アサルトファング Bestia Oratorium   作:羽桜千夜丸

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 ようやくアニメ第3話が決着です。



第8話 夜明け

 

 梨璃が夢結の下へ向かっている頃。

 

「ぃやぁああああっ!!」

 

 ヒュージの体の上で、夢結は吉春に斬りかかっていた。

 

 そのマギを、彼のホルスの眼が透視する。

 

(体内のマギの流れを見る。これは予備動作の前の予備動作…。一手先ならこちらが、一瞬速く読める)

 

 

Break a leg…!

 

 吉春が呟いた次の瞬間。

 

 

「……あ?」

 

 夢結の眼前から、彼の姿が消えた。攻撃は空振り。

 彼女が辺りを見回すものの、辺りを囲む炎とチャームが目に映るばかり。

 

「……っ…あっ…!?」

 

 気配を感じて彼女は天を仰ぐ。頭上には彼女を振り払わんとするヒュージの腕と……

 

 そこに刺した槍にぶら下がる吉春がいた。

 

「あぁああっ!!」

 

 夢結は顔に怒りを湛えてジャンプ。同時に吉春は、胴体を曲げてヒュージの腕の先にある指に脚を絡める。

 

 瞬時に槍を抜き、脚でヒュージの腕にぶら下がった正にその時。

 槍が刺さっていた場所に夢結の斬撃が命中し、打ち砕く。

 

『□□□□□!!?』

 

 バラバラと降り注ぐヒュージの腕の破片と共に着地した吉春は、眼前に二振りのチャームを見つけた。片方は深々と刺さり、もう片方は浅く突き立てられている。

 

「よし、次は君を…!」

 

 まず深く刺さっている方に近づき、根本に槍を突き刺して押し下げ、テコの要領で引き上げて抜こうとする。

 が。

 

「あぁぁあああああっ!!」

 

 背後から、落下しながら夢結が斬りかかってくる。

 

「っ!」

 

 吉春は槍の角度を戻し、それに足を掛けて甲羅を蹴り軸回転。またもや夢結のチャームは空を斬り、甲羅に打ちつけられた。

 衝撃は甲羅の一部を砕き、その拍子にチャームが抜ける。もう片方は回転しながら吉春が引き抜いていた。

 

 それを投げて地面に転がし、夢結の攻撃を躱して深く刺さっていた方も拾い、やはり地面へと放る。

 

「うああっ!」

 

 苛立っているのか、槍と共に距離を取る吉春を追い始めた夢結。

 

 

 それは、彼女の記憶の遡行でもあった。

 

 

 

 2年前…忘れもしない、あの月の夜。

 

 

「夢結!!」

 

 背後から名を呼ぶのは、彼女が愛し、愛された姉。

 

「え?!」

 

 彼女は振り向いた。ヒュージの不意打ちが迫っていたことにも気付かぬままに。

 

 

  ドズ……

 

  ジャラララ……

 

 

「……え?」

 

 彼女は状況がわからなかった。理解したくなかった。

 

 愛する姉が

 

 

 ヒュージの、鎖状の触手に貫かれ

 

 

 空中に磔にされている。

 

 

「……お姉様……お姉様……?」

 

 

 返答などない。力のなくなった手から溢れ落ちたチャームが地面に刺さり、否応なく現実を見せつける。

 

「……っ!?」

 

 真っ先に彼女の胸に沸いた感情……それは。

 

 

「…よ……よくも…お姉様…をっ!!」

 

 

 怒りと憎しみだけ。彼女の瞳に真紅が灯る。

 

 

 

 

「はあ…っ…はあっ……ぅあああああっ!!」

 

 記憶と共にトレスされる感情。それに任せて夢結は武器を振るう。相手は刺さったチャームを抜き取りながら、彼女の攻撃を躱し続ける騎士。

 

「いいぞ白井嬢!ぶち撒けろ!!君が独りで抱え込んできた思いを!感情を!全て曝け出せ!!」

 

 騎士…吉春のホルスの眼。死角なくマギを可視化するスキルには、新たなリリィの接近が見えていた。

 

「それでいい!大丈夫だ!何故なら!」

 

 大きく振りかぶった一撃が回避され、勢い余って真後ろを向く夢結。その視線の先に。

 

 

「君はもう……独りではない!!」

 

 

「夢結様ぁぁあああああああああ!!」

 

 

 真っ直ぐに飛び込んでくる、梨璃の姿があった。

 

「っ!」

 

 夢結は得物を振り上げ、梨璃の手にあるチャームに叩きつける。

 

「やぁああああああっ!!」

 

 

  ギィンッ!!

