元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 なんとか誤削除でヘコタれていた気持ちを整理しました。これからも宜しくお願いします。


第二十一話   リーザス奪還編 第十二幕

 今、英雄ランスが歴史の舞台に立ち上がった。舞台は自由都市が一つ、ラジール。相対する役者は人類最強の男、トーマ・リプトン。

 

 「肉達磨風情が人類最強を名乗るとは無礼千万。このランス様に有難く殺されな。」

 

 その様子はまるで象と蟻。一般的な身長と体格のランスだが、かのトーマ・リプトンの前では遠近感覚が狂う程。傍から見ればランスの行動は無謀過ぎる。

 

 「わしに向かってそれだけ啖呵を切るとは。例え相手の力量すら測れない愚か者だとしても、その侠気は讃えてやろう。」

 

 トーマの一声だけで周囲のリーザス解放軍は震え上がる。しかしランスは崩れない。

 

 「へっ、でかい図体に胡座かいてるだけのお前と俺様じゃ全然違うんだよっ!」

 

 それどころか、敵陣ど真ん中だというのに、その胴体に勇み斬りかかったのだ。

 

 「やりやがった! ほんとに挑んでいきやがった!」

 

 トーマが誇る人類最強は伊達ではない。トーマ操る人一人なぞ軽く吹き飛ぶ巨大な鉄球は、どのような手段を使っても防ぎようがない暴力の権化。体格に優れたコルドバであっても、その鉄球の一撃で伸されかねない。1:1を挑むなど自殺行為でしか無いのだ。

 

 愚直なランスの一閃は、甲高い金属音を上げ、トーマの持つ鉄球の鎖に簡単に防がれた。トーマの強みは鉄球の一撃だけではない。その鎖を使った相手をいなす防御技術こそが彼の真の強みである。それ故に老齢になるまで戦場に立つことが出来たのだ。

 

 「なかなか悪くないな。そのちさい肉体でようこれだけの力が出せるわ。」

 

 ランスは我武者羅に片手で剣を振り回す。一見雑で隙だらけだが、良い具合に相手を翻弄し、鉄球という性質上大振りを必要とするトーマの攻撃をさせまいとしていた。だが、ランスの馬鹿力を持ってしてもトーマの大鎧を通せない。只鎧を砕くだけなら簡単かもしれないが、トーマ自身も図体に任せているのではなく、鎖でランスの攻撃を上手くあしらっている。何度攻撃してやった相手を封じているランスと、一撃入れればそれだけで片がつくトーマ。いくらなんでもこのままではランスに勝ち目がない。

 

 「思ったよりも硬いな…。くそっ、人間に負けてちゃ魔人には勝てねぇんだ! ランスアタぁック!!」

 

 痺れを切らしたランスは、ランスの十八番である必殺技ランスアタックを大振りの上段から繰り広げた。剣技能lv2以上が放つことが出来る必殺技、その中でもランスオリジナルのこの技は範囲威力に優れた強力なもの。大振りの貯めからのこの技では、流石のトーマも無傷で防ぐことは出来ないだろう。しかし、この状況でのランスアタックは今まで押さえ込んでいたトーマの鉄球を解放することと同義である。

 

 「馬鹿者が、そのような大振りが仕合で通用すると思うか!」

 

 彼の者老成持重成り。その隙を歴戦のトーマは見逃さなかった。ぐいと鎖を持つ左手を引き、鉄球がぐわんと前に飛び出たところを右手で鎖の付け根を抑える。遠心力を得た鉄球は急速にその速度を増し、ランスの横腹を狙った。空中のランスにはこの攻撃は避けられない。超過重の鉄球とは思えない早業だ。

 

 「ちっ、これでどうだっ!」

 

 ランスアタックとトーマの鉄球が激突した。刹那、昼夜が逆転したのかと思うほどの火花が散り、視界が真白に染まる………。

 

 

 

 

 

 「なかなか派手じゃのー。わしもあのランスアタックとかいうのやってみたいのじゃ。」

 

 「ん~。それにしてもあの男、このままじゃデカブツに殺されちゃうぞ? いいのか? あいつがカオスを抜ける唯一の人間じゃないのか。」

 

 その仕合を呑気に眺めている者達がいた。魔人サテラと丸い者ククルである。楽しそうなククルに対してサテラはぶすっと不満を隠さずに不貞腐れている。それもその筈、サテラはノスにククルの護衛兼見張りを命ぜられ、そのククルがわざわざ人間の下らない争いを見たいが為にゴーレム作成を中断してリーザス城から遠く離れたラジールまで来たのだ。

 

 しかも彼女達の足元にはピンクの髪がつんつんと飛び出たグルグルに布で巻かれた人間らしきものが横たえている。ククル考案でランスを確実にラジールに連れてくるためにランスの奴隷であるシィルを生け捕りにしたのだ。全くもってこの生首、極悪非道である。勿論実行者はサテラであってククルは何もしていない。これでランスがトーマに殺されてしまったら、どれ程ノスから怒られることか…。ぶるる………。

 

 「心配はいらんよ。ランスは負けん。」

 

 「随分と買ってるんだな。」

 

 聞いた限りではランスという男は只の人間。特別な能力も、優れた才能も持ち合わせていない。何故こんなにもククルはランスを信頼してるのだろうか。

 

