アサルトファング Bestia Oratorium 作:羽桜千夜丸
グラン・エプレが追う2個の流星。その片割れ…新造のヒュージ目掛け、気合いと共に姫歌が射撃を繰り出す。
「はああああっ!」
ズダァンズダァンズダァンズダァン!!!
『□□□!』
ヒュージが回避した先には、紅巴と秋展が待ち構えていた。
「これで……っ!」
「どうにか言いやがれ……!」
ザンッ!
ザンッザンッ!!
『□□□□□!!』
鎌状のチャームと、ロングソードの刃を握った形のコラプサーチャームによる斬撃が叩き込まれるも、ヒュージは2人を振り払って上空へ逃げる。
「はぁっ…はぁっ…。くっ、まだ倒れないの……!」
「でも、他のヒュージはドゥルーエの皆がやっつけてくれたよ。後はあの速いのが2つだけ!」
「にしても手強いがな…。ダメージ与えたとはいえ、さっきと同じ手はもう通じねぇみたいだし…」
姫歌、灯莉とも合流して話す秋展。高嶺と叶星もヒュージを見上げる。
「やはり、あの2体は別格のようね……」
「散開して戦っていてはダメね。ここはフォーメーションを組みましょう」
ヒュージが距離を取っている間に、叶星が皆を集める。
「作戦を説明するわ。ただし、状況に応じてフレキシブルに動くこと。特に秋展くんは、今回一番、自由に動いてもらうわね」
「「「はいっ!」」」
「任せろ!」
1年生3人と秋展の威勢のいい返事が響く。
「まずは中央に紅巴ちゃんを配置。レアスキルを使って私たち皆をサポートして」
「レアスキル……『テスタメント』、ですねっ」
「でも、叶星様!テスタメントは防御に割くマギが手薄になってしまいます!あの動きの速いヒュージが突っ込んで来たら紅巴は……」
姫歌の声に返したのは、この2人。
「心配いらねぇよ。なあ、高嶺さん?」
「ええ。紅巴さんは私たちが守るわ…。灯莉さんと一緒に」
「えっ、ぼくー?」
自分を指差す灯莉に、叶星が頷く。
「灯莉ちゃんの観察力は私よりもずっと鋭いわ。高嶺ちゃんと2人なら死角も潰せるし、より堅固な守備が可能になる。さらに秋展くんも前に出てもらえば、攻撃そのものを分散できるわ」
「任せて、とっきー!とっきーには指1本触れさせないからねっ!」
「なら俺は、灯莉さんにも指1本触れさせない気でいこうか」
「はい…!灯莉ちゃん、秋展さん……頼りにさせていただきます!」
秋展は黄色く輝く瞳に微笑みを浮かべて頷いた。
「あ…あの、それじゃ、姫歌は何を…?」
叶星は続けて姫歌に指示を出す。
「姫歌ちゃんは前線でヒュージの動きを捉えてちょうだい」
「え…叶星様?」
「高嶺ちゃんたちが紅巴ちゃんの盾になるなら、私は貴女の剣になる。だから、私を敵の元へ導いてほしいの」
「わっ…わかりました!」
姫歌が答えるのと同時に、秋展の目に距離を詰めてくるヒュージが映る。
「なぁ叶星さん…確認だが、前に出てヒュージを近づけさせなきゃ、どうやってもいいよな?」
「ええ、方法は任せるわ」
「……よし」
秋展がニヤリと笑った瞬間……
『□□□□□!!!』
ビュウゥン!!
ヒュージが灯莉目掛けて触手による攻撃を叩き出す。
「指1本触れさせねぇと言ったろうが……!」
ドクン……
秋展の手にあるコラプサーチャーム、その心臓部にあるリアクターが鈍い輝きを僅かに増す。
瞬間、彼の全身を赤黒の稲妻が包み込んだ。
(頼むぜ……秋奈。一緒に戦ってくれ!!)
