元魔王ククルさん大復活!   作:香りひろがるお茶

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 魔王と元魔王の会談です。


第二十七話   リーザス奪還編 第十八幕

 

 リーザス最上階、闇夜に聳え立つリーザス王城にて、人ならざる者達が二人。

 

 「ジル様。このリーザスからお離れになられないのでしょうか。」

 

 魔王ジル、人間の国リーザスの王座に坐す。その顔からはどのような表情も伺えず、リーザスの栄華の象徴たる王の間はその煌めきを曇らせていた。

 

 「良いのです。カオスは既に葬られました。今は魔人領にいるよりも都合がいいでしょう。」

 

 封印の魔から立ち去ったジルとノスは本来魔王がいるべき場所、魔人領に帰ることはなかった。

 

 魔人領は正に魔王にとっての聖地。何故ジル様は復活直後で衰退しているにもかかわらずこの地に留まることをお選びになられたのだろうか、と疑問がノスの頭を一瞬よぎる。しかしジル様の行動は絶対。俺は只従うまで。

 

 「それで、ノス。あなたの背中に付いているそれは…なんですか。」

 

 ノスがジルに対し、了承の意を込めて礼をすると、その拍子にぼてんと毛玉が床に落ちうめき声を上げた。追加で人ならざる者が一匹か。

 

 「ぅぐっ!? むっ、遂に見つかってしまったか! ならば仕方ないのじゃ。」

 

 毛玉はのそのそと動き、ジルの足元まで進むと、その髪を掻き上げたかのように動かし、ガッツリ決め顔で名乗り上げた。

 

 「わしは初代にて歴代最強の魔王、ククルククルじゃ!」

 

 「…ノス。一体何時から斯様な愛玩動物を飼っているのですか。あなたがこのような趣味に目覚めるとは意外です。」

 

 「か、がはっっっ…!?」

 

 

 

 

 

 「ではあなたが本当に初代魔王なのですね…。」

 

 「驚くべきことですが左様です。この俺が生き証人となりましょう。」

 

 一向に毛玉が初代魔王ククルククルだと認識できなかったジルだが、ノスの助勢もあって漸く話が進みそうである。

 

 「わ、分かればいいんじゃよ…。分かれば…。」

 

 しかし、ククルには悪いが流石のジルであってもこれが嘗ての己より格上とされる存在だったなど信じたくはないだろう。

 

 「カオスの呪縛から私を開放するのに尽力してくださったようですね。目的はわかりませんが一先ず礼をしましょう。」

 

 意外にもジルはククルに対し頭を垂れた。軽くではあったものの、絶対強者である現魔王が他の生物に頭を下げるなどとても信じられるものではない。 これにはジルという魔王の人物像が深く関係している。ジルは元賢者であった。最悪の魔王とその暴虐性が後世では語り継がれる傾向にあるが、その 本質は知識と術。ジルは魔王について深い知識を得る際に初代魔王ククルククルについて可能な限り知識を集めていた。一騎当千何千何万ものドラゴンへ と立ち向かった最強の魔王。この伝承には流石のジルも驚嘆通り越して呆れた果てたという。まぁ、現実は理想とは幾分違ったようである。

 

 「よいよい。わしとしてもお前さんには会ってみたかったからの。」

 

 気を良くしたククルは器用に王座を登り、肘掛に陣取った。なんとも厚かましい限りだ。

 

 「ククルククル殿。出来ればあなたの真意を、加えてどのような方法現代に生き返ったのかを教えていただきたいのですが…。」

 

 ジルは今までの濁った瞳ではなく、何か希望を見出したかのように焦りとも喜びとも言えぬ感情を顔に表してククルに問い詰めた。これはひょっとするとジルがどのような存在であったかを知る千載一遇の機会かも知れない。

 

 「生き返った理由はようわからん。いつの間にか生き返ってた。只それだけじゃ。」

 

 「それに魔王としての力を完全に失っているようですね…。ノス、私は少々ククルククル殿と話があります。」

 

 「はっ、それでは失礼致します。」

 

 ノスはククルを軽く一瞥する。ククルとしても特にジルに何かする気もない。ククルが安心しろと視線を返すと、視線代わりに踵を返して立ち去っていった。

 

 王の間にいるのは元魔王と魔王ただ二人。

 

 「…ククルククル殿。貴方はもしや魔王の力を捨てる方法を御存知なのですか…?」

 

 先に口を開いたのはジルだった。この発せられた内容に、ククルは自分の予測していたものが正しかったことを確信した。

 

