アサルトファング Bestia Oratorium   作:羽桜千夜丸

4 / 32
 アニメ第2話に入ります。この話の内に、どうにかエレンスゲ編と神庭編にも出てくる共通設定を固めておきたい……。


第4話 巡回警備

 入学式の翌日の朝。

 黒鉄嵐(ヘイティエラン)の格納庫にある、砲塔部分に人の上半身を付けた形の4本足の戦車の上で、吉春と慶が作業していた。戦車の右腕は長大なキャノン砲であり、左腕部分には9連の箱型ミサイルポッドが付いている。

 

「悪ぃな。オーバーホールの作業だけじゃなく、試運転まで手伝わせちまってよ」

 

「何、気にするな」

 

 慶は人の胴体に当たる運転席におり、吉春は制服を着て、その正面にある脚の付け根に座る。彼の手にはタブレット端末があり、戦車との無線接続を行っていた。

 

「つってもお前、今日は仕事あったろ?」

 

「確かに見回りがあるが、校舎内以外はこれに乗って移動しながらでもできる。君を手伝いながら、俺の仕事も進むという寸法だ」

 

 起動シークエンスを進める慶は愚痴を溢す。

 

「はぁ…。本当は出撃と訓練以外いっつも司令室にこもってばっかの隊長に手伝わせるつもりだったんだがよ……今日に限って休暇申請してて朝からいやがらねぇ。何か聞いてるか?」

 

「例の彼女とデートだと言っていたな」

 

「デートだぁ?」

 

 慶は目を丸くした。

 

「ああ。今頃、鎌倉市街で楽しくやっていると思うが…」

 

「ケッ。いい身分じゃねぇかよ」

 

 吉春のタブレットから電子音が鳴り、戦車のシステムと繋がった。

 

「そう僻むな。『彼女たち』に慕われている証拠だ。それに君にだってチャンスはある。昨日の一件でアールヴヘイムに気に入られたのだろう?」

 

「止せや。連中はただ足が欲しいだけだっての」

 

「どうだかな。こちらは準備完了だ」

 

「おう、こっちも…出せるな。コックピット閉じるぞ」

 

 上方向に持ち上げられていた金属パネルが音を立てて閉じていき、最後に慶の肩から上にヘルメットの機能を備えた装甲が降りてくる。非対称の顔に取り付けられた3つの視覚センサーが黄色の光を放った。

 

『リアクター3基、相互接続完了……同調をかける』

 

 背中に収められた動力炉には、3基のH(ヒュージ)M(マギ)R(リアクター)がある。相互接続では、出力は単純に3倍だが……。

 

『出力増加』

 

「こちらも確認した」

 

 同調させると、そのパワーが3倍を大幅に上回った。

 

「動力系統…異常なし」

 

『その他、各部異常…現状はなしだ』

 

 戦車のスピーカーから聞こえる慶の声を聞きながら、吉春もタブレットを操作。投影された立体映像の戦車を見る。

 

「では、シャッターを開ける」

 

 投影されたボタンを押すと、牙刃の騎士団の紋章が描かれた格納庫の巨大なシャッターがカタカタと持ち上がり始めた。

 やがて春の風が吹く晴天と対面する。

 

『クリバノフォロス-Cen(ケンタウルス)A(アーチェリー)。御業慶、試運転に出る』

 

 ヒト型4輪戦車は、朝陽を浴びながら格納庫を出発。学院の中へと進んでいく。

 

 

 

 しばらくして校舎の近くまで来た。

 

「快調のようだな」

 

『まぁ莱清(らいしん)の整備の腕ならこんなもん必要ねぇと思……おい!!』

 

  ギギィッ

 

「?!」

 

 突如急ブレーキを掛けて声を荒げた慶に驚き、吉春の肩が跳ね上がった。

 

『ウロチョロすんじゃねぇ!!轢かれてぇのかテメェ!!どうかしてんぞ!!』

 

「わああっ!?ご、ごめんなさいぃい!!」

 

「ん?!」

 

 何やら聞き覚えのある声。辺りを見回して主を探すと……

 

「二川嬢!!」

 

 車輪のすぐ近くに、いつの間にか二水が来ていた。彼女は昨日に引き続き鼻血を流しながらメモ帳に走り書きをしている。

 

「よ、吉春さん?!」

 

「何をやっているんだ?近くにいると危険だ」

 