 

 チャームの…マギの衝突。叩きつけられた部分から、青い閃光が放たれる。

 

「す、すみません……?!」

 

 咄嗟に謝る梨璃の耳に、微かに、しかし確かな夢結の声が聞こえた。

 

 

『見ないで……』

 

 

「……!」

 

「!」

 

 この隙にチャームを抜く作業を進める吉春の目…ホルスの眼が興味深い事象を捉えた。

 

(今…あの2人のチャームに入ったマギが結合した…?これは……)

 

 だが、それは一瞬のこと。そのまま夢結が梨璃を振り払って投げ出す。

 

「あぁっ?!」

 

 海の方向へ飛ばされる梨璃。しかし。

 

(頼むぞ……吉村嬢!)

 

 

 

 次の瞬間、彼女は梅の手によって陸の廃墟の上に運ばれ、楓の胸に落下していた。

 

「梨璃さん!何なさいますの?!」

 

「バカかお前は!?」

 

 楓に次いで、梅が叱責する。

 彼女たちだけでなく、紀行や百由、ミリアムも近づいて来ていた。

 

「……私…今、夢結様を感じました……」

 

「何を仰いますの?!」

 

 

「マギだわ……。チャームを通じて、梨璃さんのマギと夢結のマギが触れ合って…」

 

 百由の見解に、楓が首を傾げる。

 

「そんなチャームの使い方、聞いたことありませんわ」

 

「じゃがあり得るのぅ……」

 

 ミリアムの隣から、紀行が言葉をかける。

 

「一柳嬢。吉春は奴に囚われていたチャームを全て回収する。…が、後は君に任せていいのか?」

 

 しゃがんでいた梨璃が立ち上がり、皆の方を向く。

 

「……私、前に夢結様に助けてもらったことがあるんです…!今度は、私が夢結様を助けなくちゃ!」

 

 そう言うが早いか、彼女は再びヒュージに向かって飛び出した。ミリアムが叫ぶ。

 

「正気かお主?!」

 

「後でお背中流させていただきますわよ!!」

 

「しょうがないナ…」

 

 すると、楓、梅が彼女の後を追い始める。他にも見ていたリリィが何人か続く。

 

「私もチャーム持ってくればよかったかな?」

 

「うぅぅ〜…わしも行けばいいんじゃろがぁっ!」

 

 ヤケになったミリアムも飛び出した。紀行は百由の隣に立つ。

 

「どうせなら近くで見たいだろう?チャームの代わりに、俺を使っていいぞ。真島嬢」

 

「ふ〜ん?いいのかなぁ、彼女がいるのに私にそんなカッコつけて?」

 

「嫉妬されるか絞られるか…。どっちでもいいな」

 

 大剣を抜いた背中に百由が掴まったことを確かめ、紀行は中世ヨーロッパの騎士甲冑風のヘルメットからフェイスガードを下ろす。

 視覚センサーが放つ黄色の光により、彼の姿はロボットさながらになった。

 

 

 

 ヒュージも負けじとミサイルを放って、近寄ってくるリリィたちを迎撃する。が、彼女たちは次々とミサイルを撃ち落とし、梨璃が通る道を切り開いていた。

 

 ミサイルの一群がミリアムに迫るが、彼女は気づいていない。

 

「頭を低く、真島嬢」

 

「はいはーい」

 

 ミリアムの様子を見た紀行は、隣にいた百由をしゃがませる。

 

 続いて、彼の手にある大剣の刃がスライドして開き、柄に近い部分からもう一本の柄が出現。

 

 それを掴んで引き抜くと、両刃の短剣が現れる。負のマギで赤熱化したそれを振りかぶり、ミリアムの方へ投擲。

 

「?!」

 