 「どういう意味じゃ?」

 

 だがあくまでもククルは素知らぬ顔で通す。ククルの予想通りならばジルがリーザス城に留まり続けたことも、ランス達を殺さなかったことも、数多ある魔王としての違和感も十分に理解できる。

 

 「そのままの意味です。私にその方法を教えて頂きたいのです。」

 

 「それを知ってどうするのじゃ。魔王をやめるつもりなのかの。」

 

 魔王とはこの世界の絶対強者。ジルは自らの意思でそれを放棄したいと語る。

 

 「貴方も魔王だった筈です。ならば私の意図がわかるのではないでしょうか?」

 

 確かに魔王は絶対王者ではあるが、その行動は神に定められた暴力的な法則性に従うことを強制され、ある種の奴隷とも言えるのだ。

 

 「まぁ、の。所詮魔王は神の下僕。…ジル、やはり御主理性が戻っておるな?」

 

 だがこれをククルは魔王になってから二千年もの間、自覚出来たことがなかった。これは魔王という束縛から開放された今生において漸く認識することが出来た事柄である。それを一割にも満たない魔王の力しか所持していないとはいえ、現魔王が語ることがどれだけ異常な事態だろうか。

 

 ジルは言葉を詰まらせ、俯きそのまま押し黙った。魔王になる前の理性がある。それはつまり、魔王が及ぼす害悪もその力の割合に準じている可能性が高いという事。唯一魔王の力の一部だけを持つ存在であるジルはその空論を証明しているのではないか。

 

 「ふん。御主は魔王の身で人間に見惚れ、その人間に封印されたらしいの。秋の鹿は笛に寄るというが、随分と又大きな鹿が掛かったものよ。」

 

 ククルは芝居のかかった大げさな口調でジルの過去をなじるように語る。魔王相手に喧嘩を売っているようにしか思えない行動だ。

 

 「私がガイに抱いたものはそのようなものでは…有りません。」

 

 だが、それにも関わらずジルは依然として俯いたままだ。ここが正念場、もうひと押しとククルは畳み掛けるように続ける。一体何をしようというのだろうか。

 

 「そして女死なずともその男去りし後。なんともっ………悲しい話じゃな。」

 

 ククルが言い終わる前に、視線の数ミリ先にバチバチと凄まじい金切り音を上げる雷球が現れた。後少しでも雷球が動かされれば、ククルの命は元魔王という肩書も意味なく掻き消えてしまうだろう。

 

 「例え初代魔王としてもそれ以上の侮辱は許しません…。」

 

 だがそんな状況とは裏腹にククルの心情は有頂天と言っていいものだった。よしよし、これで良い。魔王の力による暴力性は押さえられているが、それが諦観によるものでは意味が無いのだ。

 

 「おんや? 魔王を辞める方法を知ることが出来なくなるやもしれんぞ?」

 

 余程魔王を辞める方法を知りたいのか、意外にもジルは怒りに満ちた顔を歪ませ、雷球を胡散させ押し黙ってしまった。

 

 これでは魔王というよりも、意に反した巨大な力を手に余らせているだけの人間じゃな。ん、そろそろ復活するか。

 

 「それにしても最悪の魔王とは、本当に甘いものだな。ほれ、来るぞっ。」

 

 「ッ!? この拍動は…!!」

 

 

 

 リーザス城が鼓動した。ジルは想定外の出来事に狼狽する。ククルにこの状況を問い詰めようとした時、そのジルの首元を、ゾリっと舐めとる感触が襲った。カッと目を開き、恐怖に焦点が定まらず駆け回る。この強烈な殺意は…間違いない、魔剣カオス!!

 

 

 

 「ノ、ノスッ!? どこにいるのですかノスッ!? カオスをなんとしても葬りなさいっ!!」

 

 ジルはククルの存在すら忘れて、ひたすらに忠実なる下僕、魔人ノスを探して王座から駆ける。部下の庇護を求めて走る儚げな背中は、とても魔王とは思えない見目相応の少女のそれであった。千年もの孤独によるものか、魔王の血が薄れた結果だろうか…。

 

 

 

 

 

 「ふむ。憎悪と殺戮の人生、これがその末路か。ま、わしが終わりにはさせてやらんのじゃがな!」

 

 




 今回かなり時間がかかってしまいました。いつもより一時間遅れの投稿ですが、一応書き上がりましたので明日に伸ばさずに投稿しました。

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