安斎千代美の幼馴染がドゥーチェとしてのアンチョビを知らない概念(仮題) 作:ガーリック&バジル
「あー、慌てて出て来たからエプロン持って行くの忘れてたー……って、姐さんは何をそんなに焦ってるんッスか?」
「あとはあとは……はっ!帽子だ、帽子!」
「わー、姐さんコンタクト外すと目付き変わるッスねぇ……って、姐さん!それはウチのコック帽ッスよ!」
結論から言うと、アンチョビさんの依頼の品は完成したら千代美ちゃんに渡すことになった。完成は夏休み頃になるだろうし、彼女が帰省した時についでに渡しておけばオッケーだ。
あの後、折角だから千代美ちゃんに会っていこうと思った俺はアンチョビさんに彼女の居場所を聞こうと思ったのだが、ちょうど先生から頼まれごとを受けて今は席を外しているらしい。
もう少ししたら戻って来るだろうからそれまで校内にある出店を回ってみたらどうかと提案を貰ったところである。
「千代美ちゃんが戻ったらアンチョビさんから俺が来ている事を伝えてくれると言っていたし、適当にぶらついてみようかな」
そう思ったらなんだか……腹が、空いたな……。
アンツィオ高校全体からほんのりと漂ってくるチーズとオリーブオイルの香りが俺のすきっ腹を刺激する。
ここでは放課後になると学生たちが各々のクラブや部活の資金集めのために沢山の出店屋台が出されている。さながら毎日が文化祭のようなこの光景は初めて見る者にとっては非常に現実離れした空間だろう。
かくいう俺もアンツィオ高校に来るのは初めてであるため、所狭しと広げられた出店と学生の呼び込みの声には圧倒されてしまった。
やはりここは無難にスパゲッティーか、いやピザも捨てがたい。いやいやいや、折角イタリア風の学校に来たのだから普段食べないようなイタリア料理が良いだろうか?
「おーい!
ゴローちゃんみたいな顔になりながら何を食おうか考えていたら俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。
俺の別名義ではなく、俺自身の名前を知っているものはこの学校では一人しかいない。
「久しぶり、千代美ちゃん」
幼馴染の安斎千代美である。
アンツィオ高校の制服に身を包み、ベレー帽を乗せた姿は入学直前に見せてくれた格好だ。
1年前はまだ髪を伸ばしておらず、ショートヘアーだったが、今は髪を長く伸ばしてリボンで一つにまとめている。でもなんだか、髪がいつもよりクルクルしてるような気がするのは気のせいだろうか? 学校ではパーマでもあてているのかな。
「ひ、久しぶり。ヌイが来たって聞いて凄いびっくりしたんだから」
「ははは、そうだろうな。まさか別名義で活動してる俺をピンポイントで選ぶとはな!」
「ほんとにね……」
何故か光を無くした目で息をつく千代美ちゃん。何かあったのだろうか?
「と、それよりお腹空いてない?」
「おお、ちょうど小腹が空いて何か食べようと思ってたんだ。でも色んな屋台があって何にしようか決めかねてたんだよね」
「それなら丁度いい! 私オススメの店があるんだ!」
「いいね! ならそこに案内してもらおうかな」
久しぶりに(と言っても長期休みのたびに会っているし、連絡は定期的に取ってはいるが)出会った千代美ちゃんのススメの店に向かう事にした。
☆
「アンツィオ名物鉄板ナポリタンは絶品なんだ!」
「ナポリタンか……」
ナポリタンって、実は日本生まれ日本育ちの日本食なんだよね。
イタリア料理を食べる気になっていたが、アンツィオ高校の名物と言うのならそれは食べないわけにはいかないだろう。しかも、鉄板ナポリタンって、それはもう名古屋名物なんよ。
まあ、千代美ちゃんがあれだけオススメするのだから間違いはないはずだ。
「あれ? 姐さんじゃないッスか」
「んげっ! ペパロニ……(そう言えば今日は資金集めの日とか言ってたな!)」
俺達に話しかけて来たのはこの店の店員だろうか? エプロンを付けてコック帽をかぶった学生だった。ていうか、記憶が間違ってなければさっきアンチョビさんの採寸をした時に一瞬部屋に入ってきた人じゃないか?
