月秋展!出るぜ!!』

 

「元気ね…」

 

 1年生たちからは距離を取って見守る叶星たち。彼女は隣に立ってノリノリでダミーを操縦する秋展に少し呆れていた。

 

 

『Fooo↑!さぁかかって来やがれBaby!』

 

 皆が所定の位置に着いたところで、秋展は3人を煽り始める。

 

「うっざいヒュージね…!威嚇射撃から行くわよ2人とも!」

 

「は、はいっ!」

 

「任せてー!」

 

 3人がヒュージの周囲に弾幕を張る……まではよかったのだが。

 

「それ、突撃よーー!」

 

「うぉーー!!」

 

 姫歌の声に従って勢いよく飛び出す灯莉……

 

「って、灯莉ちゃん!そっちは姫歌ちゃんと逆方向では……!」

 

『そぉらよぉお!!』

 

 すかさず紅巴に攻撃をしかける秋展。姫歌がとっさにフォローに回る。

 

『ほらほらどうしたぁ!!』

 

「何してるの紅巴!いつまでも突っ立ってたらヒュージのいい的よ!」

 

 だが、その動きは秋展に読まれていた。姫歌が紅巴に目を向けた一瞬の隙を突き……

 

「定盛、後ろ後ろーー!」

 

 ダミーヒュージを追いかけていた灯莉が彼女に声をかけた時には背後に回り込んでいた。

 

「へ……?」

 

 

『ちょいさぁぁぁぁああ!!』

 

 

  ゴオォッ

 

 

 唖然とする彼女に向けて衝撃砲を放つ秋展のダミーヒュージ。空気の塊が姫歌の身体に叩きつけられ…

 

「きゃあああああああっ!?!」

 

 吹き飛ばした。

 

「姫歌ちゃああああああん!!」

 

 紅巴の悲鳴が響くと同時に、勝敗判定が下された。

 

 

「……はい、ご苦労様。リリィ1名が重傷、残り2名も分断されて敗走、ね」

 

「くっ……!」

 

 高嶺の判定結果を聞いて悔しそうにする姫歌の後ろから、コントロール用スーツのヘッドセットを外した秋展が、笑顔で声をかける。

 

「まぁそう気を落とすなって。人生こういう日もあるさ」

 

「元はと言えばあんたが煽るから…!」

 

「平常心保つのが大事だって、わかっただろ?」

 

「ぐぬぬ…」

 

 歯を見せる姫歌。一方、灯莉は遠隔操作から外れて停止しているダミーヒュージをゴソゴソといじっている。

 

「わー、このダミーよくできてるなぁ。本物のヒュージみたい!」

 

「騎士団のテクノロジーの結晶だ。だから壊してくれるなよー?」

 

 彼女に向けて言葉を投げかける秋展。その横では、紅巴が姫歌や叶星に謝っている。

 

「す、すみません…私が足を止めたばっかりに……」

 

「そうね…。今回は皆に反省点があるわ。秋展くん、ダミーを端にやってくれる?」

 

「あいよー」

 

 一通りいじって満足したのか、灯莉が戻ってきたタイミングで叶星と高嶺が会議を始める。秋展がヘッドセットを被ると、ダミーヒュージが起動してがっしょがっしょと歩きだした。そのまま彼は一旦彼女たちから離れる。

 

「まずは姫歌ちゃん。声はよく出ていたけど、もう少し後方にも注意が必要ね」

 

「後続との距離が開きすぎていたわね。突出してしまったら簡単に殲滅されてしまうのがわかったでしょう?」

 

「……はい、よくわかりました…」

 

 次に叶星は彼女の方を向く。

 

「灯莉ちゃんは隊全体の動きと連携をもっと意識する必要があるわ。思い切りの強さは武器になるのだけどね」

 

「勘が鋭い分、動きも直感的になり過ぎているのだと思うわ。気になったことは味方にも共有していきなさい」

 

「うん!今度は定盛たちにもヒュージの面白さ、教えてあげるね!」

 

 少し落ち込み気味だった姫歌に対して、彼女はまだ元気だ。

 

「紅巴ちゃんは2人とは逆に周囲を気にし過ぎね。戦局を把握するのは大切なことだけど、状況は常に変わっていくことを忘れないようにして」

 

