アサルトファング Bestia Oratorium   作:羽桜千夜丸

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 神庭編第3話です。戦闘の描写が難しいな……。



第3話 流星

 

 ある日。

 灼銅城の司令室で、秋展は隊長の桔梗と会っていた。

 

「お話とは?」

 

「ああ。君自身の活動方針を聞いておきたくてね」

 

「俺の?」

 

 彼女はいくつかの資料の束をデスクの引き出しから取り、秋展に見せる。

 

「ここ最近、君はEX(絶滅)スキルを使っていないね。これからも使わずに済ませるつもりかい?」

 

「……はい、できれば」

 

「そうかい。しかし、“あの日”から君は裏方にいた。君のスキルは覚醒者も少なく戦力として非常に有効だ。そしてガーデンから世話人に任命された以上、君は最前線に戻ったことになる」

 

「………」

 

「使うべき時、使わなければならない瞬間が必ずやってくる。そのときには躊躇なくスキルを使う。その覚悟は持ってもらうよ?」

 

「…了解しました」

 

 

 彼は司令室を後にし、廊下を歩きながら独り呟いた。

 

「…これだからあのとき、校長先生に他の隊員がいいと言ったんだがなぁ…」

 

 胸に提げたペンダントを取り出し、彼によく似た少女の写真を見つめる。

 

「俺が、お前の武器で『アレ』になっちまうのは…お前が一番悲しむんじゃねぇか…なんてな…」

 

 

 格納庫から彼の武器を取り、今日もグラン・エプレの訓練相手に向かう。

 

 

 

 

 数日後。

 グラン・エプレを含めた神庭のリリィたちに出撃命令が下る。

 

 秋展は5人と共に、桔梗が操作するバイクを横に繋げたような形の装甲車……灼銅城の簡易移動司令部、カサドール-NGC869/Mel13(ウェスト・ダブルクラスタ)の上に乗って作戦ポイントまで来た。

 

 1年生3人の様子は初戦のときよりはよく、特に姫歌は張り切っている様子である。

 

「さあ、ヒュージはどこ?!姫歌たちが相手してあげるわっ!」

 

「おやおや…」

 

「ずいぶんと気合が入ってるわね、姫歌さん」

 

 そんな彼女に、秋展と高嶺が声をかけていた。

 

「だって、フォーメーションを組んでから初めての出撃ですから!訓練の成果、試してみたいじゃないですか!」

 

「……平常心、忘れるなよ?」

 

 彼の注意も、姫歌にはあまり聴こえていないようだ。

 その様子を見ていた紅巴は…。

 

「さ、さすがです姫歌ちゃん…。私はまだ、不安の方が大きくて……」

 

「ぼくもヒュージ、早く見たいな!今日は珍しいのが見れるといいな〜。きょーちんが喜ぶやつ!」

 

「また絵を頼む、灯莉さん……っと、お客さんだぜ」

 

 

『□□□□…』

 

『…□□…』

 

 

 皆が集まっている公園に、ヒュージの群れが近づいて来ていた。以前戦ったものと同じ、犬のような形のやや小さいタイプ。

 

「噂をすれば早速、現れたようね。皆、戦闘準備を!」

 

 いつも通り指揮を執る叶星。と…。

 

「……ねぇねぇねぇ!見て見て見て!」

 

 空を指差して灯莉が声を上げる。

 

「あの大きいヒュージ、まだ見たことないやつだー!」

 

「ん…?……何だ、いかにもな形してやがるな…」

 

 秋展だけでなく、高嶺たちも彼女が指し示す方を見上げる。

 

 大きく、放射状の棘の生えた頭部を持つ、絵に描いたような星型のヒュージが悠然と空を舞っていた。

 

「……確かに1体だけ、外見が違う個体がいるわ。特型ヒュージ…というわけではなさそうだけれど」

 

「皆、油断しないで。どんな力を持っているかわからないわ」

 

「大丈夫ですよ、叶星様。この距離と編成でしたら訓練で何度もやってますから」

 

「だからな、姫歌さん。平常心を……」

 

 秋展が姫歌を宥めようとした、次の瞬間。

 

「というわけで紅巴!いつも通りにアレ、やっちゃって!!」

 

「は、はい!テスタメントですね……!」

 

「…あ?待て、今は!」

 

「少し相手の出方を……」

 

 秋展と叶星が制止するも間に合わず…

 

 

「『テスタメント』!」

 

 

 レアスキルの発動によって解放される、紅巴のマギ。そのエネルギーの波動を見逃す星型ヒュージではなかった。

 

 旋回を取りやめ急降下。体の後ろから触手が格納された胴体を展開し、その姿の通り流星となって空を切る。

 

  キィィィィィィィィイイイイイイイイイイ…

 

 

 そして……

 

 

「おわぁぁぁっ?!突っ込んで来たー!」

 

 

 猛烈な速度でもって彼女たちめがけて吶喊する。

 

「あの巨体なのに、速い!しかも目標は……紅巴さんっ!」

 

 

「あぁ……」

 

 

 眼前に迫る巨大隕石。鎌状のチャームを構えたまま、彼女はただ立っていることしかできない。

 

 

  ギュンッ!