「おや? そっちの人は確か……」
「どうも、アンチョビさんのパンツァージャケットの製作依頼を受けた生地波理人です、と言ってもこれは活動用の別名義ですが。本当の名前は布衣と言います」
「よろしくッス! ウチはペパロニってんだ! 1年生ッス」
どうやら彼女はペパロニと言うらしい。戦車道チームで使うネームを日常生活でも使うとは、戦車道と言うのは中々面白い文化だ。
「ここで働いて稼いだ資金は戦車道の資金になるんで、ヌイさんもじゃんじゃんお金落として行って下さいッス!」
「はー、やっぱり資金繰りは大変なんですねぇ……。まあ、出来る限り協力はさせてもらいますよ」
「ん? ウチらの事情知ってるんスか?」
「ああ、千代美ちゃん……安斎さんとは幼馴染でね。詳しくは知らないけど、多少は話を聞いているよ」
「ほえー! そうだったんスね! ……あれ? でもさっき姐さんの事アン……」
「ペパロニ! ちょっとこっちに来ようか……」
「え? 何スか?」
突然声を上げた千代美ちゃんはペパロニさんと肩を組んで少し離れた場所に行ってしまう。
二人で話さなければならない用事でも思い出したのだろうか? まあ、二人は戦車道チームの先輩と後輩。そう言ったこともあるだろう。
「いいか、ペパロニ。私がアンチョビだという事はヌイには内緒だ」
「はい? 何でッスか?」
「いいから! とにかく私に話を合わせて置け!」
「へーい……ところで、何でそんな恰好して」
「いいから、合 わ せ ろ」
「へーい」
「ごめんごめん!」
「ん? いや、いいよ。なんか用事があったんでしょ」
「まあ、そんなとこ」
ペパロニさんと一言二言会話を交わしたらしい千代美ちゃんは席に戻って来た。
「注文はしておいたから、すぐ来ると思うよ」
「お、そうか。サンキュー」
どうやら店員であるペパロニさんと話しをしている時についでに注文をお願いしてくれていたらしい。
「それにしても、俺がアンツィオ高校でこうして居るのはなんだか不思議な感覚だな」
「まあ、そうだろうね。一応女子高だし」
鉄板ナポリタンが完成するまで二人で他愛のない会話を楽しむことにする。お互いに近況報告などをしたり、最近の関心事や心配事等、普段から連絡を取り合っていると言うのにこうして顔を合わせても話題が尽きない関係と言うのは楽でいいものだ。
「はい、お待ちどーう! アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー!」
「おー、これが。うんうん、美味しそうじゃん」
目の前に置かれた鉄板プレートの上にはフワフワ卵が置かれたナポリタンが乗っている。
「「いただきまーす」」
現物が目の前にやって来たらさらに食欲を刺激される。
小腹が空いたおやつ頃には丁度いいサイズ感だ。
フォークを使って卵を巻き込みながらパスタをからめとり、一口大に育ったところでパクリ。
「ん! こりゃ旨いな!」
「そうだろ! ここの鉄板ナポリタンは特別美味しいんだ! いずれ戦車道チームだけで出店が出せるようになったらここにも負けないくらいの鉄板ナポリタンを出す予定だから楽しみにしててくれ!」
むぐむぐ……確かにこれは美味しい。
自分の高校の名物が褒められて嬉しかったのか、千代美ちゃんもテンションが上がっている。
いや、ホントに旨いなこれ。今度自分でも作ってみようかな?
「そう言えば、アンチョビさんに会ったよ」
「んぐっ!?」
俺は今日出会った一人の女性の話題を出す。
「アンチョビさんって俺達と同い年だよな? 千代美ちゃんは隊長をやってるから、アンチョビさんは副隊長か?」
「ソ、ソーダヨ、うん」
「最初は千代美ちゃんがアンツィオ高校でやっていけるのか少し心配だったけど、ああいう人が傍で支えてくれるなら安心だな!」
「あ、あはは……いつも助けてもらってるよ……(い、言い出すタイミングが……)」
「頼りになる同期に、後輩が二人。この二年で地固めをして来年が勝負の年だな」
「……うん。頑張るよ」
「おう」
メガネの奥に見える千代美ちゃんの瞳は決意に満ちたものだった。
安斎さんの口調ムズ過ぎて草