バギャァアッ!
『□□?!』
「え……」
「は…?」
「おおー!」
姫歌たちは目撃した。
灯莉に迫っていた触手が、
真紅の電光を纏う、
『……どうした、ビビりやがったのか?』
弾かれ、怯んだように距離を置くヒュージに投げかけられる言葉。だが無理もない。
先程まで秋展がいた場所には……
『それとも……
新たなヒュージが立っているのだから。
白く、光沢のある装甲を黒い組織が繋ぐヒュージの基本形。
形は人形だが、人間からは逸脱したシルエット。
左手の指は長く鋭い爪を備え、右手首から先は大剣と一体化し柄ももはやない。幅の広い諸刃の剣。
その表面では、内側にある武器の輪郭を映しているのか、長い十字架が血の色の光を赤々と放っている。
両足のつま先は羊の蹄のように2つに分かれている。ハイヒールのように鋭く、長く伸びた踵と、全体的に丸みを帯びた装甲や黄色い大きな目、巻き髪のような造形の頭部はどこか女性らしさを醸し出す。
シュルルルル……
そして何より目を引くのが背中。
空を切る、帯状の触手が両肩辺りから2本伸び、真っ黒いその先端で鋭い刃が赤熱化しているのだ。
「これが…秋展さんのEXスキル……」
『ああ。待たせたな』
「うーん…なんか思ってたのと違うなー」
『ええ?!』
「こら灯莉!……にしてもあんた、ホントにヒュージに変身できるのね…」
『おう!ここからは出し惜しみはなしだ!本気の全力でやらせてもらうぜ、叶星さん!』
ぽかんとする紅巴たちとは対照的に、彼女は冷静に、しかし嬉しそうに頷いた。
「それでは作戦開始よ!皆、位置について……」
「はい……テスタメント、発動します!」
チャームを構え、マギを解放する紅巴。
一方、高嶺たちの方では……。
「灯莉さんは前方を。私は後方をガードするわ。秋展くんは好きに暴れて」
「はーい、了解っ!」
『よっしゃ!覚悟しやがれ隕石野郎!!』
『□□□□!!!』
秋展が剣を真っ直ぐ向けると、新造のヒュージは彼目掛けて攻撃を始めた。
新たに出現した未知の敵。それを先に排除すべく取る行動。
彼は一旦高嶺たちから離れ、ヒュージの斬撃を誘導して先程同様、自らの触手で受け流す。
『□ッ…!』
またもや距離を空けるヒュージ。
『どうした?俺は偽物のヒュージだぜ?何をビビる必要があんだよ!もっとどんどん来いやコラァ!!』
『□□□□……』
流星のヒュージは方向を変え、先にリリィたち……今、相方のレストアを狙う叶星と姫歌の方に向かおうと加速。
しかし。
『おおっと。そっちにゃ行かせねえよ!!』
ドシュウッ
秋展はアスファルトを蹴り飛ばしてヒュージの後ろに跳び上がると、背中の触手を伸ばして敵ヒュージの体に打ち込む。
『□□?!』
『どりゃああああっ!!』
触手をウィンチのように巻き取りながらヒュージに急接近。
右手の大剣を赤熱化させ、ヒュージの胴体を思い切り斬りつける。
『□□□□!!』
ヒュージは彼を払い落とすべく自らの触手を繰り出すが、秋展は剣に加え、鋭い踵をヒュージに打ち込んで脚を固定。
同時に帯状の触手を引き抜き、先端の刃で襲い来る触手を次々と焼き切る。
『遅い!遅い遅い遅い!』
『□□□□□□?!?』
ヒュージの触手攻撃の隙を突き、八芒星の形の頭に移動して目の下を斬る。
灼熱の剣で装甲を溶かし、その下の体組織を抉り出すのだ。
『□□□……!□□□□!』
気づけばヒュージは逃げていた。秋展を振り落とそうともがきながら、グラン・エプレからはそれなりに離れてしまっている。
『□□…□ッ!』
ヒュージは彼女たちの方に進路変更。