 

 

「いやあぁぁぁぁっ!!」

 

 

 瞬間、秋展は悟る。

 

 今、スキルを使わなくては………。

 

 

(…ごめんな、秋奈…!)

 

 

  ドクン…

 

 

 彼の手にあるモルトシュラーク-コラプサー。その核たるリアクターから、血色の稲妻が漏れ出し全身を駆け巡る。

 同時に、彼の肌に黄色い光の線が浮き上がり……

 

 

 

「やらせない……っ!」

「やらせるか!」

 

 

 チャームを構えた高嶺と共に飛び出し、紅巴の前に立ち塞がる。

 

 

  ガギン!!

 

 

 チャームでもって正面から迎え撃つ2人。ガリガリと靴底でブレーキをかけながら、マギによって強化された体でヒュージのスピードを押さえ込む。

 

「高嶺様っ!秋展っ!」

 

 姫歌に呼ばれる間に、2人は紅巴まであと一歩のところまでヒュージごと後退。いくらか遅くなったところで横向きに押す。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

「……っらあ!!」

 

 

 グイ、と力が込められた瞬間、ヒュージは進行方向を逸らされつつ叩き出された。

 

「たかにゃん先輩たちすっごい!ヒュージを弾き飛ばしちゃった!」

 

「あぁ、高嶺様……秋展さん…っ」

 

 2人は対照的な反応をしている灯莉と紅巴に向き直る。

 

「何をしているの、貴女たち!すぐに迎撃の準備を…すぐまた襲って来るわ!」

 

「奴をしっかり見ろ!速いぞ!」

 

 叩き出された流星型ヒュージは、その姿と図体に似合わない鋭い姿勢制御で方向転換する。

 

「はぁ……っ!」

 

 追いかける叶星は、ジャンプするや否や空中でヒュージを斬りつけた。

 気づけば、距離を稼ごうとするヒュージと、時間を稼ごうとする叶星による危険な鬼ごっこが幕を開けている。

 

「叶星様も……速い!あのヒュージの速度に追いつくなんて……!」

 

「あのなぁ…」

 

「っ!?」

 

 秋展が先に来ていたヒュージの群れを指差す。

 その手に浮かんだ光の線…同じような模様が出ている彼の顔と、黄色く輝く瞳。

 

 姫歌は息を飲む。

 

「…あ、あんた…何それ…」

 

「んなこたぁどうでもいいだろうが…!それより連中の相手だ…!」

 

「……秋展さん…?」

 

 彼女たちを睨む秋展の表情には余裕がなく、色濃い後悔が見て取れた。

 

 それは、彼の声色からも……。

 

 しかし、今は…。

 

「そ、そうよね!姫歌たちも応戦しなきゃ!あのヒュージは叶星様に任せて他のヒュージを攻撃するわよ!」

 

「か、かしこまりました!」

 

「紅巴さんは私の後ろについて。テスタメントを維持することに集中してちょうだい」

 

「は、はい……お願いいたします!」

 

 続いて高嶺が指示を出すのは彼だ。

 

「秋展くん……叶星と一緒に。お願いするわ」

 

「……ああ、だがその前に…」

 

 またもや明後日の方向に向かう灯莉を見つけた。

 

「ぼく、あっちのヒュージ見てくるねっ!」

 

「待ちなさい!」

「待ちやがれ…」

 

「のわっ?!」

 

 姫歌と秋展が彼女の肩を掴む。

 

「何すんの2人して〜。転びそうになっちゃったじゃん!」

 

「ふざけんのも大概にしとけ。わかってんのか?なぁ」

 

「あっちのヒュージは叶星様に任せるって言ったでしょ?訓練を思い出しなさいよっ!」

 

 秋展からの冷え切った怒りの声に続いて、姫歌が檄を飛ばす。

 

「あぁ、連携だね、連携!もっちろん、覚えてるよー!」

 

「…ならいい。俺は向こうに回る」

 

 冷淡な口調…落ち込んでいるとも感じられる声で呟いた秋展は叶星の方へ歩き出す。

 

「姫歌をカバーしなさい、灯莉。今日の姫歌はお姫様じゃなくて、紅巴を守る…本職も顔負けするくらい立派なナイトよ!」

 

「………」

 

 そう言って彼の方を見た姫歌だったが、別段リアクションはなかった。

 

(……なんか、ノリが変わってるわね…?)

 

 彼の雰囲気がまるっきり変わっていることに気づいていたのは紅巴も同じだ。

 

(秋展さん…何が……?)

