安斎千代美の幼馴染がドゥーチェとしてのアンチョビを知らない概念(仮題)   作:ガーリック&バジル

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「そんなにパソコンと睨めっこして、何してるんスか?」

「ああ。お前たち履修希望者が二人も来たことだし、ここらで私専用というか、指揮官用のパンツァージャケットでも作ろうかと思ってな」

「おー! いいっスねぇ! 今までは大会に出られないからって体操服で戦車乗ってましたもんね」

「でもなぁ……大口で注文するならともかく、一着限りのオーダーメイドとなるとどうしてもお金がな……」

「これ以上のおやつ貯金は反対ッスよ!?」

「分かってる分かってる。全く、そこまで厳しいこと言ってるかなぁ……?」


「あら? 何をしてらっしゃるんですか?」

「おお、カルパッチョか。実は新しいパンツァージャケットを作ろうと思ってるんだが、中々予算が厳しくてな」

「なるほど、そういう事ならこれはどうですか?」

「何々? えっ!? オーダーメイドでこんなに安いのか! ふむふむ……なるほど、服飾科の学生が実習の単位と実績作りと小遣い稼ぎのために学校が仕事を斡旋してるのか」

「ほら、ここで学生が授業で作った作品の写真と教師の評価がレビューとして見られますよ」

「おー! 良いじゃないか! ……よし! 私が一番ビビッと来たこの人に依頼を出してみよう!」




ご注文はパンツァージャケットですか?

 自分の夢への第一歩としての高校進学。そこで1年間ガッツリ勉強した俺はなんとか基本の『きほ』ぐらいはマスターすること……出来てたら良いなぁと思っている。

 そんな濃い1年間はあっという間に過ぎ、季節は高校生活2度目の夏を迎えた。今年からは実践実習の一環としてプロの一人として自身の作品を世に出す事になると思うと流石に緊張してしまう。

 

 この学校では2年生になったら学校が運営する服飾制作依頼サイトに自分の名前(デザイナーとしての偽名も可)を登録できるようになる。そこに自身がこれまで制作してきたサンプルの写真を掲載し、自身が設定した金額で製作の依頼を受け付けることが出来るのだ。また、学校の課題で製作した物に関しては教師の評価とコメントが書かれており、全ての生徒にレビューが付いているという状態になっていたりする。

 ここで依頼を受けることが出来れば実習科目の単位を代替することが出来るという制度があり、腕自慢達はこの制度を使って必要単位を稼ぐことも珍しくないという。

 また、材料費に関しては学校が格安で融通してくれるという事もあり、依頼主も安く依頼出来てwin-winと言う訳だ。

 まあ、学校側としても生徒たちが勝手に学校の宣伝をしてくれるという目論見が有ったり無かったりするのだろう。

 

 そんなプロとしての初の仕事が来るかもしれないと緊張しているのは幸い俺だけでなく、周囲の人間も同じように思っているらしい。

 

「なあ、制作依頼来たか?」

「いや、残念ながら未だ来ず、だな」

「だよな~良かったー」

 

 昼休みの時間に俺は友人と件の実践実習についての話題を肴に昼飯を食べている。もう何度繰り返した話題かは忘れたが、未だにこの話題で盛り上がることが出来るくらいには俺達の中で製作依頼の有無と言うのは関心ごとだった。

 

「聞いたか? A組でもう7件も依頼をこなした奴が居るらしいぜ」

「ああ、あいつだろ? 先生たちの評価もすこぶるいいしな。ていうか、つい5日前は6件って話だったが、また依頼が来たのか。すげぇな」

「ほんとになぁ」

 

 同期で一番の成績優秀者は流石と言うか、その実力は校外でもしっかりと通用しているらしい。

 専門学校の生徒として勉強をし始めてまだ1年しか経っていない俺が才能の有無を語るのは烏滸がましいのだろうが、そいつの造る作品は確かに凄い。縫製の技術はもちろんの事、デザインのセンスは抜群だし、すでに商品としてのコストを意識した物作りをしているという話だ。

 素直に凄いと思う。

 

「ん?」

 

 そんな時、ズボンのポケットに入れたケータイが震えているのに気が付いた。

 手に持っていた箸を置き、代わりにケータイを取り出して通知の正体を確かめることにした。

 

「おお!」

「どしたん?」

「製作依頼来た」

「まじか」

 

 ケータイに届いたのは俺に服の製作を依頼するメールだった。

 

「おいおいまじかよー! 俺を置いて行かないでくれよー」

「はっはっは、スマンが俺は一歩先に進ませてもらうぜ」

「で、いったい誰からの依頼なんだ?」

「んーと、お! アンツィオ高校の戦車道チームだ」

「あー。お前のミリタリー系の作品、評価良かったからな」

 

 学校ではそこそこ優秀だけど特別優れているという程でもないという評価に落ち着いてしまっている俺であるが、過去に作った軍服を軽く模して作った服は教師陣からかなり良い評価を貰う事が出来ていた。当然、そんなよくできた作品はサンプル作品として掲示していたので、それを見て依頼に踏み切ったのだろう。