 彼女に迫っていたミサイルの、先頭の一つに突き刺さり爆発。残りも全て誘爆させた。

 驚愕するミリアムに、紀行はフェイスガードを開けてウィンクする。

 

 

 

 気づけば、ヒュージの甲羅の上は片付いてきていた。囚われのチャームは残り2つ。どさくさに紛れて、ヒュージは両腕とも落とされていた。

 

 吉春が甲羅の縁の部分に刺さったチャームを抜く、その背後に夢結が迫る。

 

「ああぁああああっ!!」

 

「っ!」

 

 振り向いた彼に後ろはない。吉春はチャームを後方へ投げ飛ばし、斜め前に側転して攻撃を躱す。

 

「あっ…」

 

 彼は自分が投げたチャームが向かった先を見た。それは見事な放物軌道を描き……

 

  ザブン

 

 海に落ちる。

 

「……済まない…」

 

「うぅ!!」

 

「っ?!」

 

 その一瞬を夢結は逃さなかった。大上段から思い切りチャームを打ち込む。

 

  ガギィィィン!!

 

「うううううぅぅぅ…っ!!」

 

「ぐ……ぬおおおお……っ」

 

 吉春はどうにか槍を横にして受け止めていた。しかし槍はギチギチと軋み、押さえ込む力を強める夢結によって曲げられ始める。

 

 その時。

 上空から降ってくる声があった。

 

 

「夢結様っ!!私に、身嗜みはいつもきちんとしときなさいって、言ってたじゃないですか!!」

 

「うぅ……」

 

「!」

 

 僅かな反応。それを見逃さなかった吉春は……

 

 フェイスガードの下でニッと笑った。

 

「ッイャ!!」

 

  ギャリギャリッ!

 

 吉春は槍を傾けて夢結の斬撃を足下へ流す。そしてチャームが向いた刃の先には……。

 

 

「夢結様!!私を見てください!!」

 

「やあああああっ!?」

 

 梨璃が飛びついてくる。彼女は咄嗟に武器を持ち上げて迎え打とうとした。

 

「!」

 

 梨璃はチャームの刃を傾け、夢結のチャームに擦るように当てる。

 なるべく長く、たくさん、彼女と触れ合うために。

 

 再び放たれる青い閃光。しかし、先程とは大きく違う。

 マギがぶつかり、調和し、結合。一点に集中したマギは球体状の塊となる。

 

 

「あれは……」

 

「マギスフィアですわ……!」

 

 ミリアムと楓が呟いた。

 

 光に包まれる中、夢結の意思がチャームを伝って梨璃へと流れる。

 

『……がっかりしたでしょう…梨璃…。これが私よ……。憎しみに飲まれた、醜く浅ましいただのバケモノッ……!』

 

「それでも、夢結様が私のお姉様です!!」

 

「……!」

 

 梨璃はチャームを手放し、両腕を広げて夢結を抱きしめた。二つの剣は繋がったまま宙に浮く。

 

 

「夢結様!!」

 

 

 冷たい月夜が明けた。温もりが夢結を包み、狂気から解放していく。座り込んで抱きしめ返した。

 

 

「梨璃……!!」

 

 

 妹の名を呼ぶ彼女の瞳は、水晶のような紫になって元通りに。長い髪も黒へと戻っている。

 

 2人の横に吉春が立ち、囚われていた最後のチャームを引き抜いた。それは盾の形をしている。

 夢結は彼を見上げた。

 

「……迷惑をかけたわね…」

 

「ああ、全くだ」

 

 フェイスガードを開け、涼しい顔で続ける吉春。

 

「偶にはあれくらい素直になってもいいだろうに、普段の君ときたら……」

 

「なっ……!?」

 

「ふふ…」

 

「梨璃?!」

 

 予想外の返答と、梨璃が微笑んだことに戸惑う。

 

「…さて、俺はこのヒュージを一撃で破壊できる場所に印を付けるから、君たちはそこに叩き込んでくれ」

 

 弱点は既に探索済みなのだ。

 マギスフィアを指差して説明する彼は盾のチャームを放り上げる。それはスフィアから漏れるマギの流れに反応し、クリスタルコアを輝かせながら上昇して行った。

 