 

 

「んじゃ…行ってくる」

 

「……ええ」

 

 高嶺と短い言葉を交わした秋展が地面を蹴り出す。燻んだ赤の稲妻を伴うそれは、叶星にすら匹敵する速度を彼の体に与えた。

 

 広い公園を駆け回りながらヒュージに喰らい付く叶星と、彼女を追う秋展の背中を見つめる高嶺。心の中で呟いた。

 

(……頼んだわよ叶星。それに、秋展くんも…)

 

 

 

 

 一方、叶星はヒュージとの過激な障害物競走を繰り広げていた。

 

「(この速度……他とは別格ね…!)だけど…っ!」

 

 僅かに距離が開く。同時に駆け抜けていく秋展を見た。

 

(秋展くん……やっぱりEX(絶滅)スキル、使っているのね…。使いたくはないはずなのに…。私も、頑張らないと……!)

 

 彼女が持つ双刃の大剣が変形する。刃が回り、スライドし……マシンキャノンの銃身を出現させた。

 

「さあ、足を止めたら蜂の巣になるわよ!」

 

 

  ズダダダダダダダダダダッ

 

 

 怒涛の勢いで放たれる弾丸。ヒュージはその弾幕から逃れるべく、姫歌たち一団がいる方とは逆に動いて距離を取ろうとする。

 

 が、その先には秋展が回り込んでおり、叶星と同じくシューティングモードのコラプサーチャームを構えていた。

 

 

「引き返せ」

 

 

  ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ

 

 

 別方向からも弾幕が張られた。弾丸の雨霰に巻かれるヒュージが逃れられる方向はもはや限られていた。

 再び鋭い方向転換を見せるヒュージ。

 

 しかし。

 

「よし、掛かった…!高嶺ちゃん!」

 

 

 その先には、大きな斧型チャームを携えた彼女が立っているのだ。

 

「ようこそ、ここが貴方の死地よ……」

 

 不敵な笑みを浮かべるとともに、彼女のレアスキルが作動する。

 

 

 ゼノンパラドキサ。

 動きを読みながら高速移動する複合型能力。

 

 

 ヒュージの動向を予測し、その速度に追随して行く。その名の通り、常に“一歩先”にいる。それが彼女なのだ。

 

 

「はぁぁっ!」

 

 

 ギギギギギギギン!

 

 

 誘導された敵に超速で振る舞われる斬撃。姫歌たちはその光景に見惚れてしまう。

 

「すごい……。叶星様たちがヒュージを追い込んだのね」

 

「高嶺様もその動きを読んで待ち構えていました……!これが叶星様と高嶺様、そして1年来のお付き合いがある秋展さんとの連携…」

 

「でも、ヒュージまだ動いてるよっ!」

 

 三方を固められたヒュージは逃げ惑いながら、真上方向に活路を見出す。

 

 ロケットのごとく真っ直ぐ上がる流星。

 

 が。

 

 

「逃しはしないわ……。これで…おしまいよっ」

 

 飛び上がった叶星が浴びせる連射。その足元では…。

 

「角度、タイミング…いいわ。今よ」

 

「頼む」

 

 高嶺の近くに来ていた秋展が軽くジャンプ。その浮いた両足に、彼女は斧の側面を思い切り叩きつけ……

 

 

  ガキィイン!

 

 

 テニスラケットの要領で秋展を打ち上げた。

 

「っ!……おぉらぁぁぁぁあ!!」

 

 黄色の眼光が描く放物軌道に乗ってヒュージと合流。すれ違いざま、流星の尾…敵の胴体を横一文字に斬りつけた。

 

  ザンッ

 

『□□□□□□□!!』

 

 

  ドズゥゥゥゥゥゥゥン……

 

 

 弾丸も受けて穴だらけになったヒュージが、悲鳴と煙を巻き上げながら墜落。その頃、秋展は……。

 

 

「……あ…?あ…。あ……!」

 

 

  バサァッベキベキベキズシャァァァァッ…ボテッ

 

 

 近くの街路樹に突っ込み、枝をへし折りながら落下……もとい、着地した。

 

「やったー!叶星先輩たち、かっこいいー!」

 

「素晴らしいです…!お三方の連携プレー…。私、感動しました……!」

 

「……これが叶星様たちの連携なのね。姫歌たちもやるわよ!いつかあんな風に戦えるようになって見せるんだから!」

 

 

 1年生たちが喜ぶ一方、叶星たち3人は……。

 

『……□□…□…』

 

 地面に倒れながら、まだ呻き声を上げるヒュージを見ていた。

 

「……あれだけ浴びてもまだ活動を停止していない。速いだけの個体ではないということね」

 

 高嶺の隣に葉や枝のかけらを全身に付けた秋展が来る。

 彼の顔も目も元に戻っていた。

 

「トドメは……どうする、叶星さん。確実に息の根を止めるにしちゃ、時間がかかるサイズだ。硬いしな」

 

「このヒュージ以外にもまだ敵の群れは健在よ。フォーメーションを組み直して戦闘を続行しましょう」

 

「了解」

 

「おーっ!」

 

 灯莉が気合いを入れ直したところで、紅巴が耳の通信機に手を当てる。

 

「っ…待ってください!たった今通信が…付近に要救助者がいる模様です!」

 

「……叶星!」

 

「ええ!」

 

 高嶺と叶星が4人の方に向く。

 

「皆、ヒュージを牽制しつつ後退。グラン・エプレ、要救助者の下へ向かいます」

 