『おやおや、ようやく本来の目標を思い出したのかよ…。動きは速いようだがオツムはノロいらしいな、ええ?』
『□□□□!!』
ヒュージが加速。そのとき受ける風圧に任せ、秋展はヒュージの頭上へ移動した。
『自慢の触手も失くしたから体当たりか。けどな……
あの3人が、その程度でビビるもんかよ!』
姫歌たち3人は、ヒュージを迎撃する準備を既に終えていた。
「『この世の理』…。テスタメントのおかげで、マギがみなぎって……ヒュージの行動予測の時間が伸びてるわ…。今までよりも先まで読める!……灯莉!」
「おっけー!『天の秤目』!」
射撃形態のチャームを構える灯莉の眼前に、円盤を重ねたような光の紋様……マギのスコープが出現する。
ぐんぐんと狭まる視野。逆に大きく正確に見える目標。
長距離観測スキルによる精密射撃。これこそ灯莉の十八番。
狙いはもちろん、秋展が取り付いている新造のヒュージである。
「お、いつもより遠くまではっきり見えるよ!さすがとっきーだねっ!」
「い、いえ…私なんか…っ」
口を突いて出た言葉を、紅巴ははっとして飲み込む。
「……ううん、私だけの力ではないです…。叶星様っ」
「ええ」
レストアのヒュージのヒットアンドアウェイを捌きながら、叶星が紅巴に応える。
「私の『レジスタ』も働いているわ。テスタメントと合わせて、チャームの威力も格段に上がっているはずよ。だから……」
彼女の言葉を、姫歌が繋ぐ。
「今、ぶち抜いてやりなさい!灯莉!!」
「いっくよー!真正面からドーン!!」
ズギャアアアアッ!!
灯莉の手にあるチャームが吠え、マギが弾ける。紫電となって放たれる弾丸は、彼女がロックしていたヒュージの顔面…その目の下にある、秋展が開けていた穴を過たず捉えていた。
『□□□□□□□□!!!』
胴体を貫き、心臓部まで達した弾丸。硬い装甲の内側に致命傷を受けたヒュージは、断末魔と体液を撒き散らしながら秋展もろとも落下。
住宅街の向こうに墜落し、グラン・エプレからは見えなくなる。
「あとはレストア……貴方だけのようね」
高嶺は不敵な笑みでもう1体のヒュージを見上げた。
「…っ!」
隣に立つ叶星もキッと見据える。
『………□□□ッ!』
リリィたちの視線に耐えかねたヒュージは上空へと舞い上がり……
『□□□!』
「あっ?」
「あの声は……!」
叶星と高嶺が思い出すと同時に、ヒュージの進路上の空間が歪む。
暗黒の異次元空間にして……ヒュージ専用の離脱ルート、ケイブが出現したのだ。
「ああっ!?」
「か、叶星様!高嶺様!またあいつに逃げられちゃいますっ!!」
紅巴と姫歌が悲鳴に似た声で2人に呼びかける。
「そうなればまた戻って来て、また好きにさせてしまうわね…。でも、そうはさせないわ。ここは私たちの暮らす街よ」
目を閉じて呟く彼女。そして真剣なその顔を……満面の笑みに変える。
「……そうよね、秋展くん!」
叶星が呼んだ次の瞬間。
住宅街の向こうから流星が打ち上がる。
「あ…!」
「うそ…あいつまだ……!」
両方のヒュージに逃げられる。そう思った紅巴と姫歌の顔が絶望に染まった。
が、叶星と高嶺は笑顔のままだ。
「灯莉ちゃん、復活したヒュージを見てみて」
「んー?」
叶星に言われ、再び天の秤目でヒュージを見る灯莉。
「あれ、目が黄色いよ?」
「……え?」
「ってことは…まさか……?!」
『………□!』
ケイブに向かうレストアの視界に、撃墜されたはずの新造が入る。
新造はぴったりとレストアに追従し……突如急加速。
黄色い目の流星はケイブとレストアの間に割り込むやくるりと反転し、正面からレストアへと突撃する。
ドガァ!