「すみません…」

 

 車体の上から声をかけると、彼女はペコリと頭を下げる。

 

「まさかクリバノフォロスが間近で見られるなんて思ってなかったので……興奮しちゃいまして、それで…」

 

『言い訳なんかしてんじゃねぇ!とっとと行きやがれ!』

 

「ひぇっ!」

 

 慶の声にすっかり萎縮してしまっている二水。

 

「落ち着け慶。ここから先は徐行しなければならない。となると、彼女を追い払っても結局はついて来るはずだ」

 

『マジかよ…』

 

 吉春はもう一度二水に向き直る。

 

「二川嬢、どうせなら乗って行かないか?」

 

「え゛っ!いいんですか?!」

 

『おい、俺の装備でナンパすんな』

 

「そうではなく、近くをうろつかれるより、乗せた方が安全だろう?」

 

『…ハァーッ。しょうがねぇな…。ほら、さっさと来い。肩の上にでも座ってろ』

 

「あ、ああありがとうございますぅ!!」

 

 さっきまでの怯えはどこへやら。大喜びの彼女は勢いよく車体によじ登り、吉春の横からミサイルポッドの付け根に移動して腰を下ろした。

 

「わぁあああ!すごいです!!高いですーー!!」

 

「落ち着け二川嬢!」

 

『行くぞ。大人しくしてろよ、いいな?』

 

「はい!もちろんです!」

 

『………』

 

「………」

 

 二水は元気いっぱい。

 装甲の下で、慶は吉春と同じく呆れ顔をしていた。

 重々しく車輪が回り、再び動き出すと……

 

「う、動きました!動いてます!!」

 

『大人しくしてろっての!』

 

「二川嬢……」

 

 

 またしばらく進むと、道の先に見覚えのあるリリィが立っていた。

 

『一時停止だ』

 

「あれは…一柳嬢か」

 

「あ、本当です!梨璃さーーん!」

 

 二水が手を振って声をかけると、梨璃がこちらに振り向く。

 

「あ、二水ちゃ…ええええっ?!」

 

 ヒト型4輪戦車の肩に乗っての彼女の登場に、梨璃は飛び上がる勢いで驚いた。

 

「ご……」

 

「ご……」

 

 梨璃と二水はタイミングを合わせて……

 

「「ご機嫌よう!!」」

 

 慣れない挨拶を交わした。

 それが嬉しかったのか、二水は戦車から降りて梨璃に駆け寄り……

 

「「わぁぁぁ!」」

 

 がっちりと手を組む。2人とも満面の笑みを浮かべていた。

 

「私今、百合ヶ丘に来たーって実感してます!」

 

「私もだよ!」

 

「それに梨璃さんと私、同じクラスになったんですよ!」

 

「本当?!よかったぁ、嬉しい!」

 

 すると…。

 

「そんなに喜んでいただけると、わたくしも嬉しいですわ!」

 

「わっ!楓さん?!」

 

 戦車の影から楓が飛び出した。

 

「ヌーベル嬢!いつからそこに…」

 

「あら、吉春さん。昨日はどうも…」

 

 と、すぐさま慶が叱りつける。

 

『おいゴラァ!!近くをウロチョロすんじゃねぇ!!』

 

「「ひゃっ!?」」

 

「ぐうっ」

 

 その大声に梨璃と二水はびっくりし、吉春は咄嗟に耳を塞ぐ。

 

「むっ、野蛮な言動は謹んでいただけますか重騎士さん?往来でしてよ」

 

 対する楓は毅然として慶に向き直る。

 

『……ハァ。わぁったよ。けど止まってるからって無用心に近づくんじゃねぇぞ』

 

「心得ておりますわ」

 

 一方、梨璃と二水は…。

 

「あ、せっかくですから梨璃さん!クリバノフォロスに乗っかってみませんか?」

 

「え?あれに…」

 

 梨璃は眼前で、彼女を見る4本足の巨人に視線を移す。

 

「い、いいのかな…」

 

「学院の敷地内をテスト走行されるとのことで、いろいろ見て回るチャンスですよ!」

 

 聞いていた楓がくるりと振り向く。

 

「素晴らしいご提案ですわ、二水さん!さ、梨璃さん!わたくしとドライブと参りましょう!運転手付きで!」

 

 様子を見ていた吉春は、後ろを向いて慶に問いかける。

 

