アサルトファング Bestia Oratorium 作:羽桜千夜丸
設定の解説がメインになるかと思います。
「助かりました、姐御」
吉春はしがみついていたバイク型装甲車……カサドールの装甲から手を放し、学院の体育館前に降り立った。その中に乗っているパイロットに話しかける。
『気にすんじゃないよ。入学式は昼過ぎ…あの子たちの検査が終わるまで延期されてんだ。アンタもさっさと医務室行っときな』
パイロットの女性隊員…
隣に停まった2台目のカサドール…やや武装が少ない代わりに荷台が設けられた機体からは、その荷台に乗っていた楓、梨璃、夢結が降りていた。
「その前に、預けたものを回収しなくては…」
『ああ、タブレットが足りないって隊長たちが言ってたあれかい?アンタの仕業だったとはねぇ…』
「では、俺はこれで」
体育館からはリリィたちが出てきている。吉春はその人波の中に目当ての人物を見つけた。
「二川嬢!」
「あ、吉春さん!」
彼の声に振り向き駆け寄ってくる二水。その手には彼が預けた黒鉄嵐のタブレット端末があった。
「助かった。すまなかったな、預けっぱなしで…」
「いえいえ、こちらこそ!ありがとうございます!梨璃さんたちを助けた上に、こんなにネタをくださって!」
「いや、大したことは……何?ネタ?」
「はい!」
ぽかんとしている吉春の前で端末を起動する二水。その上に投影された立体映像には……
吉春を含めた黒鉄嵐の面々の、武器、技術、年齢、血液型などの情報に……スキルも表示されていた。
「リリィ新聞のコラムは、当面の間黒鉄嵐の皆さんの紹介でいけますね!第1号はやっぱり隊長さんがいいでしょうか?」
吉春にはツッコミ所が多すぎる発言である。
「待て待て、勝手に見るなネタにするな発行するな載せるな!こちらにはネタを提供する気は何一つない!」
吉春は少し強引にタブレットを取り返して映像を切る。
「も、もしかして私…何か機密情報を見ちゃいましたか?!」
「うーむ…そういうわけでもないが…。いや、君にこれを預けた俺の責任もあるか…。よし、わかった。新聞のことは今はいい。ただし……記事にするなら必ず扱いに注意して欲しい情報がある。この頼みを断ったなら…」
「……はい…!」
「君への俺たちの信頼は限りなくゼロになると思ってくれ。人としてやってはいけないこともあるからな」
「心得ました!それで、その情報とは…?」
「俺たちのスキルについてだ」
「あ…EXスキルですね!私もよく知らないので、どういうものか教えてください!リリィのレアスキルとは違うのでしょうか?」
「ああ、完全に別物だ。このスキルの名前や、能力の詳細を知られたくない隊員もいる。新聞に載せるなら、逐一確認の連絡をしてくれ……って…」
「ふむふむ、EXスキルはレアスキルとは全く異なる…と」
「……聞いていないな?」
彼女は吉春が言っていたことの内、興味がある部分だけをメモ帳に記していた。
「では、EXスキルの詳細を、お昼をいただきながらお聴きします!」
「その前に、装備を外させて…ついでに検査も受けさせてもらう。見ての通り、青ざめているんでな」
黒鉄嵐の格納庫の方に向かう吉春。その背中には、先程のヒュージの体液がべっとりと付いていた。
カタフラクトの洗浄は技術者の莱清に任せ、宿舎で検査を受けた後に二水と合流。制服に着替え、昼食を摂りながらインタビューを受けることになった。
「さて……」
ラウンジにて。焼き魚定食を手にテーブルに着いた吉春の前には、大盛りの牛丼と共にメモ帳を構えて待機する二水がいた。
「まずは確認だが、君は『
「いえ…。『エクストラ』ではないんですか?」
「ああ。……君がリリィの観察を好むように、俺も野鳥の観察を好む。そこで、彼らが見られるのがどの程度珍しいのかをよく調べていた」
「なるほど…」
二水はさらりと、『吉春さん、シュミ、鳥見る』とメモした。
「……いや、何一つ本質的な話をしていないのだが…まあいい。珍しさの指標には……。君はレッドリストという言葉を知っているか?」
「あ、はい。聞いたことあります。数が減っている野生生物のリストですよね」
「その通り。生物がどの程度危機的な状況にあるかがカテゴリー別に分けられたリストで、カテゴリーはアルファベットで表される。低い懸念であればLC、情報がなければDDなどだ」
そこまで言うと、彼は皿の上で開かれていたアジの頭にかぶりついた。
「………あ。もしかして、EXスキルの『EX』もそのカテゴリーを表す文字なんですか?」
「察しがよくて助かる。EXに分類される生物は地球から姿を消している。つまりこれが表す言葉は……Extinct。『絶滅』だ」
「絶滅…スキル……?何の意図でそんな…」
