元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 今週を乗り切れば…明日が見えるんだ…!!  明日も仕事です。


第二十五話   リーザス奪還編 第十六幕

 リーザス城に慌ただしくヘルマン兵が駆けまわる。リーザス解放軍に追い詰められたヘルマン軍は未曾有の大混乱に見舞われていた。数刻細前に解放軍の動きを伝えるために伝令がいつも通り謁見に向かうと、そこには自堕落な王の姿はなく、大量の親衛隊の冷え切った身体が横たえていたのだ。噂が噂を呼び、魔人はパットンの異母妹であるシーラ派についたのだの、リーザス解放軍にはシーラ派の息がかかっているだの、ヘルマン軍は主導者を失くし既に統制の取れないほどとなっていたのである。

 

 「おい! パットン様が魔人にやられたらしいぞ!」

 

 「やっぱり人間が魔人を従えるなんて無理なんだ!!」

 

 憶測に制御を奪われ、慌てるヘルマン兵が次々と詰め所から走り去って行った。と。その詰め所の裏手、人のいるはずもない空間からドタドタと大きな音が聞こえてきた。

 

 「がはは! ほらちゃんと着いたぞ志津香!」

 

 現れたのは全身傷だらけだが、元気有り余る勇猛な男。更にそのランスに続いて三人もの女が顔を出した。

 

 「レイラさんがこのままじゃ危ないわ。まずは医務室を探さないと…。」

 

 ランスの次はくノ一の少女かなみ。きょろきょろと回りを見回し、情報を得ようとするその姿は精良なくの一を連想させるのだが。続いては緑の魔法使い、志津香。なんとも腑に落ちないといった様子であった。

 

 「本当に道を教えるなんて、何が目的だったのかしら…。」

 

 最後に志津香に手を引かれながら現れたのは軽鎧の女、レイラはヘルマン軍隊長ミネバの爆発によってその背に大きな傷を負っていた。今直ぐにでもこの傷をどうにかしなければレイラに未来は無い。

 

 「これくらい大丈夫よ…。大局を、見失わないで…。」

 

 だがレイラはこの状況で、自身を優先することを良しとしなかった。それは親衛隊隊長としての矜持か、レイラ・グレクニーとしての願いか。

 

 「…わかりました。ランス、私はこれから城門の解錠に向かうわ。それが終わり次第世色癌を見つけて合流する。地下牢獄はそこの詰め所から下に向かえば直ぐ付く筈よ。」

 

 この状況で単独で動けるのは仮にもリーザスに仕えるかなみだけ。殆ど動けないレイラはここで一人待機するか、ランスにおぶってもらうしか無いわけだが仮にも敵陣内での待機は危険過ぎる。それに、ランスとしては女が死ぬのは見過せない。必然的に動けるのはかなみだけなのだ。

 

 「俺様達はリアを探して魔人をぶっ殺しに行く。いいな?」

 

 かなみは頷くと、直に踵を返してリーザス正門へと駆け出した。ここからは時間が勝敗を分ける。魔人に気づかれる前になんとしても魔剣カオスを手に入れなければ。

 

 「よし、さっさと行くぞっ!」

 

 

 

 レイラを肩で持ち上げ、どたどたとランス達は地下へと進む。段々と調度品の数が減り、遂に重苦しい鉄製のドアが現れた。この重々しさは間違いなく牢獄であるはずだ。時間はない。鍵など用意できるわけもなく、ランスは渾身の力を込め躊躇せずその扉を蹴り開けた。

 

 「リーザス親衛隊レイラです! 皆様を、助けに来まし………た!?」

 

 拷問を受け、苦しんでいるであろう王室の人々を想像していたランス達の目の前に広がったのは、黄金に煌くこの世の栄華を極めた姿だった。天蓋付きのベット。優雅な湖畔の絵画。何十人もの職人が命を削り作り上げた荘厳な絨毯などなど。果てにはメイドまで完備である。

 

 「あ、ダーリンおっそーい。リア待ちくたびれちゃった。」

 

 天蓋のベットから顔を出したのは、投獄され拷問を受けていると思われていたリーザス王女リア。

 

 「な、なんじゃこりゃー!」

 

 さしものランスもこれには絶叫。駆け寄るリアも無視してこの状況に只絶句した。何がどうして人質であるリアがこのような環境に置かれているのか。これではそもそもランスがここに来る意味があったのかと色々失いそうである。

 

 「くそっ、ついでとはいえ助けに来た俺様が馬鹿みたいだ…。」

 

 「やーんそんなこと言わないで、ダーリン。」

 

 喜びを隠さず、リアはランスに走り寄るとそのまま抱きついた。この様子ではとても苦渋を飲まされていたとは考えられない。

 