『□?!』
『こんにちは!』
『□□□□?!!』
相手の声に驚愕するレストア。正面のヒュージの頭の上に、もう1体のヒュージを見つける。
黄色い目のヒュージは既にボロボロで、あちこち傷だらけな上に触手も大部分が失われ、顔には風穴が開いている。
が、その穴には頭上に陣取るヒュージからの触手が差し込まれていた。
『生憎だがここは通さねぇよ!隕石なら隕石らしく、重力に引かれて堕ちて逝きやがれぇ!!』
『□……□□…!』
レストアは徐々に押されながら高度を下げていく。
その視線の先で、無念にもケイブが閉じられた。
「アレ秋展なんですか?!」
叶星の話を聞いた姫歌は、彼女たちを案内して走りながら質問する。グラン・エプレが向かうのは姫歌が見つけた、2体のヒュージの落下予測地点。
高嶺たちが姫歌に説明を始めた。
「そう。ヒュージに変身するだけではなく、その状態であれば個体、器官を問わずヒュージの遺骸を支配下に置く」
「それが彼の
『アポフィスの
ヒュージに変身するだけの『アポフィスの
「動力さえ間に合えば、ヒュージが生前に持っていた能力もほとんど使えるという話ね」
「だからあっきー、レストアに追いついて今ぐいぐい押してられるんだー」
『□□□□!!』
灯莉が納得している間に、5人は目指す場所に着く。
彼女たちの正面では青い目のヒュージが自分を押さえ込む同型に触手を繰り出すが、秋展も負けじと残っている少ない触手で応戦。
相手の触手を絡め取り、機動力を落としてさらに地面へ押し込んでいく。
「……『ゼノンパラドキサ』。さあ、そろそろお引き取り願いましょうか。子どもたちが待っているわ」
マギを解放する高嶺に合わせて、叶星が紅巴を呼ぶ。
「紅巴ちゃん、最後は私へのサポートをお願いできるかしら」
「え……あ、はい。テスタメントですね…わかりました!……発動します!」
自らのレジスタに加え、紅巴による支援スキル。チャームによる攻撃の速度と威力は、十分すぎるほどに強化されている。
『□□□□□□□!!!』
強大なマギを感知したレストアは、自身の推力を最大限にして秋展から逃れようとする。
『うおぉおおおおお!!!』
秋展もまた雄叫びを上げながら、剣に埋まるリアクターの出力を限界まで引き出した。
レストアのヒュージは押し込まれ、ついに叶星たちの眼前へ。
「行くよ、高嶺ちゃん!」
「ええ、叶星!」
2人のチャームから光刃が伸びる。マギのみで形造られた刃は、意思で練られたエネルギーの刃だ。
脚にもマギを流し込み、地面を蹴ってヒュージへ斬りかかる。
『やれぇぇぇぇぇっ!!』
「受け取りなさい!これが私たちの……!」
「グラン・エプレの……“力”よ!!」
ゴウッ
斬り裂かれ、割れ砕け散るヒュージの身体。光に包まれて吹き飛ぶ秋展は……表情のない顔の裏で、満足した微笑みを浮かべていた。
(やったぜ……秋奈……)
「ぃやったぁぁぁ〜!」
グラン・エプレ面々の方から、どっと力が抜ける。
「ついに仕留めました……。あの素早いヒュージを2体とも……」
「はぁぁぁ……つ、疲れたわ……」
一息つく1年生3人に、叶星が向き直った。
「ふぅ……皆、おつかれ様。本当によく頑張ってくれたわね」
「そ、そんな……お2人のご活躍に比べれば……」
謙遜する紅巴に、高嶺も声をかける。
「いいえ、これは
一方、灯莉はもう気分を入れ替えていた。
「よーし!それじゃ、幼稚園に戻ろう!早く皆を呼び戻して、劇の準備しよー!」
