元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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第十六話    リーザス奪還編 第七幕

 「ランス様、ここがリスの洞窟みたいですよ。リスって書いてます。」

 

 ランス達はリスの洞窟へと辿り着いた。ランスは金稼ぎのためにギルド長キース*から家出少女捜索の依頼を受けていたのである。

※ アイスの街のギルド長 ランスとは腐れ縁 ランス世界のギルドは傭兵派遣所のようなもの 

 

 「ふがふが…のぅ、そろそろここからでしてくれんかの~。」

 

 「ランス、いい加減出してあげたら?」

 

 再びククルは麻袋の中に入れられていた。自慢の艷やかで美しい髪はズタボロである。閉所恐怖症への第一歩を踏み出しそうだ。

 

 因みに先ほどククルへと憂いの言葉を向けたのは見当かなみ。あのリーザス城から逃げ延びたリア王女のくノ一である。現在はリーザス奪還のためにランスと行動を共にしている。先日、周囲の偵察からランス達の元へ戻ってみれば生首が火炙りにされかけていたのだ。然しもの不幸体質少女かなみもこれには同情したそうな。

 

 「けっ、そんな姿見ながら戦えるか。それより首人間、本当に、本当に貝殻が大量にある場所なんてのを知ってんだろうな?」

 

 「ほっ、本当じゃ。この時代にわしより貝に詳しい奴なんておらんぞっ! なにせ生きた貝と闘いぬいてきたのはこのククルククルなのじゃ!」

 

 ククルがランスと行動するためにランスへ掲示したものは貝殻の宝庫である未開の地へ案内するというものであった。このランスという男、性格に似合わず貝殻に対しては相当の熱意を持つ筋金入りの貝殻オタクである。

 

 対してククルククルは貝全盛期に生きていた存在である。当然貝と全面衝突した場所や更には当時の貝の集落も既知である。ククルはランスの無類の貝殻好きを利用し、この情報を教えることを条件に冒険への同行もとい身の安全を確保したのであった。

 

 「ククルちゃんすごいんですね~。」

 

 「ヴォー・ソー*を差し置いて貝に一番詳しいだなんて抜かすのはどの口だ。」

※ 貝殻研究で著名な博士 ランスは半年ほど前にその著作を読んで感銘を受けたとか何とか ランス9初出

 

 バシンバシンと叩かれる麻袋。当然入っているのはククルである。大変、痛そう。

 

 「叩くのはやめるのじゃ! やめるのじゃ!」

 

 

 

 リスの洞窟はとてもつもなく狭かった。人間が入るには四つん這いに進むしか入れることが出来ない程である。この地に古き丸い者であるリスが棲息することが出来たのはこの入口の狭さも一役買っているのかもしれない。自然の城砦に感謝である。

 

 ランス達は進入時に素早く動けるかなみを先頭に置き、順にシィル、ランスと続いた。四つ這いで細い洞穴を通らなければならないとあって、人間どうしても頭部を下げなければならない。となると今度は下半身が釣り上がってしまうものなのである。ランスがその現象に対して反応するのは摂理というもの。

 

 「でへへ、いいしりだぞシィル。」

 

 「ら、ランス様っ。あん…やめて下さい…。」

 

 ランスもついつい手が出てしまう。つんと指で突かれたシィルは逃げることも出来ず、思わず身体を剃り上げてしまう。なんというイチャラブ空間だろうか。

 

 「顔がっ! 顔が削れるぅうううううう!!」

 

 対してククルは悲惨であった。四つん這いでは持つことも出来ず、袋ごと引きずられているのだ。

 

 「顔以外に身体ないだろう。」

 

 というランスの心を抉る発言も届かないほど。前途多難である。

 

 

 

 リスの洞窟は入口が狭く、大型モンスターが入れないだけあって、特に戦闘に苦労することはないダンジョンであった。幾つか宝箱を発見し、ランスの突発的な性的行為で場を和ませつつ(?)メンバー全員が万全な体調でどんどんと奥へと進んでいった。ククルとしても、戦闘面で役立つということでなんとかランスから許可を貰い麻袋から出してもらえていた。かなみの頭にのっかり上機嫌である。

 

 

 

 「なんか広い空間にでたな。」

 

 今までの道のような狭い空洞ではなく、ドーム状に広がった場所に出た。

 

 「ランス、彼処に倒れている人がいるわ!」

 

 かなみが指を指す方向には確かに若い男女が生死もわからぬほど大量の血溜りの中に沈んでいた。それは橙色の髪色の男と金髪の女。キースギルドでランスと同じく家出少女捜索の依頼を受けたラーク&ノアのコンビだった。ラークの軽鎧はまるで巨大な鉄塊でも

 

 「きゃ、大怪我してるみたいです! 大変!」

 

 「待つんじゃ! 魔人がおるやも知れぬ!!」

 

 ククルの脳内にはこれと似たような状況が知識として浮かんでいた。間違いない。ラークとノアを襲ったのは魔人サテラ。これは暇つぶしがてらサテラが強者を探し、その標的とされた結果だ。とすれば近くにサテラかそのゴーレムが潜んでいる可能性が高い。魔人サテラは知識ではここでランスを襲うことはせずに新たな強者を探しにどこへ行くのだが、現状のように何が起こるかはわからない。場合によってはこちらに牙を向いてくるかもしれない。

 

 「あん? 適当な事ぬかすんじゃないぞ首人間。」

 

 「特に倒れている二人以外いないようだけど…。」

 

 ランスとかなみが周囲を警戒してみるも、空間は異様なほどの静けさを保っているだけ。どうもサテラはいないようだ。

 

 「そ、そんな筈はないのじゃが…。」

 

 もしかしたら、ククルの影響によってランス達がここにたどり着く時間に遅れが生じてしまったのだろうか。もうサテラ達はいないのかもしれない。

 

 「だとしてもこの洞窟に魔人がいる可能性は高いのじゃ。警戒を怠ってはならん。」

 

 確かにかなみの言うとおり何かが潜む気配はないが、静か過ぎる。ここは魔物の住処となった洞窟内だ。ここまでの道中も魔物はわんさかいた。逆にこの状況はおかしい。

 

 「成る程。確かにこの状況はほんの数刻前、何者に襲われたということ。ここで警戒することは理にかなっている。」

 

 珍しく同意の声が帰ってくる。しっかりとした落ち着いた声だ。ランスもわかってくれたのだろうか。

 

 「その通りじゃ、相手は魔人。どれ程の警戒をもってしても足りるもんじゃないわい。」

 

 

 

 「ふむ。流石、丸い者の王ククルククル殿ですな。ところで。」

 

 

 

 ククルククル殿? ランスの奴め、唐突にどうしたというのだ。もしや遂にこのククルの偉大さがわかったのだろうか。

 

 

 

 「探しているのは、俺のことかな?」

 

 

 

 なんぞ声が上から聞こえると見上げれば、漆黒のローブを身にまとった災厄が、こちらをニヤリと見下ろしていた。

 


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