「え……で、でも叶星様!あのすばしっこいヒュージはまだ…!」

 

「向こうから攻めてこない以上は手出し無用よ。今は助けを待っている人の下へ向かうのが最優先」

 

 姫歌と叶星が会話する間に、紅巴と秋展が詳細を確認する。

 

「ですが、要救助者の位置はかなり離れています。他のレギオンか、灼銅城の部隊が向かっていると思いますが…」

 

「そのレギオンや部隊が別のヒュージに襲われたら?要救助者の中に重傷を負った人がいたら?」

 

「そ、それは…」

 

 高嶺、叶星、紅巴が話す横で、秋展はヒュージの残党を牽制しつつどこかに連絡をしていた。

 

「ヒュージを倒すだけがリリィではないわ。少なくとも、グラン・エプレはそういうレギオンよ」

 

「わかりました!」

 

 聞いた姫歌が1年生に指示を出す。

 

「灯莉、紅巴!ヒュージを寄せ付けないように撤退するわよ。速やかにこの場を離れるの!」

 

 すると…。

 

『□□□…□…』

 

 

「……どうやらその心配はいらないみたいね」

 

 ヒュージの群れが進行方向と逆に動き出す。

 

「あっ、ヒュージたちどっか行っちゃった!」

 

「向こうから撤退してくれるなんてラッキーですねっ。これで真っ直ぐ、要救助者の下へ行けます!」

 

 通信を聞いていた秋展も口を開く。

 

「もう一ついいニュースだ。隊長たちのカサドールも救助に向かっていてこの近くを通る。乗せてくれるってんで、思ってたより速く行けるぜ」

 

「ええ、そうね……」

 

 返答とは裏腹に、叶星は不安そうな表情を浮かべていた。

 

「……どうかしたの、叶星?」

 

「いいえ…何でもないわ。それより速く向かいましょう」

 

 歩き始めたグラン・エプレ。最後尾にいる叶星は、一度だけ振り向いてヒュージを見た。

 

『…………』

 

「…………」

 

 

 6人の中ほどを歩く秋展。灯莉や姫歌に面白がられつつ体に付いた枝や葉を取ってもらう。そんな彼は苦笑いを浮かべながら考えに耽っていた。

 

 

(ごめんな……秋奈。使っちまったよ……EXスキル…。俺、お前の武器で、俺の体を……

 

 

 

 

  ヒュージに……変えちまった……)

 

 

 

 

 

 グラン・エプレと灼銅城が救助活動に勤しんでいた頃……。

 

 

『□…□□………□□□□!』

 

 

 痛手を回復した星が、重力に逆らって舞い上がった。

 

 

 

 

 

 数時間後。

 グラン・エプレとその世話人が、疲れ果てて学校へと帰還した。

 

「今日は本当に大変だったわね。ヒュージとの戦闘からの救助活動……ハードだったでしょう?」

 

「はい……実はもうくたくたで…。お風呂に入ってぐっすり眠りたいですね」

 

 高嶺と姫歌が話していると、テーブルに紅茶を用意していた叶星が皆に席を勧める。

 

 置かれたカップは5つ。

 

「そうね、でももう少し我慢してくれる?」

 

「叶星様……。も、もちろんですっ。姫歌たちもグラン・エプレの一員ですから!」

 

「ふふふ…。それじゃあ、少し時間をもらってミーティングをするわね。灯莉ちゃん、起きてー?」

 

 叶星は秋展の背中で寝ている灯莉を引き剥がす。

 

「ふむ……はぁぁ〜い…」

 

 彼女が椅子に座ると、秋展はため息を吐いた。

 

「…あぁ、やれやれ…。それじゃ、俺は司令部に報告してくる。変わったことがあったら誰か教えてくれ」

 

「え?」

 

「ええ、わかったわ。今日もありがとう、秋展くん」

 

「……。こちらこそ」

 

 叶星と簡単な挨拶を交わし、コラプサーチャームを手にカフェテリアを一人去る秋展。

 その背中に、グラン・エプレの皆が言いようのない物悲しさを感じた。

 

「……叶星様、普段なら秋展も一緒にやってませんか?」

 

「うん…今日はちょっとね…。それで…」

 

「あの、ミーティングというのは、今日の出撃に関してでしょうか?」

 

 終始しょんぼりとしていた紅巴が小さく手を上げる。

 

「私、訓練通りに動けなくて……皆さんに迷惑をかけてしまいました……」

 

「紅巴…それは姫歌たちも同じよ。秋展から平常心って言われてたのに焦っちゃって……。練習ではちゃんと動けてたのに、実戦で同じ動きをするのがこんなに難しいなんて…」

 

「叶星先輩たちはすごかったよね!ぼくたちもあんな風に戦えたら、もっと面白いんだろうな〜」

 

 1年生3人の会話を聞いていた高嶺は妖しげな笑みを浮かべている。

 

「あら、今日のミーティングは反省会なの?」

 

「ふふふ。違うわ。姫歌ちゃんたちはよくやってくれたわ」

 

