安斎千代美の幼馴染がドゥーチェとしてのアンチョビを知らない概念(仮題) 作:ガーリック&バジル
(うちでご飯を食べることはよくあったけど、作ったのはお母さんだし)
(よし! それならば、今日はいっちょ気合いを入れて作りますか!)
千代美ちゃんから食事のお誘いを貰った俺は、窓を乗り越えて彼女の部屋へと乗り込む。
これが、同年代の女の子の部屋……なーんて感情が今更沸くはずもなく(休暇中の宿題をするためとか、プレステをやりに行くためとか、最近でも結構お互いの部屋を行き来しているので)、「おじゃましまーす」っと形だけの声掛けをして部屋に上がりこむ。
千代美ちゃんは高校入学から寮住まいになったこともあり、中学時代から大きく部屋の様子が変わったという事はない。特徴を上げるとするならば、数多くの小説を収めた大きな本棚があること位だろうか。今も変わっていないのなら、その本棚の上から二段目の本の裏側に自作の恋愛小説が隠されているはずだ。
千代美ちゃんの部屋を出て、階段を下りる。廊下を抜ければ安斎家のダイニングキッチンに辿り着く。
「それじゃ、ささっと作っちゃうから、リビングでテレビでも観て待っててよ」
料理をするために邪魔になる髪をまとめ上げ、エプロンを装備する事で完全に料理をする態勢になる千代美ちゃんが声を掛けてくる。
「ほーい。何か手伝う事あったりする?」
「うーん、ない!」
「ですよねぇ」
ただただご馳走になるのは申し訳なく思い、一応念のため手伝いが必要か聞いてみたが、一切不要との事。実際、千代美ちゃんの家事スキルはとても高いため、下手に俺が介入する事で逆に手間がかかるまである。
出来た料理を並べるくらいは出来るだろって? 甘いなぁ……そこら辺も含めて千代美ちゃんが一人でやった方が早いんだから恐ろしい話である。彼女は一体どこへ向かうとしているのか?
俺は千代美ちゃんの邪魔をしないという方向で協力するために、一人でテレビでも観ることにした。
『とうとう明日、戦車道全国高校生大会決勝戦が開催されます』
何気なくつけたテレビの画面に映し出されていたのはいつもは無表情でニュースを読み上げるキャスターさんの楽しそうな姿だった。
『今年の対戦カードは黒森峰女学園とプラウダ高校。注目はやはり黒森峰女学園。黒森峰は今年も優勝すれば前人未到の10連覇を成し遂げることになります』
そうか、黒森峰は今年も優勝すれば10連覇か。少し前から黒森峰女学園の大会連覇の偉業はニュースでも良く取り上げられていたから知っていたが、もうそんなに来ているんだな。
そう言えば、千代美ちゃんはアンツィオから声がかからなかったら黒森峰に進学する予定だったんだよな? 黒森峰は戦車道の強豪であるが、同時に中々の進学校であるため、中学3年生の時は二人でひぃひぃ言いながら受験勉強していたものだ。まあ、千代美ちゃんはアンツィオからスカウトされて必死こいて試験勉強する必要はなくなったんだけどな。おかげで俺の専任教師になって貰ったから俺的には助かったが。
「黒森峰は今年も勝てば10連勝だってさ。すっげぇな」
「もしかしたら私もあそこに居たかと思うと、なんだか変な気分だよ」
「あはは」と乾いた笑みをこぼしながら食材を切る千代美ちゃん。もしかしたらあったかもしれない未来を想像しているのだろうか。
「ふっ。でもさ、学校の校長から直々に『戦車道チームの立て直し』を依頼された生徒なんて、千代美ちゃん以外に居ないだろ。多分、テレビの向こうに居る奴らのだーれもそんな経験はしたこと無いはずだぜ」
「ふふーん! まあ、そうだろうね!」
もしかしたら千代美ちゃんが在学している間にアンツィオ高校の戦車道チームがこうやってテレビに映る事は出来ないかもしれない。だけど、今彼女が尽力している事で、5年後、10年後にアンツィオが強豪校の一つ一つとして数えられるようになれば……ああ、それはサイッッッコーだろうな。
「ところで、何作ってるの?」
鳴りやまない包丁が食材を切るトントンと言う音が気になった俺は、カウンター型のキッチンに居る千代美ちゃんの方を見る。
「ん? それはなぁ……」
食材を粗方切り終えた千代美ちゃんは腰を屈めて下の棚にしまってある何かを取り出そうとしている。
結構な種類の食材を切っているように見えたので、具沢山な料理なのだろうか? そのまんま『具だくさんのスープ』という意味であるミネストローネとかかな?