「さて、どこから話したものか……」
少し時間を置き、陽も傾き始めた頃。
夢結と梨璃は、病棟に来て検疫を受けていた。ヒュージの体液の大部分は吉春がカタフラクトで受け止めていたとはいえ、念を入れておく。
「その傷、跡が残るわね。騎士団の応急セットは使いにくいのよ」
「これで今日のこと、忘れずに済みそうです」
包帯の巻かれた右腕に手を当てた梨璃は、壁に投影された景色を見ている夢結と話を続ける。
「……夢結様、チャームを変えたんですね」
彼女の記憶にある夢結は、幅の広い大剣型のチャームを手にしていた。が、今の彼女が使っているのは四角い片刃の、ライフル型のチャーム。
「………」
夢結は黙ったまま、何も語らない。
「私、2年前…甲州撤退戦のとき夢結様と黒鉄嵐に助けてもらったんです」
2年前のある夜。
梨璃は友人と共にヒュージから逃げていた。
彼女たちを逃すために、ヒュージの足止めをした2人組のリリィ……その内の1人が夢結だった。
「リリィの援軍に騎士たちも、すぐそこまで来ているから、お友達を連れて真っ直ぐ行きなさい」
「は、はい」
駆け出そうとする梨璃だったが、少し立ち止まって夢結に礼を言っておくことにした。
「あ、あの……お気をつけて!」
「…ありがとう」
優しい微笑みを返した彼女。それが、梨璃の記憶にある夢結の姿だ。
「騎士団の皆さんから聞いて、百合ヶ丘のリリィだってことはわかっても…それ以上のことはわからなくて……」
「まさか、それだけでここへ?」
「はい。へへ…補欠ですけど…」
「筋金入りの無鉄砲ね…」
苦笑いする梨璃を見た夢結は呆れた様子である。
「こうしてすぐ夢結様に会えて……夢、叶っちゃいました。けど…夢結様、2年前にお会いしたときよりも、どこか…。あの…」
「?」
梨璃は、気になっている点の一つを、勇気を出して聞いてみることにした。
「夢結様…以前は騎士団の皆さんを信頼している感じでした。それなのに…今はどうして…。吉春さんの背中にあったあれがヒュージって…そのことが関係あるんですか?」
「……貴女に話す気はないわ。でも、彼の装備の一部がヒュージというのは本当。どうしても気になるなら、今から来る人に聞くといいわ」
「え…?」
次の瞬間、2人がいる部屋の扉が唐突に開き、眼鏡を掛けた上級生と思われるリリィが現れる。
その横には、がっしりとした体格の青年…黒鉄嵐の隊長、紀行が立っていた。
「やあやあやあ、2人ともごっめんね〜!初めまして、私は真島百由。標本にするはずだったヒュージをうっかり逃しちゃって」
「……真島嬢…。はぁ……。
「まさか厚さ50センチのコンクリートを破るとは思わなかったわ〜。通信ケーブルも切られたし」
紀行はそうでもないが、百由の方は、言葉とは裏腹に元気はつらつ。反省の色が感じられない。
「迂闊なことね」
「予測は常に裏切られるものよ。私たちは楽な相手と戦ってるわけじゃない。そのためのリリィと牙刃の騎士団でしょ?もちろん、夢結とこの子には感謝してるのよ?『のりっぴ』もね」
「『この子』ではないわ、梨璃よ」
「夢結様…」
「わかってるわ。だからこうして来たんでしょ?」
「あのなぁ真島嬢…」
紀行にジト目を向けられ、百由はその意図に気付いた。
「あー…この言い方がいけないのよね。反省してます、ごめんなさい!」
一応頭を下げる百由だが、やはり軽薄な感じは否めなかった。
検疫の結果、梨璃と夢結の体は問題ないとわかった。百由が去り、2人が制服に着替えて廊下に出る。
壁には紀行が寄り掛かって待っていた。
「一柳嬢、話って何だ?」
「あの…黒鉄嵐の装備のことを教えてください。一部がヒュージだとは聞いていたんですが、それ以外は全然知らなくて…」
「構わないけど、気分悪くなるかも…おや?」
通路の先には、梨璃たちを待っていたのか楓の姿があった。
「……っ!」
彼女は梨璃を見つけて近づいていく。
「楓さん、さっきは突き飛ばしちゃって……?!」
「お…」
楓は梨璃に目一杯近づき……
抱きしめた。
「あの…私、梨璃だけど…?」
「……自分でも驚きですわ。信じていただきたいのですけど、わたくし、そんなに軽い女じゃありませんのよ」
楓は少し梨璃を放し、夢結の方を見た。
「すみません、夢結様。わたくし、運命のお相手を見つけてしまいました」
「…運命の相手ねぇ…」
「いえ、お構いなく」
夢結はこれといって気にする素振りは見せない。紀行は少し興味あり気に2人を見ていた。
「あの…そんな…ええ…?」
「例え隊長さんでも、梨璃さんは絶対に渡しませんわ…!」
困惑する梨璃の横で、楓は何故か紀行を睨んでいた。
「別にいいよ…。恋人ならいるしな。……それより、一柳嬢に装備の説明を。歩きながら話そう」