「そうですね。あの子たちにも、もう安心だよって伝えに行きましょう」
「姫歌たちの活躍もじっくりと教えてあげるわ!でもその前に……」
「あー!さっきすっ飛んで行っちゃったあっきー捜さなきゃ!」
「そういえば、どこまで行かれたんでしょうか……」
「ホント、しょうがないわねあいつ…。叶星様、秋展見つけてきますね」
「うん。行ってらっしゃい」
笑顔で3人を見送る叶星。その隣で、高嶺は苦悶の表情を浮かべる。
(………どうやら、また力を使いすぎたみたいね…。でも、何とかなってよかった……)
グラリ、と視界が揺れた。その瞬間……
「私に掴まって、高嶺ちゃん」
そっと叶星が寄り添う。
「叶星……。倒れそうになるなんて、カッコ悪いところを見せてしまったわね…」
「カッコ悪くなんてないよ。それに、私は…こうして高嶺ちゃんを支えられて、ちょっとだけ嬉しいんだよ」
「嬉しい……?」
意外な感想に、高嶺はきょとんとして返す。
「昔から、高嶺ちゃんは……私のことを何度も助けてくれたでしょう?だから、私が高嶺ちゃんのために何かできるのが、嬉しいの」
「そんなことないわ…。助けられてばかりなのは私の方……。叶星を支えたいのは…いいえ、支えないといけないのは私よ……」
「高嶺ちゃん……」
叶星は一呼吸置き、高嶺の目を見て続ける。
「……私ね、きっとこれから先、辛くて悲しいことがたくさん起こると思うんだ。その度に泣いちゃうかもしれない」
「……」
「だからね…私のことをずっと隣で支えていてほしいの。高嶺ちゃんがいてくれるなら、私はどんなことでも…乗り越えられるから…」
「叶星……」
「ダメ、かな…?」
ほんの少し甘い声は、高嶺にようやく微笑みを許す。
「ダメなんかじゃないわ。そのための私なのだから。…それに、そうね。私も今回のように倒れそうになったら……また、手を貸してもらおうかしら」
叶星の顔もまた、ぱあっと明るくなった。
「うん、任せてちょうだい。高嶺ちゃんのことは、私がいつでも支えるからね!」
「ええ」
「高嶺ちゃん、これからもよろしくね」
「こちらこそ。叶星」
胸の前でしっかりと、互いの手を握り込む。また一つ、絆が強くなった証だ。
「……これで、秋展くんから叱られることもなくなるわね。叶星」
「うん…。姫歌ちゃんたち、彼を見つけたかな……」
その頃……。
「あんた、まーた街路樹と仲よしになってるのね。秋展」
『毎度毎度、好きでやってるわけじゃねぇんだけど……』
幼稚園の近くの道に植えられた木に、大剣を持つ人間形のヒュージが逆さにぶら下がっていた。姫歌と灯莉、紅巴が会話している。
「あっきー、なんでずっと逆さまなの?コウモリのマネ?」
『いや違うんだ…。その……触手とか踵とかが枝に見事に引っかかっててだな…無理矢理折って脱出するのもいい加減どうかと思って……』
「変身を解いたらすぐに降りられるのでは……」
『いや、無理だって紅巴さん。この高さは……下手に着地しようもんなら首が折れちまうよ…』
「はあ…」
『頼みがあるんだが、俺が変身解くタイミングで捕まえてくれねぇか?なんなら肩辺り押さえててくれるだけでも助かるんだが……』
「わ、わかりました」
「もう…ホント世話が焼ける世話人ね」
『サンキュー』
紅巴と灯莉が手を伸ばす……と。
「あ、定盛、とっきー。ちょっと待って〜」
『ん?』
「はい?」
「何よ、灯莉」
呼び止めた灯莉はどこからともなくスケッチブックと鉛筆を取り出す。
『あ……灯莉さん…?何をなさるおつもりで…?』