「……と、言っているがどうする?」

 

『ああ…どうせならもう使われてやる。お前ら、行きたい場所あるか?』

 

「いいんですか?じゃあ…」

 

「ささ、梨璃さんお先に…」

 

 

 こうして、ヒト型戦車は右肩に梨璃、左肩に二水、頭の上に楓、胴体の正面に吉春を乗せた。

 

「わ、結構高い…!」

 

「怖いようでしたら、わたくしにしがみついて構いませんわよ梨璃さん!」

 

『頭の上でごちゃごちゃすんな!さっさと目的地を言いやがれ!』

 

「あの、私まだクラス分けを見てないので、よければ掲示板に…」

 

「では逆方向だな。アトラクションと洒落込むぞ慶!」

 

『しっかり掴まってろよお前ら!』

 

 吉春は制服の懐にタブレットをしまい、立ち上がるとジャンプして右腕の砲身にぶら下がる。

 それを確かめた慶は……

 

「うわわっ!」

 

「あら…」

 

「わっ?!」

 

 上半身を180度回し、車体の前後を入れ替えた。

 

「よっ…と」

 

 手を離して、再び胴体の前のスペースに着地する吉春。

 

『んじゃ行くぜ』

 

 

 4人を乗せた戦車が、先程までとは逆方向に、ゆっくりと走り出す。

 

「わぁ…」

 

「んん〜、風が心地いいですわ。そういえば、吉春さんは何を?」

 

 吉春は制服の前を開き、そこに提げられているケースとその中身を楓たちに見せる。

 

「見回りをしている。昨日話した、憲兵隊としての仕事だ。そのついでに慶の試運転を手伝っている」

 

「よ、吉春さん。それって銃…?」

 

「いや、トンファーバトンだ。高強度合金製折り畳み式。マギの入っていないチャームの斬撃くらいなら耐えられる」

 

「トンファー…」

 

「心配はいらない。使う機会はそれほどないからな」

 

「そうなんだ…」

 

 

 少しして掲示板の前に着いた。

 梨璃たちは戦車から降りて座席表を見る。

 

「ホントだ…。二水ちゃんと楓さんと同じクラスで……」

 

「わたくしと梨璃さんが隣り合って……。これもきっと、マギがわたくしたちを導いたんですわ!」

 

「あいうえお順じゃないかな…」

 

 

 その頃、吉春は戦車の上でタブレット端末から投影されたレコーダーの数値を確認していた。

 

「……んー…?」

 

『んだ?吉春』

 

「以前までの記録と微妙に違う数値が出力されている。…誤差の範囲に留まっているものもあるが…」

 

『戻って調整しとくか?』

 

「…もう少し動かして様子を見る。致命的な異常が発生する兆候ではない」

 

『了解……っと』

 

 梨璃たちが戻ってきた。

 

「次はどちらまで?ヌーベル嬢」

 

「そうですわね…。足湯場に連れて行っていただけますか?」

 

『はいよ。ほら乗った乗った』

 

 

 次にやって来たのは海が見える風情ある場所。それなりの大きさの和風の建物の中に梨璃たち3人が入り、建物の後ろでは、戦車の胴体から出た慶が吉春と共にタブレットに表示されたデータを見ている。

 

「わー、いい景色…」

 

 二水は足を湯に浸しながら外を眺めた。隣には梨璃、その横に楓が座っている。

 

「足湯なんてあるんだ…。いいのかな、朝からこんな…」

 

「講義は明日からですから…」

 

「理事長の方針だそうですわ。学院はヒュージ迎撃の最前線であるのと引き換えに、リリィにとってのアジールでもあるべきだって」

 

「アジール?」

 

「聖域のことですわ。何人にも支配されることも脅かされることもない常世…」

 

「トコヨ…?」

 

「まあ、いい大人がわたくしたちのような小娘に頼っていることへの贖罪ということでしょう。その割には殿方もうろうろしていますが…」

 

「聞こえてんぞ!」

「構うな慶。…それよりこの辺りは…」

「ああ、戻ったら調整したほうがいいな…」

 

 壁の代わりに設けられた木の格子。その向こうをちらりと見た楓の目には吉春たちが映る。

 

「……でも不思議ですよね。同じクラスでも、私と梨璃さんみたいなド新人から、ヌーベルさんのように実績のあるリリィまで、経歴も技量もバラバラです」

 

