元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第十話     リーザス奪還編 第二幕

 

 「ふふふ、やっと元魔王らしくなってきたのじゃ。」

 

 

 

 陽炎揺らめく自身の魔法にご満悦のククル。彼女の放ったファイアレーザーはヘルマン兵の真上を通りすぎただけであったが、その高温に当てられた彼らは気を失っていた。それほどまでの威力だった。火炎魔法では知る人ぞ知るサイアス将軍に勝るとも劣らない、かもしれない。

 

 

 

 これならば、と今一度魔人に対しどの様な策を弄する事が出来るか思案する。サテラに対しては幾らでもやりようがある。彼女は感覚がずば抜けて鋭く、擽りやあんなことやこんなことをすれば確実に倒せる・・・ゴニョゴニョ。アイゼルは美しいものに弱い。ならば何も問題ではない。わし、美少女。ノスが現れたら・・・口八丁小細工何でも使って逃げるしかないかもしれないが。

 

 

 

 

―――――――っ!!!

 

 

 

 「なんじゃ? この声は…。」

 

 

 ククルの思考を男の咆哮が遮った。聞き覚えのあるこの豪快な重苦しい声色。ここ一週間、何かとグチグチと文句を垂れてきた声。状況を鑑みるに声の主は・・・。

 

 

 

「まさか…、あのクソッタレめ!」

 

 

 

 三十路後半に差し掛かろうという男、コルドバは戸惑った。深夜不可思議な騒音に目を覚ましてみれば、いつもの国境砦ではなく久々に城下へ戻ったコルドバの生活を滅茶苦茶にしてくれた憎いあん畜生が家にいないのだ。しかも彼女の寝袋には「カスタムに行け」とだけ書き置きがあった。あいつ夜逃げでもしたのか。事情でも話してくれりゃあなと寂しい気持ちになる。まだ得意のハーモニカも数曲しか聞かせてないというのに。

 

「おーいフルル、済まんちょっと聞きたいんだが。」

 

「ふあ・・・、なにぃ?」

 

 力が緩み、ふらふらと身を起こすフルルの煽情的な姿にドキリとする。が、我慢我慢と精神滅却。コルドバは成人するまでククルには手を出さないと決めているのだ。彼女の体が未熟で不安定故に。

 

 「っ、ククルの奴今日何か言ってなかった?」

 

 「わかんない・・・むにゃ。」

 

 ぽすんと音を立てて再び眠りこけるその姿は妻というより娘のようだった。

 

 しかしそんな彼女の愛くるしい姿を見てもコルドバには何か妙な胸騒ぎがしてならなかった。外の様子も変だ。酒場でのククルの台詞が胸にチクチクと刺さる。

 

 「うじうじしててもしょうがねぇ。一つ見回りでもすっか。」

 

 コルドバ・バーン、37歳。趣味はハーモニカと見回りである。

 

 

 

 

 

 異変にはすぐに気がついた。警備の兵が誰一人としていない。何事かと僅かに喧騒が聞こえる方へと足を進めると、そこにはヘルマン共和国の国旗が堂々と掲げられたリーザス城があった。

 

 「な…なんだこりゃあ………。夢でも見てんのか…? どうして何も警報が出なかった。それにヘルマンの屑鉄共はどっから来やがんったんだ!」

 

 熟練のコルドバとは言えまさかこのような事態に陥っているとは到底思わなかった。リーザス城が落ちる姿なんぞこれまでの生涯で一度足りとも想定していなかった事態である。

 

 「ククルが言ってた事はこいつのことかよ…。バレスのじいさんは何やってんだ…!。」

 

 カスタムへ逃げろ。ククルが何者であったかはわからない。だが彼女は少なくとも悪いやつではない、そんな風にコルドバを感じていた。

 

 

 

 「大切なもの…か。俺にとって大切なのは………。ちっ、俺はリーザスの青い壁だぜ? 俺がリーザス守らんでどうするっちゅうよ!」

 

 荒っぽい軍人の家とは思えない、新品のような扉。普段はフルルに気を使い、愛情込めて開いたそれをバンと開けた。

 

 「フルル、起きろ!! 戦だ! いいか、よく聞け。カスタムに行くんだ。リーザス軍を頼れ。俺の身内だって言っちまえばどの部隊だってお前を守ってくれる! いいな!!」

 

 「ふぇっ!? えっ、あっ、うん。わ、わかった!。」

 

 「よし! これ持ってけ、それじゃ行ってくるぜ。」

 

 渡したのは、ハーモニカ。コルドバにとって、苦渋の決断だった。

 

 

 

 

 

 「へっ、これで俺も昇進は間違いねぇや…。副将軍、いや将軍にだって夢じゃねぇかもしんねぇぞぉ…。」

 

 酒を煽り、自らの地位を肴にするはヘルマン第三軍部隊長アイザック。何千もの部下を率い、リーザス城の眼下で飲む酒のなんとうまいことか。五臓六腑にしみわたる。

 

 「ちょっと隊長、トーマ将軍がいないからってそんなイヤラシイこと口に出さないで下さいよ…。鬼婆に聞こえでもしたらどうすんすか。」

 

 「うぉぉい、ばっかやろぉお前のほうがキモ冷えるわ。寿命縮めてぇのか!」

 

 ヘルマンの鬼婆。それは公然の秘密である。絶対に語ってはいけない…。

 

 「それにしても魔人の力ってのは凄いっすね。リーザスの奴ら無抵抗どころかこっちに味方するなんて…俺らもしかして体の良いように使われてんじゃないすか…?」

 

 「アホか、こりゃパットン様のお力よ。リーザスを洗脳したのは魔人、魔人を操ってんのはパットン様。わかるかぁ~?」

 

 「お気楽っすねー。でもそんな隊長の事好きっす。」

 

 「気持ち悪っ…、ん? あれもう酔ってんのかな。なんかリーザス兵っぽいの来てねぇか。」

 

 

 

 

 特徴ある軽鎧を纏った大男が一人。その双眼でヘルマン兵達を一人ひとり睨みつけながら、城門へと続くリーザス中央通りのど真ん中をどしんどしんと歩いてきているではないか。

 

 ざわめく城門警備に、ヘルマン兵達が何事かと続々と現れる。その数有に千。

 

 「おう、屑鉄共。ヘルマン青の軍が将軍! コルドバ・バーン様の登場よ!!」

 

 予想だにしない事態にヘルマン兵達はピタリとその動きを止めた。

 

 

 

 「俺がいる限り、リーザスは、絶対に渡さんっ!!!!!!」

 

 

 

 男コルドバ、ヘルマン軍千と相対し、吠えた。


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