 「あー、まぁそれもあるが…。サテラ、一対一の殺し合いに勝つには何が必要だと思う?」

 

 「そうだな。力と知恵、それと経験かな。」

 

 ある程度以上の力差があればまず戦いにすらならない。同じ力量の相手ならば、経験と知恵が勝敗を分ける。実に単純なことだ。

 

 「うむ。単純な力も重要だが知略も必要だ。相手の状態や環境を知ることは勝利につながる。更に経験があれば知恵をカバー出来る。だが当たり前に故に忘れてしまう条件もある。それは何が何でも勝つという精神じゃ。」

 

 何を言うかと思えば、実に人間らしい考えだ。とサテラは魔人故に思わざるを得なかった。

 

 「精神論なんかで人間はサテラには勝てないぞ。」

 

 「そりゃそうじゃ。お前は人間に容赦ないしのぉ。だが、ほれ見てみよ。あれが答えじゃ。」

 

 

 

 

 

 視界が晴れた先では未だランスとトーマが対峙していた。しかし、片やランスは膝をつき、トーマは余裕の表情だ。

 

 「ようやったと褒めてやろう、小僧。だがわしと戦うには少々経験不足だな。後十年待てば一介の戦士になれるじゃろう。」

 

 激突したランスアタックと鉄球。ランスアタックであってもその鉄球を破ることは出来なかった。ランスはしたたかに腹を鉄球に打ち付けられ、あわや瀕死の体である。

 

 「ありゃまずいな…。やっぱいくらなんでもトーマの爺と一騎打ちなんて無理だ…。」

 

 コルドバは思案する。ランスは今ヘルマン軍に囲まれている。そこから救い出すには一点直下で突っ切るしか無い。だがそれには兵力が圧倒的に足りない。このまま突っ込んでも犬死にしかない。誰でもいい、手が空いてるものはいないのか。

 

 「大将! リーザス軍の洗脳が解けました!! 反撃のチャンスです!!」

 

 そう。兵力ならば、ある。この場には四千ものリーザス兵がいるのだから。視界に入って来たのは懐かしい黒鎧を来た今だ衰えを知らない老骨。

 

 「バーン、苦労をかけた…。これより我らリーザス軍、国を取り戻すために心骨注ぎ込もうぞ。」

 

 リーザス黒の将軍にしてリーザスを代表する総指揮役。その者の名はバレス・プロヴァンス。

 

 「バレスのおっちゃん!? おっしゃあああグットタイミングだ! ランスを救うぞ!」

 

 黒の将軍を預かるリーザス総大将の名は伊達ではない。まさかバレス将軍がこの地の洗脳軍にいようとは。これならば覆せる。ならば善は急げだ。ヘルマン軍がランスとトーマの対決に集中している今が勝機。バレス将軍と共に、洗脳されていたリーザス軍がヘルマン軍に向かって流れ込む。再び勝利の行方は混沌へと帰した。

 

 

 

 

 

 リーザス軍が洗脳から解けたその時、ランスが駆けた。トーマの懐を狙い、一気に距離を詰める。血迷ったかとトーマは思ったが、その目は勝利を確信した光を灯していた。

 

 「面白い!! 最後の賭けというわけか、来い若造!!」

 

 トーマは油断なく構える。鎖による防御、鉄球による攻撃。ランスが何をしようと立ち向かえる自身と経験がトーマにはあった。さぁ己の力を見せてみよ!

 

 ランスはその手の剣を、投げた。トーマの下半身を狙って全力投球したのだ。これにはトーマも驚嘆するが、所詮苦し紛れの攻撃か、この程度の攻撃ではトーマに手傷すら負わせられない。

 

 「甘いな、若造。この程度の小細工が通用すると思ったか!」

 

 鎖をピンと伸ばし、剣先を地面に逸らす。たたそれだけで、ランスの剣はトーマに防がれた。剣を手放しては何も出来ぬ。これが最後っ屁だったということか。わしに立ち向かってきた久々の漢だったのに残念だ、とトーマが油断した次の瞬間。トーマの鎖が突如としてぐんと地面に引かれた。何事かと現実に戻った時、その視界は塞がれていた。

 

 鎧をつけた男とは思えないほどの素早さでランスはトーマに迫り、トーマの鎖を足場にして跳んだ。剣に気を取られていたトーマは突然の重さに前のめりに倒れ始め、そこにランスの顔面飛び蹴りがブチ当たる。トーマの巨体がゆっくりと傾き、その鉄球が空に放り出される…。そのままランスは瞬時に落ちた剣をその手に握り、トーマの首元に突きつけた。

 

 その場にいた誰もが、予想外の光景に釘付けになった。闘志を漲らせヘルマン軍に突撃を仕掛けるリーザス兵も、リーザス兵の造反に驚き慌てるヘルマン兵も、勝利を確信し高揚するカスタム兵も。只その二人の戦闘に魅入られた。

 

 

 

 「俺様の勝利だっ!」

 

 

 

 ラジールに、肉を切る音が、静かに木霊した。

 

 




 スペシャルサンクス   鉄球攻撃指南  あびゃく様

 というわけでラジール攻防戦でした。酒が入っているのでまともな文章が書けているかちょっと心配です。

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