 聞いた楓は得意げに笑う。

 

「ほほほ。よく調べているわね。わたくしのこと、“楓”って呼んでくださってよろしくてよ」

 

「うわわー!ホントですか!?すごいです!グランギニョルの総帥のご令嬢とお近づきになれるなんて!」

 

「なぁんてことございませんわ、ほほほ」

 

 楓が高笑いしていると、吉春が柱の影から顔を出す。

 

「こちらはいつでも出せる。声をかけてくれ」

 

「あ、うん。……ところで、ギ…ギニョギニョ…って何ですか?」

 

「まさかご存知ないとか?!」

 

「一度説明したじゃないですか!」

 

 梨璃の疑問に真っ先に答えたのは吉春だ。

 

「擬声語とか擬態語というやつだろう。おそらく油ぎった粘土を掴んだ感触を…」

 

「ぜんっぜん違いますわ!」

 

「なぬ?!これは失礼!」

 

「わざとじゃないですよね…。グランギニョルはフランスに本拠を置くチャーム開発のトップメーカーの1つなんですよ、梨璃さん、吉春さん!」

 

「ああ、その話か。すまない、ギニョギニョのくだりしか聞いていなかったもので…」

 

「1つではなくトップでしてよ!お父様の作るチャームは世界一ですわ!!仰ってくだされば、いつでも梨璃さんにはキレッキレにチューニングしたカスタムメイドの最高級チャームをご用意して差し上げますから……お楽しみに!!」

 

「はぁ…」

 

「到底扱いきれんだろ、そんなチャーム…」

 

 

 

 しばらくして。

 5人は校舎にあるラウンジに来ていた。梨璃たち3人が1つのテーブルを囲んでティーカップを手に会話し、吉春と慶は隣のテーブルで試運転の結果を見ている。

 

「ここの関節がこっているようだ。もう少し遊びを持たせた方がいい」

 

「だな。あとは火器管制システムの調整だけか…」

 

 吉春たちが話している一方…。

 

「梨璃さん、朝食の後はどこに行ってたんですか?」

 

「あ、うん。ちょっと旧館に…」

 

「そっか。夢結様にご挨拶に行ったんですね!」

 

「……私、夢結様にシュッツエンゲルになってほしくて…」

 

「あら。ですがそれは普通、上級生からお声がかかるものですわ」

 

 二水と、あの場に居合わせていた吉春と慶が苦笑いする。2人にも会話が聞こえていたのだ。

 

「楓さんだって昨日は…」

 

「過去には囚われませんの」

 

 

「便利な言葉だなぁ…?」

「慶、しーっ…」

 

 

「それが…夢結様、目も合わせてくれなくて……」

 

「えっ?昨日はいい雰囲気だったって…」

 

「私、嫌われちゃったのかな…」

 

「まぁ、元々気難しいことで有名なお方ですから?」

 

「今の夢結様はシュッツエンゲルどころか、どのレギオンにも属さず、常にたったお1人でヒュージと戦っているそうです。黒鉄嵐が応援に来ても追い返すんだとか…」

 

「昨日もそうでしたものね」

 

 楓が吉春の方を見る。彼は頷いて返した。

 

「……。楓さん、私にチャームの使い方を教えてくれませんか?」

 

「それは喜んで…」

 

「でも、明日から実習が始まるっ…」

 

「お黙り、ちびっこ!!」

 

 二水を罵倒と共に一喝する楓。

 

「ちびっこ?!」

 

「野蛮な言葉を謹めと言ったのは誰だったか、ヌーベル嬢?」

 

 吉春の言葉にも彼女は耳を貸さない。

 

「過去には囚われませんの」

 

「また出しやがった…」

 

 慶が呟いた頃には、彼女は梨璃の方を向いていた。

 

「楓さん、私、早く一人前のリリィになりたいんです。そうすれば…」

 

「お気持ちはお察ししますが、焦りは禁物……と、普通なら申し上げるところですが、ここはヒュージ迎撃の最前線ですわ。初心者と経験者をまぜこぜにしているのは、リリィ同士が技を鍛え合う自主性もまた、期待されてのこと」

 

「……それじゃあ…」

 

「喜んで協力して差し上げますってことですわ」

 

「………」

 

 いい笑顔の楓の言葉に含みを感じた吉春がスッと席を立つ。同時に二水が彼女に問いかけた。

 