 まるで、風に乗って天に舞う花弁。梨璃と夢結が見上げる。

 

「……貴方はどうするのかしら?爆発したら、海まで吹き飛ぶわよ」

 

 吉春の答えは単純だった。

 

「ああ、だからいいんだ」

 

「……。チャームを取りなさい。跳ぶわよ、梨璃」

 

「え…でも吉春さんは……」

 

「彼なら大丈夫。行きましょう」

 

「…!はい、お姉様!」

 

 マギで繋がれたチャームを頭上に掲げ、抱き合ったままジャンプした2人が舞い上がる。彼女たちはマギの流れに身を任せていた。

 

 2人を見送った吉春は槍の刃を赤熱化させて走り、弱点の真上に当たる甲羅に十字の切り込みを入れた。

 

 

「さて……」

 

 背後の海原に振り返る。

 その波の上には一筋の航跡と、それを引いている、白く光沢のあるサメのヒレらしき物があった。

 

「よし……フィナーレだ」

 

 そう呟く頭上からは、リリィ2人の気合いの掛け声が。

 

「「はぁああああああああああああっ!!」」

 

「………」

 

 恭しく礼をする吉春の前に着弾するマギスフィア。

 閃光と共に、ヒュージの体が割れ砕ける。

 

 

「やったな……夢結……」

 

 皆が目を見張る中、梅は微笑んでこの場を後にした。

 

 

 

 

「ソメイヨシノが花を咲かせるには、冬の寒さが必要なの」

 

 夕方。

 旧市街とその向こうにある学院を見渡す山の頂に、夢結と梨璃は訪れていた。

 

 周りには、同じ形をした墓碑が整然と並ぶ。名前のみが記され、百合の花が掘り込まれた簡素な墓石。

 

 ここは、ヒュージとの戦いで命を果たしたリリィたちが永遠の眠りに就いている場所だ。

 

 風が吹き、花弁が舞い散る中で夢結が続ける。

 

「昔は春の訪れと共に咲いて、季節の変わり目を告げたというけれど…冬と春の境目が曖昧になった今は、いつ咲いたらいいか戸惑っているようね」

 

「……?」

 

 夢結は首の下を探り、ペンダントを取り出した。そこに収められた写真を、梨璃も見つめる。

 

「この方が…夢結様の守護天使(シュッツエンゲル)……」

 

 そう呟いた彼女は、眼前の墓碑に刻まれた名前を読む。

 

「そう……私の、お姉様…」

 

川添(かわぞえ)……美鈴(みすず)様…」

 

 

  ザリ……

 

 2人の後ろで足音が鳴る。紀行と片子が小さな花束を手に来ていた。

 

「……隊長さんに…片子さんも…」

 

 梨璃が呟くと、片子が美鈴の墓石に優しく触れる。

 

「まあ…ささやかなお祝いさ。あんたのシルトが、立派なシュッツエンゲルになったよ…ってねぇ……」

 

「君たちはいたいだけいてくれ。俺たちの献花は後でいい……」

 

「……」

 

 夢結は何か決意した顔で黒鉄嵐の2人に向き直った。

 

「今までのことを……謝罪させて欲しいわ。私は…貴方たちを…一方的に……」

 

「ふ…」

 

 俯く彼女の頭に、微笑んだ片子が手を置いて優しく撫でる。

 

「いいんだよ…今までのことはさ。またいつでもおいで。あたしたちは必ず待ってるからね……」

 

 4人の後ろ…墓地の入り口には、楓、二水、梅も来ており、梨璃たちの様子を見守っていた。

 そこに吉春が合流する。

 

「おや…案外、大勢来ているな」

 

「おっ、吉春!」

 

「よくご無事でしたわね」

 

「どうやったんですか?」

 

「サーカスの定番、大脱出だ。タネは明かせない」

 

 彼もまた、梨璃たちを見つめた。

 

「…これでまた、白井嬢と俺たちの関係が修復できればいいが……」

 

「ま、それはこれからの話ですわ。心配しても仕方のない話です」

 

「……。それもそうだな」

 

 

 皆の頭上を、桜の花弁が舞って行く。

 

 

 