4人は講堂に向かって歩き始めた。
「牙刃の騎士団の装備は、基本的にヒュージの心臓部を特殊な術式で作り替えて封じ込めた炉……
「え…人の体にそんなのを流して…大丈夫なんですか?」
「普通は大丈夫じゃない。けど、負のマギに耐性のある人間もいる。それが俺たち。生まれつき耐性があったり、後天的に付与されたり……」
「後天的に…?」
と、楓が会話に割って入る。
「オホン!その辺りの暗い話は今は不要ですわ!」
「…ああ、そうだな。…それで、負のマギを受け入れると、俺たちはスキルを得る。リリィには絶対に入手できない……
「絶滅…」
「リリィのレアスキルと相乗効果を生むものではありませんから。滅ぼすべき相手と同じ力を手にした結果、目覚めるスキルという皮肉も込められているのですわ」
「まあ、役割や効果がレアスキルと似てるものもあるが…。とにかく、俺たちの能力は後付けなんだ。好きな装備を選べる反面、普段はただの人間っていうのがリリィとの最大の違いかな」
「確か、全てのEXスキルには共通して、再生に関する機能が付属しておりましたわね。それに特化したものもあるとか…」
「ああ、言い忘れてた」
「なるほど…。楓さんも詳しいんだね」
「当然ですわ!」
梨璃に褒められたのが嬉しいのか、楓は鼻を高くする。
しばらく歩いて、梨璃たちは講堂の前に着く。
「入学式、もう終わっちゃいましたね…」
「………」
梨璃の後ろには、相変わらず黙り込んでいる夢結がいる。
「誰もいま………いたーーー!!」
ダメ元で扉を開ける梨璃。しかし講堂の中は彼女の予想に反して満員であった。
「入学式はこれからですよ〜!」
「二水ちゃん!」
出入り口の近くで、楓と梨璃を出迎える二水がいた。
「では、俺はこれで」
「あ、はい。ありがとうございました」
胸に手を当てて礼をした紀行は、黒鉄嵐が集まっている場所へ向かった。
「今日1番の功労者のためにって、理事長代行が時間をずらしてくれてたんです!」
「お、有名人。初陣でチャームと契約して、ヒュージを倒すとはやりおる」
近場に来ていたミリアムも声をかけてくる。
「私は足を引っ張っただけですよ…」
「そんなことありません!梨璃さんはご立派でしたわ!」
「ふむ、これにもそう書いてあるがの」
ミリアムは手にしていた紙を広げて梨璃に見せる。
「何です、それ?」
「私が刷りました!週刊リリィ新聞号外です!」
二水が自慢気に語るその新聞では、今日の一連の騒動が梨璃を主役に報道されていた。
「でも、何でヌーベルさんと腕組んでるんですか?」
「これには深〜〜い訳がありますの」
幸せそうな楓。一方、梨璃は在校生の席に彼女の姿を探す。しかし…。
「あれ、夢結様……?」
見つけられなかった。
式は問題なく淑やかに進み、そして彼らの出番が訪れる。
『それでは、牙刃の騎士団、黒鉄嵐の皆様に、新入生へ“牙の誓い”を唱えていただきます。黒鉄嵐、起立』
司会の言葉に従って、総勢30人ほどの黒い服の一団が立ち上がる。
二水は「はあ〜!この耳で生で聴けるなんて!」と興奮気味だった。
隊長の紀行が壇上に立ち、マイクに向かう。
『それでは…今日、このよき日に入学された皆様に忠誠の誓いを。黒鉄嵐、共に唱えよ!』
「「はっ!!」」
声を揃えて返答し、吉春を含めた隊員たちが右手を左胸に当てて背筋を伸ばす。
――我ら志ある者なり、故に蔑むことなかれ。我ら牙ある者なり、故に嗤うことなかれ。我ら傷ある者なり、故に驕ることなかれ。我ら祷ある者なり、故に怨むことなかれ。――
力強く唱えられるのは、牙刃の騎士団としての生き様。
――あゝ響け、獣の嘶きよ。我ら大いなる縄張りをここに。手繰る鎖を華の手に。――
それは、リリィと共に戦う意思の表明。
――我ら野を駆け、山を越え、天を舞い、海を渡る者。各々の逆境にあって牙を研ぐ者。
ヒュージに奪われた場所を取り戻す決意。そのために……。
――君よ、いざ命ぜられよ。しからば我ら全うせん。――
リリィの命令に従うことを約束し、誓いの言葉が締め括られた。
すっかり陽も沈んだ頃。
夢結は暗い自室の机から外を見ていた。
彼女の傍には、短い銀髪のリリィが立っている。
「見届けなくてよかったのかい?入学式」
「……私には関係ありませんから。彼らも、もう…」
「関係あるさ。夢結も慕う側から慕われる側になった訳だ。黒鉄嵐の新顔も一人前になって……月日の流れを実感するね」
「…からかうのは止めてください」
「ふふ。夢結にまだ可愛いところが残っているとわかって、僕も嬉しいよ」
「………」
黙り込む夢結。
窓からはただ、青白い月明かりが入るばかり……。
短い……。切りのいいところで区切るとこうなってしまうな…。