「その心は?」

 

「手取り足取り合法的に……うへへ…って何を言わせますの?!」

 

  カチャ…

 

  ニコリ

 

「………」

 

「無言で近づいてトンファーに手をかけないでくださいまし、吉春さん!笑顔にも影がかかっていますわ!」

 

 

 

 慶が格納庫まで戻り、吉春も見回りを再開した。

 一方で梨璃たちは訓練場を訪れている。

 

 

「行くよ、樟美」

 

「はい、天葉姉様」

 

 天井からぶら下がる台の上には、大型のチャームを構える金髪の上級生。その視線の先には白い髪の1年生が、梨璃が持つものと同じ型の黒いチャームを手に立っていた。

 

「は〜…」

 

 2人は息を合わせてターゲットを破壊。梨璃はその様子に見惚れていた。

 と、二水が解説する。

 

「2年生の天野天葉様と1年生の江川樟美さん!あのお2人もシュッツエンゲルなんですよ!」

 

「えっ、もう?!」

 

「中等部時代からの付き合いだそうだ」

 

 二水の隣にいた吉春が補足。

 

「ささ、梨璃さんも……って、なんでまたいますの吉春さん!?」

 

 澄まし顔だった楓が突如表情を変えて彼を指差す。

 

「見回りをしていると言ったろう。それに、今日ここの警備は後輩の担当だ。ついでに覗きに来た」

 

「後輩……ああ、あちらの隊員の方でしょうか?」

 

 楓と吉春の視線の先には、ツナギのような戦闘服を着た少女の隊員が立っている。彼女はチャームと思しき大剣を携えていた。

 

「喧嘩や流血沙汰に対処するのが彼女の役割だ。トンファーバトンでは心許ないので、彼女のようにチャームを扱う隊員が担当する」

 

「……ま、まぁ貴方方のことは気にせずにいきますわ。梨璃さんもご自分のチャームをお抜きになって」

 

「あ、うん。…ええと…ええっと…」

 

「こうですわ」

 

 楓が梨璃に手を添えると、刀身が展開されて片刃の大剣となる。

 

「っ!」

 

「ユグドラシル製の“グングニル”。初心者向けですわね」

 

 そう言って、楓は早速斬撃と銃撃のコンビネーションを披露する。

 

「……ほぅ…」

 

 吉春も興味深そうに彼女の動きを見ていた。

 

「鳥の羽根よりも軽く、蜂の針よりも鋭く、ときに鋼よりも重く、硬く。これがチャームですわ」

 

すると、楓たちにもう1人リリィが近づいて来た。

 

「ふん。グランギニョルらしい外連味じゃな」

 

「「じゃな?」」

 

 特徴的な語尾と共に声の方に振り向くと、巨大な戦鎚型チャームを携えたリリィ……二水が昨日見かけたミリアムが立っていた。彼女の制服は上着が半袖のローブであり、他の皆とはデザインが異なる。

 

「「わぁっ?!」」

 

「自主練か?感心なことじゃ。それにお主は見回りか、吉春」

 

「ああ、そうだ。グロピウス嬢」

 

「セリ共々お疲れ様じゃの」

 

「ミリアムさん、何をしに?」

 

 彼女を笑顔で出迎える楓。

 

「チャームの調整じゃ。寮に入ってからは毎日来ておるぞ」

 

「チャームをいじれるんですか?」

 

 彼女が梨璃の方を向く。

 

「もちろんじゃ。わしは工廠科じゃからな」

 

 二水が興奮を抑えきれずに解説する。

 

「工廠科に属しながらリリィでもあるミ゛リ゛ア゛ム゛・ヒルデガルド・フォン・グロ゛ビヴズざん゛でずよ、梨璃さん!」

 

「わっ!二水ちゃん、鼻血が!」

 

「お主、大丈夫か?」

 

 梨璃とミリアムが心配する横で、吉春は顔色を悪くしていた。

 

「はいっ、ご心配なく!昨日から出っ放しですから!」

 

 慣れた手つきで鼻を押さえて止血する二水。彼女の横で吉春が頭を抱えて項垂れた。

 

 

「二川嬢のコレが普通に思えてきた自分がいる……。俺は怖い…」

 

 

「自己嫌悪できとる内は大丈夫じゃろ…」

 

 そう言いながら、ミリアムは梨璃のチャームを検分していった。

 