「これだぁ!」
ダァン! と、音を立てて置かれたそれは立派な中華鍋。
多分、俺が持ったら重たすぎてまともに振る事さえできないだろう。戦車道で重たい砲弾を扱いなれている千代美ちゃんだからこそ自由自在に震える逸品だ。
「これを!」
思い切り捻られたガスコンロの摘まみは限界ギリギリまで回される。
え? 家庭用のガスコンロから出る火力じゃないよそれ。どうなってんの。
「こうして!」
大量に投入される油。
揚げ物でもするのかな?
「こうだあああぁぁぁ!」
溶き卵が油の中で飛び込み、時を待たずしてご飯も後に続く。
ご飯の一粒一粒が卵によってコーティングされるように大胆でダイナミックな鍋捌きによってどんどんご飯の色が均等に黄金色へと変わっていく。
「ほい、ほいっと」
一度鍋を置き、先ほどまで切っていた一口大になった食材たち。
ベーコンや様々な野菜が千代美ちゃんの考える最適なタイミングで投入されていく。
全ての具材が合わさったところで千代美ちゃんオリジナルの魔法の調味料、塩、香り付けのための醤油が垂らされる。
しばらく中華鍋をガンガンと振りながら炒飯全体に熱を通していく。
いつの間にか出されていた皿に中華お玉を使ってこんもりと盛り付けられていく。
「はい出来上がり!」
テキパキとテーブルに炒飯とレンゲ、飲み物の麦茶とコップを並べて夜ご飯が完成していた。
実はひっそりと飲み物くらいは準備しようとしていた俺だったが、手を出す暇もなく食卓が出来上がっていた。
「ほらほら、出来たぞー。冷めないうちに食べよう」
「おー、相変わらず千代美ちゃんの料理スキルは高いなぁ」
千代美ちゃんが料理を作る事が非常に得意なことは昔から知っていたが、まさか本格的な中華鍋が飛び出てくるとは思っていなかった。前は持っていなかったと思うんだが、いつ買ったんだろうかあんなゴツイもの。
「「いただきまーす」」
意図せず二人の声が重なる。
俺はレンゲを炒飯の山に突き刺す。
ッ!
な、なんだこの炒飯は……。レンゲを差し込んだらまるで『サクッ』と音が鳴りそうなまでのパラパラ感。俺が作った適当ベチャベチャ炒飯なんてお話にもならない。ていうか、俺が作った炒飯は炒飯じゃないって事を味あわされる。
「うっ、旨い!!」
あんなに大量に油を使っていたのに油の重たさとか、脂っこさって言うものを全然感じない。
一口、二口、三口とどんどん手が進んでいく。
うま過ぎて「うまい」と言う言葉しか口から出てこなくなったわ。
「どう? 結構良い感じに出来たと思うんだけど?」
千代美ちゃんの問いに、俺は口の中に炒飯が詰め込まれていて喋れないので、左手の親指を立てて『グッ』ってしておいた。
「そりゃよかった」
俺の感想を聞いて満足したのか、千代美ちゃんも食べる手を進め始めるのだった。
「「ごちそうさまでした」」
アンチョビ「カーッカッカッカッカッカ!!!!」