「せっかくだからきょーちんに教えてあげようよ。あっきーがスキル使えるようになったよ〜って」
『で、その証拠に今の俺のスケッチを……?』
「うん!」
灯莉の笑顔は善意100%。しかし、秋展にとってはたまったものではない。
『止めてくれぇ!!灼銅城中の笑い者になっちまうぅ!!』
「別にいいでしょ?」
『はあ!?』
ばっさり切り捨てる姫歌。
「あんた人前で手品やるんだから。似たようなものよ」
『それならあんたも同類だろうが!ひめひめ!』
「アイドルのパフォーマンスはまた別の話よ!」
『何言ってやがる、芸人スキル高いくせに!』
「あー!言ったわね?!」
「あ、あの…お2人とも……」
見かねた紅巴が2人を宥めようとするが、もはや意味はない。なぜなら……。
「できたーー!」
『あっ……』
この間に、灯莉は秋展のスケッチを完成させていたのである。
「じゃーん!」
「見せてみなさい……って!なんであたしまで横に描かれてるのよ?!消しなさい!」
紙面には、秋展が変身した逆さまなヒュージと口論する姫歌が描かれていた。
「えー?だって定盛とあっきー面白いんだもん。一緒に描いたらもっと面白いよ〜」
「そんなわけないでしょ!消しゴムと一緒に貸しなさい!」
「よーし、早速きょーちんに見せてこよー!」
灯莉はスケッチブックを閉じて駆け出す。
『止めろぉ!!』
「最初は幼稚園に向かうんでしょ?!待ちなさーーーい!!」
灯莉を追いかけて姫歌もどこかへ行ってしまった。
『…………』
「…………」
残された2人がしばし見つめ合う。
『……紅巴さん、助けてくれぇ……』
「あ…はい…」
秋展は紅巴の手を借りて、どうにか街路樹から脱出することができた。
それから数日後。
幼稚園での演劇は無事に成功し、怪我をしていた職員も復帰して、グラン・エプレのボランティアは幕を閉じた。
そして……。
「やった!やったわ、やったわよー!」
構内に設けられたグラン・エプレのブリーフィングルームに、姫歌の歓声が響く。
「ついにアイドルリリィ部が発足よ!!……って、灯莉たちはどこに行ったのよ……」
飛び込んでは来たものの、部屋の中はもぬけの殻であった。
「ようやくガーデンと
灼銅城からは1発で許可が出たので、”ようやく”と言えるかはやや微妙である。
「そうだ、この興奮が冷めない内に日記に書いておこうっと。これなら皆が読むから手っ取り早いわね!秋展は灼銅城に呼び出してもらえば済む話だし!えーと、日記日記っと……」
今日もまた、交換日記のページが埋まる。夢が一つ叶ったと喜ぶ彼女に応える形で、紅巴もまた夢や目標を、灯莉は自分の夢…『皆がハッピーになること』と、『ハッピーのお裾分けの方法は何か』と書き綴り……。
「『思いついたらぼくに教えてね』…ですって、叶星。秋展くん」
今、日記は高嶺と叶星の手に回っていた。ラウンジにてティータイムを楽しみつつ、書かれた文を読む。
「ふふ…。やっぱり交換日記っていいわね。目の前にいるわけじゃないのにまるで皆と話しているみたい」
「なるほどなぁ…。なかなか暖かみがあっていいな」
「毎日会っているのに、なんだか新鮮な感じがするわね」
叶星は日記に書かれた文字を撫でる。
「この日記に綴られている、皆の夢や想い……私はこれを守っていくわ」
「……私も同感よ」
「ああ。俺、この日記の中身はよく知らないが……この空気が好きだからな。あんたたちが守りたいものなら、俺も守らねぇと」