 少しして、吉春は後輩…末黒野(すぐろの)セリの方に向かう。といっても、梨璃たちからは数メートルの距離。

 

「やあ、セリ」

 

「どうも。先輩」

 

 墨のような黒髪をボーイッシュなショートカットにした彼女が淡々と挨拶を返す。

 

「何か変わったことはあったか?」

 

「……。血の気の多い方は何人かいましたが、乱闘や流血もなく平和にことを運びました」

 

「それは何よりだ」

 

 

 その頃…。

 

 

「ふむ。マギもまあまあ溜まっておる。なかなか素直なようじゃな」

 

「わかるんですか?」

 

「普段から側に置くことで、チャームは持ち主のマギを覚えるのじゃ。そうやって、チャームはリリィにとって身体の一部となる。騎士団の装備も似たところがあるのう」

 

「へぇー」

 

「私たちにもそんな日が来るんでしょうか…」

 

「ふーむ…。とは言え、百合ヶ丘に入れたということは、お主らにだってきっと何かあるはずじゃ」

 

「だといいんですが…」

 

「楓だってそう思っておるはずじゃがな。お主らに言っていないということは……ふぅん」

 

「?」

 

 ミリアムが間を置き、吉春とセリを一瞬だけ見てから続けた。

 

「自信のない者の方が操りやすいからの」

 

「うぐっ……」

 

 図星を突かれた楓が顔色を変えて一歩下がる。

 それを見逃す黒鉄嵐ではなかった。

 

  シャキッ

  ジャカッ

 

「ヌーベル嬢…」

 

「少々お話……よろしいですか?」

 

「っ?!」

 

 笑顔でトンファーとチャームを構える吉春とセリ。

 恐怖する楓の様子を、二水はメモ帳にしっかり書き込む。

 

「楓さん、意外と悪どい…っと」

 

「ちょっと?!人聞きが悪すぎますわ!」

 

「というか、お主のコラプサーチャームは変わっとるのう、セリ。見たことのない形をしとる」

 

「今はそれどころでは……あら。確かに」

 

 ミリアムと楓は、目の前で構えられている剣をまじまじと見る。

 梨璃にはそれがただの剣型チャームにしか見えない。

 

「コラプサー…?」

 

「要するにチャームを牙刃の騎士団の装備に再利用したものじゃな。詳しくは隊長殿か莱清に聞くとよいのじゃが…」

 

「このチャーム、シューティングモードへの変形機構がありませんわ。何年前の品ですの?」

 

 問われたセリは2人の前でくるくると得物を回す。

 

「……タカアマハラ製、“ハバキリ”のコラプサーチャーム。近接戦専用。40年ほど前…極めて初期の物です」

 

「タカアマハラ……。チャームの黎明期を支えた日本の企業ですわね。かなり前に廃業していて、今や製品が出回ることもないとか。性能は語るまでもありませんわ」

 

「立派な骨董品じゃな…」

 

 二水は再び鼻血を噴き出す。

 

「とんでもないレア物ですね!今どきこんなチャームを使って前線で戦えるなんて、末黒野さん凄いです!!」

 

 その言葉にセリはショックを受けて青ざめる。

 

「…『今どきこんなチャーム』……」

 

「いや、彼女の本領はチャームを使った戦闘ではない。その内見られるだろうが…」

 

「とりあえず、チャームのことをもっと知りたければ工廠科に行ってみればどうじゃ?百由様なら色々教えてくれるじゃろう」

 

 かくして、梨璃、楓、二水、ミリアムの4人は工廠科に向かうことになった。吉春たちは楓を軽く叱っておく。

 

「それでお主はどうするんじゃ?吉春」

 

「工廠科も見回りのルートに入っている。同行させてもらうとしよう」

 

「わしは構わんぞ」

 

「まぁここまでくれば腐れ縁ですわ」

 

「一緒に行きましょう!」

 

「うん!」

 

「ではセリ。ここの警備を引き続き頼む。何かあれば皆に連絡を」

 

「了解しました。皆様もお気をつけて」

 

 胸に手を当てて一礼するセリに見送られ、5人で工廠科を目指して訓練場を後にした。

 

 




 また1エピソード3本立てになりますかね…。

 ラスバレのイベントで、『装甲騎兵ボトムズ』ってアニメを思い出したのは自分だけじゃないと思ってます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。