「フォーメーションの中核になるのは貴女のように戦術理解度の高いリリィなのだから、その意識を広げられるように頑張りなさい」

 

「は、はいっ、ありがとうございます」

 

 紅巴が返事をしたタイミングで秋展も戻って来た。

 

「秋展くん、戦ってみてどうだった?何か言うことがあれば言ってあげて」

 

「ん?うっすら聞こえてたが…叶星さんと高嶺さんが言ってた通りだと思うぞ。強いて言うなら……どうあがいても俺たちはまだ駆け出しのレギオン。今は焦らず着実に地力を上げるしかねぇんだ。ってわけで……」

 

 秋展から目配せされた叶星が話題を変える。

 

「講評はこのくらいにして、具体的な戦術とフォーメーションを考えましょうか。今のグラン・エプレの要は……紅巴ちゃん。貴女よ」

 

「ああ」

 

「………はい?」

 

 紅巴当人は呆気に取られていた。姫歌も疑問を口にする。

 

「紅巴が…?姫歌がそうだとは言わないですけど……やっぱりグラン・エプレのエースは叶星様じゃないんですか?」

 

「そ…そうです!私なんかが…その、えっと…何かの間違いでは……!」

 

「果たしてそうかな?なぁ高嶺さん」

 

「ええ。ここで言うのはフォーメーション、陣形の要という意味よ。リリィ単体での戦力とはまた別な話」

 

「陣形……あっ」

 

 紅巴には思い当たる節があった。

 

「何何、どしたの?とっきー、隠れた力が覚醒して最強になっちゃうの?」

 

「いや、隠れちゃないぞ灯莉さん…」

 

「私の力と言いますか……レアスキルのこと、ですよね?」

 

「そう、紅巴ちゃんのレアスキルは“テスタメント”ね」

 

「えっ?!」

 

 叶星の言葉に驚きの声を上げるのは姫歌。

 

「紅巴、あんたテスタメントが使えるの?!」

 

「は、はい…。そう言えば、まだお話ししていませんでしたね」

 

「ねーねーあっきー、定盛ぃ。テスタメントって何?」

 

「おいおい…」

 

「あんたねぇ、リリィだってのにそんなことも知らないの?いい?テスタメントっていうのは……」

 

「確か、周りの人をぐーんっと強くするやつだよね!」

 

 

 彼女の説明が、他ならぬ灯莉の手によってバッキリと腰を折られた。

 

 

「知ってるんじゃないの!!」

 

「わざとかあんた!?」

 

 姫歌と秋展が呆れ顔で彼女を見る。

 

「えへへっ、今思い出したんだ!定盛が羨ましい〜〜って顔してたからさ」

 

「え、本当か姫歌さん?」

 

 秋展の問いに、彼女は頷いた。

 

「そうよ。テスタメントは使い手が極端に少ないレアスキルなの。そして!あの(くぉ)神琳(しぇんりん)の使うレアスキルがテスタメントなのよ!!」

 

「おお…」

 

 急に語気を強めた彼女に、秋展は少し驚く。

 

「……んで、そのリリィはどちら様なんだ…?」

 

「確か姫歌さんがライバル視している、百合ヶ丘のリリィだったかしら。綺麗なルックスの持ち主で、界隈では有名だそうよ」

 

「はい…!モデルに抜擢されたり、珍しいレアスキルを持ってたり……。さすがは姫歌の宿敵ってところですね!」

 

「へぇ、百合ヶ丘に宿敵っていうほど交流を…。意外と顔広かったんだな、姫歌さん」

 

 秋展の中で彼女の評価が一瞬上がり……

 

 

「いえ、面識はないのよ……」

 

 

「……案外そうでもなかったんだな、姫歌さん…」

 

 叶星の呟きで元に戻った。

 

「た、確かに私のレアスキルはテスタメントです。……ですが…未だに上手く扱えずに…。宝の持ち腐れです…。それにテスタメントは……」

 

「とっきー、すっごーい!ぼくたちをパワーアップさせるレアスキルなんでしょ?とっきーがいれば、ぼくたち無敵だね!」

 

