元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 ジル様いい加減起きて下さい回


第二十六話   リーザス奪還編 第十七幕

 「おお、本当に出てきたぞ。」

 

 ランスがリーザス聖武具を装備しリーザスの継承者であるリアと並び立つ事で、カオス封印の間へと続く秘密の階段を出現させていた。

 

 「どうせなら二人のキスで道が現れるとかが良かったのに…。」

 

 ランスのこととなると王女の鉄仮面もかなぐり捨てて乙女道まっしぐらである。こんな姿を晒してはいるが、リアは何人もの無垢なる女性たちを自らの気の向くままに誘拐拷問した過去を持つ女であった。そんなリアを過去に矯正したのがランスだったというわけだ。

 

 「双方が男性であった場合を考えると悲惨ですね。」

 

 話に突っ込んだのはリアの侍女マリス・アマリリス。政治も給仕も管理もツッコミも、全て一人でこなすスーパーウーマンである。

 

 

 

 

 「がはは! なんだか知らんが裸にならなきゃならんとは恐ろしい罠だ! うほほ、かなみはもう少し食べたほうがいいぞ。」

 

 階段を下り続けると、突如道そのものが煌々と輝き放つ長い道が現れた。驚くべきことにその光の道は魔物と服を来た生物を拒むのだという。

 

 「なんでこんな仕組みになってるのよーっ!?」

 

 仕方なしにランス達は服を脱ぐこととなったが、仕える主であるリアの前でかような姿を晒す事に恥辱を禁じ得なかった。

 

 でもリア様のためなのよ…。カオスを手に入れてリーザスを救うため…。ランスが喜んでいるのを見て喜ぶリア様のため…。

 

 「あっ!?」

 

 「ダーリンどうしたの?」

 

 「志津香のやつも連れてくれば良かった…。くそっ、俺様としたことが。」

 

 志津香は投獄された人々とレイラを護衛するために一旦別行動中。ここにいるのはランス、リア、マリス、かなみであった。

 

 「ランス殿…。」

 

 恥を忍んだ裸のかなみとマリス、更にはランスを甲斐甲斐しく愛そうとするリアの目の前でこの台詞とは流石ランス。

 

 目の前にリア様がいるというにこの態度とは。こんな男のために…。だけどこれも結果としてリア様のため…。リア様のため…。立場は大きく違うが、その胸中はかなみもマリスも同じなのかもしれない。

 

 

 

 

 秘密の階段、続いて光の道を抜けてみれば、ランス達は異様に古臭い傷んだ石の台座のみが鎮座する部屋に辿り着いた。室内は光の道から漏れる明かりに薄暗く照らされ、台座の上にギラリと鈍い輝きが灯る。よくよく見れば、台座には黒い柄の長剣が深々と突き刺さっているようだ。独特な意匠の柄はまるで生き物のように揺らめいている。これが魔人に対抗することの出来る伝説の魔剣、カオス。

 

 「こいつが魔剣カオスか、さっさと抜いて魔人をぶっ殺しに行くぞ。」

 

 しかしランスはこの雰囲気にも負けず、どかどかとその裸体を恥じること無く突き進む。何人も近づけさせまいと感じさせるカオスのオーラなどお構いなしだ。

 

 「ランス殿、待って下さい。このカオスは伊達に魔剣と呼ばれてはいません。カオスを持つものはその精神を侵され、元の人物とは似ても似つかない怪物になってしまうというのです。ですから___。」

 

 スポッ。

 

 「あ? なんだって?」

 

 「___対策も何も取るのは危険ですと言いたかったのですが…。」

 

 ランスはぶんぶんとカオスを振るう。台座から抜き取るまではオドロオドロしい雰囲気を放っていたカオスだが、どうやら特に問題はないように見える。ランスという男はもしかすると別次元の法則に基づいているのか、とマリスは疑わずに入られない。

 

 「流石ダーリン! 魔剣にも負けないだなんて。」

 

 もしやするとリア様がランスに恋心を抱いたのはこの事実を何らかの形で感じ取ったからなのだろうか…。マリスはこれまでにないほど喜び騒ぐリアと、それに調子を良くして笑うランスの姿を一言も発さずに見続けた。これがリア様の求める未来なのかと…。

 

 「がっ!?」

 

 突然、視界に映るリアとランスの笑顔が歪む。首下を襲う激しい力の奔流に呼吸が止まりそうになる…。

 

 

 

 

 「ランスよ。よくぞ封印を解いてくれた…。礼を言おう」

 

 カオスの取得に喜ぶランス達の前に、再び暴風が吹き荒れた。身長167cmのマリスを軽々と持ち上げ、唐突にランスへ謝辞を述べたは魔人ノス。その身体からは湯気のように、もやりと知覚出来るほどの闘気が漲っている。

 

 「てめぇはあの時のくそったれな魔人!? 丁度いい、このカオスで往生させてやる!!」

 

 あの時の恨みをランスは忘れていなかった。いきなり現れて、いきなり負けた。男ランス、人生始まって以来の屈辱だった。

 