 叶星からの言葉に、彼女は真剣な顔を上げる。

 

「いえ、姫歌を甘やかさないでください!甘やかしたくなるくらい可愛いのはわかりますが、それは姫歌のためにはならないので…!」

 

「そちらの自信はたっぷりなんですね…」

 

「とにかく、今日のミーティングは反省会なんかじゃないわ。今日はね、グラン・エプレのサブリーダーを決めるのと……秋展くんのこと。そろそろ話しておきたいことがあるから…」

 

「え……っ」

 

「…秋展の…?」

 

 紅巴と姫歌が困惑する中、灯莉が手を上げる。

 

「あっきー呼んでこなくていいのー?」

 

「そうね…。変に気を遣われたくないから、彼がいない場所で話してほしいって言われているの…」

 

「ふーん」

 

「サブリーダーを決めた後に話すわ」

 

 叶星と高嶺は笑顔だが、2人とも眉が下がっている。

 

「わかりました…。でも、サブリーダーって……高嶺様じゃないんですか?」

 

「あら、私はそんな風に名乗った覚えはないけれど」

 

 彼女はあっけらかんと答えて紅茶を一口。

 

「じゃあ、ぼくたちの誰かがサブリーダーになるんだっ!」

 

「そんな訳ないでしょ?バカねぇ…」

 

 姫歌が灯莉にジト目を向けるが……

 

「いえ、その通りよ。グラン・エプレのサブリーダーを貴女に任せたいの。……定盛姫歌さん」

 

 

「へ……っ?」

 

 

 他ならぬ叶星の発言に、彼女は面食らった。

 

「わ……」

 

「わわーっ!すっごーい!定盛がサブリーダーなんて大出世だ〜!」

 

 彼女だけでなく、紅巴も灯莉も驚いた様子である。

 

「ま、ままま待ってください!姫歌がサブリーダーって……はあぁぁぁっ?!」

 

 当の彼女は慌てながらも言葉を続ける。

 

「じょ…冗談ですよね…?」

 

「私は本気よ。姫歌ちゃん。貴女にお願いしたいの」

 

「え……待ってください、ちょっと混乱してて……。さ、さっきも言いましたけど、立場的にも実力的にも姫歌より高嶺様の方が適任だと思うんですけど……」

 

「別にサブリーダーに立場や実力は関係ないわ。リーダーの叶星に何かあったとき、全権を譲り受けてグラン・エプレの代表として振る舞えればいいだけよ」

 

「うぐ……」

 

「ちなみに、秋展くんは勘弁してほしいと言ってずいぶん前に断っているわ」

 

「ひっ…?」

 

 高嶺の言葉に言いようのない威圧感を覚える。

 

「もう。あんまり脅かさないで、高嶺ちゃん。秋展くんは騎士団員としての立場を重んじているだけよ?」

 

「ふふふ…」

 

 彼女は楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「そんなに重く受け取らなくていいのよ、姫歌ちゃん。1年生の中でも、姫歌ちゃんはリーダーシップを発揮してよく皆を引っ張ってくれているわ。そんな姫歌ちゃんだからお願いしたいの。引き受けてくれるかしら?」

 

「っ……」

 

 真剣さが伝わり、姫歌は息を飲む。

 

「姫歌ちゃん……」

 

「定盛、やっちゃえやっちゃえ〜!」

 

 彼女の横には、嬉しそうに笑う紅巴と灯莉がいた。

 

「っ…わかりました!サブリーダー、姫歌がお受けいたします!あと、灯莉!」

 

 立ち上がった姫歌は勢いよく振り返り、彼女をビシッと指差す。

 

「定盛じゃなくて、ひめひめ!これからはサブリーダー☆ひめひめって呼びなさい!」

 

「うんっ。わかったよ定盛!」

 

「ちっともわかってなーい!!姫歌はサブリーダーなのよ?!」

 

「お、おめでとうございます、姫歌ちゃん!…ですが……」

 

 騒ぐ灯莉と姫歌はさておき、紅巴は高嶺の方を見た。

 

「その、高嶺様はよろしいのですか?」

 

「そうね……。私の立ち位置は変わらないわ。私が立つのは叶星の隣。……ここは私の特等席よ」

 

「ひっ……!」

 

 このような少女同士の関係が大好物である紅巴には衝撃が強く、彼女は悲鳴に似た声で息を吸い込んだ。

 

「私は叶星の専属パートナーってことで。こればっかりは姫歌さんにも譲れないわ」

 

「そ、そんな恐れ多い……っていうか、姫歌には荷が重すぎますから…」

 

(そう……もちろん彼にも…)

 

 姫歌が手を振って遠慮する中、高嶺は秋展を思い出していた。

 

 ことあるごとに叶星と親しげなやりとりをする彼を、高嶺は無意識にライバル視している。

 当人たちには全くその気がなく、それゆえに遠慮ないコミュニケーションができているということも理解しているのだが、それでも彼女としては気が気でない。

 ちなみに、叶星にしてみれば高嶺と秋展はとても友好的な関係に見えていたりする。

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ……ちょっと土岐には刺激が強くて……。でも幸せです……!」