 夜。

 夢結は暗い部屋の窓から今日も景色を眺めていた。

 その宵闇に、あの日の記憶が重なる。

 

 

 

「夢結!!」

 

「っ!?」

 

 怒りと憎しみの渦から抜け出し、最初に見たものは……。

 

 彼女を抱きしめる美鈴だった。だが。

 

「全く……危なっかしいな……夢結は…」

 

「お姉様……!」

 

 美鈴の体を、自らの手にある刃が深々と抉っている様もまた、彼女ははっきりと認めたのだ。

 

「やり過ぎないで……その力は、夢結自身も壊してしまうから……」

 

「あ……あぁ……」

 

「気にしないで、夢結…。これが、僕と君の…運命だから……」

 

「あ……っ!お姉…様……!」

 

 夢結は悟った。もう、美鈴は助からないと。

 美鈴は傷口からチャームを抜き、マギを込める。クリスタルコアには彼女のルーンが浮かび上った。

 

「このチャーム……僕が預かるよ……」

 

 彼女はふらつきながら、虫の息になっているヒュージへと歩みを進める。

 

「あっ……ああ………」

 

 足が動かない。彼女の手は…愛する姉の血で、べっとりと濡れていた。

 

 

 それからどれくらい経ったのだろう。

 美鈴の面影を求めてふらりと訪れた高等部で、とあるリリィたちの会話を耳にした。

 

「……お別れの挨拶、できた?」

 

「はい…お姉様…。でも…やっぱり……」

 

「うん、寂しくなるわよね…。仲のよかった黒鉄嵐の皆が、ここを離れてばらばらになるの……」

 

 

「あ…」

 

 夢結が黒鉄嵐と交わした最後の会話は…

 

『貴方たちならお姉様を救えたのに!!貴方たちのせいよ…!黒鉄嵐のせいで!お姉様は!!』

 

 病棟のベッドに拘束され、事情聴取に来たメンバーを追い返したとき。

 

 結局、親しかったメンバーと別れの挨拶もできぬまま……。

 黒鉄嵐は再編成されたのだ。

 

 

 

「……ふ…」

 

 彼女は小さく息を吐き、今日の出来事を思い返した。

 

 真っ直ぐ彼女と向き合い、決して責めなかった騎士……吉春の涼しい顔が浮かぶ。

 

「……。もう一度、やり直せるかしら…私は……」

 

 と。

 

  パチッ

 

「!」

 

 部屋に電灯が灯る。

 

「ただいま〜」

 

 灯を点けたのは、彼女のルームメイト、(はた)(まつり)。短いグレーの髪と、赤紫の瞳が特徴的だ。

 

「また明かりも点けないで。目、悪くなっちゃうわよ」

 

 彼女は夢結の後ろから労いの言葉をかける。

 

「今日は出動だったんですってね。お疲れさま」

 

「ありがとう、祀さん。ええ…上手くやれたと思うわ」

 

「………!?」

 

 この素直な反応は、祀が予想していたものとは全く別であった。彼女はしばしぽかんとする。

 

「今、ありがとうって言った…?」

 

 嬉しくなり、笑顔を浮かべて夢結に近づいた。

 

「あはっ。もう一度言って?」

 

「……何で…?」

 

「だって。こんなに素直な夢結さんなんていつ以来?」

 

「……そんな…いつも通りでしょ…」

 

 言いながらも、夢結は少し頬を染めてはにかんでいた。

 

 

 

 

 翌朝。

 

  ザパーーン……

 

「ない…!ない……!!どこに行ったんだ…?!」

 

 昨日、ヒュージが爆裂した場所のすぐ近く。浜はなく、崩れた道路の先がいきなり海になっている波打ち際に、慌てながらうろつく吉春の姿があった。

 

「どこかに流れて行ってしまったのか……!?俺が……うっかり投げ込んだあのチャーム!!」

 

 ズボンの裾とシャツの袖を捲り、靴下と靴、ジャケットを脱ぎ散らかして遠浅の海中を弄るものの、それらしい感触に一向に出会えない。

 

「こんな時、海の女神が現れて……『貴方が落としたのはこの古いチャームですか?それともこの最新のチャームですか?』……などと問いかけてくれたらいいんだがなぁ…」

 

 現実逃避するほど弱気になっていると、背後から……

 

 

「見つけましたー!吉春さーーーん!ご機嫌よーーーう!!」

 

「げぇっ?!二川嬢!」

 

 

 海の神ではなく、二水が現れたのである。

 

(何かまずい…!この状況を彼女に見られたのは……とんでもなくまずいぞ……!)

