元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第十二話    リーザス奪還編 第四幕

 

 無敵結界。それはあらゆる物理魔法問わずダメージを無効化する大陸最強の異能。無敵結界を持つがゆえに魔人は絶対なる存在として確立している。しかし、無敵結界を持つ魔人を倒す方法は幾通りか存在する。

 

 一つ。世界の創造者であるルドラサウムの分身たる神・悪魔の力を持って倒す。神・悪魔やそれに準じる者達には無敵結界は通用しない。

 

 二つ。同じく無敵結界を持つ魔人・魔王の力を持って倒す。無敵結界を持つ物同士はその力量に関わらず無敵結界を互いに無効化出来る。

 

 三つ。人類が一定数以下になった時、人類救済システムとして覚醒する勇者の力を持って倒す。勇者は絶対の強者とされ、魔王・魔人に対して圧倒的な力を持つ。

 

 四つ。世に二本しか存在しない魔剣カオス・聖刀日光の力を持って倒す。それぞれ魔剣聖刀は無敵結界を破壊する能力を持っている。

 

 

 

 

 

 ファイアレーザーの余波で熱気渦巻くリーザス城下。目の前には依然として魔人が二人、後方にゴーレムが二体と囲まれている。更には、現状ククルが魔人を殺すことは不可能だ。元魔王とはいえ魔王の力は一片足りとも存在してはいない。魔剣カオスも聖刀日光も保有してはいない。だからこその奇襲だった。今のククルにできることは、不意をついて吹き飛ばすくらいしか出来ない。しかも吹き飛ばしてもダメージは一切与えていないのだから直に戻り、追ってくるのは自明の理。時間との勝負だったというのに…。

 

 「お主がさっさと逃げれば良かったものを…。わしも終いかもしれんな。」

 

 ククルとしては今は序盤も最序盤。ルドラサウムと戦うまでの途中経過に過ぎない。魔人と相対しても一人ならやり過ごせる自信があった。故にリーザスで行動を起こしたのだが。

 

 「て、てめぇから突っ込んで………クソッ!」

 

 不甲斐なかった。リーザス軍一の猛将と謳われた自分がこんな小娘の足を引っ張っているという事実に悪態をつくことしか出来なかった。

 

 

 

 「あ、アイゼルどこいってたんだ? もしかして方向音痴か?」

 

 緊迫した雰囲気にも関わらず、魔人サテラはマイペースであった。彼女にとって、人間という存在は敵足り得ないのだろう。

 

 「サテラ、お前は私を何だと思っているんだ………。」

 

 人間に警戒を持っていないという意味ではアイゼルも同じではあるが、サテラの場合は度が過ぎていると言えよう。なんにしてもサテラの発言は一々癇に障る。

 

 「まぁいい。小娘、貴様がこのデカント*モドキに洗脳をかけていたものだな? このような雑魚を仕向けてどうするつもりだったのだ。万に一度足りとも勝てる見込みなどないだろうに。」

 ※デカント 巨人の魔物。筋骨隆々で棍棒を武器に戦う。

 

 「アイゼルは馬鹿だな。このシチュエーションはあの山猿に騒ぎを起こさせて操者は裏で暗躍するっていうのが鉄板なんだぞ。」

 

 「サテラ…貴様………。」

 

 真剣な空気を取り戻そうとしたというに此奴は………。

 

 「だとしたら何故操者である奴がここにいる! おかしいだろうがっ!」

 

 「あ、そっか。」

 

 「馬鹿は貴様だ…。」

 

 「サテラは馬鹿じゃないぞ馬鹿じゃないぞ馬鹿じゃないぞ………。」

 

 

 

 魔人達のほのぼのとした会話に惑わされてはいけない。彼らは一瞬でククルとコルドバの命を刈り取る自信と、それに見合った力を持っているのだから。

 

 「コルドバ、ならば選べ、今ここでわしを道連れにするか。わしの言う事を聞いて生き残り、リーザスのために戦うかじゃ。」

 

 「………俺が囮になる。なんとか突破口は開いてやるからお前は逃げろ。」

 

 「現実を見るのじゃ。お前は足手纏に過ぎん。貴様が囮になるほうがわしにとっては邪魔でしかないのじゃ。それともわしを殺したいのかの?」

 

 ククルの発言は最もだ。つい先程のアイゼルとの交戦は戦いにすらなっていなかった。長年守りの要としてリーザス将軍に席を置いたコルドバの尊厳を打ち砕くほどの一方的な蹂躙。しかし目の前の少女、ククルは不意打ちとはいえその魔人を吹き飛ばしたのだ。形ばかりは四対二となっている現状だが、実質四と人質一対一であるのは間違いなかった。

 

 「何、心配するな。リーザスを守ろうとするものは多い。アイスの街からいずれここに英雄が現れようぞ。しかしそいつはちと好色でな。フルルを守ってやれるのはお前だけじゃ。」

 

 「…ククル、お前は…。」

 

 何者なんだ?