 

 そんなことを知る由もない紅巴は、精神的にも肉体的にも昇天に近づいていた。

 

「もう、高嶺ちゃんってば…。とにかく、これからは姫歌ちゃんを中心に1年生同士助け合ってほしいの」

 

「時として貴女たちだけで戦う……その覚悟も持ってほしいわ」

 

「私たちだけで……」

 

 その言葉に現実へと引き戻された紅巴が呟く。叶星も高嶺も秋展も別の敵を相手にしていた、今日の戦いを思い出したのだ。

 

「オッケー!定盛と一緒に盛り上げていくよー!」

 

「姫歌、可愛さの上に権力まで手に入れてしまったわ…!アイドルリリィの道を一直線よー!」

 

 灯莉と姫歌の喜びがひと段落したところで、叶星は静かに切り出した。

 

 

「……それじゃあ…サブリーダーも決まったことだし、秋展くんのことを話しておくわね」

 

「あ、忘れてましたけど…今日の秋展、なんか変じゃありませんでした?」

 

「そうね…。姫歌ちゃんたちは、騎士団の人たちもスキルを持っているのは知っているわよね」

 

「はい…」

 

「それで……彼はそれを使いたくないのよ」

 

「でも今日、なんか光ってたよ、あっきー。そっからばーんって強くなってた」

 

「ええ。あれが彼のスキル……。

 

 

 ヒュージに変身する、『アポフィス』という種類よ」

 

 

「変身…」

 

「すっごーい!あっきーヒュージになれるんだ!」

 

「今日は人の姿を保ってはいたけれど……それほどまでに、彼は使わないことにこだわっているの」

 

「どうして…でしょう…?」

 

 紅巴の疑問に、高嶺が答え始めた。

 

「彼が使っている武器にも関係があるわ」

 

「あのコラプサーチャームですか?」

 

「ええ。……彼、秋展くんには、妹さんがいたの。その妹さんがリリィで……彼のチャームは、その子が使っていたものなのよ…」

 

 

「「え……」」

 

「………」

 

 

 言葉の裏を察した紅巴と姫歌の声が重なる。灯莉は無言だが、意味するところはわかっている。

 

「彼の妹さんは、ヒュージと戦って……。だから、彼はヒュージに変身する自分の力の源を、あのチャームにしていることに…言い表せないほどの矛盾を感じていると話していたわ」

 

 

 

 

 アンテナ等が立ち並ぶ、灼銅城司令部の屋上。柵に肘を置き、秋展は沈んでいく夕陽を眺めながら回想していた。

 

 

  …………

 

 

『おにぃ……お母さんは…?お父さんは…?』

『秋奈……っ!ごめん……ごめんな……!!』

『……う、うそ……!やだ…やだぁ…!!』

『うっ…これから……2人で…頑張っていこうな!大丈夫だ!お兄ちゃんは…っ!お兄ちゃんはずっと一緒だ…!!』

『う……うわぁああああああああ!!』

 

 

  …………

 

 

『鈴月くん、君には負のマギへの耐性があることがわかった。それもかなり高いレベルでね。妹さんは、平均以上のスキラー数値を持っている。……どうかな、この病院の近隣にあるガーデンに頼んで、君は騎士に、妹さんはリリィになって生活する……というのは』

『……。もう…頼れる大人はいません…。そうしてください、先生』

『うん……わたしも……』

 

 

  …………

 

 

『もしもし、お兄ぃ?』

『おう、どうした秋奈』

『この前の訓練でさ、教官にすっごい褒められたんだー!』

『そうか!よかったな』

『うん!お兄ぃはどう?修行、順調?』

『ああ。今、百合ヶ丘ってところに来てるんだけどな、ここの人たち皆すごくて。ついて行くのがやっとだぜ…』

『あ、そこ有名なとこだよ。大変なの当たり前じゃん』

『まあわかっちゃいたけど…。配属先決まったらまた電話するからな』

『うん!お兄ぃも頑張ってね!』

 

 

  …………

 

 

『…ってわけで、私もついに中等部生!正式なリリィになったよ、お兄ぃ!』

『おめでとう、秋奈!俺も配属先、決まった。神庭女子藝術高校ってところだ』

『え……ちょっと待って。___ちゃん、神庭女子ってどこのガーデン?……は!?東京?!がーーん!そんなの滅多に会えないじゃん!!お兄ぃのバカぁ!!』

『そうだな…。まあ、今度お祝いしてやるから遊びに来いよ』

『美味しいご飯奢ってくれなきゃヤだよ!』

『はいはい……。もう切るぞ、じゃあな』

 

 

  …………

 

 

『これが君のカタフラクト。君の得意な近接戦仕様だ。スキルに合うように調整してあるから、丁寧に扱ってあげるようにね』

『了解です、隊長!』

『さて、君の正式入隊を祝って……カラオケにでも行こうか』

『……はい?!』

灼銅城(うち)では恒例行事だよ。皆で行くんだ。リリィに内緒で焼肉とかにもね……』

『うわぁ……』

 