 

「あれ? アンツィオの戦車道チームってもう無くなったんじゃなかったっけ?」

 

 と、友人はとんでもない事を言い始めた。

 

「何を言う! アンツィオには俺の幼馴染が戦車道チーム復興のためにスカウトされて行ってるんだぜ! 今やアンツィオの戦車道履修者は滅茶苦茶増えてるはずさ! ……まあ、そんな話は聞いてないけど」

「聞いてないのかよ。ん? となると、幼馴染のよしみでお前に製作依頼出したんじゃないのか?」

「いや、俺は本名で登録してないからそれは無いと思う。ふふ、採寸のために現地に行ったらクソ程驚くんじゃないかな」

「ほー、そんなら実力を評価されたって訳だ」

 

 唐突に来た幼馴染が所属するチームからの依頼。

 初めての仕事が知人が居る所からと言う事で過度に緊張しなくて済みそうだ。もちろん、知人だからと言って手を抜くつもりはないがな! 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 学校に公認欠席の届を出してやって来ましたアンツィオ高校。

 

 アンツィオ高校は、栃木県に所在する高等学校だ。しかし、栃木県は海無し県であるため、静岡県の清水港を母港としている。そのため静岡県、愛知県出身の生徒も結構居たりする。

 

 学生たちは、後先考えずにノリと勢いで陽気に目前の人生を謳歌する傾向にあり、入学時は真面目でも、いつのまにやらアンツィオの空気に染まってしまう恐怖の伝染性を秘めている。

 食事と宴会に全力を尽くすイタリア人気質でもあり、食事の質は極めて高い。

 そんな学校のため、中学生が選ぶ進学したい高校ランキング1位を獲得したとかなんとか。

 

 と、つらつらとアンツィオ高校の事を考えていても仕方がない。俺にはやらなければならない仕事があるんだからな。

 

「すいません、戦車道チームのアンチョビさんってどちらにいらっしゃいますか?」

「み゜」

 

 学園艦に乗り込んだ俺は、出迎えてくれる予定になっている学生さん探すために一番に目に入った学生さんに声を掛けることにした。声を掛けたら筆舌に尽くしがたい声を上げられたが、なんだったんだろうか。

 

「わ……たしが、アンチョビ、だ」

 

 途切れ途切れの名乗りになってしまっているが、どうやら彼女が俺の探し人のアンチョビさんだったらしい。

 さっきの事を踏まえて考えると初対面の人には緊張するタイプなのだろうか? 

 

「はじめまして、生地(おいじ)波理人(はりと)です。この度はよろしくお願いします」

 

 ちなみにこれは偽名。偽名と言うと言い方が悪いが、これは製作者としてのペンネームいや、ソウルネームだ。由来は『布と針と糸』だったりするのだが、まあ関係のない話だね。

 

「ん……? あれ……? 気づいてない?」

「はい?」

「んん゛! いや、何でもないぞ! ようこそアンツィオ高校へ!」

 

 

 

 しばらくしたらアンチョビさんのエンジンがかかって来たのか、想像していたようなアンツィオ生のように明るく陽気な調子で話が進んで行った。

 

「なるほど。費用は出来るだけ抑えながら、頑丈に、ですか」

「その……難しそうか?」

 

 不安気に聞いてくるアンチョビさん。だが、これくらい何の問題にもならないだろう。

 

「多少デザインは地味になりますが、使う布の種類を減らせば費用は抑えられますよ。戦車道で使う事を考えればデザイン性よりも実用性を重視すべきでしょうし……えーっと」

 

 俺はカバンに入れていたスケッチブックを取り出して構想を彼女に伝えるためにパンツァージャケットの草案として三面図を手早く描いていく。ちなみに、アンチョビさんには服を着た時のイメージが湧きやすいように着用者として彼女を使わせてもらった。

 

「こんな感じでどうでしょうか」

 

 俺が考えた一案として示したのはイタリア軍の旧軍服を女性用にアレンジしたものだ。そもそも軍服と言うのは実用性とコスパを突き詰めた一つの極致であるし、要望に応えるとしたら間違いのない選択肢だろう。

 

「え! 上手いな! それにこれ私か!」

「この方が完成品のイメージがしやすいと思いまして」

「ほえ~」

 

 俺が手渡したスケッチブックを穴が開くほど見つめているアンチョビさんを見ていると、なんだかおかしく感じてしまった。そういえば、千代美ちゃんに初めて似顔絵を描いて上げた時も似た様な反応をしていたな、と思わず昔の事を思い出してしまった。

 

「いいじゃないか! 私は気に入ったぞ!」

「そう言って頂けて良かったです」

 

 どうやら俺の提案は悪くなかったようだ。

 後はこれを清書して細かい調整をしていけばOKだろう。

 

 

 

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