元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 リーザス編でのほのぼの最終回…?


第二十二話   リーザス奪還編 第十三幕

 「トーマが、師匠が死んだ…だと!?」

 

 ラジール攻防から二日、トーマ戦没の報がリーザス城のパットン皇子に届いた。トーマはヘルマン軍、いやこの大陸の軍人の象徴たる存在。パットンの師匠でもあるそのトーマ敗北を、彼はにわかには信じられなかった。思わず前のめりになり、斥候に再度問い詰める。

 

 「はっ…、第三軍将軍トーマ・リプトンはラジールにてリーザス奪還を目論むカスタム軍と戦闘。突如現れたランスと名乗るカスタム軍協力者と一騎打ちにて敗北。同時にリーザス軍の洗脳が解け、死体の確認は出来ませんでしたがトーマ将軍は恐らく死んだものであるかと…。」

 

 「そうか…。トーマ、お前はやっぱり…。」

 

 悲壮感漂う謁見の間にひっそりと佇む女が一人。彼女は黒髪のカラー、ハンティ。何百年もの時をヘルマンで過ごした伝説のカラー*である。ミスナルジを支えるものとして、戦死したトーマとは旧知の仲であった。

※ 人間にそっくりな別種の生物 額にクリスタルが存在する女性体のみの種族 わかりやすく考えるとエルフっぽい何かである 呪術に優れていることでも有名

 

 彼の死に、悲しみは多分にある。だが、そのための涙はリーザスに来る前に流したのだ。

 

 「そ、そんな馬鹿な…。それでカスタム軍は今どうなっている。」

 

 「ラジール解放の勢いのままにレッドの街を襲撃、守備隊司令官フレッチャー・モーデルは単騎で最後までリーザス軍へ立ち向かい、壮絶な戦死を迎えたとのことです。」

 

 既に状況は突然訪れた嵐に完全に転覆された。リーザス全土を抑え、あわや自由都市もとゆうゆう侵略を開始したと思えば、いつの間にかリーザス洗脳軍は造反。カスタム軍の予想以上の戦力。トーマ・リプトンの戦死。いったい何が悪かったというのか。このために募った優れた兵士達。用意周到な襲撃。迅速なリーザス統括。更には魔人によるバックアップ。一体これで不可能ならば何を持ってして可能と呼べるのか!

 

 

 ふつふつと怒りが湧いてくる。何故だ。何故俺はこんなにも上手くいかない!

 

 

 「ヘルマン本国から援軍はまだ来ないのかっ!?」

 

 パットンは我慢ができる穏やかな男ではない。その怒気を隠さず顔を膨張させ、ぐわっと立ち上がり周囲に悪態を巻き散らす。

 

 「パットン…、そんなもん来やしないよ。期待しても無駄さ。」

 

 「くそっ! サウス防衛のミネバ隊長をリーザスの守備に回せ! サウスは敵に渡しても構わん!」

 

 こうなればリーザス城で解放軍を打ち砕いてくれる! ふざけるんじゃねぇ、なんで俺ばっかり…っ!!!

 

 

 

 

 「まずいわねぇ、まさかトーマちゃんがやられちゃうだなんて…。それにこのままじゃミネバが実質ここの頂点。もしかしてわたし達、詰みかしら?」

 

 リーザス城に留まっていたヘンダーソンにも解放軍に只ならぬ雰囲気を感じ取った。この戦の流れは良くない。相手側の戦略だとかそういうレベルの勢いではないのだ。確実に裏で誰かが手を貸したのだ。そう、このわたしのように美しく強い誰かを!

 

 

 「何故私に話を振るんだ…。」

 

 

 一方アイゼルも今窮地に立たされていた。それはトーマの戦死などではない。アイゼルにとって人間風情のことなどどうでも良い。正直なところヘルマンが勝とうが負けようがもう関係ないのだ。

 

 問題は横でくねりくねりといやらしく踊る吐瀉物だ。ラジールからの報を聞いてからヘンダーソンは何故か異様にアイゼルに迫り続けているのだ。それは頼りになる上司が死んだことによる不安をいじらしく表した乙女行動だったのだが、如何せん媒体が悪い。

 

 「いやんアイゼルちゃん恥ずかしがらなくてもいいのよ。」

 

 「やめろ! ナチュラルに腕を組んでくるな!!」 

 

 

 

 

 

 「おーいつの間にか随分と仲良くなったもんじゃのぉー。」

 

 「お似合いのカップルだな。ぷぷぷ…。」

 

 ひょっこり顔を出した、というか顔しか無いそれを出したのはククルとサテラ。どうやら上手くリーザス解放軍に見つからずに無事帰還したようだ。心なしかシーザーとイシスが活き活きとしている。サテラに傷を負わせなかったからだろうか。両手を腰に、なかなかどうして感情豊かなゴーレムである。

 

 「良いだろう。お前達全員を洗脳してこのオカマと強制的に結ばせてやる…!!!」

 

 「なっ、ななななんと悪趣味な! 」

 

 なんて恐ろしい発想だろうか。 とても美しさを誇る魔人の台詞とは思えない!