秋展が頷く横で、高嶺がティーカップを手に思い出に耽る。
「昨年とは違う、このグラン・エプレというレギオン…。昔は叶星さえいれば何もいらないと思っていたけれど……今はあの子たちがいないグラン・エプレは考えられないわ。このレギオンの一員でいられることは、私の誇りよ」
叶星も呟く。
「うん…。以前の私は、自分のことばかり考えていたわ。仲間を守りたい……その気持ちは昔も今も変わらないけれど、今はもっと大きな…。“想い”全てを守りたい」
目を伏せていた彼女は、高嶺の方に笑顔を向ける。
「ありがとう、高嶺ちゃん。私が本当に守りたいものに気が付くまで一緒にいてくれて」
「おいおい……」
「それでは別れ話のように聞こえるわよ?」
秋展はやや焦り、高嶺は少しシュンとする。叶星は慌て気味にフォローした。
「そんなわけないよ…。高嶺ちゃんはずっと私の側にいてくれる。これまでも、これからも、ずっと……。そう約束したよね?」
高嶺が悪戯っぽく微笑む。
「ええ、そうだったわね。でも改めて聞くと、なんだかプロポーズみたいね?」
叶星は思わず赤面する。
「あ…確かにそうだね。少し恥ずかしいなー……」
「神父の資格取っときゃよかった……」
「秋展くんまで茶化さないで……」
「ふふふふ……」
秋展と高嶺はいい笑顔で叶星の反応を見る。
「……さて、今度は私たちの番ね。日記、高嶺ちゃんから書く?」
「私は叶星の後でいいわ。青臭い、恥ずかしいことを書いたらいじってあげる」
「もう、高嶺ちゃんったら……」
「安心しろ、叶星さん。俺は何も見てないからな!」
「秋展くん、私がそんなに恥ずかしいことを書くって思ってるの?」
「保険だ、保険」
「……もう。そこまで言うなら、今日は秋展くんも何か書いて」
「何ぃ!?」
シャーペンと日記を差し出してくる叶星からの予想外の提案に、秋展は素っ頓狂な声を上げる。
「いいのか?俺が書いたら…何か紅巴さんに叱られそうな気がするんだけど……」
「貴方も皆の気持ちを知っていること…その証明として一筆書くくらいの気持ちでいいわ」
「余計なプレッシャーかけるなぁ、高嶺さんは……」
彼は一息つくと、日記帳であるノートと筆記具を受け取った。
「……ま、たまにはこういうのも悪くないか。なんたって……」
秋展はシャーペンを取り、日記に最初の一文字を記す。
彼の胸で、ペンダントがカチャリと揺れた。
呼んでくださった方、ありがとうございます。
今更ですが、主人公と特定の原作キャラとのカップリングは、現段階では設定していません。ここの主人公は、2年生2人には親身になって接しつつ、1年生3人とワイワイやるようなキャラで考えていました。また、最後の「なんたって……」の後に続くセリフは皆様に委ねさせていただきます。
設定の裏話としてはもう一つ。主人公の変身後の姿には元ネタがあります。ヒントとしては……
・柄のない剣、あるいは剣の刃を持っている
・“混合”された見た目
・繋いで支配する能力
・名前(鈴月秋展→鈴虫鳴く秋が広がる頃の月、といえば…)
・ガーデンの名称
・ストーリー仕立てと戦闘直後のポーズ
これで元ネタがわかった貴方は占い師、またはオカルト、スピリチュアルなものが大好きな方ですね。
神庭編は一応これで最終回ですが、番外編として主人公と2年生2人が知り合った頃の話や、ゲーム内のショートストーリー風の短編まとめをどこかのタイミングで投稿しようかと思っています。気長にお待ちいただけると幸いでございます。