IS学園記   作:debac

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『自分自身を信じてみるだけでいい。

きっと、生きる道が見えてくる』

(ゲーテ)





第一話 この学園に来たのもなにかの縁よ。

 

 更識簪は、教室に入り自分の席に座って数分後、周辺からの奇異なものを見る視線に困惑していた。

 正確には、その視線の向く先、自分の席のすぐ隣に座る人物に困惑していた。

 この場所には本来いないはずの男子生徒がそこにはいた。当たり前といえば当たり前なのだが、肩幅は広く周りの女子生徒よりも二周り以上も体が大きい。手元を見ると、一昔前の電話帳と見紛う分厚さの本、ISの操作マニュアルのページを捲っている。もう少し視線をあげれば表情を伺えるのだが、そうすると周りと同じ事をしてしまう気恥ずかしさで出来ずにいた。

 ここはIS学園。インフィニット・ストラトスと呼ばれる文字通り世界を激変させたマルチフォーム・スーツについて専門的に学ぶ施設。

 隣の人物が本来いないはず、としたのはこのISが女性にしか適合しないものでありそれ故この学園は事実上女子校になっていた事にある。

 実際、簪もこの瞬間までその認識でいた人物の一人であった。

 

「(声かけたほうが良いのかな)」

 

 そんな事を考えて、すぐに頭の中から追い出した。視線の雰囲気が変わった事を感じ取ったからだ。

 何か会話のきっかけをはじめろ。そう言わんばかりの痛い視線。結局、HRが始まるまで、簪は窓の外の風景に視線を投げるしかなかった。

 

 

 

※      ※      ※

 

 

 

 チャイムが鳴って、HRが始まった。簪のいるクラス、1年4組の担任である川村律が予定どおり生徒の出席確認とそれにあわせた自己紹介を始めさせた。

 一人目からはじまって、素っ気ない自己紹介が終わるや否や着席していく。その理由は、もうまもなくやってくる彼の番がまちきれない事はすぐに分かった。

 簪はちらりと川村先生の方へと視線を向ける。わずかに下がったメガネをあげ、肩まで伸びた髪を後に回す。緊張しているように見えた。通常の学園とは事情が違う中に放り込まれた男子生徒がいるのだ。いくら先生という立場の彼女でも、当然の反応なのだろう。

 そうしてやってくる彼の番。川村が彼の名前を呼び上げると、すくっと立ち上がる。背筋がしっかりと伸びているおかげで、座っていた時よりもさらに一回り背格好が大きく見える。

 ここにきて、ようやく簪は彼の表情を伺う事が出来た。刈り上げられた茶混じりの短髪に精悍な顔つき。目元が僅かに深いという事以外はごく普通な日本の男子という雰囲気だ。

 彼は、ぐるりと教室を一瞥する。皆が皆、次に何を言うのか期待しているのが簪にもわかった。

 だが、彼が言葉を発し始めた瞬間、その雰囲気は一変する。

 

「名前は後堂雅美、『ごどう まさみ』と言うわ。ちょっと読みづらいかしら。たまに『まさよし』なんて呼ばれるわね。この学園に来たのもなにかの縁よ。急な話で、ISについては素人同然だけど宜しくね」

 

 声色は男子のそれ、しかし、口調は女子のそれだった。

 担任である川村でさえ、あっけに取られるが後堂は全く気にする様子もなく最後に「この口調は癖みたいなもの」と締めて着席する。

 しん、と教室内が静寂と動揺に包まれた。

 

 

 

 

 

 ―これが、簪と彼との出会い。

 

 『ISによって破壊しつくされかけた』少年との出会い。

 出会った場所はここ、IS学園。

 日本に設立された、IS操縦者を育成する為の特殊国立高等学校。

 十年前に登場した、宇宙環境下での活動を目的としたマルチフォームスーツ、インフィニット・ストラトスの登場は世界を革命させた。

 それは、かつて世界で初めて汽車が走った時と同じように、或いは飛行機が空を飛んだ時のように、もっと古いもので言えば活版印刷が誕生した時のように。

 

 しかし、いつの時代もそうであるように革命に乗る事が出来た者もいれば、逆に取り残されてしまう者もいる。

 

 更識簪は、ふと考える。

 この時、彼に唯一残っていた「それ」は何だったのか、と。

 ある人は、「それ」は「意地」だと言う。

 別の人にとって、「それ」は「希望」だと言う。

 また別の人の見立てでは「諦め」だとも言う。

 

 だが、更識簪にしてみれば、「それ」は「呪縛」だと考えた。

 

 これはそんな彼と、そして彼と同じように『ISによって破壊しつくされかけた』者たちが唯一残っていた「それ」を手に、運命の中からもう一度這い上がる物語だ。

 

 

 

 

 

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