元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 今までお気に入り登録をして下さった皆さん。感想で私を励ましてくれた皆さん。重ねて非礼をお詫び申します。本当に申し訳ございません。

 原因は誤って最新話を予約投稿ではなく通常投稿してしまったことです。間違った!という焦燥に駆られ、小説削除を投稿話削除と勘違いする暴挙に。

 ご迷惑をお掛けしました。今後も小説投稿は続けていきますのでどうか宜しくお願いします。


第二十話    リーザス奪還編 第十一幕

 夜風が吹き付ける丘の頂に豪傑立つ。コルドバは巨大な槌を携え、ヘルマン軍に占拠されたラジールを見下ろしていた。自由都市でも活気のあるラジール。 眠らぬ都市であるその姿は今、ポツリポツリとした灯りが見えるだけだった。

 

 「コルドバさん。準備が出来ました。いけます!」

 

 コルドバに準備完了の知らせを伝えた少女はカスミ。カスタム防衛兵器開発長マリア・カスタードの助手であり一番弟子である。マリア・カスタード本人は この日のために対攻城戦用自走砲、チューリップ三号*を執念で完成させ、今は休養を取るためにカスタムで待機の任を授かっている。

 

※ チューリップシリーズ最新版 原作でも大軍兵器として猛威を振るうが、当初は原料となるヒララ合金が不足していた。この作品ではカスタムの女騎士ミ リ・ヨークスとコルドバで既に確保した。

 

 「こっちもいけるわ。ミル達も問題ないみたい。…後はコルドバさんの采配次第ね。」

 

 志津香達魔法部隊も万全を期した。カスタム元四魔女の一人、幻獣魔法使いのミル・ヨークスも後方からウィンクして了解を知らせる。準備万端と言ったところか。

 

 「おぅし、相手はまだ増援が来ちゃいねぇ筈だ。明日の百より今日の五十。今がラジールを、果てにはリーザス軍を洗脳から開放する最大のチャンス。アイゼルとかいう魔人曰く、リーザス軍は洗脳を受けているらしい。だが…。」

 

 ちらりと志津香に目配せする。カスタムの兵を確信させるに、やはり四魔女の言葉は大きい。特に魔法に関しては志津香以上の存在はリーザスを含めてもいない程である、とコルドバは認識していた。

 

 「ええ。その魔人が直接洗脳でもしていない限り、大規模な人数に洗脳をかけるにはかなり近くにいる必要があるわ。つまり、今リーザス軍が駐留してるラジールに操っている誰かがいる可能性が高いわね。」

 

 「そういうことだ。ここで勝てば前進どころじゃねぇ。リーザス解放達成みたいなもんだ。必ず、勝利する!!」

 

 掛け声とともに、待機していた千を超えるカスタム防衛軍が動き出す。水面下のラジール奪還作戦が鼓動し始めた。

 

 「チューリップ部隊! 装填準備! 照準固定!!」

 

 「俺達は防衛線だ。相手の攻撃は全て俺達で受け止める。後ろに漏らしたりでもしたら皆お陀仏だ。だが安心しろ! このリーザスの青い壁ある限り、敗退の二文字はねぇぞ!!」

 

 コルドバは防衛にこそ真価を発揮する男。今回の作戦は、自身の長所とカスタム四魔女の遠距離攻撃の手数を最大限に活かすために、コルドバ達前衛は街の入り口で進軍をやめ守りに徹する。そして本命は少数精鋭のリーザス軍解放部隊というものだった。

 

 

 

 「集団詠唱始め! 第一隊は業火炎破! 第二隊は氷雪吹雪準備!」

 

 集団詠唱によってラジール郊外に火が灯る。魔法陣から湧き上がる灯りに照らされ、待機した兵士たちの姿が今顕になった。

 

 「いくぜ、開戦だぁあああああああああああああ!!!」

 

 「チューリップ部隊! 一斉に、撃てぇ!!!」

 

 撃鉄と共に、静寂が撃ち抜かれた。いざ、開戦。

 

 

 

 

 

 ラジール駐屯兵の数はリーザス洗脳軍四千、魔物兵二千、ヘルマン兵千。対するカスタム防衛軍改めリーザス解放軍はカスタム兵千、逃げ延びたラジール近衛兵三百。数値のみならば圧倒的に不利。だがコルドバは長年の経験で、魔物兵は進軍部隊としては非常に有効ではあるが、混戦や防衛戦ではその力が殆ど発揮されないと見た。更にこれまでのリーザス洗脳軍の進行は日の出ている内に行われたものが殆どだった。志津香からの情報を鑑みて、リーザス軍を洗脳しているのが人間だとすれば、夜間は休養と取っている可能性が高い。例え洗脳者が万全の体勢だったとしても、四千の兵を直に防衛線につかせることは難しい筈だ。

