安斎千代美の幼馴染がドゥーチェとしてのアンチョビを知らない概念(仮題)   作:ガーリック&バジル

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「あ゛~帰省すると夏休みは暇だなぁ~」

「……ヌイ居るかなぁ……」

「んー……暇だし、ゲームでもしに行くか」


安斎千代美は隣人である

 アンチョビさんからのパンツァージャケット製作依頼が来たのが夏休みが始まる直前。そして今は夏休みの真っ最中。

 期末試験もつつがなく終え、無事に夏休みに突入することが出来た俺は溜りに溜まった鬱憤を晴らすが如く遊びまくる……ことはなく、依頼の品を完成させることに集中していた。

 そして、努力の甲斐もあって3日前に完成した。

 

「うむ、俺の出来る事はやったな」

 

 自分の部屋のハンガーに吊るされたアンチョビさん専用のパンツァージャケットを360度グルグル回転しながら観察し、手直しが必要な部分を探す。

 とは言え、この作業は既に両の手の指の数では収まらない回数行われたものであり、今更修正が必要な個所は見つからない。

 

「やはり少々地味なデザインになってしまったか」

 

 草色で統一されたこの服は第二次世界大戦当時のイタリア軍の軍服を俺の解釈に基づいて女性が来ても違和感の無いようにリメイクしたものだ。

 全体的に地味な印象を受けるが、そのおかげで赤い肩章と腕章、黄色の襟章がよく映える。

 この度、各高校戦車道チームのパンツァージャケットをじっくりと見てみたが、やはりどこの高校も軍服をイメージしたものが多い事もあり、俺が作ったジャケットが浮きまくるという事は無い。

 

「聖グロのジャケットは派手だったな……」

 

 ともあれ、クライアントの求める予算内で戦車道と言う試合の場で実用に耐え得る物になったと思う。

 

「後は千代美ちゃんに渡せば依頼は完了だな」

 

 俺は幼馴染が住む隣の家の方へなんとなく顔を向ける。

 俺の部屋にある出窓と千代美ちゃんの部屋の窓は向かい合うようにして存在しており、窓を超えればお互いの部屋へ入れるくらいに近い。

 小さい時からこの窓を使ってお互いの家へ出入りしていたのだが、今思えば小さい子供が余裕で行き来できる程度の距離しかないと言うのは違法建築なのでは? と言う変な心配をしてしまう高校二年生の夏。

 

 コンコン

 

「ん?」

 

 部屋に響いたのはノックの音だ。しかし叩かれたのはドアでない。

 16年間生きて来て何度も聞いたこの音は件の窓が叩かれた音だ。

 

 椅子から立ち上がり、カーテンを開けると窓の向こうには千代美ちゃんが居た。

 余談だが、この窓のカーテンは最近は閉めっぱなしである。部屋を貰ったばかりの小学生時代は特に気にせず開けっ放しにされていたが、当時は色々と見えてしまっていたものだ。まあ、小学生の俺は出来るだけ早く窓の向こうへ行くことを優先していたからそんな物だろう。

 

「おー、帰ってたんだな」

「うん。昨日帰って来たんだ」

 

 学園艦で生活している千代美ちゃんは高校生になってから豊田市の自宅には長期休暇の時にしか帰ってこない。それに、彼女は戦車道チームの隊長としてメンバーの勧誘や活動資金作りに勤しみ、当然自身の戦車道の腕を鈍らせないために練習もする必要がありと、夏休みや冬休みのような長期休暇でも1週間ほどの帰省しかしない。

 きっと来週にはまたアンツィオ高校に戻って再びアンツィオ戦車道復興という一大任務を遂行しているのだろう。

 

「暇だからゲームでもしようよ」

「お、いいね~。俺も仕事と趣味を終わらせて暇してたところなんだ」

「確か冷蔵庫にアイスがあったから持ってくるね」

「さんきゅー。こっちはゲームの準備しとく」

 

 会話が終わり、部屋を出てアイスを取りに行く千代美ちゃんを見送った俺は宣言通りゲームハードの準備をする。

 準備と言っても、普段から出しっぱなしなので特にやることもない。普段は使っていないオレンジ色のコントローラーを引き出しから取り出すくらいだ。何となく昔から使うコントローラーの色は固定されており、俺が紫で彼女はオレンジだ。

