元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第十五話    リーザス奪還編 第六幕

 「んぁ…どこじゃここは………。」

 

 カスタムから大砲でふっ飛ばされて何処へと。最初の目覚めは心地よいものとはならなかった。はて、目を開けたはずなのに真っ暗である。しかもゆっさゆさと身体がバウンドしている。まぁ、身体はないのだが。

 

 「何がどうなっとるんじゃ…。しかもまだ首だけ…。」

 

 どうやら何か袋状のものに入れられ運ばれているらしい。ざりざりと質の悪い布が、頬を擦り切るり、耳を悩ませる。

 

 「乙女の柔肌になるたることを。全く許せんのじゃ。」

 

 魔法を使えば直ぐにでも外にでることは出来る。しかし外の状況が全くわからない現状、むやみに魔法を使って逃げ出すというのはまずいかもしれない。やはり一先ずは情報かとククルは冷静に判断した。ククルは忘れかけられているが元魔王である。策略と智謀に長け、世界を支配した存在なのだ。…本当か?

 

 

 

 「しっかし世の中には変なものもあるもんだな。」

 

 「私もびっくりしました。JAPANには人面果と言って、仙人が不老長寿の薬にするなんて話を聞いたことが有ります。」

 

 

 

 麻袋の中に誰かしらの会話の声が微かに聞こえてきた。若い男女の声だ。声量からして、どうやら女がククルの麻袋を持っているらしい。

 

 「ほー、それじゃ漬け置きでもしてみるか。」

 

 

 

 んん? 何処かで聞き覚えがあるような…。

 

 

 

 「ランス様。そろそろ日が暮れちゃいます。テントを張りましょう。」

 

 「あー、そうだな。さっさとやれ。」

 

 元気よく了解する声がなんと健気な。ああ、見当がついてしまった。これは間違いない。どうやらククルはランスとシィルに捕まってしまったようだ。一体どのような経緯を経てそうなったのだろうか…。

 

 少しばかり時を遡る。カスタムから本当に勢い良く飛び出たククルは、まず畑に埋もれた状態で地元農民に発見された。その後生きている生首を恐れた彼らに捨てられようとした所を通りすがりの商人に引き取られ、アイス*の街でひっそりと営業する怪しい物品屋で売られていたのだ。そして運悪くもアイスの街に家を持つランスに興味本位で買われたというわけだった。

※ 自由都市群の一つ カスタムの割りとご近所さん

 

 

 

 この状況…なんとかして逃げ出さねば…。

 

 

 

 薪の火の粉が爆ぜる軽快な音とともに夜が訪れた。よしよし、やはり安全に逃げるならやはり夜。ランスとシィルが食事を取る間がチャンスだろう。ここは焦らず、虎視眈々と機会を伺わねばなるまい。先ほどシィルがランスを呼ぶ声が聞こえた。この長さからいって遂に目的の瞬間となったらしい。逃げるなら今のうち…。

 

 「お、そういや首女があったな。ぐふふ、俺様の世界中の女の子を俺様のものにするというハイパーな夢を叶えるためにも不老不死の薬とやらを試してみる

か。」

 

 なんて声が聞こえてきたからさぁ大変。よもやと思うが、ランスならばそのくらいの畜生道に入りかねない。

 

 まずい、このままでは奴に食われてしまう! なっ、紐で縛ってあるのか!? 出れんぞっ!! なんでわしはこうも狭いところから出れなくなるんじゃ…っ!!!

 

 「あん? なんか袋が跳ね回ってないか?」

 

 我武者羅に動き回っているからして当然であるが、どうやらククルの行動はバレてしまったようだ。もう時間がない。鍋の具のように煮込まれる運命が透けて見えるようだ。

 

 くっ、こうなったら致し方ない…

 

 「火爆破!」

 

 突如、袋の中から爆風が巻き起こる。流石のランスもこれには驚いた。

 

 「うぉおおおおおお!? あちっ、あちちちちちちち!!」

 

 「っランス様!? た、大変っ!」

 

 「早く回復魔法をかけろっ、このマヌケっ!」

 

 「あっ、ランス様! 首が逃げてます!!」

 

 「なにぃ!?」

 

 

 

 ククルは全速力で走った。過去の栄華を忘れ、敵に背を向けた。嘗て無いほどの悔しさを飲み込みククルは走った______。

 

 

 

 「オラーッ!! 捕まえたぞっ!」

 

 

 

 だがククルは生首だけの存在だった…。その速度は、致命的に___遅かった………。

 

 

 

 

 

 「さて、俺様に火傷を追わせた罪を償ってもらおうか、」

 

 ククルは髪の毛を輪っかのように縛られ、テントの骨組みにぶら下げられていた。なんでわし、いつもこんな目に…。

 

 「しっかし首だけってのはなー。身体がないんじゃエッチ出来ないではないか。それにしてもなんかどっかで見た顔だな。」

 

 「えっと、なんて呼んだらいいんでしょうか。」

 

 「………ククルククルじゃ。」

 

 「うおっ!? 喋ったぞ!!」

 

 もうククルの脳内は怒りでヒステリックパニック状態だった。ここ暫くまともな生物としてすら見られていない気がする。唯でさえ陶器が喋れる時代だというのに。

 

 「何処まで愚弄すれば気が済むんじゃ!! わしはククルククルじゃぞっ!! 丸い者の王であり初代魔王じゃぞっ!!!!」

 

 「あ? 何言ってんだこいつ。」

 

 当然そんなことを何も知らないランスに言ったところでわかるわけもない。

 

 「と、取り敢えずどうしましょう。まずククルちゃんは…何者?」

 

 「よくぞ聞いてくれた! わしは遥か昔、この大地を全て統治した丸い者の王にして…。」

 

 長々とした演説が幕を…

 

 「うるさいやつだな。殺すか。あーでも折角払った金が勿体無いなぁ。」

 

 開かなかった。ランスという男は基本的に他人の話に耳をかさないのである。

 

 「ランス様ぁ、殺しちゃうなんて可愛そうですよ。ククルちゃんはどうしたい? お家はどこ?」

 

 シィルの話しかけ方は幼い子供へのそれと同じであった。なんだかククルとして又もバカにされた気分である。首だけだからしょうがないが。

 

 しかしなんにせよ、このままではランス達に良いように扱われ、ククルの尊厳はボロ雑巾同然にされるかもしれない。何とかしてシィルを誘導して逃げ道を作らなければきっとあんなことやこんなことに………。あれ?

 

 

 ククルは閃いた。よくよく考えればこの状況はそんな悪い状況でもないかもしれない。まず身体はないからランスに襲われることもない。しかもランスと一緒に行けば必ずリスに会える筈。リスの恋人らしい人間の女はそのときランスから守ってやればいいだろう。

 

 

…うむ…うむうむ。ふははははは、なんじゃ、何も問題ないではないか!

 

 「………わしは天涯孤独の身なのじゃ。できれば一緒にいたいのじゃ!」

 

 そうと決まれば即日決断。ククルは媚に一転傾倒。尊厳とやらは何処へ行ったのだろう。

 

 「やっぱこんなもん気持ち悪いわ。はよ死ね。」

 

 「うわあああああああああああん。気持ち悪いって言うなぁあああああああ!!!」

 

 残念ながらククルの努力は実らなかった。元の体に戻らねば共にすること叶わず、戻れば守ること叶わず。酷い板挟みである。


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