 

 つまり、ヘルマン兵千さえ突破し、リーザス軍を解放すれば突破口は開ける。そしてこちらにはヘルマンにない強力な魔法部隊と兵器部隊が存在する。コルドバはそこに賭けた。

 

 「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

 コルドバの巨体から繰り広げられる怒涛の破壊力に、ヘルマン兵はその重鎧ごと捻り潰される。今のところ魔物兵は疎らに見えるが、彼らの図体は魔法のいい的となっている。更にリーザス洗脳軍に至ってはまだ姿も見せていない。

 

 「今ならいけるぞ! ミリ! 解放部隊、司令部に突っ込め!! 俺達は敵を出来るだけ惹きつけるんだ!!」

 

 「あいよ! 行くよ皆。トマトもしっかり付いて来な!」

 

 「コルドバさん私頑張ってきます~。」

 

 「おう! 漢見せてやれ!!」

 

 「私、女ですけどね~………。」

 

 

 

 

 完璧と言っても差し支えないほど問題なく進んでいる。チューリップ三号の攻撃力は想定以上のものを見せているし、志津香率いる魔法部隊もかなりの練度だ。このままリーザス軍の洗脳が解かれれば数でも圧倒。最早負ける余地がない。この想定外の余裕に、防衛だけじゃなく、侵攻作戦もたまにはいいなと呑気な考えが顔を見せ始めた。しかし、戦は生き物。常に変化し続けるものなのだ。

 

 

 

 

 「総大将! ヘルマンの援軍がもう既にこの付近まで進軍しています!!」

 

 「なんだとぉ!?」

 

 斥候部隊の一人が伝えた報は、正しく決定的な一打だった。

 

 今までのヘルマン軍による侵攻よりも明らかにペースが早い。完全に予想外だ。司令官のヘンダーソンが戻るまでは早くとも二日掛かると踏んでいたのだが想定外の早さだ。このままではリーザス軍を解放する前に押し切られるかもしれない。

 

 「だがここでの撤退はリーザス軍解放のチャンスを不意にするって事だ…。無い知恵搾り出してみせろコルドバ…っ!」

 

 そう自分に叱咤してみるが、現状取れる手段は、直ぐにでもミリ達を引き帰らせカスタムまで再び戻るか、それともミリ達を信じて守り続けるか。侵攻作戦に不慣れなコルドバにはこの判断はなかなかに難しい物だった。頭を抱えている間にも、刻々とヘルマン軍は近づいてくる。

 

 と、これまで以上の雄叫びがラジールに響き渡る。異様な規模の援軍だ。五百や千では無い。少なくとも三千はいる。援軍というよりは一個旅団規模といっても差し支えないほどの兵がドンドン近づいている。

 

 だが、兵の数など問題ではなかった。その中央で先駆けを務める男の姿。それこそがこの戦の勝敗を決定づける存在であった。

 

 

 「派手にやってくれたではないか、リーザスの青い壁はどこかな? このトーマ・リプトンが相手になってやろう!」

 

 

 人類最強の男、ヘルマン第三軍将軍トーマ・リプトン。リーザス解放軍にとって最悪の一手である。この男の前では歴戦の戦士コルドバですら有象無象として扱われかねないほど、隔絶した強さがある。身長220cm体重150kg。全身に纏った鎧と特徴的な赤髪によって強調されたその巨躯は、周囲の兵士をひと睨みで凄ませる。

 

 「撤退しかねぇなこりゃ。あのじいさんに見つかる前にさっさとミリ達に知らせねぇと…。」

 

 トーマ・リプトンが敵とあってはどうしようもない。そういう男なのだ。だがコルドバは確信した。ここにリーザス軍を操ってる奴がいるのは間違いない。トーマ程の人物が最速で援軍に来たということは、ここにそれだけの価値があるということだ。次こそは必ずと自身に誓い、撤退準備を始めたその時、トーマの足が止まった。

 

 

 

 

 獲物を探すトーマの前に、どこからか男が一人立ち塞がっている。解放軍の者ではない。特徴的な緑の鎧が眩く光る。唐突に現れた男にトーマの歩みが止まり、つられて援軍の兵もランスを囲むように立ち止まる。一人の男が千を超える軍隊を圧えるその光景は、何物よりも素晴らしい名画のようだった。

 

 

 

 「何が人類最強だ。この俺様を差し置いて人類最強を名乗るなんて百万年早い。俺様に殺されることを、光栄に思え!!」

 

 

 

 あいつがククルの言っていた…。あのトーマにタイマン張る程の人物。間違いない! あいつこそ、このリーザスを解放する英雄、人類を導く者、ランス!!!

 




 

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