 

  …………

 

 

『これが…ヒュージの体……!父さん、母さん…俺は、この力で……必ず…!』

 

 

  …………

 

 

『がーーん!ごじゅってん!!こうなったらもう1回…!』

『もういいだろ。何回延長すりゃあ気が済むんだ?』

『だってだって!キー同じなのにやる気のないお兄ぃの方が点数高いなんて納得いかないもん!』

『お前なぁ…。晩飯、俺が持ってる缶詰めになってもいいのかよ…』

『いいじゃん、偶にしかないお兄ぃとの息抜きなんだよ!奮発してよぉ!』

『こっちはお前に美味いもん食わせてやりてぇの!』

『っ?!狡い!うぅ〜〜〜……』

『わかったらほら。行くぞ』

『だぁあもう!わかったよ!その代わりとびっきりのとこ連れてって、私を満足させて!!』

『ああはいはい、了解だ』

 

 

  …………

 

 

『何だこりゃ』

『ペンダントだよ、見ればわかるでしょ』

『そうじゃねぇ。俺は中身を言ってんだ』

『お兄ぃ、約束したでしょ?ずっと一緒だって。お兄ぃが約束守れるようにしてあげてるの。感謝して。はい、つけるつける!』

『……ああ、妹とお揃いのペンダントしてるとか部隊の仲間に知られたら、何て冷やかされるか…』

『その時は……私を自慢して!お兄ぃ!』

 

  …………

 

 

  …………

 

 

『失礼いたします。ガーデン______の者ですが、涼月秋展殿はいらっしゃいますか?』

『涼月は俺ですが…』

『なるほど……。では、こちらの書類を……』

『…?………なっ…?!こ、これは……何の冗談で……』

『…………』

『そ……ん、な……』

『妹君は……“ルナティックトランサー”を存分に発揮し、最期まで勇敢に戦われたと、妹君の同僚、___さんから聞いております…』

『…あ…ぁ……』

『……心よりお悔やみを』

『あ……

 

 

 あああああぁあぁああぁああああぁ!!』

 

 

  …………

 

 

『困るよ君。そんな自爆みたいな攻撃、繰り返されちゃ。装備を丁寧に扱うように言っただろう?』

『治癒なんてせずもう放っといてくださいよ隊長!!俺はあいつと一緒の場所に…!』

『バカだな君は!無駄なことして死んだ君を!あの世で妹さんが快く迎えてくれるなんて思ってるのかい?!甘いんだよ、考えが!!』

『っ……!』

『…はぁ。とにかく、装備は交換だよ。リアクター以外丸ごと全部だからね』

 

 

  …………

 

 

『君の新しい装備……ああ、言っとくけど私は何も提案していないよ。偶然は時に侮れないよね』

『………“モルトシュラーク”……。この製造番号は……。戻って来てくれたのか……秋奈…。でも…俺は……俺の力は……っ!』

 

 

  …………

 

 

『ふぅ…ありがとう。鈴月くんに相談したらすっきりしたわ』

『そりゃあ何よりだ。これからも遠慮なく来てくれよ今さん。俺は裏方の相談役で暇だからな』

『ええ。それじゃあ、またね』 

 

 

  …………

 

 

『貴方、ずいぶん叶星と仲がいいのね』

『ん…?ああ、あんたが宮川さんか。どうだい?これから偶には、今さんと一緒に相談、来てみても……』

『………。そうさせてもらうわ』

『おう。いつでも歓迎するからな』

 

 

  …………

 

 

 

 

 

 傍らに立て掛けていたコラプサーチャームを拾い上げる。刃に映るのは、見るに堪えない表情であった。

 

「……酷ぇ面だな…」

 

 また夕陽に視線を移す。

 太陽の輪郭、その端が今にも大地の向こうに消えそうだ。東の空は夜の帳に覆われ始め、金星に見下ろされていた。

 

「……秋奈…。俺は…どうすりゃあいいんだろうな……」

 

 鈍く光るリアクターを見つめながら呟く。

 

 と………

 

 

 

 

「決まってんでしょ、そんなの!!」

 

 

「ぎょわっ?!」

 

 

  ガツンッ

 

 

 突如真横からかかった声に驚き、勢いよく振り向いた彼はその拍子にアンテナの1本に頭を打つ。

 

「うわ…痛そ…」

 

 その声の主は……

 

「うぅ〜……。急に何だ、姫歌さん…。こんなとこまで…」

 

「情け無いったらないわ!一人でうじうじ悩んでこんなとこで黄昏てるなんて!」

 

「……わかっちゃいるんだよ…。けどな、俺は……」

 

「ほらまたそうやって!はっきり言ったげるわ!あんたはシスコン末期患者よ!!」

 

「ぐはぁっ?!い…言うじゃねぇか……」

 

「あんた、そんなんでいいわけ?!兄としてそんな姿、妹さんに見せれるの!?」

 

「それでも……それでもなぁ……ヒュージになるよりはマシだって……」

 

「バカ展!!」

 