 

 「サテラサマ オカマ カラ マモル!」

 

 先ほどまでの余裕が嘘のようにシーザーとイシスがサテラを庇うようにがっしり仁王立ちである。そう、ラジール往来の道中などではない。ここが彼らの正念場だったのだ___。

 

 「結果として、わたしだけが傷つけられているように感じるのは気のせいかしら…。」

 

 

 

 

 

 「丁度良い、皆集まっているな。」

 

 「ようやっと来たか。遅いぞノス。」

 

 やはり、ノスが来ると空気が変わる。その重厚な姿には空間凍らせるだけの迫力があるのだ。これにはふざけていたアイゼルとサテラも着を正す。

 

 「ノス殿、我らに話とは一体。もう既にカオスを抜くものは判明し、魔人が敵だということも奴に知らしめました。これでどう転んでもカオスを壊す算段は付きましたよ。それに出来れば私が戦闘に出てはいけない理由もお聞かせ願いたいですな。」

 

 ククルとノスによると、カオスの封印を解くことが出来るのはランスという男。そのランスには既に策を巡らせ、ほぼ確実にリーザス上へ封印解きに来るとのこと。更にカオスを叩き折るのは一人でも不可能ではない、とは実際にカオスを見たことのあるノスの意見。正直な所、ここにとどまり続ける事に意義はない。今更話しなどすることがあるだろうか。それにここ数日何故かアイゼルは外出禁止の命をノスから受けていた。子供か。

 

 「あ~、そりゃわしの案じゃ。アイゼル安心しろ、御主は強い。だが何にしても例外はある。理由は言えないが御主のためなのじゃ。信じてくれ。」

 

 「言えない理由で信用しろとでも? 元魔王という肩書だけの貴方を?」

 

 「肩書だけとは酷いことを言うのう。この数日でわしと御主の中は互いの肩書だけではなくなったと思ったのじゃが…。」

 

 目を逸し、口を尖らせ、ちょっといじけてみせるククル。なかなかに、可愛いかもしれない。首から下を隠せば。

 

 「ふん。まぁ…、いいだろう。」

 

 にひひと笑うクルル。思ったよりもこの魔人。ちょろいな。

 

 「うむ。まずは皆ここまでよう働いてくれた。」

 

 やっと話しだしたと思いきや、即座にサテラが手を挙げる。だから子供か。

 

 「サテラは働いたけどアイゼルはなんもしてないぞー。」

 

 「空気読まんか己は!」

 

 「確かにカオスは既に壊したも同然だ。わしはこの国でホーネット派の息がよりかかるよう尽力を続ける。御主らにはホーネット様にこれまでの軌跡を伝えてほしい。」

 

 「ん? それならサテラだけで十分じゃないか? アイゼルなんて連れても自慢ばかりでなんの役にも立たないからな。」

 

 「この……っ!!! ふっ、確かに一人で十分というのには賛成だ。勿論私が!ホーネット様の下へ参上する場合だがな。こんな学のない餓鬼一人では役に立たまいと心配するノス殿のお気持ちもわからんではないがね。」

 

 「ププププププ、ヒッ、ヒーっ!」

 

 餓鬼と呼ばれてカッとなるサテラ…。命令によるものだったというに、能無し扱いにプライドを傷つけられ挑発するアイゼル…。神妙な表情で語ろうとしたまま固まったノス…。どうしようもなく状況が面白く笑い転げるククル…。

 

 

 

 コホン。

 

 

 

 「…アイゼルが言った通り、このリーザスに留まるのは俺一人で十分だ。それよりもホーネット様の近くで役に立てるよう尽力しろということだ。」

 

 「ふむ、ならばお言葉に甘えよう。何かホーネット様に伝えることは?」

 

 「そうだな…。済まなかった、と。」

 

 「…不思議なことを言う。むしろノス殿の功労だろうに。」

 

 「それじゃあ皆。ここでお別れね。」

 

 「シーザー、イシス、ホーネット様にさっさと会いに行くぞ。ホーネット様はサテラがいなくてつらい思いをしているに違いない。」

 

 「うむ、達者でな。わしはノスと共にここに留まるのじゃ。いつかまた…の。」

 

 「また皆で会えることを祈りましょう! それじゃあ皆!! 解散ね!!!」

 

 再び魔人たちはバラバラに動く。それぞれの目的のために。アイゼルは自身が認める強者、ホーネットのために。サテラは自身が親しむ幼馴染、同じくホーネットのために。ノスは自身が敬する主君、魔王ジルのために。ククルは自身が愛するケイブリスと自分自身のために。ヘンダーソンは自身の美を更なる高みへと昇華するために!!!

 

 

 

 「ん? なんじゃ先の会話に凄い違和感を覚えるのじゃが…。はて…?」

 

 

 

 




 次回はいよいよリーザス城戦です。さらりと会話に交じるヘンダーソン。

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