 

 打開策を考えている間に、彼女はスタスタと近寄ってくる。

 

「昨日のチャーム、まだ全部回収できてなかったんですね?」

 

「うぐっ?!い、いやぁ…その…」

 

「それはそうと、これ!見てください!」

 

「ぬぅ?!」

 

 二水が懐から取り出したのはリリィ新聞号外。

 そこには……

 

『奇跡の大脱出!そのトリックは非公開?!』

 

 と大書され、吉春が爆発から無事に帰ったことを大々的に報じる記事があった。

 

「どうですか?今までで一番いい出来だと思います!」

 

「そ…そうだな…。い、いいんじゃないか……?」

 

「……。吉春さん、ひょっとして何か隠してませんか?」

 

「ぎっ?!ま、まさか…。それよりほら、君も用事があるだろう?ほら、早く…」

 

 だが、無慈悲な瞬間は唐突に訪れる。

 

  ザパーーン……

 

 波が打ちつけた……その時。

 

  バシャアアアアアッ……

 

 その波に乗って、人魚が海面から躍り出る。下半身がサメで、右手首から先が剣になっている人魚だ。

 首には防水加工された通信機をかけ、左手に古びたチャームを握っている。そして、金属のような体の光沢は……。

 

「!!!」

 

「ヒュージ…?!」

 

 吉春が驚愕し、二水が警戒する横に、黄色い目の人魚型ヒュージが着地した。

 ヒュージは手にしたチャームを彼に差し出す。

 

『はい、先輩。拾ってきましたよ』

 

「あ……ぁあ…ありがとう…」

 

 ぎこちない動きでチャームを受け取る吉春の後ろでは、二水があることに気づいていた。

 

「その声……もしかして海中偵察班の末黒野(すぐろの)セリさん?!」

 

『?…はい、二水お嬢様』

 

 サメ人魚は頷き、全身に血色の稲妻を瞬かせるや否や人…セリの姿へと戻った。右手には剣型のコラプサーチャームを持っている。

 

「どうかされましたか?」

 

「いえ…末黒野さん、EXスキルが『アポフィスの(うろこ)』でしたよね。ヒュージに変身する…。私、生で見たのが初めてで……」

 

 説明する二水は視界の端で、頭を抱えている吉春を捉える。彼女はメモ帳とペンを取り出した。

 

「……あの、もしかして昨日、海まで吹き飛んだ吉春さんを助けたのは…」

 

 

「はい、私ですが?」

 

 

 呆気なく答えるセリ。吉春はついにうずくまってしまった。

 対照的に、二水は顔を輝かせる。

 

「謎が全て解けました!!」

 

 言うや否や走り出す彼女。彼女もリリィである故に、足はそこそこ速いのだ。あっと言う間に追いつけなくなる。

 

「待て!二川嬢!二川嬢!!」

 

  ザパーーン……

 

 吉春の叫びは、虚しく波に掻き消された。

 

 

 翌日のリリィ新聞号外で、彼は無駄な恥をかくこととなる……。

 

 




 この話は難しかった……。

 ところで、皆さんは『機動戦士ガンダム00』という作品をご存知でしょうか。10年以上前にテレビ放送されていたSFロボットアニメーションなのですが、この『アサルトリリィ』にとてもよく似た設定が複数存在し、多くの類似点が見られます。気になった方は調べてみてください。少し調べるだけで、引っかかる情報に出くわすと思います。
 そして、これが偶然でなく、ストーリーのゴールも似ているものになる運命ならば、ヒュージとの戦いの最終的な目標は、「全人類にラプラスを覚醒させ変革をもたらし、人間をより高度な生命体に進化させること」だと、私は考えています。
 勝手な推測でしかないですし、外れる可能性のほうが大きいとは思いますが……。一つの考察として、受け取っていただけるとうれしいです。



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