 

「おまたせ~。よっと」

 

 アイスの袋を片手に、窓を乗り越えてくる千代美ちゃん。

 今日は中々の暑さという事もあり、短パンにノースリーブのシャツと非常にルーズな格好をしている。

 普段はまとめられている長い髪も、今日はオフと言う事で何にも縛られることは無く、緩く巻かれたそれはフワフワとしている。

 

「マリカで良い?」

「ん。でもその前にアイス開けちゃお」

 

 俺のベッドにどかりと腰かけた千代美ちゃんは持参して来たアイスの袋を開ける。持ってきたものはソーダ味の棒付きアイスで、二つに分けるやつだ。

 

「……」

「いや、割るの下手くそかよ」

 

 彼女が割ったアイスは片方は少なく、片方が多くと、割るのに失敗した不格好な割箸みたいになってしまっている。

 

「……」

「俺が少ない方かよ」

 

 千代美ちゃんは俺に対して量が少ない方のアイスを無言で渡しきやがった。

 

「今日は暑いから私だって多い方が食べたいし。それに、これは私が持ってきた物だしー」

「ほー。うちの冷房の恩恵を授かっておきながらそんな事を申すか」

「むむむ……はい」

 

 しばらく悩ん後、彼女は多めに付いた部分を手で割って寄越してくれる。

 

「やりぃ……冷てっ」

 

 俺は右手にケースから取り出したゲームのディスクを、左手にはアイスを持っていたため、千代美ちゃんがくれたアイスの欠片を口で迎えに行く。

 欠片とは言え、1本分のアイスの1/5くらいの大きさのそれを一口で受け取るのは結構厳しいものがあり、想像した倍くらいの冷たさを感じる。

 

「うぇ~、ベタベタするぅ」

 

 千代美ちゃんは人差し指と親指を合わせてベタベタの不快感を知らせてくる。

 

「その手でコントローラー触るなよー」

「わかってるよー」

 

 アイスを持った方の手はティッシュで拭いてはいたものの、完璧に取り除ききれなかったアイスが乾燥してベタ付きが残っている様子。

 アイスを手に持った状態で手を洗いに行くのが面倒だったのか、ベタ付く指を口に含んで舐めとってから再びティッシュで手を拭いていた。

 

よーひ、あほふほー(よーし、あそぶぞー)

むおー(おー)

 

 

 

 ☆

 

 

 

 二人でアイスを加えながらやったレースゲームは夏の長い陽が暮れるまで白熱した。

 特に爆弾を投げ合ってお互いのライフを削り合うミニゲームに関しては千代美ちゃんに圧勝されてしまった。戦車道をやっているとそういうエイムが上手くなるのだろうか? 今度バトルフィールドで彼女を戦車に乗せてみよう。

 

「んんー! はぁー。遊んだなー」

 

 千代美ちゃんは手を組んで腕を伸ばし、凝り固まった身体をほぐしている。座ったり、寝転んだりと各々適当に楽な態勢を取りながらのゲームであったが、これだけ長時間遊んで入ればそりゃあ、身体も固くなるというものだ。

 

「じゃ、そろそろ帰るとするよ」

「あ、ちょっと待って」

 

 俺は机の上に畳んで置いていた依頼の品を手に取り、千代美ちゃんに渡す。

 

「これ、アンツィオに戻ったらアンチョビさんに渡しておいてくれ」

「え? あ、ああ! ジャケットね! うん、私から渡しておくよ。ありがとうね!」

 

 千代美ちゃんは渡されたパンツァージャェットを広げてみて「おー」なんて声を上げながら見ている。

 

「ふーむ、これを戦車道チームの正式なジャケットにするのも良いかもなぁ」

「お。その時はまた俺に注文してくれよな」

「ふふ、メンバーを集めてヌイがひぃひぃ言うくらい大量に発注してみせるさ」

「ははは、お手柔らかに頼むよ……と、そうだ。もう一つ渡したいものがるんだ」

「ん? なになに?」

 

 今回受けた依頼の品の完成度は個人的にも結構満足している。

 とは言え、自分は見た目を重視した服を作る事の方が楽しいと思う人間である。そんな俺が地味目なパンツァージャケットだけで満足出来ているという事は無かったのだ。

 