 「だいたいなんだそのダーリンってのは。」

 

 「きゃ!? ダーリンひどい怪我!?」

 

 ランスに抱きついた途端、リアの純白のドレスが一瞬にして赤い染みに染まった。ランスは依然としてミネバとの一騎打ちの傷が癒えていないのだ。この状態でここまでその体力を失わずに来れたこと自体が驚きなのだ。

 

 「もし、そこの方…。」

 

 キラキラと欲が輝く部屋に、ひたむきで清純な声がかかる。酷い言い方だが、この純粋な声色はリーザス城の者ではない。牢獄とは思えない凄まじい絢爛な部屋の隅に、一応牢獄としての名残か何室かの牢屋があり、その中に幾人の修道女が投獄されていた。声の持ち主はその修道女の一人である。しかし、一体この部屋の状況は何なのだろうか…。何故このような自体に陥ってしまったのか…。

 

 「ん? おお! これはなかなか…。」

 

 「わたしはセル・カーチゴルフ、レッドの街の修道女をしています。多少神魔法の心得があります。助けて頂くせめてものお礼に是非お二方の傷を治させて下さい。」

 

 声の主はAL教徒セル・カーチゴルフ。レッド陥落時、ヘルマン軍によって捕縛され、何故かリアと同じ場所に投獄された真っ直ぐな彼女はこの英雄との出会いを運命と思ったとかなんとか。

 

 「可愛い上に回復要員にもなるのか。これはいい女だ…。お礼なら回復より欲しいものがある。」

 

 「私に叶えられるものでしたら如何様に。」

 

 ランスが女に求めるもの。それは唯一にして絶対。相手が王女だろうが魔王だろうが神だろうが変わらない唯一つの願い。

 

 「うむ。ずばり! セックスだ!!」

 

 「それはダメです。神の教えに背きます。」

 

 残念ながら、セルが崇拝するAL教は快楽としての性を禁じているのだ。実はこの前にもハニワ教徒に同様の理由で断られたランス。彼の中で信教のイメージが面倒くさいものから邪魔なものに切り替わったのは間違いないだろう。

 

 「どうしてものか!?」

 

 「ダメです。」

 

 「ぐぬぬ…。」

 

 何故か、本当にどうしてかセルには頭が上がらないランスであった。

 

 

 

 「さてと、遂にこの時がやってきたのじゃ。」

 

 部屋の外、灯りを消した廊下から牢獄の扉をじっと見つめるものが二人。リーザス陥落の裏の首謀、ククルククルと魔人ノスである。

 

 「長かった。只々、長かった…。」

 

 今ここにカオスの封印、ジル復活の鍵が揃った。リーザスを継ぐ者、リアとランス、リーザス聖武具、カオスを持つもの。満を持して、ノスの悲願が叶う。

 

 「果報者じゃの~。だが、わかっておるのか? ジルがどのような行動に出るとはわからんのじゃ。最悪わしが危惧するようなことになるやもしれんのだぞ。」

 

 「何を今更、全てを投げ捨ててジル様に仕えたこの命。俺はジル様のためを思ってのみ行動するまでよ。」

 

 不安を煽るククルの言葉もなんのその。ノスは溢れんばかりの忠誠心を胸に、再びジルのために全てを注ぐ決意を表した。全くなんともいい人生観をしている。

 

 「あ~羨ましいのぉ。今からでもわしに鞍替えしてもいいんじゃぞ?」

 

 ほしいのぉ、ほしいのぉ。行動を共にしたこの数日間でククルはノスのことを甚く気に入っていってしまった。これは誠、逸材である。死なせるのは惜しいなんてものじゃあない。このままでは、ノスは知識通りならばランス達に殺されてしまうのだ。とはいってもノスの行動原理はジル第一である。いったいどうしたものか………。

 

 「ふはは! もう少しまともな格好になってから言うのだな。見ろ、人間たちが動き始めた! 此方も動くぞ!!」

 

 見ればククルの指定でわざわざレッドから連れてきたセルに治癒を受けたランスが此方に向かってきている。ノスを何とかするための思考は一旦お預け。魔王ジルが、復活するのだ。

 

 

 

 「ふはははははは! ぐわっはっははははははは!!」

 

 「喧しい! 飼い主を心待つわんわんか己は!!」

 

 




 繋ぎの話って結構難しいものですね。それにしてもジル復活引っ張りすぎですね…。いい加減起こしてあげたい。

 尚、これは予約投稿です。感想の返信などが出来るのは明日の夜になりそうです。もし修正すべき箇所があった場合、明日の夜までは放置する可能性があります。どうかご理解お願い致します。

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