  パァン

 

 頬から鳴る小気味のいい音。

 気づけば、秋展は姫歌の平手打ちを受けていた。

 

「……んな…」

 

「どうしてそう後ろ向きにしか考えられないのよあんたは!?あたしたちを見るときはアホなくらい前向きなくせに!」

 

「っ…」

 

「ヒュージになるよりうじうじしてる方がマシ?!そんなわけないでしょ!!あんたは兄で、妹よりいつも一歩先にいなきゃいけないの!妹っていうのはね!ずっとあんたの背中を見てるもんなのよ!今だって、これからだってね!」

 

 姫歌は真っ直ぐ腕を上げて天を指差した。つられて見上げる秋展。視線の先には一番星が煌めいた。

 

「……今も…秋奈が……」

 

「シスコンならシスコンなりに、無条件に妹を信じなきゃダメでしょうが!うじうじしてるより……明るく過ごしてるあんたの方が好きなんだって!!前向きに!!」

 

「………」

 

「ヒュージになったあんたでも褒めてくれる!それくらいまで信じてあげなきゃダメよ、お兄ちゃんを名乗るなら!」

 

「………あ…」

 

 

 

  …………

 

 

『うわー。この写真…ヒュージになったお兄ぃ?』

『ん?…あ、ああ…。その…なんかごめんな…』

『なんで?カッコいいよお兄ぃ!』

『いや、そういう問題じゃねぇよ…。ほら、母さんも父さんも……さ…』

『……うん、そう…だけど。ヒュージがいなくなったら、お兄ぃはこうならなくてよくなるんでしょ?なら、それまで頑張ればいいんだよ!』

『……。強い妹を持ったな、俺は』

『当然!私はリリィなんだから!』

 

 

  …………

 

 

 彼は自嘲気味に笑った。

 

「ははっ……そうだよな…そうだったよな……忘れてた……。秋奈は…そういう妹だったぜ…」

 

「ほら見なさい。結局あんたは、お兄ちゃんとしては三流に落ちてたのよ」

 

「……。そうだったんだな。俺は…自分を…見失なってたのか…」

 

「今更気づいたのね。あんたはあんたで、どっしり構えてなきゃ兄の肩書きが泣くのよ!全く、世話の焼ける世話人だこと…」

 

「ああ…悪かった。気合い入れ直さないと、だな。……姫歌さん」

 

「何?」

 

 

 

「もう一発、くれねぇか?」

 

 

 

「………!?」

 

 真剣な顔で左頬を近づけてくる秋展に対し、姫歌の目は点になった。

 

「は?!何!?レアスキル『シスコン』かと思ったら今度はトンデモスキル『マゾ』に目覚めたのあんた?!」

 

「んなわけねぇだろ!?ただ気持ちの問題で……こう、な?頼む!」

 

 ゆっくりと距離を詰める彼。姫歌はただ後退りするしかできない。

 

「ちょっと!気持ち悪いわ!近づかないで!」

 

「寂しいこと言うなよ。ほら、早く!」

 

「嘘でしょ!?サブリーダー☆ひめひめの最初の仕事がマネージャー二度も引っ叩くとかイヤよ!」

 

「サブリーダー?!なら尚更だ、カツ入れてくれ!!」

 

「い……いやぁああ!!誰かぁああ!!」

 

 

 

 物影からは、グラン・エプレのメンバーと灼銅城隊長、桔梗が見守っていた。が、姫歌はそのことを知らない。

 

「これでまた、交流が進みそうね。高嶺ちゃん」

 

「ふふっ。そうね、叶星」

 

「と、止めなくていいんでしょうか……?」

 

「大丈夫だよとっきー!ほら、あっきーも定盛も楽しそう!」

 

「……そうは見えませんが…」

 

「屋上への立ち入り許可、ありがとうございます。桔梗さん」

 

 叶星は笑顔で彼女の方を向いた。

 

「大したことはないさ、叶星さん。前線に戻った部下があれでは、隊長として示しがつかないからねぇ。むしろ、姫歌さんには苦労かけたよ……」

 

「あ、あの……現在進行形のようですけど……」

 

 そう言う紅巴も含め、誰も2人の方に行かず成り行き任せにしている。

 

 

 半ば泣きながら、壁際まで追い詰められた姫歌は……彼の顔面へついに平手打ち第二波を繰り出した。

 

「どっか行ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

  バッチィィィィィィィィン!!

 

 

 先程とは比べ物にならないほどに鋭く速い一撃が炸裂。

 

「これだぁあああああああああ!!」

 

 

 歓喜とも悲鳴とも取れる叫びが、薄明の空にこだまする。

 

(秋奈…見ててくれ…!お兄ちゃんは絶対に……!)

 

 一番星に続き、他の星々も天を彩り始めた。

 

 




 超ありがちな設定です、はい。
 でもこれくらいのほんのりとしたシリアス具合が、このガーデンの雰囲気には合ってると思うんだ……。
 
 なお、アンダーラインの部分に当てはまるガーデンや人物の名前は特に設定していません。

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