「これは……」

「この間ミーティングルームに入った時に見かけて気になってたんだよね」

 

 俺がアンチョビさんの採寸にアンツィオ高校に訪れた時、戦車道チームのミーティングルームに飾られていた一枚のマントに目が行っていた。

 そのマントは丁寧に手入れはされていたものの、経年劣化によって生地の色は落ち、裾のほつれや穴が多々見受けられた。それは代々受け継がれてきた伝統的な物だったのだろう。

 そして、おそらくそのマントを受け継いできたのは歴代の隊長達。

 

 俺が見たところ飾られていたマントは現在実際に使われているという事はなく、アンツィオ高校戦車道チームの歴史を語る物としての余生を過ごしているように見えた。

 なら、俺が新しくマントを作って今代の隊長のために渡してもいいのではなかろうか? と思い、趣味としてパンツァージャケットと同時並行でチビチビ作っていたものだ。

 

「学校の制服に合わせて付けてみてよ。カッコイイから」

 

 アンツィオ高校の制服は二次世界大戦時に実在したイタリアの準軍事組織「イタリア少女団」の制服をモチーフにしている。本来はマントもイタリア少女団の制服の正式装備だったのだが、恐らく学業を行う服装としてはマントと言う装備は邪魔になるから省略されたのだろう。

 

 個人的にはマントはカッコイイから学校行事や全校集会の時だけ付ける礼装扱いにすれば良かったのにと残念に思うが、今回は千代美ちゃんに目立ってもらわねばならいので、良しとしよう。

 

 マントを付けることによって一般生徒との区別化が図れ、きっと戦車道チームのアイコンとして大いに役立ってくれるはずである。

 あれだ。応援指導部の生徒は常に長ランとつま先の長い革靴で生活しているのようなものだ。

 

「どうだ? 結構良くないか? 制服に合わせたらこんな感じになると思うんだけど」

 

 俺はマントを製作する前にイメージ図兼設計図として描いたスケッチを千代美ちゃんに見せてみる。

 絵の中の千代美ちゃんは指示棒を持ち、マント装備の制服を身に着けたその姿は中々様になっている。我ながら妄想が爆発したイメージ図であるが、これは良いものだと思う。

 

「って、あれ? 千代美ちゃん?」

 

 色々と説明をしたのだが、千代美ちゃんからの返事が返ってきていない事に気が付いた。もしかして、気に入らなかったのだろうか……。

 あ! もしかして費用の事を考えてるのか! うっ、まずい。確かにこれでは押し売りみたいじゃないか! 

 

「あっ、これは俺の個人的なプレゼントだから……」

「ヌイ!」

「へっ?」

「ちょっと制服着てみるから待ってて!」

「え? あ、うん」

 

 そう言うや否や、千代美ちゃんは俺が渡したマントを手に持ち窓へと駆け出して行き、自分の部屋へと戻っていく。

 ていうか、何で制服が実家にあるのだろうか? 普通帰省する時って私服で戻ってくるから制服は学園艦の寮に置いて来るものだと思ったのだけど……。だから制服着用イメージのイラストを千代美ちゃんにも見せた訳だし。

 

 もしかして、外出する時は制服を着用しなければならないみたいな校則でもあるのだろうか? 意外とアンツィオって厳しい学校だったのか? じゃああの学生たちの気性は厳しい校則からくる反動だった……? ふっ、まさかね。

 なんにしても、千代美ちゃんが実家に制服を持って帰って来ている理由は不明で、謎は深まるばかりだ……ん? 

 

「ッ!?!?!?」

 

 俺はあることに気が付いて急いで部屋のカーテンを閉めた。

 

「……」

 

 まあ、なんだ。

 きっとそれだけ嬉しかったって事のなのだろ。

 

 

 

 窓の向こうに俺が居る事すら忘れて服を脱ぎだしたのには流石に驚いた……。

 

 

 

「……青白の縞パン履いてる人ってホントに居るんだな……」

 

 参考書でしか見た事ねぇや……なんてくだらない事を考えつつも、今見たことはとりあえず良い思い出として脳内フォルダーに保存しておくことを決意したのだった。

 

 

 




※アンチョビのパンツの柄は個人的な見解であり、異論は認めますが、受け付けません。
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