 

 どうしてそんな力を持っている? どうしてそんなことを知っている? どうして俺を助ける………。

 

 「ゴーレムの間を抜けて逃げろ。ゴーレムと言っても侮るなよ。魔人が作ったゴーレムじゃぞ。」

 

 

 

 魔人たちの警戒が薄い。やるなら今しか無い。

 

 「業火炎破!」

 

 ククルお得意の火魔法である業火炎破が戦いの幕を開けた。魔人に抜けて放たれたそれは広範囲に拡散し、視界を奪う。

 

 「今じゃ! 走れぇ!!」

 

 コルドバが飲んだ世色癌*の効果が回ってきた。今なら走れる。ククルを置いて逃げることに後ろ髪を引かれる。が、将軍たるもの大局を見る力が必要だ。苦虫を潰し、コルドバは走リ出す。

 ※ 世色癌 ハピネス製薬製の一般的な回復薬

 

 「ふん、こんな小細工が通用する相手だと思うなよ?」

 

 「イシス!シーザー!逃すな!!」

 

 走るコルドバを大きな影がぬっと塞ぐ。問題はこのゴーレム達。イシスとシーザー。どちらもサテラが丹精込めて作り上げた最高のガーディアンである。ククルが振り抜けば、既にゴーレムはコルドバに迫っていた。想像以上の速さだ。とても泥で作られた人形とは思えない。

 

 「じゃがゴーレムはゴーレム。弱点はあるのじゃ!」

 

 姿勢を極力下げ、地面を蹴る。今のククルの力では装甲に重点を置かれたシーザーを打ち破ることは出来ない。しかしイシスは防御よりも回避に特化したゴーレムだ。イシスの装甲相手なら必ずやこの拳が答えてくれると踏んだ。

 

 コルドバを抜いたククルは、イシスの足を狙って低く飛びかかる。イシスはこれを瞬時に後退し避けるがそれは想定通り。空中で前転、体を撚ることで向きを変え、再び地面を蹴る。イシスが速い事は間違いない。しかしながら接近戦での瞬発力はククルに分がある。ククルの拳はイシスの横腰を抉った。足を狙ったのはブラフでこちらが本命。ゴーレムはその原料からして過大な重量となる。いくら速度に特化したイシスと言えど、その重量を支える腰部が破損すれば、その性能は極端に落ちるだろう。

 

 「サテラサマ メイレイ タオス。」

 

 イシスを庇いにシーザーがククルを狙う。これでいい。コルドバは今ノーマークだ。彼とて人間の中では圧倒的強者の部類だ。必ずや抜け出して見せてくれるだろう。後はシーザーを惹きつければいい。しかし、その慢心がククルを襲う。所詮彼女がしたことは、魔人が作ったゴーレムを一体弱体化させただけだ。

 

 未だ轟々燃え続ける火炎をヒュッと何かが切り裂いた。並々ならぬ反射で恐らく魔人の攻撃だろうと想定し、ククルは襲い来る攻撃を見切ろうと振りむく。と、同時にククルの背に凄まじい衝撃が訪れた。肺の空気が強制的に吐出され、あまりの痛みにククルは地面に落とされる。

 

 彼女をたたき落としたものはサテラの鞭だった。ガーディアンメイクとしてサテラは知名度が高いが、その実有数な鞭の使い手でもある。変則的な鞭による攻撃は、初めて体験するククルにとって予想だにしない威力を見せつけたのだ。

 

 「ま、まだまだじゃ………!」

 

 だがククルは元魔王であった程の戦闘経験を持っていた。遠距離攻撃を受けた場所に留まるのは無策にも程がある。直に痛みを堪え、なんとか立ち上がろうと四肢に力を込める。ゴーレムを縫うように移動すれば鞭を撹乱することが必ず出来る筈だ。

 

 

 「いや、ここまでだ。」

 

 

 死神のような黒鎧がククルを見下ろす。ククルが倒れた隙は、魔人にとっては十分過ぎるほど長かった。透き通るようなアイゼルの太刀筋が、ククルの首を狙い、ストンと落ちる。

 

 

 魔人と元魔王の決着は、呆気無くついた。

 


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