「それはそうなんだが、灯莉さん。結構デカい弱点があるんだ、これが」

 

「はい……。テスタメントの使用には膨大なマギが必要になります。そのため、身を守るための防御結界が弱くなってしまうんです」

 

「正に仲間のために身を削る能力だな」

 

「それじゃ、レアスキルを展開中にヒュージの攻撃を受けたら大変じゃないの!」

 

 叶星が姫歌の発言を肯定する。

 

「ええ、そうよ。テスタメントは元から保持者が少ないのに加えて、負傷者が多い危険な役どころなの」

 

「そっかー。とっきーは命知らずで危険がデンジャラスなんだね!」

 

「その言い方、語弊あるだろ…」

 

「それに装備の特性上、騎士団の方々には効果がありません……」

 

「そこは気にすんなって。『レジスタ』も同じだし、無いものねだりはしねぇよ」

 

 騎士団のメンバーはリリィの支援型レアスキルの恩恵は受けることができず、逆もまた然り。レアスキルとEX(絶滅)スキルを、互いに相互作用させることもできないのだ。

 秋展に励まされても、彼女はシュンとした表情を変えない。

 

「でも…。私にもっと実力があれば被弾を恐れずに皆さんのお役に立てたのですが……申し訳ありません…」

 

「あー…調子狂うな…。叶星さん、言ってやってくれ」

 

「紅巴ちゃん、貴女に必要なのは自分に自信を持つことよ。そんなに素晴らしい才能を持って生まれたんですもの、胸を張って誇ればいいのよ」

 

「っ…叶星様……」

 

「それにな、何もかもをあんた1人でどうこうしようとか考えなくていいんだぜ?」

 

「貴女のことは私たちが守る。そのためのフォーメーションを一緒に考えていきましょう?」

 

「秋展さん、高嶺様…!は、はい…!よろしくお願いいたします……っ!」

 

 紅巴の隣で、姫歌は何か決心がついたようだ。

 

「無いものねだりはしない…マネージャーの言う通りね!姫歌は姫歌、神琳は神琳よ!こうなったら紅巴、郭神琳に負けないようなテスタメント使いになるのよ!」

 

「えっ…」

 

「……今、百合ヶ丘で花粉症って流行っちゃねぇよな…?」

 

 秋展の呟きは尽く無視される。

 

「で、ですが、私にはそんな才能は……っ!」

 

「……紅巴ちゃん」

 

「っ…」

 

 叶星が真っ直ぐ彼女を見つめる。秋展に視線を移すと…。

 

「気づいてるだろ?『才能』はどのテスタメント使いも同じだぜ。となれば、あんたはどうする?」

 

「……わっ、わかりました…!不肖、土岐紅巴!誠心誠意をもってグラン・エプレに貢献することを誓います!」

 

少しやる気が出たのか、彼女は笑顔になった。それを見た高嶺や秋展たちも微笑む。

 

「ふふっ。期待しているわ」

 

「…俺も、もっと頑張らないとな…」

 

「………」

 

 胸…首の下に手を当てて秋展が呟く。それを聞いた叶星は…微笑みに少し切なさを織り交ぜた。

 

「よーし!それじゃ、力を合わせて頑張ろー!景気付けにとっきーを胴上げだー!」

 

「えっ、えええぇぇぇぇぇぇーー?!」

 

 唐突に動き出した灯莉が紅巴を捕まえ、空中に投げ上げた。それをキャッチし、また投げ上げることを繰り返す。

 

「わっしょい、わっしょい!そーれお祭りだー!」

 

 驚嘆すべきは、これを1人で行っていることである。

 

「怪力…っ?!」

 

 秋展が愕然とする中、姫歌が彼女を止めに走り出した。

 

「なんでそうなるのよ?!紅巴を下ろしなさーーーい!!」

 

「お、下ろしてくださいぃぃぃぃぃ!!」

 

 広い訓練施設内に、再び紅巴の悲鳴がこだまする。

 

 





 キャラクターの掘り下げメイン回、いかがでしたか?

 ラスバレの夏祭りイベント、いいものでしたね。妖怪っぽくてカッコいい、倒し甲斐のある敵。こういうの好きなんです。
 今後も出てくれたら嬉しいなぁ……。
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