 きっとこいつが魔人の親玉。シィルを攫ったのも此奴に違いない。あの時シィルを連れた俺様を見て嫉妬したのだ。だからこそあんな不意打ちなんて汚い真似をしてまで俺様を倒したかったのだ。間違いない。

 

 「この女の命が惜しくはないのか?」

 

 とはいえ今のノスの手にはマリスの命が握られている。マリスはここで失うには惜しい女だ。ランスにとって気に入った女の命は、魔人一人の命とは比べ物にならない程重いのだ。

 

 「ちっ、今日はやけに俺様の女が狙われるな…。」

 

 

 

 

 

 命の遣り取りの裏側。時と場所を同じくして、ランス達に立ち塞がるノスの背中には人の頭ほどのサイズの毛玉がくっついていた。その情けない体たらくを魅せつける謎物体はククルククルである。

 

 「これっ! テンション上がるのはわかるがもうちいと力を弱めんかい! 苦しんどるだろうが!!」

 

 ノスに首で持ち上げられ、マリスは悲痛なうめき声を途切れ途切れに上げている。下手をすればこのまま涅槃の旅へと行脚してしまうだろう。ランスを支える重要人物をここで無くすわけにはいかないとこっそりノスに話しかけてみたのだが…。

 

 おお、ジル様が復活する…! 地竜ノス、この時を千年お待ちしておりましたぞぉおおおお!! うぉおおおおおおおおおおおお!!!

 

 …あかんこれは聞いておらんな。ノスはその瞳を真っ赤に充血させ、ぷるぷると感動に震えている。いやはやここまでジル馬鹿だったとは。お、おいっ! ノス! 止まるのじゃ!! 震えすぎじゃ!!! 落ちるっ…!? 落ちるっ…!!!

 

 

 

 

 

 その時。ぞわり、とランスの背中を正体不明の何かが這いずりまわった。嘗て感じたこと無い感覚に、バッとランスは本能で背後を見やる。

 

 「ジル様…。よくぞご復活なされました…。」

 

 カオスが封印されていた台座の上に、いつの間にか全裸の少女がいる。薄暗い室内に浮かび上がるその姿はまるで現実味がない。普段なら裸の女が目の前に出れば、自慢のハイパー兵器がシャキーンのズババーンとなる筈。だが、ランスが女から感じたのはひたすら焦燥のみだった。

 

 「なんだお前はっ!?」

 

 「………ノス。…よくやってくれました。遂に私はカオスの呪縛より解き放たれた…。」

 

 思わず叫びかけるランスだが、女はランスを一瞥することもなく、淡々とした様子でノスに話しかける。なんだこんなふざけた女は!

 

 「俺様越しに話を進めるな!! 誰だと聞いてんだっ!?」

 

 「貴様のような人間風情が知る必要のない御方だ。」

 

 間髪入れずにぴしゃりとノスが口を挟む。悔しいがノスの言う通りこの女から確かに隔絶した何かを感じてしまう。本能が秒速100mでここは危険だと逃げまわっている。

 

 「ノス。私は長きに渡る封印で力を失っています。あなたが私の手足となるのです。まずは手始めに忌ま忌ましいカオスめを叩き折りなさい。」

 

 「はっ。ランスよ、女が惜しければカオスを此方に渡してもらおうか。」

 

 状況は最悪だ。先のミネバとの戦いのほうが余程気楽だった。マリスを人質に取られ、動くことも許されず、果てには得体のしれない女によって挟み撃ちされている。だいたい防具もつけていない状況なのだ。これでは勝てるわけがない。

 

 「…くそっ。」

 

 ランスはカオスを地面へと放り投げる。その軌跡が地にたどり着く前に、ノスの一撃によって伝説の魔剣カオスは砕け散った。

 

 「ジル様、この者達は如何しましょうか?」

 

 「私をカオスから救ってくださったのです。命までは取らなくても良いでしょう。」

 

 それだけを言い残すと、ノスとジルはゆっくりと部屋から離れていく…。魔人を倒すべく数多の惨禍を乗り越え、漸くカオスを手に入れた結果がこれか。余りの出来事にランス達は言葉を失った。絶望的な状況だ。一体どうすればノスとあの女を倒すことが出来るのだろうか…。

 

 

 

 

 「んぉ? 千年ぶりに出て来てみればいきなり裸のねーちゃん達とは絶景かな!」

 

 

 

 

 絶望に打ちひしがれ、マリスの嗚咽だけが響き続ける封印の間に、どこからか聞き覚えのない男の声が奏でられた。一体どこからとランスが見渡せば、その声の正体はなんと魔剣カオス。

 

今ここに伝説の魔剣、カオスが覚醒する。

 




 昨日の想定外なランキングINに伴う大量お気に入り増加に戸惑う作者です。今後の展開に期待して登録して下さった皆さんのためにも頑張りたいと思います。

 主人公は次回しっかり喋りますのでご勘弁を。滑り落ちそうで会話に入り込む暇がなかったのです…。

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